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デートみたいで6

 新鮮な野菜とフルーツ。フルーツは毎日食べているけれど、フルーツさえいつもと違うように感じた。いや、野菜は新鮮なのはわかるけれど、キウイは国内産にしたって産地は西だ。熱海近郊じゃない。だから気のせいなんだと思う。こんなところで食べたらそう感じてしまうだろう。  サラダの次はメインの真鯛のソテーに手をつける。ソースはオーロラバターソースだ。一口食べると真鯛のプリッとした食感がする。美味しい! やっぱり都内のスーパーで買う鯛とは大違いだ。 「陸さん、美味しいです」 「美味いな」  僕なんかと違って美味しいものをいっぱい食べているだろう陸さんが美味しいと思うんだ。とすると僕が美味しいと思うのは当然なんだな。  次にソースのかかった春野菜を食べる。うん、これも新鮮で美味しい。この辺で取れた野菜なんだろうか。そしてあさり。僕はあさりが好きだ。それを真鯛と一緒に食べられるなんて贅沢だ。  もう食べるもの全てが美味しくて、僕は黙々と料理を胃におさめて行く。陸さんも黙っているからきっと同じなんだろう。  美味しいパンもこれが3個目だ。そう言えばパンって家でも作れるんだよな。山形パンならホームベーカリーでも出来るし、クロワッサンとかならオーブンで出来る。今度作ってみようかな。というか、ホームベーカリーを買うのもありだなと思う。けれどそこで気づいた。陸さんは家でパンを食べることはほとんどない。週末のブランチくらいだ。平日の朝はシリアルだし。 「難しい顔をしてどうした。味が変か?」  陸さんの声に我に返る。僕、難しい顔してた? 「あ、いえ。パンが美味しいなと……でも、家ではパンは……」 「お前は毎朝パンじゃないのか? いつも買ってるパン屋は美味しくないか?」  あぁ、僕が難しい顔してたからそう考えちゃったか。ダメだな、僕は。 「そうじゃないんです。家でパンを作ろうかと思ったけど、陸さんは食べませんもんね」  そう。わざわざ陸さんが食べないものを作る気はしない。僕1人のためにわざわざ手をかけるのは面倒くさい。 「週末のブランチや昼なら食べているだろう」 「そうなんですけど……」  そしたら週末にパンを焼いてみたら陸さんは食べてくれる? 「お前が作りたいのなら作れば良い。あれば食べる。ただし、手間がかかりそうだから無理はするな」  作ったら食べてくれるの? その言葉に僕は嬉しくなった。陸さんが食べてくれるのなら作る。そしたらホームベーカリーも欲しいなぁ。 「あの……ホームベーカリーを買ってもいいですか?」 「構わないが。そんなに高価なのか?」 「いえ、ピンからキリまであって、安いのは一万円ちょっとです。高いのは高いですけど、食べるのは僕と陸さんだけなのでそんなに大きいのはいらないし、そんなにバカ高くはないですけど……」 「それくらいなら好きに買え。多少値がしたって必要なものや欲しいものならクレジットカードを使えばいい」 「はい」  そんなに簡単にクレジットカードを使ってもいいんだろうか。僕はクレジットカードを渡されてからまだ1度も使ったことはない。 「普段、カードを使ってないだろう。使っても構わないんだぞ。お前だって欲しいものの一つや二つあるだろう」  ある。あるけど、陸さんが働いたお金を僕が使ってもいいのか未だに考えてしまって使えずにいる。 「俺の金だからと遠慮しているのかもしれないが、家事をやっているのだってタダじゃない。家政婦だってお金を貰っている。だからお前だって金を貰う立場にあるんだ。それを給料として渡すかクレジットカードや毎月の現金の中から自由に使うかの差だ」 「でも、主夫が家のことをするのは当然なので」 「お前が使わないのなら家政婦を雇ってそっちに払うが。俺が払うのに変わりはない」  いや、陸さん、それは違うよ。僕が慌てると陸さんは言う。 「いえ、僕がやります。でも……」 「わかった。明日にでも買いに行こう」    僕が勝手に使わないと思った陸さんは買いに行こうと提案してきた。美味しいパンを食べた感動から、家で作れるなと考えたことから大事になっちゃった。でも陸さんはいつもの無表情で食べている。これ、僕が折れるのが一番いいのかもしれない。無駄遣いはしないけれど。 「じゃあ安いのをお願いします」 「ああ、わかった」  そんなこんなで明日はホームベーカリーを買いに行くことになってしまった。それでも、美味しいパンが作れるのなら陸さんに作ってあげたい。美味しいパンを食べながらそう思った。

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