19 / 106
新しい生活5
午前11時。
僕と陸さんは陸さんの実家へと行く。もう何度も来ているけれどほんとに大きい家だと思う。高級住宅街にありながら、その他の家よりも明らかに大きい。日本を代表する宮村製菓社長の家だと思うとその大きさも頷ける。
今日は陸さんの運転で来ていて、陸さんは慣れた様子で車を停める。そして玄関ドアが開いてゆきな伯母様、もといお義母様が顔を覗かせる。
「お帰りなさい」
いらっしゃい。じゃなくてお帰りなさい。それは陸さんがいるからなのかわからないけれど。
「千景くんもお帰りなさい」
ああ、僕にもお帰りなさいと言ってくれるんだ。それがとても嬉しかった。心が温かくなる。ゆきなお義母様はいつも僕にとても優しい。だから僕はゆきなお義母様が好きだ。だから僕も言う。
「ただいま帰りました」
「疲れたでしょう。さぁ入って」
そうしてリビングに入る。広さ30畳以上という広いリビングだ。
僕と陸さんがソファーに座るとお手伝いさんの茜さんがコーヒーを持って来てくれた。コーヒーの良い香りがして、きっといい豆を使っているんだろう、雑味のない味だ。下手なカフェで飲むよりも美味しい。それは茜さんがコーヒーを淹れるのが上手いというのもあるんだろう。
そして茜さんは皆の好みを把握していて、僕には蜂蜜を少量足して淹れてくれている。外ではブラックにほんの少し砂糖を入れるけれど、家で飲むときはほんの少し蜂蜜を入れて飲むのが好きなのだ。
こんなパーフェクトなお手伝いさんは茜さんしかいないんじゃないだろうかと思う。だからお土産もきちんと買って来てある。でも、まずはお義父様とお義母様から。
「お義父様、これお土産です。ハワイの地ビールです」
「おお。ハワイにも地ビールがあったのか」
「はい。今はワイキキにもお店があるんですよ」
「そうか。オアフ島はあまり行かないからな。今度はオアフ島へ行ってみよう」
「ワイキキは結構変わってました」
「じゃあ、行かなくてはな」
とお義父様に地ビールとネクタイピンとカフスのセットを渡す。最初は地ビールだけだったけれど、お義母様にはアクセサリーの他にもあるのだから、と急遽付け加えたのだ。
「カフスか。パーティーのときに付けられるな。地ビールだけでいいのに気を使わせたな。これを買ってくれたのは千景くんだろう。陸はそこまで気が回らないからな」
そう言ってお義父様は笑う。外に出ると厳しい人だけど、家の中ではとても優しい人だ。
そしてお義父様にお土産を渡した後はゆきなお義母様だ。
「お義母様、これを」
「千景くんにお義母さんと呼ばれるなんて嬉しいわ。で、なに?」
「これ、ピアスなんですが。あまり年齢気にせずに使えるかと思って」
「そうね。ハワイアンジュエリーってどうしても若い人向けなデザインが多いから、これだと年齢気にせず付けられるわね。千景くんは細やかな気配りが昔から出来るのよね。本当にありがとう」
「あと、これも」
「あら、これはフェイスマスクね。これでいつまでも若くいなくちゃ」
そうやって笑うお義母様に陸さんが口を開く。
「若作りはするなよ」
その言葉にお義母様が反応する。
「まぁ、失礼ね! ほんとに。あんたは千景くんの爪の垢を煎じて飲みなさい」
陸さんとお義母様のこの手のやり取りはいつものことだから今さら驚かない。
「千景くんみたいな子が息子になってくれたなんてほんとに嬉しいわ」
その言葉に僕は小さく微笑む。お義母様は僕が小さい頃から可愛がってくれている。だから僕もお義母様が昔から好きだ。言いたいことはハッキリ言うお義母様は気持ちいいくらいだ。
お義父様とお義母様にお土産を渡したから、後は茜さんに。
「茜さん」
僕が名前を呼ぶとスッと来てくれる。茜さんはお義母様と同じくらいの年代の人なのだと思う。なのでフェイスマスクとお菓子を買ってきた。
「これ、お土産です」
「そんな。私にまで……」
「いつも良くしていただいているので、ほんとに気持ちだけで申し訳ないんですが」
「そんなもったいない」
「茜さん、貰ってあげて」
そう言って受け取るのを迷っている茜さんにお義母様が言ってくれる。
お義母様の言葉に茜さんが恐る恐る受け取ってくれる。それに僕はホッとした。
「お心遣いありがとうございます」
「いいえ。こちらこそ、いつもありがとうございます」
僕のうちは普通の家なのでお手伝いさんなんていないから、茜さん以外のお手伝いさんはわからないけれど、茜さんはほんとに細やかな気配りのできる人だから僕はいつもすごいなと思っているし、たまに来るだけの僕の好みまで覚えていてくれているのはほんとに嬉しいんだ。だからほんとに気持ちだけだけどお土産が渡せて良かった。
ともだちにシェアしよう!

