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新しい生活7

「まぁ、そんなにカリカリするな。でもな陸。今はそう思っていても夫婦なんて一緒にいれば情がわくものだよ。私とお母さんだってそうだ」  それまで黙っていたお義父様が口を開いた。  お義父様とお義母様は恋愛結婚じゃなかったのか。でも2人はとても仲が良い。とてもそんな風には見えなかった。  でも、一緒にいれば情がわく、か。陸さんの相手がオメガでなければきっと離婚にはならないと思う。そうしたらいつか陸さんが僕のことを見てくれることもあるのだろうか。そんなことを望む僕はわがままだろうか。 「夫婦なんてそんなこともあるんだ。だから今は好きじゃないと言っても人間の気持ちなんて変わることがあるんだ。少しは流れに身を任せてみろ」 「そうね。夫婦なんてわからないものよね。千景くん、陸がひどいことを言ってごめんなさいね。でも、身勝手なことを言うけれど、少しの間だけ我慢してね。そのうち変わるから」  そのうち変わる、か。そうだといいな。いつか恋愛感情じゃなくてもいい、陸さんの気持ちがほんの少しでも僕の方に向いてくれればそれで十分だ。 「僕は大丈夫です」  ほんとは大丈夫なんかじゃない。でも、ここでめそめそするわけにはいかないから。だから僕は笑顔を作る。そして、いつか陸さんが僕を見てくれる日を夢見る。 「さぁ、馬鹿なこと言ってないで食事にしましょう。今日はお寿司にしたのよ。ハワイだとあまり和食食べられなかったと思うから。って言ってももう帰国して1週間近いけれど」  そう言ってお義母様はいたずらっこぽく笑う。ハワイは日系人や日本人が多いから和食は食べられるけれど、お寿司ばかりはアメリカでは食べる気になれない。  もちろんアメリカにだってお寿司屋さんはある。だから行けば食べられる。でも、日本の味を望むことはできない。だから和食を食べることはあってもお寿司は食べない。お義母様はそれがわかっているからお寿司をチョイスしてくれたんだろう。そういう気遣いのできる人だ。 「うにもイクラもあるからたくさん食べなさい」  お義母様がそう言うと茜さんがお寿司を持って来てくれた。美味しそうだ。 「いただきます」  そう言ってまぐろをパクリと食べる。するとその鮮度が半端なく良くて美味しかった。これはハワイで食べられる味でもないけれど、日本国内にいたってなかなか食べられる味でもない。これはさすが宮村家、というところだ。 「美味しいです、すごく!」 「そう。良かったわ。千景くんの好きなイクラやうにもたくさんあるからいっぱい食べてね」 「はい!」  陸さんの好きな人の性別のことでショックを受けてしまったけれど、オメガと決まったわけじゃない。気が乗らなかったとは言え僕と結婚したのだから、もしかしたらアルファかベータなのかもしれない。そうしたら番になれなくても離婚にはならないかもしれない。考えると辛いから、そう思って自分を慰めてお寿司を食べる。美味しいものは気持ちを元気にしてくれる。そう思うと大好きなお寿司をチョイスしてくれたお義母様に感謝だ。  お寿司は陸さんも好きだから顔をやわらげてお寿司を食べている。うん、やっぱりこのチョイスは大当たりだ。僕と2人のとき陸さんは顔をやわらげることはない。だから、そんな顔を見たのは久しぶりだ。僕と2人でも、なにか美味しいものを食べたらそんな顔をしてくれるだろうか。それなら、なにか理由をつけて美味しいものを作るのだけど。  そんな風に考えて、僕は陸さんの好きな味を作れているだろうか? ハワイでは僕の作ったものを1度食べて貰ったことはあるけれど、なにも言わなかった。それは美味しかったということなのか美味しくなかったということなのかわからない。表情も変わらなかった気もするからわからない。  今度なにか作ったときは陸さんの表情をしっかりチェックしよう。お寿司を食べながらそう思った。  

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