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第27話 ハーデスの焦燥

 ハーデスが帰国してから半年が過ぎようとしていた。  帰国後直ぐ王となり、王としては、新体制も整い、過不足なく過ごしている。概ね順調な歩みと言えるだろう。  しかし、セティとのことは全く何も進んでいないことに、さすがにハーデスは焦っている。  セティはどうしているだろう……。自分を待っていると言ってくれたが、半年も音沙汰のないことをどう感じているのか……さぞ不安に思っていることだろう。  自分の不甲斐なさに腹立たしい思いで一杯になる。ケトメの王室の方々にも申し訳ない。というか、忘れられていても文句は言えない。  そして何よりハーデスが心配なのは、セティの発情。初めての発情は自分が抑えた。二度目の発情はあっただろうか? どう抑えたのだろう……。考えると居ても立っても居られない。  ハーデスにとって、セティの件で味方になるのは、妹のヘスティアと乳母のクレティス。そして幼馴染のヘパイストスとペルディッカスを中心とした側近たち。若き王を囲む若き側近たち、数は少ないが忠誠心は抜群だ。それが、ことの進まなさに皆焦れていた。 「お兄さま、もうのんびりと構えてはいられません。即位の式典までには必ず王妃を迎えねばとの声は日増しに大きくなっています」  それはハーデス自身感じている。今のところ、エキドナはじめ、他の候補者を頑として跳ね返しているが、セティが認められたわけではない。  王太后は相変わらずエキドナ推しで、何やら盛んに動いているのは知っている。このまま見過ごしにはできない。  今のところ、他の候補も名を連ねているので、本命と言われる候補はいない。それが救いではあるが、いつ大勢が決まるかは分からない。  うかうかして、大勢が決まってしまったらそれこそ身動きできなくなる。  王とは、不自由な身の上でもあると、ハーデスは日々感じている。 「そうなのだ。ケトメ王国のことも気になる。さぞや不誠実な男と思われておるだろうとな。余は、今直ぐにもケトメへ行き、求婚したいと思っているのだが」  直ぐに飛んでいきたい。しかし、王としての責任感がそれを阻む。今、星の国を留守にするわけにはいかない。王太子時代とは立場が違う。 「お兄さま……」  ヘスティアも兄王のために、何とかしてやりたいと思うのだが……。 「そうだわ、お兄さま。セティ様を星へご招待したらどうでしょう?」 「セティを星へ?」 「今の状態で正式な求婚の使者を立てることはできませんでしょう。しかし、このまま長く時が過ぎれば、あちらには不誠実な態度に移ります。そして、こちらも母上の頑なさにはやりようがありません。なんだか益々意固地になられるようで。その打開策ですの。セティ様をご招待すれば、ケトメ王国へは決して忘れていないことの証になります」 「確かにそれは良い考えだな」 「はい、お兄さまのお話だとケトメ王国でもオメガの扱いは我が国と同じ。それなのにセティ様が至宝とまで言われるほど大切にされているのはセティ様の魅力のため。ならば、我が国も直接セティ様を見て魅了されれば、良き方へと進むのではと思うのです」 「そうだな。セティが生まれてオメガと分かった時、オメガの王子などと一時は暗雲が漂ったらしいが、セティの愛らしさで振り払われたと聞いた。そして今や至宝の扱いだ」 「その魅力に賭けてみましょう」  セティの魅力が事態の打開策になるやもしれない。  セティこそ王妃になるべく輝きを持った人。その輝きと魅力の前では、他のどんな候補も色あせて見えるだろう。  ハーデスは、早速側近たちに話を持ち掛ける。 「わたくしは賛成です。ヘスティア様、よう思いついて下さった。確かにセティ様の美しさにわたくしは見惚れました。陛下の思いを理解できましたから」  この中で唯一セティを直接見ているヘパイストスが真っ先に賛同する。 「それほどのお方に、我らも早くお会いしたい。陛下、早速ことを進めましょう」  他の側近たちも皆賛成する。皆、セティへの興味は尽きないのだ。ハーデス国王の心をここまで捉える方の魅力に直に触れたい。さぞや魅力に溢れた方だろう。 「では、そうしよう。具体的に誰を遣わすか……正式な求婚の時は宰相をと思っておったが、そうではないからな……」  第一、宰相を遣わすとなると、ことがややこしくなる。反対も出るだろう。しかし、ケトメ王国へは誠意が伝わらないといけない。求婚をする前に星の国へ招待するのだ。納得して、受けてもらうには、ハーデスの気持ちを理解して代弁できる者。 「わたくしが行きましょう。一度行ったことのあるわたくしが適任でしょう」 「そうだな……ヘパイストス、そなたが適任であると余も思う。では、早急に準備してくれ。余は、セティと国王へ書状を認める」 「陛下が直々に」 「当然だ。そうでなくて余の思いは伝わらぬ」  国王の書状は通常書記官が書く。親筆などよほどの時だけ。皆、改めてハーデスの思いの本気を知る。 「他の者たちは出迎えの準備をしてくれ。歓迎の気持ちを表し、こちら側にはセティの魅力が伝わるようにな」 「王太后陛下にもご出席要請なさいますか?」 「もちろんだ。母上にこそセティの魅力を知ってもらわねばならない。叔母上とエキドナにも要請するように」  この機会にハーデス自身の思いを知らしめたいと思う。つまり、お妃の本命はセティだと。一気に事態の打開に動きたい、そう思うのだ。  国王ハーデスの命を受けて側近たちの動きが慌ただしくなる。

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