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第24話 闇堕ちとは?
カロンの部屋に入って、扉を閉める。
リリムがカロンの体を抱きしめた。
(何? 何で? この人って、夜神くんだよね? リリムになった夜神くんなんだよね?)
リリム夜神に抱きしめられている今が、わからない。
すっと体を離すと、今度は手を握られた。
カロンの腕を引いて、ベッドの上に腰掛ける。カロンも一緒に座った。
(着いたばかりで座れる場所なんかベッドくらいしかないから、仕方ないけど。でも、だけど!)
リリム夜神と手を握って、向かい合ってベッドに座っている状況が、わからない。
「……すまない。本当はあの場で、僕が皆を紹介すべきだった」
「うん、いや……、俺も聞きたい話、いっぱいあるから」
「カデルとルカに挟まれている神木を見たら、我慢できなかった」
「我慢……、何を?」
リリム夜神が、黙り込んだ。
何を言えばいいかわからずに、カロンも黙った。
「他の誰かに触れられている神木を、見たくなかった」
ドクンと、大きく心臓が跳ねた。
跳ねた後に鼓動がとくとく走った。
「どうして、こういう気持ちになるのか、自分でもよくわからない。前の世界から知っていると思う、僕の独占欲かもしれない。次からは、気を付ける」
その言葉があまりにも夜神で、かえって安心した。
「俺にも、よく、わかんないけど。夜神くんがそんな風に思ってくれるの、嫌じゃないよ。むしろ、嬉しい。だから、気を付けなくていいよ」
「でも、神木はレアンが……」
顔を上げたリリム夜神が、言葉を止めた。
「今更、確認だが、君はカロン=ラインに転生した神木陽向で、合っているか?」
カロン神木は思わず吹き出した。
確かに今更だ。だが、聞きたくなる気持ちは、わかる。
「そうだよ。夜神くんは、リリム=ヴァンベルムに転生した夜神くんで、合ってるよね? ていうか、顔がリリムじゃなくて夜神くんなんだけど」
カロンにとっては確認するまでもない。
「僕の顔が? 僕には、神木はカロンに見える。というか、カロンのビジュアルは小説の描写でしか、知らないが」
「そうそう! 『魅惑の果実』が今度、コミカライズ化するんだよ! それで、主要キャラ全員の顔と立ち絵が公開になってね! 夜神くんに教えたかったんだ」
「そうなのか。皆、こちらの世界と同じか?」
「同じどころか、本物のほうがイケメンだよ! でも、リリムだけが、夜神くんだよ」
少なくともカロン神木の眼には、リリムは夜神に映る。
リリム夜神が考え込んだ。
「それが神木、いや、カロンの能力なのかもしれないな。真実を見抜く目のような」
「カロン、ていうか、『神実』にそんな力、あったっけ?」
そういった描写はなかった気がする。
ただ、秘めた能力がたくさんあり、何が開花するかわからない、といった設定だった。
「秘めた能力の内の一つかな」
「そうかもしれない。もしくは、追加設定かもしれない」
「リリムの『魔実』みたいな?」
リリム夜神が深く頷いた。
「落ち着いて聞いてほしい。この世界は『魅惑の果実』の小説の中なんだが、ストーリーラインや設定がかなり違っているんだ。もう僕たちが知っている『魅惑の果実』じゃない」
「うん、そうだね。それはもう体験で理解した」
リリムに馬乗りになってキスしているレアンは、小説の何処にも出てこない。
「夜神くん、一体何しちゃったの? 嫌われ者のはずのリリムが大人気だよ」
「人気かは、わからないが。皆が親切にしてくれて、助かっている」
カロンは納得した。
(無意識無自覚! 罪深い! そうだよね! 生徒会長の夜神くんも無意識無自覚のモテ男だったもんね!)
