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第1話
あれは、中学3年の秋。
受験間近でテスト漬けの毎日だったある日。
一人放課後の教室で復習をしていた浜岡 滋は、
「まだいたのかよ、浜岡」
教室の入口からクラスメイトの月島に声かけられた。
滋は内心ドキッとしながら、
「う、うん。予習してた」
「あいかわらず真面目だなぁ」
軽い口調で笑いながら、
月島は滋の前の席に座り、
彼の正面を向いて頬杖をついた。
「ん?」
その彼の表情に、
滋は見とれた。
しばらく見つめ合って急にはずかしくなり、
滋は席から立ち上がり窓から外を見つめる。
すると、
窓辺にいる滋の背後から彼に覆いかぶさるように、窓に手をつく月島。
背後から耳のそばに月島の息遣いを感じて、滋は身を固くした。
「お前ってさ、時々俺のこと熱く見つめるよな」
「何いってんだ」
動けない。
ドキドキして振り向けない。
「今だって、ドキドキしてるくせに」
と、耳元でささやく。
「そんなわけ・・・」
急に振り返ると、
すぐそばに月島の顔があって、
彼の唇が、
滋の唇に触れて、
深く、深く、
唇を奪われた。
教室には2人しかいない、
しばし、2人の舌が絡むやらしい音が響く。
感じて漏れる滋の喘ぎ声。
月島から放れようとするが、
彼の力強い腕で、
身体を押さえられ動けない。
「んっ、は、放せっ」
ようやく口を離してもらい、息を吸う滋。
「お前、かわいいな」
「なに・・・言って・・・」
見つめ合う2人の視線は、
お互いをくぎづけだった。
これからどうなる、俺達。
そう思っていると、
キーンコーン・・・
下校のチャイムが鳴った。
「俺、帰る!」
そう言って、滋はその場から逃げた。
そうしてそれ以来話すことはないまま、
滋は中学を卒業した。
それから10年が経過した。
滋は特にまともな恋愛も出来ずに、
大学卒業後、就職活動に失敗しやる気もなくした彼は
現在はカフェの店員としてフリーターをしていた。
大学時代からアルバイトで始めたカフェ店員は、
7年目を迎え現在は契約社員として働いていた。
ほとんど正社員くらいの仕事はこなせるようになっていた。
何度も店長には正社員にならないかと言われていたが、
そこまでの決心はつかずに、
契約社員に留まっていた。
特にやりたいこともなく、
仕事が終わると一人街を徘徊する毎日。
かつての片思い相手の月島によく似た相手を見かけては
思いを馳せていた。
最終手段は出会い系かなと現在は思っている。
が、実際には手は出してない。
大学時代には何度か同じ大学の人と仲良くなった人もいたが、
続かなかった。
それくらい、
月島は滋にとって特別な存在だった。
中学でずば抜けてきれいな顔をしていたし、
体格も良かった。声もかっこよくて、
滋はいつも彼に釘付けだった。
ただ、あの一度のキスが、
忘れられなかった。
まあ、そう簡単に再会なんてありえない。
そう簡単には。
そんなある日、
「いらっしゃいませ…」
カウンターで先にオーダーを承るため、
入店した客が入ってきた途端、
滋は驚いて言葉尻をのみ込んだ。
男は180センチはある長身に肉付きのいい身体、整った顔立ち。
男はきょとんとして、
「オーダーいい?」
「あ、はい」
「アイスコーヒーひとつ」
「かしこまりました」
「オープン席空いてる?」
「あ、はい」
飲み物を注文して、
男は外のオープン席へと向かった。
(似てる…)
流石に10年経ってる事もあり別人という事もあり得るが、
顔立ち背中の感じや、まして声も似てる。
もしかして月島なのではと、
仕事をしつつも滋はあの客の事が気になって仕方がなかった。
シフトが交代の時間になり、
「浜岡お疲れ、代わるわ」
副店長の石川から声掛けられ、
「あ、はい、お疲れ様でした」
滋は店の裏に入った。
さっきの客が月島だったとして、
本人かどうか確かめるすべも無い。
(まあ、本人なわけないか…)
ははっと乾いた笑いを浮かべて、
滋は身仕度をして、店の裏から外へ。
すると、
「どうしてよ!」
カフェのオープン席からなにやら女の怒号が聞こえる。
チラッと様子を見ると、
月島によく似た男が、女ともめていた
「外でうるせえな」
めんどくさそうに相手をする男。
「どうして付き合えないのよ!」
茶髪のロングヘアの派手な服を着た女が、
男が着いている席の前でたったまま怒号を上げている。
滋は気まずいと感じていたが、
寄りたい店がカフェのオープンテラスの横を通らなくてはいけなかった為、
仕方がなくコソコソとその席の横を通った。
席の横を通るとその男と目が合う。
(まずい、目をそらさないと・・・)
顔をそむけながら横を通った瞬間、
その男は滋の手を取り、
「おれ、男が好きなんだ」
「へっ!?」
「はあっ!?」
急に巻き込まれた滋とその女は驚きの声を上げた。
「信じらんない!」
と、女は男にグラスに入っていた水をぶっかけて、
走ってその場を去っていった。
「・・・行ったか」
しばらくの沈黙の後、
男はふうっとため息を吐いて、
椅子の背もたれに体重を預けた。
「あの」
「ん?」
滋の声に、男はようやく気がつく、
「手、放してください」
「ああ」
返事はするが、
男は手を放してくれない。
「・・・・」
しばし見つめ合う。
月島によく似た、深くて吸い込まれそうな瞳。
きれいなその顔はいつまで見ていても飽きない。
しばらく見とれていると、
「やっぱり、浜岡だろ」
「え、なんで・・・」
「俺、月島」
「!!」
驚く滋に、
月島は二カッと笑うのだった。
こうして10年ぶりに再会を果たすのだった。
