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第1話

俺の名前は青井尚。中学生の時、自分の恋愛の対象が女ではなく男だと気づいた。 俺には今好きな男がいる。名前は瀬野隼人 同じ高校のクラスメイト 瀬野はモテる、かなり。あいつがいるだけで周りは明るくなる。クラスの中心人物。イケメンで背も高くとにかく笑顔が眩しい。 俺みたいな地味で目立たない奴とも友達になってくれた。 そんな俺と瀬野が一緒に話しているのを周りには謎に思われている。 瀬野とは音楽の趣味が合った。屋上でひとりイヤホンで音楽を聞いてたら目の前に瀬野が現れた。 「青井っていつも何の音楽聞いてんの?」 「…洋楽全般なんでも好きだけどポピュラーもマイナーも」 俺の気分に合わせて編集したマイプレイリストを瀬野に聴かせたらめっちゃびっくりして 「すげぇ趣味合う!」と感動していた。 「青井っていい曲たくさん知ってんだな、こんな曲あるなんて初めて知った、世界ってやっぱ広いよな」と屈託なく笑う瀬野に一瞬で惹かれた。 それから屋上で俺のオススメ音楽を二人で聴いた。 「今日は、ハッピーなやつ!」 「なんかだるいから元気でるの」 「眠気ぶっとぶのお願い!」 俺とあいつの二人の時間は屋上のひと時だけだったけど、俺は楽しみで仕方なかった。瀬野の好みの音楽を探すようになった。瀬野が喜ぶ顔がみたいから。 「青井」の苗字呼びから「尚」の名前呼びになり急速に俺達は親しくなった。俺はまだ瀬野の名前は呼べないけど。 いつか「隼人」って呼びたい。 今はどうしても呼べない。 「隼人…」 心の中で呼ぶことしかできない。 俺は、瀬野に恋をした。 だけど俺は男が好きであいつは女の子が好きな普通の男。俺の気持ちは知られてはいけない。俺は告白なんて絶対にできない。この関係が崩れるのが怖い。瀬野と一緒に好きな音楽を聴く、それだけで俺の世界は輝いている。 だけど俺達の間に大きな変化が起きた。 昼休みの屋上。 「尚ってキスしたことある?」 突然瀬野からの質問。男同士だったらそんなやりとりすることあるけどいきなり真剣な顔で聞いてきた。 俺は動揺した。 女子は小さい頃から苦手で殆ど話したことないし、好きになるのは男だけ。告白なんてできるはずない。想いを内に秘めるしかない。そんな俺がキスしたことあるって!? ある訳ない! けど、瀬野はどう考えてもキスしたことあると確信するほどのモテ男。 キスどころか全部とっくに済ませてそうな雰囲気がだだ漏れだ。 だから俺は嘘をついた。 「キスぐらいあるに決まってるだろ」 「そうなんだやるね尚」 「じゃあ、してみてもいい?」 「は?なんで」 「男とキスってしたことなくて、どうなのかなって。試してみていい?」 … …? …謎すぎる理由だったけど、瀬野とキスできるチャンスだと思った。 「い、いいよ別に」 「マジ?」 オッケーするとは思ってなかったのか、瀬野はしばらく考えこんでいた 「じゃあ、本当にするよ?」 「別にいいよ、減るもんじゃないから」 心臓はバクバクしてるのに平静を装った。 「尚…目閉じて」 瀬野の手のひらが俺の頬に触れた。 嘘だろ、本当に俺瀬野と、そう思った瞬間 瀬野の唇が俺に触れた。 ーーーキスした 初めてのキスが好きな人 俺は信じられなかった。 唇と唇が触れるだけなのに、こんなにも胸が高鳴る。 俺、キスしてる瀬野と 大好きな瀬野と ーーー嬉しい 「尚?」 唇が離れた。 「尚どうだった?」 「え、まあ、普通かな」 「そっかよかった。俺も思ったより抵抗なかった。尚の唇すげーやわらかい」 「なんだよそれ」 「またしてもいい?」 俺には、断る選択なんてなかった。  それから何度か屋上でキスをした。 触れるだけだったけど、その度に俺の心臓はバクバクした。 屋上以外でもするようになった。 いつ人に見られるか分からなかったけど。 周りには気をつけていた。 だけど一度だけ、教師のあさみんに見られた。 めちゃくちゃ俺達は焦ったけどバレなかった。 あさみん、浅見先生は顔がいいので女子生徒から人気があって、男子生徒からも慕われていた。いい先生なんだけどちょっと抜けてるとこがあった。そこも人気がある要因のひとつ。 「危なかったな。あさみんでよかったな」 なんとかやり過ごすことができた。 いつ瀬野にキスされるか分からなかったから頻繁にうがいしたり、ガム噛んだりトイレで鏡みて変なとこないかチェックした。 その度に鏡をみてうんざりする、この平凡な顔に。 瀬野はいつも完璧な男。綺麗な肌してるし人懐っこい笑顔が眩しくて。勉強もできてスポーツ万能 普段は俺と一緒にいなくて人気者集団と一緒にいるけど最近は俺と一緒にいる時間が増えた。 俺は浮かれいた。 「尚、どうしたんだよ最近、ご機嫌じゃない?」 