23 / 33

二十三話 「したいよ」

 バスローブを羽織ったまま、部屋に戻る。ベッドサイドに置かれたメニュー表を確認して、フムフムと唸った。 「なるほど。酒頼んじゃう?」 「馬鹿。車だって。泊まるなら良いけど」 「あ、そっか」  ちょっと残念だが、オレだけ飲むのは悪いしな。まあ、お泊まりしても良いけど、外泊申請は出していない。寮の規則で、遅くなるときや外泊には許可が必要だ。  晃が背後から手を伸ばして、メニュー表を奪い取り、そのままテーブルに戻した。 「おん?」 「まあ、座ったら」 「ん。だな」  もう十分堪能した気もするけれど、時間はまだまだある。ゆっくりしていくのも良いだろう。ご休憩だけに(なんつって)。  一人で笑っていると、晃が肩をグイと引き寄せる。 「んお?」 「無防備」  なんのこっちゃい。そう返そうと思った唇を、晃の唇が塞ぐ。 「んむっ?」  舌を捩じ込まれ、ゾクリと背中が粟立つ。見透かすように、晃の手が背中を擦った。 「あ、ちょ……」 「舌、出して」  言われるままに、舌を伸ばす。  あ、これ、エロいキスだ。 (あ、あれ……?)  舌をなぶられ、ゾクゾクと背筋が震える。ちゅ、ちゅくと、水音が響く。 「あ、晃っ……、ま」 「待たない」  ハッキリそう告げられ、ビクンと身体が跳ねた。  身体に体重をかけられ、そのままベッドに押し倒される。そうなれば、何が起きているかようやく気づいて、動揺して顔が真っ赤になった。 (ちょちょちょ、ちょま)  いや、待たないと言われた? いやいや。待て待て。 「ちょ、ちょ、ちょ、ストップ!?」 「は?」  不機嫌そうに、晃が顔を上げる。不機嫌なイケメンも格好いい。  とは言え、オレは動揺して、半ばパニック状態である。だって、現在バスローブ一枚。つまり、かなり無防備な状態。 「ちょっと、待って」 「待ちたくないんだけど」 「いっ、いつそんな空気に?」 「最初からだろ」  呆れた様子の晃に、一人(ひょええ)と身体を抱き締める。 「まさか、ホテルに来て『そんなつもりなかった』って言い出すタイプ?」  晃の言葉に、オレは引き笑いを浮かべる。 「いや、あの、その」  だって、まさに『そんなつもりなかった』ってヤツなんだもん。 「その、次の遊びを」 「その話、後で良いだろ」 「いや、だって」  後でも良いけどさ。その話に関係があるんだもん。  体育座りになったオレに、晃は呆れた様子でため息を吐いた。すぐそばに座り直して、オレの頭を引き寄せ、髪にキスをする。 「嫌?」 「え?」 「嫌なら、しな――い、努力する」 「あは」  努力かよ。  なんだ。ちょっとビックリしたけどさ。別に嫌な訳じゃない。  キスだって、触るのだって、したんだし。 「……晃は、したい感じ?」  ドキドキと鼓動が高まる。晃が頬に触れながら、「うん」と頷いた。 「したいよ」  掠れた声でそう言われて、ドクドクと鼓動が高鳴る。 「オ、オレ、おっぱいねーし、付いてるけど」 「今さら」  ちゅ、とこめかみにキスされ、肩の力を抜いた。  オレで、良いのか。晃は、オレとしたいのか。 (……ちょっと、嬉しい。気がする……)  じわり、頬が熱くなる。  オレは、晃が好きだ。キスしたいし、それ以上だって、したい。 「ちなみに、オレが下ってこと?」 「……」 「なに目逸らしてんだ」 「……嫌? 俺、陽介と、繋がってみたい……。陽介の中に、入らせて」  明確に、役割を宣言され、ゾクンと肩が震えた。  まあ、なんとなく、そんな気はしたんだ。だから、なんというか、やぶさかではない。うん。嫌じゃない。 「い――い、よ」  呟きはキスに呑まれて、最後まで発することは出来なかった。

ともだちにシェアしよう!