あれから月島は滋の勤めるカフェによく姿を表すようになった。
注文は決まっていつもアイスコーヒー。
あの日以来月島は、中のカウンターでアイスコーヒーを注文してなにやら手帳を見ながら仕事をして、数十分で帰る時もあれば、
テイクアウトをして帰っていく時もあった。
「なんで最近来るようになったんだ…?」
注文されたホットサンドを彼のテーブルに置き、滋はついに聞いてみた。
現在、お客は彼だけだ。
すると月島は、
「お言葉ですけど、俺前から常連だから」
「え?だって俺今まで1度も会ったこと無いぞ?」
すると月島は半眼で頬杖をつき、
「まあ、今までは割と早い時間帯に来てたからな。店も軌道に乗ったし」
「店?」
すると、滋の後ろから副店長が、
「彼、近所の老舗の美容院のオーナーのお孫さんだよ」
「え?あの向原さんの?」
この近辺では老舗で有名な、
美容院の元オーナーが最近逝去されたとは聞いていたが…
「そうだったんだ…」
元オーナーを思い出し、
少しだけしんみりする滋。
「俺が後継いで、ヘアサロンとして最近改装したんだ」
「へえ」
美容師なんて凄いなと、滋は普通に感心する。
確かに月島の髪型が独特だった。
ヘアスタイルは前髪長めのショートカットだが、
金髪のメッシュが入ってる。
「どうりでおしゃれな髪…」
と滋は自然に、カウンター席に腰掛けたままの月島の髪を撫でる。
やけに自然に触るものだから、
驚いたのは月島の方だった。
「…お前、誘ってんの?」
「え?」
無意識だったのか、
滋はハッとして慌てて彼の頭から手をどける。
「ご、ごめん!」
慌てて離れようとする滋の腰に腕を回し、滋の身体を自分に引き寄せる。
自分の胸に月島の顔がピトッとくっつく。
そのまま月島は上目遣いに滋を見つめる。
さすがに身を固くする滋。
「ち、ちょっと、放せよ」
滋の心臓の鼓動がどくどく音を増していく。
「音すごいけど」
と指摘され、滋は彼から視線をそらして、
「この間は、助かった」
「え」
店のオープン席での女との一件を言っているのだろうか?
「助かったって何が?」
「お前が通りかからなかったら、アイツを追い払えなかった」
「あ、女の人のこと?」
「ああ、ひつこく言い寄られてた」
「俺は何もしてない」
「でも助かった」
まだ言い続ける月島に、滋はそらしていた顔を彼に向ける。
月島はじっと彼を見上げたまま、
「なんかお礼がしたい」
「いいってば」
と、月島から放れようとするが、
彼の力は強くてその腕はほどけない。
「今日何時に終わるの?」
「え、21時くらいだけど・・・」
と、答えてハッとする。
(何答えてるんだ俺は)
すると、月島は少しだけ嬉しそうにニッと笑い、
「終わったら俺の店来いよ」
ようやく、月島は彼を放してやる。
返事を聞かぬまま、席を立って店を出ていく月島。
あまりにもかっこよくて滋が見とれていると、
「・・・あれが、初恋の相手か」
副店長の飯島がおもしろ半分でつぶやいた。
「勝手に決めないでくださいよ」
ぶっきらぼうに言い捨てて、
滋は店の裏に入っていく。
(あんな赤い顔で言われてもなぁ・・・)
副店長はこころの中で呟いた。
その日の夜、
近所のリニューアルしたヘアサロン『椿』へ足を運んだ滋。
確かにここには数ヶ月前までは、老舗の美容院が建っていた。
そろそろ建て替えしようかと考えているらしいと、副店長から聞いていた。
副店長の飯島はその美容院の常連さんだったそうだ。
元オーナーである向原さんも時々コーヒーを飲みに来ていたらしいが、
身体を悪くしてから入院していたらしい。
白を基調とした外観。
入口の白いドアには漢字で『ヘアサロン・椿』と書いてあった。
ガラス張りの店の正面はスクリーンカーテンが降ろされていた。
ドキドキしながら、滋は正面の白いドアを開けた。
カランカラン
老舗の喫茶店のようなドアベルが鳴る。
「来たか、おつかれ」
店内の片付けをしながら、こちらを振り返りはにかむ月島。
仕事着なのか、白シャツに黒いスラックス。
腰にはシザーケースを付けていた。
「お、おつかれ・・・」
おずおずと挨拶をする浜岡に、
月島は店の端の席を促し、
「座れよ」
「え」
「カットしてやる」
言われるがままに、浜岡は席に座る。
その素直な反応に月島はくすくすと笑う。
最初は緊張していたものの、
彼の動きに無駄がなく、手際の良さに見とれながら、
「お前はもっと全体的に短めの方が、似合うよ」
そう言ってまず髪を洗ってもらう。
顔を小さい布で隠され、
見えないまま彼の息づかいや動く音だけを感じる。
頭を撫でられると気持ちが良くて、
段々とウトウトしてきた。
数分後、
「ほら、終わったぞ」
そう言われて、ウトウトからハッと目を覚ますと、
いつもと違う自分が鏡に映っていた。
「いいじゃん、やっぱり似合う」
と、首元に巻かれた布を外されながら、
月島はウンウンと頷いた。
「本当に美容師なんだね」
感心して言ったつもりだったけど、
月島は半眼で、
「当たり前だろ」
すると滋はクスクスと笑い、
「だって中学の頃は想像なんてできなかったし…」
そこまでいって滋はふと月島を見た。
彼は滋の肩に手を置いたまま、
鏡越しにジッとこちらを見つめてくる。
しまった。
思い出させるような事は
言わないように気をつけてたのに。
あの教室での、キスのことを。
「あの時から、お前可愛かったもんな」
「へ…?」
気の抜けた声を出す滋の顎に手を触れて、
月島は滋を自分の方に向けて、
チュッとキスをした。
子供みたいな、
お互いの唇が触れるだけの
優しいキス。
(かわいい?かわいいって言った?)
