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歩み寄り4
かぼちゃをレンジで柔らかくしてから潰して熱を取る。そしてバターをクリーム状に練り、卵を溶きほぐしてからかぼちゃに少しづつ加えて混ぜる。薄力粉、強力粉、ベーキングパウダーとかぼちゃをさっくりと混ぜ型に流してオーブンで焼けば完成。
今回使った粉類は陸さんの家の会社である宮村製菓のものを使っている。宮村製菓はスナック菓子だけでなく、お菓子作りに欠かせない材料も販売しているからスイーツを作るときは無意識のうちに宮村製菓のものを使っていたりする。まぁシェア率的に自然とそうなるのもあるけれど。
まだソファーで本を読んでいる陸さんにかぼちゃのマフィンを出す。
「かぼちゃのマフィンを作ったので、良かったら食べてください」
そう言うと陸さんは顔を上げてマフィンを見る。砂糖はあまり使ってないから、甘い物をあまり食べない陸さんでも食べられると思うのだけど。宮村家で手作りのお菓子を食べる習慣はあっただろうか。うちはお母さんがお菓子を作るのが好きで結構手作りのものを食べていた。だから今回も自然と作ったのだけど。
僕が見ていると陸さんはマフィンを手にとり、一口食べた。
「あまりお砂糖を入れなかったので、そんなに甘くないと思うんですけど大丈夫ですか」
ゆっくりと咀嚼し、大丈夫だ、と一言言ってくれた。良かった。僕1人なら甘くてもいいけれど、陸さんに食べて貰いたくて甘さを控えめにしたんだ。
陸さんはいつものように何も言わずに食べている。表情を見るに、まずい、口に合わないということはなさそうなので、とりあえず良しとする。
僕も食べてみるけれど、普通に美味しい。うん、失敗はない。だから甘いかどうかが問題なだけで食べられないことはないと思う。かぼちゃのマフィンは今回初めて作ったけれど、結構美味しいんだなと思う。また作ってみようかな。そしたら陸さんも食べてくれるだろうか。
お菓子作りも込みで料理は嫌いではない。でも、僕が作るのは陸さんに食べて欲しいからだ。陸さんは不味いとは言わない。でも、美味しいとも言ってくれない。できれば一言でいいから言って欲しいと思うけれどそれは贅沢なんだろうな。
そういえばお母さんが同じようなことを言っていた。美味しいと言ってくれないと作る気をなくすって。だからかわからないけれど、お父さんもたまに美味しいと言っていた。それはきっとめちゃくちゃ美味しいときだと思うけれど、それを聞いたお母さんは嬉しそうな顔をしていたのを思い出す。うん、そうだね。その気持ちが今ならよくわかる。いつか陸さんも言ってくれたら嬉しいな。それが僕の小さな願いだ。
マフィンを食べた後は、僕は自分の部屋でネットで色々な料理のレシピを見る。料理教室やお母さんから色々な料理を教わったけど、それはよく食べるメニューだったりする。でも、たまには変わった料理も食べてみたいし、単純にレパートリーを増やしたいのもあり、最近はよくネットで料理サイトを見ている。そしてそれを陸さんに出したりもしている。
そういえば陸さんは好き嫌いはあるんだろうか。陸さんはそういうことを言わないし、お義母様も陸さんの好き嫌いについては言ったことがない。ということは好き嫌いはないんだろうか。だとしても、特にこれが好きというのもないんだろうか。やっぱり僕は陸さんのことをよく知らないんだな、と思い少し悲しくなる。もっと陸さんのこと知りたいな。いつか知ることは来るのだろうか。
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