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13 嫉妬深きが故の緘口令
煌びやかな洋式、屋敷玄関――大きく開けたこの場所の壁際、ずらりと多くの下女や下男が、護衛が、みな男も女も揃いに揃って立ち並んでいた。
ジャスル様とユンファ殿を、お出迎えするためだ。――とはいえこれでも、この屋敷に仕える者の半数程度しかおらぬ。…そして二人の下男たちに、両開きの玄関扉を開かせ…そこから並び歩き、玄関へと入ってきたお二人、そのジャスル様とユンファ殿に、壁際の者たちは一斉に頭を下げた。
「…お帰りなさいませ、ご主人様、ご令閨 様」
「お帰りなさいませ。」
ただしそうお二人に声をかけたのは、このかっちりとした黒い洋服を纏った下男長――いわくノージェスでは執事長――と、ひらひらとした黒い洋服の下女長――執事同様に下女ではなく、いわくメイド――のみだ。
この二人はすぐさま玄関口からやや進んだ、ジャスル様とユンファ殿のお側へと行き、恭 しく頭を下げた。…ちなみに俺は、主人たちのやや斜め後ろに控えている。
「おお。外に行ったら汗をかいてまぁ気持ち悪いわ、すぐにワシの風呂を沸かせ。」
「はい、かしこまりました、ご主人様。」
「………、…」
ジャスル様はすっかり慣れているため、真顔で下女長にそう命令したが、…一方のユンファ殿は目を瞠 り、何をどうしたらよいのやらと目をしばたたかせながら、自分たちに頭を下げる下男長の顔を覗き込んでいる――ユンファ殿の側に着いたのが、下男長であるためだ――。
「…ご令閨様、何か我らに、早速お申し付けなさりたいことはございますか。」
そう頭を下げたまま、ユンファ殿に話しかけた下男長に、彼はすぐさま「とんでもない」とやや弾んだ声で言うと、目を丸くしたまま。
「何もございません。…何も、僕なぞにそう頭を下げることは…」
「…ふっ…ユンファよ、お前は今日から、この屋敷の主人であるワシの可愛い側室じゃ。すなわちお前は、こいつらに何を申してもよいのだぞ。…たとえば裸で踊れといえば、こいつらは裸になって踊る…――これよりは、此処におる全ての人間が、お前の下 僕 じゃ。」
「…げ、下僕…? そんな…酷い、…いえ、とんでもないことです、何も…何もございません。どうぞ、頭を上げられよ……」
下僕、というのにも目を瞠り、それから心を痛めたように目を細め――ユンファ殿は不安げに、胸へ両手を重ねつつも、下男長に優しくそう語りかけた。…すると頭を上げた下男長は、一度真摯な眼差しでユンファ殿を見ると、再度深く、より深く腰から頭を下げ。
「…痛み入ります。――しかし、何かございましたらお気兼ねなく、何なりと我らへご命令くださいませ、ご令閨様。」
「……、…はぁ…、いえ、こちらこそ…、では…何かあれば、――そのときはどうぞ、よろしくお願いいたしまする…、…」
ユンファ殿は、小さくたじろいでいた。
淡い息をその口から吐き、どこかそうして自分に頭を下げる男に同情しているような、可哀想に、というような目で下男長を眺めていた。
そんなユンファ殿の腰を撫でるジャスル様は、その人のその、無垢ですらある態度にも唆られるというように、いやらしく目を細め――舌なめずりをしたのだ。
「…ユンファは良い子じゃのぉ…、こんな下男にまで、優しくするとは……」
「……ぁ、…」
しかし、ジャスル様はそれでいて嫉妬したように、ぐっとユンファ殿の腰を強く抱き寄せ、…その人の足がもつれて踊ると、――できたその隙に、ユンファ殿の平たい胸を鷲掴み、その服の上から強く揉みしだいた。…「いっ痛い、」と思わずか小さく呟き、顔を顰めたユンファ殿はやめてくれ、とその人の太い手首を掴むが、…続けるジャスル様は、ギロリとした目を彼に向ける。
「…しかしなぁユンファ、お前がこれより慈しんでよいのは、旦那様のこのワシだけだ! ――明日の“婚礼の儀”まで、お前はワシ以外の者と、もうひと言たりとも口をきいてはならん! わかったかっ?!」
「…ぁぁ、…ぃ、…ふ…っ、…〜〜っ」
すると痛みに声をもらしながらも、顔を歪めているユンファ殿は必死の様子で、ジャスル様へ向け、コクコクと何度も頷いた。
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