視線が合わさったまま、
「あの時みたいだな」
「・・・子どもの頃の話だ」
「そうだ。・・・でももう俺達は大人だ」
「え」
滋は月島に聞き返そうとするが、
再びキスをされる。
「ん?!」
今度は、舌を食われるような激しいキス。
腹の奥からゾクゾクしてくる。
あの時感じた、
痺れる感覚が蘇る。
しばらく、
深く、甘く、キスされて、
力が抜けていく。
ようやく月島は、滋の唇を解放した。
ハアハアと肩で荒い息を吐いて、
滋は身体に力が入らずぐったりと月島の胸にもたれ掛かった。
「はあっ…無茶苦茶だ、バカ…」
「えぇ?気持ちよかったろ?」
と、自分の胸に身を委ねた彼の頭を優しく撫でる。
滋は彼の言葉の意味を理解して、
「だっ、誰が!」
慌てて月島から放れたが、その顔は紅潮しており説得力がまるで無かった。
その滋の顔を見て、クスクス笑い、
「身体は素直だがな」
といって、キスだけで勃ってしまった滋の股間を見つめ、
そのまま彼のズボンのファスナーを下ろす。
「ちょ、何やって」
滋の制止を気にもとめず、月島は滋のズボンのファスナーを下ろし、
彼の勃っているモノをマジマジと見つめニッと笑うと、
今度は自分のズボンのファスナーを下ろして自分のモノを出す。
そのまま2人のモノを同時に擦っていく。
「!!あっ、ちょ・・・と」
想像よりも気持ちよくて、慌てて逃れようとするが、月島が片手で滋の両腕を彼の頭上にがちっと押さえているので動けない。
大事な部分を揺さぶられ、気持ちよさに声が出せない。
「っあ、やめ・・・出るっ」
ビュクッ
あっという間にイかされる滋。
下半身を丸出しにされたまま、美容室の椅子の上でぐったりとする。
(気持ちよくてどうにかなりそう・・・)
ぼーっとした頭のまま、熱っぽくこちらを見つめる月島の襟首をぐいっとひっぱり、
さっきと同じキスをする。
その反応にびっくりする月島は、
「ほんと、お前ってかわいいな」
そう言って、下半身を出したまま2人は熱いキスを続けた。
滋が我に返ったのは、それから数分後だった。
全力で月島から離れて、店を出ていった。
全力で駆け抜けて、近所の店のガラス窓で自分の顔をふと見ると、
そこには熱を帯びて顔を赤くした自分が、
写っていた。
それがさっきまでの出来事が、
現実であることを思い知らされる。
(あいつ…どうして…)
熱くて、甘い、
優しいキスを思い出し、
また、身体が疼く。
(あんなキス…)
熱くなった顔を手で抑える。
そして、
気がついた。
10年経った今も、
好きだ。
その気持が、
はっきりと分かった。
翌日。
「・・・・ご注文をどうぞ」
「Aランチセットで」
店のカウンターでいつものように注文を取る滋。
「お席でお待ち下さい」
番号札を渡す。
月島はじっと彼を見つめ、そして席に向かっていった。
(すっげー見てくるな・・・)
きまずさを感じながら、滋はキッチンに入って思考を巡らせていた。
昨日の今日で滋が明らかに目を合わせないようにしているからという事もあるが、
というか合わせられる訳が無い。
なぜなら滋は昨日あれから帰った後、
あのキスも2人で抜いた事を何度も思い出し、
一人で抜いた。
何度も何度も。
そして気が付いた。
自分は月島に抱かれたい。
その気持が溢れてきた。
それに気が付いたばかりで、
なおかつ本人にそれを気が付かれたくないのに。
いざ本人を眼の前にすると、
どういう態度を取って良いのか分からない。
なので消して目を合わせられない。
(これは困った・・・)
「大丈夫?」
横から声かけられて、滋をはっとする。
そこには副店長の飯島が他の注文分の食事を作っていた。
ランチタイムは比較的用意が簡単に済む。
「あ、はい。ぼーっとしてすみません」
再び作業に戻る。
(動揺するな・・・)
そう自分に言い聞かせながら、
滋はランチプレートを手に、テーブル席へ。
「Aランチプレートです」
滋はドキドキしながらも冷静を装いながら、
月島が座るテーブルに皿を置いた。
「ありがとう」
月島はじっと滋を見つめる。
滋は視線を合わせないようにしていたが、
彼の表情が気になって、
思わず目を合わせてしまう。
すると月島はにかっと笑い、滋の手を握って、
「昨日、気持ちよかったな♡」
「は、はあっ!?誰が!」
必死に冷静を装っていたのに、彼の一言で全身が熱くなる。
顔を真っ赤にして再び目をそらす。それを見て、
「うわっ、何その可愛い反応」
「可愛くねえよ、バカ!」
彼の手を振り払い、
そそくさとキッチンに引っ込む滋。
(可愛いと言われて嬉しいとか・・・)
「おかしいだろ・・・」
赤くなった顔を手で押さえる。
どうして月島は、
10年前自分にキスしたのだろうか?