親切で優しいのに下心がまるでない。
恋心もないから平等に親切だ。
だから、男女問わず人気だったのに、本人は全く気が付いていなかった。
(しかも普通にイケメンなんだよな。それも全然気が付いてないし気にしてない。こっちに来てイケメンに磨きがかかっている)
少なくともカロン神木には、現実世界の三倍はイケメンに見える。
「僕は、この世界に来て、自分がリリムに転生したと理解してから、至高の悪役になるために努力してきたんだが」
「ん? ン? ん? なんて?」
「リリムに転生してから……」
「そうじゃない、そこじゃない。シコウのアクヤク?」
リリム夜神が大真面目に頷いた。
「前にも話したが、『魅惑の果実』は主人公陣営が格好良い。なのに、リリムがいまいちで、残念だ」
「そう、言ってたね」
「だから僕が努力して、主人公陣営に釣り合う最強の悪役となり、華麗に倒されようと」
「あぁ! やっぱりか! 俺の推理、間違ってなかった!」
カロン神木は頭を抱えた。
「ねぇ、それやめない? カロンは俺だよ? 俺が夜神くんを倒すとか、無理ゲーが過ぎるんだけど」
文武両道の生徒会長を一般生徒が倒すなど、カンストの魔王にレベル一の勇者が棍棒で挑むようなものだ。
「神木は今、カロンなのだから。『五感の護り』と一緒に、自信を持って僕を倒すべきだ」
リリム夜神の目が本気だ。
「だってさ、倒すって、俺が夜神くんを、殺さなきゃいけないの?」
おずおずと聞いてみる。
そこまで考えているのだろうか。
(時々、ビックリするとこ、抜けてたりするから、考えていない可能性もあるよね。『魅惑の果実』は終盤に入ったばっかりで、最後の展開がまだわからないんだし)
リリム夜神が腕を組んで考えている。
「……殺人は、マズいな。他の倒し方で頼もう」
リリム夜神が前の世界の常識を物差しにし始めた。
カロン神木としては安心の方向性だ。
そのまま、この世界なら、場合によっては殺人もありな現実には気が付かないで欲しい。
「うん、まぁ、その辺は、適度に。そもそも、リリムがラスボスになるかも、わかんないわけだしさ」
カロンの言葉に、リリムが驚くほど反応した。
「リリムは、闇堕ちラスボスではないのか?」
リリム夜神が前のめりにカロンの肩を掴んだ。
「え? いや、原作のリリムは悪役令息だったけど、主人公たちが倒すのは魔窟の竜と悪魔アンドラスだったじゃん?」
「その悪魔に魅了されたり、乗っ取られそうになっていただろ」
「そうだけど……。最後 に絡んでくるのは間違いない伏線と振りだったよね。俺の予想では闇堕ちしたリリムが竜を飲み込んでラスボスになるのが面白いって思ったけど」
小説の展開が実際にどうなるかは、わからない。
「確かに、そうか。あれは確かに、神木の予測だったな。説得力があったから思い込んだが、確かに、確かに……」
リリム夜神が口癖を連発している。
本気でショックだったらしい。
「そもそも夜神くんが闇堕ちとか無理だよ。俺のほうが闇堕ちしそうなんだけど」
憧れの小説世界に転生を果たした途端、最推しが友人にベタ惚れ状態とか、最早泣いている。
「あぁ、そうだ。闇堕ち、とは、なんだろうか。リリムが堕ちそうな闇が、僕には見付けられないのだが」
「え?」
「ん? だから、どこの闇に堕ちたらラスボスになれるのかと」
カロン神木は頭を抱えた。
(まさかの闇堕ちを理解していなかった! 夜神くん、ネット小説読むの初めてって言ってたもんな。ラノベには興味ないって! そうか、そういう感じだったかー……)
しかし、カロン神木は閃いた。
カロンは表情を改めて、神妙な面持ちを作った。
「夜神くん、残念だけど、この世界にリリム夜神が堕ちそうな闇は、ないよ」
「ないのか⁉」
リリムが今日一の大きな声で驚いた。
カロン神木は冷静に首を横に振った。
「そもそも怠惰でなければ闇には堕ちられないんだ。努力した夜神くんはもう、闇には堕ちられない」
「そう……だったのか。だから、小説の中のリリムが闇に堕ちると、神木は予測したんだな」
「そうだよ」
夜神がいい感じに信じた。
こういう時の夜神は、割とチョロい。
(この世界にスマホもPCもなくて良かった。検索できないって不便だけど助かる)
「じゃぁ……、僕はもう、己の努力でラスボスになるしか、ないんだな」
「は? ならなくていいよ! ラスボスになる努力とか、イミフだし! ラスボスは竜と悪魔でいいよ!」
どうあってもリリム夜神はラスボスとして華麗に倒されたいらしい。
どうしたら諦めてくれるのか。
「いや、実はその辺の敵も、変更なんだ」
「へ? まさか悪魔や竜まで誑し込んだの?」
それは最早、魅了という魔術だ。
一体、どれだけ手玉に取っているのだろう。
「誑し込むは、よくわからないが。この世界には、僕らが知らない敵が存在している」
「……え?」
カロン神木は、リリム夜神の説明を驚愕の気持ちで聞いた。
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