俺と一いつも緒にいるのは、高ちゃんだ。 名前は高山亮 目がすごく悪いらしく、厚いレンズの眼鏡をかけている。 人見知り同士の俺達だったけどなんとなく話すようになった俺の数少ない友達だ。 「うんちょっとね」 「もしかして彼女できた⁈」 「俺にできるわけないだろ、女子と話してるとこ見たことある?」 「だよね、俺達一生女子と話できないかも」 高ちゃんは一見オタクっぽい見た目だ。眼鏡と若干長めのボサボサ頭。パソコン部に所属していてゲーム好き。 前に一度眼鏡取った時、けっこうかっこよかった。あの牛乳瓶眼鏡とってコンタクトにして髪とかちゃんとセットしたらモテるんじゃないかと思うけど、俺は今の野暮ったい高ちゃんが好きなんだよな。 高ちゃんは瀬野が苦手だ。瀬野と高ちゃんは中学からの知り合いらしいが、話してるところは見たことがない。 「だってあいついかにもな一軍じゃんかっこよくてなんでもスマートにこなして女の子の扱いに慣れててさ。尚はよくあいつと話せるよな俺はあんな感じの奴と話すと挙動不審になる」 そう言う高ちゃんの気持ちはよく分かる。俺も瀬野と仲良くなるまでそうだったから。 瀬野は男にも一目置かれて女子からは、熱い視線を浴びている男 そんな瀬野が俺にキスをする 最近は、少し舌を絡めてくるようになった。 「尚の口ん中、気持ちいい」 瀬野は最初にした時より色気が増してきている。 俺も少し余裕がでてきてキスしている最中うっすら目を開けることもできるようになった。 その時見る瀬野の表情に心臓が撃ち抜かれる。 色気のある男の顔 ーーー瀬野、俺、ドロドロになっちゃうよ。 これ以上瀬野を好きになるの怖い。 瀬野が俺とキスするのはなんのためかわからなかったけど 俺は、嬉しかった。 もしかして瀬野も俺のこと、 そう思ってしまう。 期待してしまう。 だってなんで男にキスすんの? 理由はやっぱり瀬野も俺のこと。 俺は勇気を振り絞って聞こうと思った。 「あのさ、瀬野」 話しかけた時、瀬野は遠くを見つめて何か考え事をしているのか俺の声が聞こえてないみたいだった 「尚、松原悠って知ってる?」 え? 「うん、有名な人だから」 「俺、あいつが好きなんだよね」 「え?」 「びっくりした?」 「話してるとこ見たことないけど」 「うん、俺好きなこにはなかなか押せないんだよ」 ドクドクと俺の心臓は早くなり、手に嫌な汗をかいている気がした。 「帰り道見かけて一回話しかけてみようと思ったけどあいつさ、夕陽が落ちる瞬間みてんの。その横顔がすげぇ綺麗で。髪がキラキラ輝いていて。俺、声かけらんなかった」 「ロマンチストだな、意外と」 精一杯平静を装った。 「いつから?」 「一年くらい前から」 「その間、瀬野に彼女とかいなかったの?」 「いたよ。だけどいつも松原が気になって、もう告白するしかないなって思ってさ。でもいざ告白するってなっても俺って本当に男と付き合えるのか自信なくなって、尚とキスしてみたんだ」 なかなか最低なこと言ってるな 「めちゃくちゃ良かった、尚とのキス。尚としても全然大丈夫だっから。俺、告白する勇気出た。付き合わせてごめんな、尚引いたよな?俺が男好きなんて」 「…全然引かないよ」 「ありがとう尚やっぱ尚って優しいよな」 「なんだよそれ別に優しくねーよ、もしかしてそれが目的で俺に話しかけたの?」 「うんごめん実は。尚はよく屋上で一人でいたから。どんな奴なんだろうって気になって。でも話してみてすごく気があって尚と仲良くなれて本当に嬉しかった」 瀬野の気持ちに嘘はないと思う。 俺が瀬野を好きなんて全く思ってないんだろう。俺は瀬野を恨むつもりはない。だって知らないんだから、俺の気持ちなんて。 ーーー俺がどういう気持ちで瀬野とキスしてたなんて。 俺は、泣きたいくらい惨めだったけど精一杯笑った。 「瀬野告白してみなよ、お前なら大丈夫だよきっと」 だって瀬野は魅力的な男だから。 告白されて悪い気する人なんていない。 「ありがとう。やっぱりお前っていい友達だよ」 瀬野からいい友達と言われてこんなに嬉しくないって思うなんて。 あーそうだよな、やっぱり俺な訳ないよな 俺みたいな平凡な男をあいつが好きになるはずなんてなかった。 キスできただけでもラッキーだった …そう、思えたら 松原悠はこの学校で知らない人はいないほどの有名人。 ハニーレモン?とかいう髪色で 目はブルーのクウォーター。 美少年ってまさにあいつのことをいうんだろう。 その後、瀬野と松原は付き合いはじめた。 俺と屋上でキスすることはなくなった。 一人で瀬野が来るのを待つ だけど、来ることはなかった。 友達としても必要とされなくなった。 ーーーどこまでも惨めだった。

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