滋はずっと月島に片思いしていたのに、
今まで特に彼からアクションがあったわけではなかった。
気持ちがある素振りも何もない。
仲良くしているグループも違う。
なのに、
あの日、
月島は滋にキスをした。
その時、初めて人の唇が柔らかいと知った。
舌が絡む度、身体が痺れてぞくぞくした。
まだ中学生だった自分には刺激が強かった。
その時の月島の顔が火照っていた事も覚えている。
そのキスだけで、
世界が変わった気がした。
10年ぶりに月島から唇を奪われて、
一番気持ちい部分を触られて、
あの時の感覚よりももっと、
激しい感情が自分の中にあることに気が付いた。
月島に抱かれたい。
全身にキスされて、肌を撫でられて、
後ろに挿れられて、
揺さぶられたい。
自分はなんて邪な事を考えているんだ。
滋は何とか表向きは冷静を保った。
でも、
レジでお会計を済ませ、
「またな」
と、月島は滋の頭を撫でて、
優しく笑って店を出ていった。
月島のその態度に赤くなりうつむく滋。
それを見ていた副店長の飯島は半顔で、
顎に手を当てて、
「素直じゃないなぁ」
「面白がってんな」
と後ろからそう言ってきたのは、店長の三木 勝だった。
彼は最近開店した2号店との間を行ったり来たりしている為、
会えるのは時々。飯島と彼は幼馴染でよく知った間柄だった。
金髪の肩までの髪を後ろで束ねており、
飯島よりも頭一つ背が高い。
飯島は肩をくいっと上げてみて、
「心配してるんだよ。これでもね」
とおどけて見せる。
それを見て三木は
ふうとため息を吐いて振り向きざま、
「素直じゃないのはお前もだろ?」
そう言って店のキッチンへと入っていく。
三木の言葉の意味を飯島は理解していた。
2人は幼馴染で、
それとなくお互いの気持ちを察していた。
「・・・言ってくれるね」
飯島は頭を掻きながら、
店の作業へ戻る。
その夜滋は夢を見た。
『あうっ』
ベッドの上で服を着たまま、
シャツとズボンの前だけ開けた状態で2人は繋がっていた。
月島は身体を起こしたまま、
膝の上に滋を乗せて彼の身体を揺り動かした。
ゆさゆさと揺らされながら、
自分の中に入っている月島の太くて硬いものが
滋の奥の良いところにあたってずっと感じている。
初めてのセックスで、
こんなにも気持ちよくなるなんて。
『んっ、あっ、やだぁ』
『エロい声』
言いながら月島は滋をベッドに押し倒し、
もっと深く挿れて腰を上下に動かしていく。
『あっ、深いぃ』
『気持ち良すぎだろ、お前の中』
お互い汗だくで同時にイッて、ベッドに倒れる。
『どうして、俺を抱くんだ・・・?』
その答えを聞く前に、
ピピピ・・・
スマホのアラームで目が覚める。
「・・・夢オチって・・・」
おもわず自分で突っ込みを入れる。
自分のベッドの上で滋は、自分に呆れる。
(あいつが、あんなことするから・・・)
そう内心愚痴って、2人でオナった事を思い出す。
それを思い出して、下半身がうずくが、
朝は時間がない。
何とか収めて。
仕方がなく思い身体を起き上がらせた。
「いらっしゃいませ」
いつもの様にカウンターで接客をしている滋の表情が、
昨日とは違って険しくなっていた。
それを見て月島は疑問符を浮かべる。
「え・・・どういう表情?」
別に喧嘩はしていないと思うがと、首を傾げる月島。
「アイスコーヒー・・・」
猛スピードでアイスコーヒーを作り、
「おまちどうさまでした」
「・・・どうした?」
「別に。ありがとうございました」
若干こちらをきにしているが、今日はそのまま店をでていった月島を見送り、
「・・・はあ」
大きなため息をつく。
それをみて、
「浜岡、あきらかにおかしいな」
一人呟いていた飯島だが、
「気になるのか?」
後ろから店長の三木が飯島に声かける。
「そりゃあ、仕事中に溜息吐いたりすればな」
「それだけか?」
その言葉に飯島は振り返り、
「どういう意味だ?」
すると、三木は振り返り、
「べっつに」
キッチンに引っ込む。
いつもだ。
三木はなんだかんだいって、飯島が誰かを心配すればいつも引っかかってくる。
飯島は少しだけ滋が気になっていることは事実だった。
でも滋と月島のやり取りを見ていると、
明らかに滋は月島が好きだ。
でも2人は付き合っていない。
その曖昧な関係も気になっていた。しかも月島は先日店先で女ともめていたし。
滋が変なことに巻き込まれてはいないか?
