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第1話
雨が降りしきる放課後。夏樹は、生徒玄関でぼんやりと外を眺めていた。そんな彼の元へ、二人の男子が静かに歩み寄る。
「夏樹〜、そろそろ帰る?」
「夏樹、今日こそ俺の誘いを受けてもらうぞ」
声をかけたのは、幼なじみの陸と、生徒会長の玲司だった。
陸は昔から夏樹の隣にいた。彼のことを誰よりも知っている。面倒見がよく、誰にでも優しいが、夏樹には特に優しかった。夏樹が忘れ物をすればさりげなく貸し、体調が悪そうなら心底、心配する。誰かが夏樹を困らせると、迷わず彼を庇う性格だった。
一方の玲司は、その対極にいる男だ。誰の目にも堂々とした態度で夏樹を特別扱いし、まるで彼が自分のものかのように振る舞う。
「今日は夏樹と帰る約束をしてるけど、一緒に帰る?」
「 夏樹は俺だけと帰るだろ?」
優しい陸と俺様な玲司。
困ったような顔で陸は、ふっと小さく笑った。
「夏樹に決めてもらおうか!」
玲司がわずかに眉をひそめる。「……君はいつも余裕だな」
(自分が選ばれると腹の中では思ってるんだろ、この猫かぶり野郎。)
陸はどこまでも穏やかで、まるで玲司のことすらも受け入れるような包容力を見せた。
夏樹はため息をつく。
「……ごめん、今日は一人で帰るよ」
帰ろうと傘を広げる。二人の間を通り過ぎる瞬間、それぞれの視線を感じた。陸の視線はどこか切なげで、それでも夏樹を尊重する優しさがあった。玲司の視線は意味ありげに鋭い。
夏樹が去った後、微かな緊張が残った。
「……君はいつまでそんな手で勝負するつもりだ?」玲司が低く言う。
「勝負なんてつもりはないよ。俺はただ、夏樹を大事にしたいだけだよ。」
陸の柔らかい笑みを見て、玲司は軽く舌打ちした。「……面白くない奴だな」
「笑いのセンスを磨かないとだな」
二人は目を合わせ、それ以降は言葉は交わさなかった。
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