1 / 1

第1話

 雨が降りしきる放課後。夏樹は、生徒玄関でぼんやりと外を眺めていた。そんな彼の元へ、二人の男子が静かに歩み寄る。 「夏樹〜、そろそろ帰る?」 「夏樹、今日こそ俺の誘いを受けてもらうぞ」  声をかけたのは、幼なじみの陸と、生徒会長の玲司だった。  陸は昔から夏樹の隣にいた。彼のことを誰よりも知っている。面倒見がよく、誰にでも優しいが、夏樹には特に優しかった。夏樹が忘れ物をすればさりげなく貸し、体調が悪そうなら心底、心配する。誰かが夏樹を困らせると、迷わず彼を庇う性格だった。  一方の玲司は、その対極にいる男だ。誰の目にも堂々とした態度で夏樹を特別扱いし、まるで彼が自分のものかのように振る舞う。 「今日は夏樹と帰る約束をしてるけど、一緒に帰る?」 「 夏樹は俺だけと帰るだろ?」  優しい陸と俺様な玲司。  困ったような顔で陸は、ふっと小さく笑った。 「夏樹に決めてもらおうか!」  玲司がわずかに眉をひそめる。「……君はいつも余裕だな」 (自分が選ばれると腹の中では思ってるんだろ、この猫かぶり野郎。) 陸はどこまでも穏やかで、まるで玲司のことすらも受け入れるような包容力を見せた。  夏樹はため息をつく。 「……ごめん、今日は一人で帰るよ」  帰ろうと傘を広げる。二人の間を通り過ぎる瞬間、それぞれの視線を感じた。陸の視線はどこか切なげで、それでも夏樹を尊重する優しさがあった。玲司の視線は意味ありげに鋭い。  夏樹が去った後、微かな緊張が残った。 「……君はいつまでそんな手で勝負するつもりだ?」玲司が低く言う。 「勝負なんてつもりはないよ。俺はただ、夏樹を大事にしたいだけだよ。」  陸の柔らかい笑みを見て、玲司は軽く舌打ちした。「……面白くない奴だな」 「笑いのセンスを磨かないとだな」  二人は目を合わせ、それ以降は言葉は交わさなかった。

ともだちにシェアしよう!