飯島は意を決して滋に聞いてみることにした。
「浜岡」
ランチタイムの片付けをしている滋に飯島が声かけた。
「はい」
少しだけ元気のない滋に、
「何かあったの?最近様子が違うから・・・」
「え」
「仕事に影響することもあるけど、心配だし」
「副店長・・・」
飯島の優しい言葉に、滋は少しだけはにかむ。
「俺で良ければ話聞くよ。今日閉店後でも」
「でも・・・いいんですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます!」
無邪気に喜ぶ滋に、飯島は可愛さをを感じる。
「で、最近なにでそんなに悩んでるの?」
閉店後の店内で、カウンター席で隣に腰掛ける滋の方に身体を向けて飯島は座った。
三木はキッチンで明日の仕込みをしている。
話に入りたいと言ったが、飯島に煩がられて仕方なくキッチンに引っ込んだ。滋にとっては2人ともいい上司だが、仕事中は正直飯島の方が話すことが多かった。
あのカフェに採用された時は、よく三木に仕事を教えてもらっていたし、食事にも連れってもらっていた。
「あの・・・最近中学の同級生と10年ぶりに再会して、その・・・」
もじもじしながら放し始める滋だが、
「それって、月島くんの事?」
「え!」
平然と返す飯島に滋は驚いて声を上げた。
「なんで・・・分かるんですか?」
「いや、誰が見ても分かると思うけど・・・」
すると、滋は明らかに動揺する。
「俺、中学の時アイツに片思いしてて…もちろんあいつはそれを知らない。のに…一度だけあいつからキスしてきて…」
「うん」
「10年ぶりに会ったら、アイツまた…」
そこで言葉を詰まらせる。
「…好きなのに、どうしてキスされて苦しいの?」
「えっ」
真っ直ぐな飯島の言葉に滋は戸惑う。
「気持ちわかるよ。相手の気持ちを慮ると、男同士とか、立場とか色々考えるよね」
「…はい」
飯島は滋を可愛いと思ってる。弟かそれ以上かははっきりしないけど。
今ここで滋にキスしてやれば、どんな反応を示すのか見てみたい。そんな衝動に駆られることもある。
「自分で考えても、答えは出ないよ。いっそ本人に聞いてご覧」
適当に見えるが、実際的を得た答えかもしれない。
「…はい」
滋は答えの出ないまま、身支度をして店を出た。
5分ほど歩いて、スマホを店に忘れた事を思い出し滋は裏口から店の中に戻り、更衣室からスマホを見つけ出し出ていこうとしたところ・・・
店長と副店長である飯島の話し声が、
キッチンから漏れ聞こえた。
ガタッ
「ちょっ」
ドアの隙間から見ると、
キッチンの中で店長の三木に壁ドンされて迫られている
副店長の飯島の姿。
「放せよ」
迫られながらも、顔は彼からそっぽを向く飯島。
ぶっきらぼうに彼を拒否する。
「お前はいつも俺を苛立たせるな」
三木は整った顔をじっと飯島に向けている。
たじろぐ飯島。
彼から逃れようとするが三木の力が強くて離れない。
「何がだよ」
すると、三木は飯島の顎をぐいっと持ち上げキスをした。
「んんっ」
食われるように深くキスを奪われ、
シャツの中に手を入れられ肌を撫でられる。
まずい場面を見てしまって、
ドアの向こうで固まる滋。
しばらくキスでふさがれて声が出ないまま
何かを言っている飯島の声が聞こえ、
「あっあっ、ちょっとドコ触って」
「お前はいつも俺の前で他の男に優しくするよな」
「は、はあ?何訳分かんないこと・・・あっ」
「お前はいつも身近な後輩をかわいがり、俺にヤキモチを焼かせて俺のお仕置きを受けるのに」
三木は飯島のズボンの中に手を入れて
彼のモノを上下にゆさぶりかわいがる。
少しだけ勃ってきた飯島の股間に自分の股間を押し付ける。
嫌がりながらも気持ちよさに力がぬ寝ていく飯島は、
「お前こそなんでいつもこんなことするんだよ!なんで俺にこんなキスするんだよ!?」
「好き以外に理由ないだろ」
その三木の言葉に、
はっとしたのは飯島だけではなかった。
好きだから、
だから、キスした。
もしかして・・・月島も?
