15 / 33

十五話 嫉妬

 ハンバーグを作るときのコツは、タネに熱を加えないこと――らしい。100パーセント牛肉で作る場合、パサつき易くなるそうだが、これを守るとパサつきを押さえられるそうだ。要するに、手で捏ねずヘラなんかで捏ねる。 (そう言えば、実家のシュウマイも菜箸で混ぜろって言ってたっけ)  母親直伝のシュウマイも、手捏ねせずに菜箸で混ぜる。なんの意味があるのか解らなかったが、肉に熱を少しでも加えないようにするためだったようだ。  粗挽きした牛肉に牛脂を加え、ヘラでよく捏ねる。さらにスパイスを加え、よく混ぜる。しっかり捏ねるのが重要なようだ。 「こんな感じかなぁ?」 「うん。良いんじゃない?」  晃がオレが混ぜていたボウルを覗き込む。サラサラした髪が頬に触れ、ドキリとした。 (……やべえ……、いい匂いするし……)  晃から漂うシャンプーの匂いに、どぎまぎしてしまう。仕方がない。シャンプーの香りにやられるのは、古今東西、男の子の宿命だ。まあ、相手も男なんだが。 (しっかし、普通だ……)  晃の態度は、昨晩とはまるで違う。昨日のことなど夢だったのではないかと思えるほどに、『親友』の顔をしている。  あんなにチュッチュしたとは思えん態度である。 「大きさこんなもんか?」 「バンズの大きさ的にそのくらいかな。でももう少し大きくても良いよな」 「確かに。思いきってでかくするか」  パティを成形し、フライパンで焼いていく。焼くのは晃だ。 「俺、学生の頃ムクドでバイトしてたよ」 「マジで? パティ焼いてた?」 「ポテト揚げてたw」 「ああw」  晃のムクド姿なんて想像出来ないわ。どうせモテてたんだろ。 「陽介はバイトしてた?」 「オレは駅前のソラシド。カラオケ屋」 「え。マジ? もしかしてすれ違ってたかな」 「かもな~」  晃と学生時代の話題をすることはあまりない。時折、こんな高校生や大学生だったとポツポツ話したりはするが、大抵は長く続かなかった。あまり共通の話題にならないからだろうか。 (オレは結構、昔話も好きなんだけど)  晃がどんなヤツだったのか、どんな風に過ごしたのか、興味がある。話を聞いていると、同じく時を過ごしたかったと思うし、より深く相手を理解できる気がするのだ。 「晃は結構、カラオケ行った?」 「まあな。学生時代に星田多一の『流れボシ』流行ったじゃん。あれとかめっちゃ練習したわ」 「あー、解るw あの当時履歴見るとだいたいアレだったわ」  懐かしいな。あの時代に、お互い知らずに生きてきて、どこかですれ違っていたかもしれないなんて、すごく不思議な感じがする。  今じゃ当たり前のように隣にいるし、一緒じゃない方がおかしいとさえ思えるのに、もしかしたらちょっとの違いで出会っていなかったかもしれない。  それってすごく、すごいことのように思えてくる。 「結構バイト入れてた?」 「うん。あの当時、付き合ってた彼女がバイト先一緒でさ。二人で時間合わせてシフト決めたりして――」  晃の手が、やんわりとオレの言葉を遮った。唇に指先を押し当てられ、驚いて目を見開く。 (え――っと?) 「この話題、止めようか」 「う――、うん」  ジワリ、耳が熱くなる。晃の瞳に、ドキリとした。  多分。  気のせいでなければ。 (嫉妬――、した……?)  ドクドクと、心臓が鳴る。顔が熱い。  晃の顔が、見られなかった。

ともだちにシェアしよう!