滋は、一目散に月島の美容院へ走った。
美容室の店の前では、
店に入ろうとしている月島とそれをひきとめている一人の女。
かつて、滋のカフェで言い争っていた女だ。
「逃さないわよ!月島!」
女が吠える。
月島は呆れて、頭を掻きながら、
「しつこいってば、お前とはつきあえないんだよ」
「信じない!」
女は半べそだ
「ホストしている時は優しかったのに!なんで急に店やめちゃったのよ!」
「あんたには関係ないだろ」
「そればっかり!理由が知りたいのにっ。私のこと嫌いになったの?」
メソメソ泣き出す女。
しつこい女だが、一応月島が好きらしい。
月島はため息を付いて、女の前まで歩いてそのまましゃがみ込む。
「おれさ、親よりもばあちゃんに世話になって生きてきたんだ。ずっと美容師になりたかった。そのために一時期ホストになってただけだ」
真剣に彼女に答えてあげた。
女は涙でぐちゃぐちゃの顔を上げる。黙って月島の話を聞く。
「それに、あんたと付き合えない理由は男とか女とかの理由じゃない」
真剣に彼女をまっすぐ見つめ、
「俺には中学の時からずっと、好きなやつがいる。それはこれからも変わらない。だから、ごめん」
はっきりと、言った。
「・・・はやく言えばいいのに」
それだけ呟いて女は涙を拭きながら、
「ふられてしまえ!ばーか!」
と、近所に響く大きな声で叫んで走って帰っていった。
ドラマのような場面だなと思いながら、
ふと、月島をみると、
こちらの姿に気が付いて、硬直していた。
「おまえ・・・いつからいた?」
滋は頭を掻きながら、
「え・・・っと、ほぼ最初から、かな」
「・・・最悪」
月島は顔を手で覆って、しゃがみこんだ。
こんな形じゃなくて、ちゃんと好きだって告白したかったのに。
滋は、ゆっくりと月島の前まで歩いていって、彼の前で立ち止まる。
「中学の時・・・何で俺にキスしたの?」
取り繕わずに、
ただ、聞いてみた。
月島はそれを一番避けたかった。
いや、本当は聞いてほしかったかもしれない。
「そんなの・・・好き以外に、理由ねぇだろ・・・」
赤くなっている顔を隠してつぶやく月島。
滋はそんな彼をみて、
ふふっと笑う。
「何笑って・・・」
自分の恥ずかしい姿を笑う滋に講義しようと月島は顔を上げると、
同じ高さにしゃがんだ滋にキスされた。
そっと、優しく。
「おれもずっと好きだったよ、月島」
やっと素直に言えた。
翌日
「良かったね。両思いになれて」
滋の話を聞いて、副店長が優しく祝ってくれた。
「ありがとうございます」
照れながら嬉しそうに笑う滋を見て、ういういしくて可愛いと内心思う飯島。
「・・・今、可愛いと思ったろ?」
「!」
飯島の後ろから小声でそう囁いてくる三木店長。
「だ、だれがっ」
「ふうん」
心を読まれたのかとドキマギする飯島。その彼を半顔で見つめる三木。
「後で、お仕置きするからな」
「するなっ」
お仕置きと言われて少しだけ赤くなる飯島。
そんな2人のやりとりを見つめて、滋だけはどんなお仕置きかは想像できたが先日の事は知らないふりをしなくては。
聞こえなかったふりをして、滋は休憩中のコーヒーを飲んだ。
「じゃあ2人は付き合うんだよね?」
カラン
「こんにちは」
話の途中で月島が店を訪れた。
滋は彼の姿を見つけると嬉しそうに笑い、
「お疲れ」
すると月島も柔らかい表情で手を振る。
「すみません休憩中なのに、参加させていただいて、これよかったら」
と、この辺で人気のケーキを手土産に持って飯島に渡す。
「ありがとう。気を遣わせて済まないね。気にしないで」
飯島はケーキを受け取り彼をカウンターへ促す。
嬉しそうに並んで座る2人を見つめて、
「…本当、良かったね」
飯島は少しさみしげにほほ笑んだ。
「…」
それを見ながら何かを思う店長三木。
滋は月島と一緒に過ごすこれからの10年が楽しみになってきていた。
ーーーーーエピローグ
飯島はあの日以来、
三木と2人きりになる事を避けていた。
飯島 野亜と三木 勝は幼馴染だった。
いつも一緒に遊んでいたし、他にお互いより仲の良い友だちなんていなかった。
中学生の時から三木の夢は将来自分のカフェを経営する事が夢だった。
「何書いてるの?」
飯島が尋ねると、
「料理のレシピだよ」
「レシピ?」
「俺いつか自分の店を開店させて、俺が作った料理をたくさんの人に振る舞いたいんだ」
と笑顔で夢を語る三木が、飯島にはとてもまぶしく見えた。
中学卒業の日、
飯島はクラスの女子に告白されて、付き合うことになった。
教室で待っていた三木に、
「三木、聞いてくれよ。俺さっき女子に告白されて付き合うことに・・・」
そういいかけた途端、
「!?」
三木はものすごい力で飯島を窓辺に押し付ける。
「な、何するんだよ・・・」
抗議しようとしたその瞬間、
三木は飯島にキスをしていた。
「んっ・・・」
それも学生とは思えない、深くてやらしいキス。
「んんっ」
身体を強く押さえつけられ、足は三木の足に挟まれて動けない。
そのまま、飯島のシャツの後ろから手を入れられ肌を直接撫でられる。
「あっ、待って・・・」
「付き合うな」
「え・・」
気持ちよくてぼうっとしながら聞き返す飯島に、
三木は彼の首にチュッチュッとキスをしながら、
「女なんかと付き合うなよ」
そういって飯島のズボンの中に手を突っ込んで、おしりの穴に指を挿れる。
「んっあ、ちょっとなにやって」
飯島は三木に指を挿れられながらほぐされて、身体がビクッと反応する。
そのまま窓辺に後ろ向きにされて、ズボンを降ろされすぐに三木の硬いモノがゆっくりと押し込まれる。
「ちょっと、まさか挿れる気じゃ・・・ああっ」
硬いものが一気に挿入されて、普通は痛いはずなのに、
初めてなのに、気持ちいい。
「あっんや!あっ」
腰を揺り動かされる度に喘ぎ声が漏れる。
「女となんて付き合うなよ」
「んっあっ」
(気持ちよくてよく聞こえない・・・)
そのままキスをされて、
「返事は?」
「んっ、何言って・・あんっ」
奥まで押し込まれて、何かが上がってくる感覚に頭が回らなくなる。
「早く返事しないと、イカせないぞ」
「わかっ、わかったから!」
慌てて返事をしてしまうと、一気に腰を打ち付けられて2人でイッてしまう。
これが中学卒業の思い出となった。
それ以来飯島が少しでもモテたり、飯島が誰かの世話を焼くと、
三木は決まって飯島に『おしおき』をする流れになっていた。
三木は高校卒業後専門学校に進学し、飯島は大学へ進学した。
数年後のある日三木は飯島の前に久々に現れた。
「カフェ開くから」
「えっ」
「お前ウチで働けよ」
そう言って数日飯島を口説いた。
数年後。
三木は数店の経験を積んで、自分のカフェ『芝桜』をオープンさせた。
4年後には4人の従業員を雇い、5年目の現在は2店舗目をオープンしたばかり。
店長である三木は現在2店舗目を安定させるために従業員を教育している。なので実質1店舗目は副店長である飯島が回していた。
あの夜、
数年ぶりに、
飯島にお仕置きをされた。
「好き以外に理由ないだろ」
お仕置きをする理由をはっきりと言われたのは初めてだった。
飯島はあの時、自分の耳を疑った。
こいつは何を言ってるんだ・・・?
今までずっと、その一言だけは消していってこなかったのに。
それを言ってしまったらもう、
逃れなれない。
その言葉に返事をしたなら・・・
真っ直ぐな瞳で飯島を見つめる三木。
三木は飯島を逃がさんとしながらも、ドアの向こうの滋がいつもまにかいなくなってることに気が付いた。
目を逸らしたいのに、視線を外せなくて無意識に震える飯島。
「聞こえなかったのか?」
「・・・・」
三木はゆっくりと飯島のシャツの中に手を入れて、胸を撫でる。
「っや」
力なくつぶやく飯島。
下も上も触れられるたびに気持ちよくて、
おかしくなりそうだ。
自分が自分じゃなくなるみたいに。
そんなの耐えられない。
「やめて、くれ」
震える飯島のその言葉に、
いつもと違う何かを感じて、
三木はそっと彼から離れた。
飯島は乱れた服装のまま、店を出ていった。
飯島は店に近い場所にある自宅に逃げるように駆け込んだ。
そのままドアにもたれかかり、
「っう」
あらゆる気持ちが溢れてきて、一気に涙が止まらなくなった。
そのまま崩れ落ちる。
好きなのに、
あのまま抱かれたかったのに、
三木の気持ちが嬉しいのに、
その気持ちに正面から答えるのが怖い。
恋人になったとしても、
三木がいつか自分から放れる事があったら、
自分はきっと生きていけない。
あの吸い込まれそうな深い瞳。
低くて心地いい声。
筋肉質で大きな身体。
力強くて強引な性格も、
ヤキモチを焼かれることも、強引に抱かれることも本当は嬉しい。
だからこそ、恋人になればいつか別れる可能性がある。
なら、ただの幼馴染だったら、ずっと一緒にいられる。
仕事のパートナーとしてなら、ずっと一緒にいる理由がある。
たとえ、触れられなくても。
だから、
自分は彼の気持ちをしらないフリをしていた。
これからも、それでどうにかなると思っていた。
でも、三木の告白があった。
今までのままで良いと思っていたのは自分だけだった。
さっき、自分は三木を拒否した。
もう、そばに居られない。
「もう・・・終わりだ」
そう呟いて、飯島は再び泣き崩れた。
あれから1ヶ月
飯島はいつものように店の仕事をこなしているつもりだった。
でも、もう1ヶ月も三木と顔を合わせていない。
2号店でのトラブルで、あちらにつきっきりになっているらしい。
もしかしたらこのまま、
会えなくなるかも知れない。
自分は三木の好意を拒否した。
三木ももう自分の事は諦めたかも知れない。
「飯島さん」
店から厨房に顔を出してきた滋。
「どうした?」
「そろそろ店締めていいですか?」
時計を見るともう20時だ。
「そうだな。客も居ないし。片付けるか」
「はい」
滋は最近入ったバイトの2人に、仕事を教えてくれている。
その成長ぶりに、飯島はとても助かっていた。
自分がぼうっとしててはいけない。
今この店を任されているのは自分だ。
飯島は滋達を帰した後、店のレジ締めをして明日の仕込みを済ませ、
店の厨房で一人コーヒーを飲んだ。
ふうと、大きな溜息を吐き、ふと三木の事を考える。
最近三木と会っていないせいか、厳密にいえば会っていないわけじゃない。
店の確認の為の必要事項などをやりとりするだけ。
一人になると三木のことばかり考えている自分に気が付いた。
触れられた熱やキスの味も、
まだ鮮明に思い出せる。
時々店が終わった後に一人で来て店の確認をしているようだ。
飯島は壁に掛かっている三木のエプロンに手を触れる。
顔を近づけると、まだ三木の匂いが残っている。
「会いたい・・・」
無意識にそうつぶやいていた。
数分後、
気がつくと厨房で椅子に座ったまま眠っていたようだ。
「・・・ん」
上半身を起こすと、
自分の肩からカーディガンがずり落ちた。
「え・・・」
「起きたか」
気がつくと、厨房の真ん中の台の向かいに椅子に座った三木がいた。
おそらくこのカーディガンも三木のものだろう。
「いたのか・・・お疲れ」
「お疲れ」
短くつぶやいて、こちらを見つめる。
飯島は落ちたカーディガンを拾いながら、はたっと気が付いた。
自分の手の中に握られている三木のエプロンに。
そして急に恥ずかしくなる飯島。
三木は頬杖をついて、
「よほど、寂しかったんだな」
そう言って、飯島の顔を覗き込む。
「ん?」
もう無理だ。
彼のエプロンを手にして眠っていた。
何の言い訳もできない・・・
飯島は俯いてしばらく黙り、
「…悪いかよ」
「ん?」
飯島は手にしている三木のエプロンをぎゅっと握りしめ、
「もうずっと、お前を近くに感じることが出来ないでいたんだ・・・、
こんなものでしか」
そうつぶやいて自分のエプロンを握りしめる飯島を見つめて、
三木はたまらない気持ちになった。
こんなにも素直な飯島を三木は始めてみた。
「今は、本物がいるんだが?」
そういって、三木は両手を差し出した。
その三木の言葉に、
飯島は素直に、三木の首に抱きついた。
あまりに素直で三木のほうが驚いたが、抱きついてきた飯島の行動に三木は愛おしさでいっぱいになり、飯島の背中を優しくさする。
「・・・やけに素直だな」
「だって・・・」
飯島は彼を愛おしそうに抱きしめたまま、
「隣にいることは当たり前なんかじゃないって、それに気が付いた」
「ん・・・?」
「今までは当たり前に隣りにいて、俺に触れてくれた。でも・・・この1ヶ月会えなくなって、お前の気持ちがこれからも一緒だなんて甘い考えだとおもった」
飯島は不安になっていた。
三木を愛する人が現れたら、
いじっぱりで素直じゃない自分よりも、
素直なやつをすきになるのではないかと不安になっていた。
だが、三木はふっと笑い、
「馬鹿言うな。俺が一体何年お前だけを想っていたとおもっているんだ?」
そういってぎゅっと飯島を抱きしめた。
優しく、強く。
「たとえ、どんなに魅力的なやつが現れても、俺の気持ちはお前だけだ。今までもこれからも。でも・・・おれも不安だった」
その言葉に、飯島はハッとして彼から離れて彼の顔を見る。
すこしだけ寂しそうな顔をして、
「俺の想いが、お前の負担になっていたならと・・・お前を苦しめていないかとずっと不安だった」
いつだって、
三木は優しい目をして飯島を見守っていた。
「まあ・・・もっと素直に向き合ってくれたなら、苦しくないのにとも思っていた」
三木は飯島の頬に手を当てて優しくキスをしてくれた。
何度か優しいキスをして、
「好きだよ、野亜」
飯島は涙を流しながら、
「俺も・・・ずっと、好きだった」
泣きながら、三木に再び抱きついた。
翌朝、
飯島は店の2階の三木の部屋で目を覚ました。
朝方まで愛し合って、
身体も心も満たされていた。
ベッドの隣には、よく眠っている三木がいた。
自分が素直になるだけで、
こんなにも景色が違うなんて思わなかった。
「眠れたか?」
目を覚まして三木が最初に、こちらの心配をしてくれた。
飯島は猫がごろごろと甘えるように、三木の胸にぴたっとくっつく。
「眠れたよ。もう起きないとだな」
素直に甘えてくれる飯島に、三木はこれ以上ないくらい幸せを噛み締めていた。
正直にいうと三木は翌朝になると、
飯島は今まで通りの態度なのではないかと思っていた。
でも、甘えてくれている。
「素直だな」
「変か?」
「いいや。嬉しいよ」
三木は優しく彼の頭を撫でる。
飯島はゆっくりと起き上がり、
「でも、仕事中は・・・ベタベタするなよっ」
と、いつものツンデレに戻り呟く飯島に、
「わかっているよ」
くすりと笑い、返事をした。
終。
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