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第50話 「娼婦」の威力
眠るために日参したユリウスの部屋は、最後に訪れた時と何も変わらない。
足を踏み入れると、ふわりとムスクの香りが鼻腔を擽る。
王城に響いていた争う音も、屋敷の一階で後方支援に従事しているケイトや影たちの声も聞こえず、この空間だけが切り取られたかのように静かだ。
「着いたぞ」
ライリーはシーツがピンと張ったベッドに横たえられ、濃厚なムスクの芳香に包まれる。
そのため、さほど意識していなかったライリーの汗やユリウスの騎士服を汚す血、そして、焦臭い臭いが余計鼻につく。
顔を顰めたのは、ほぼ同時。
ユリウスは所々焼け焦げている騎士服を荒々しく脱ぎ捨て、シャツだけになった。
白いシャツは外に露出していた襟や袖が汚れていたが、それ以外は真っ白なままだ。
床に無造作に落とされた、派手な装飾で重く動きにくそうな騎士服は、防御という意味では優秀な代物らしい。
騎士服の赤黒い染みは返り血だとわかっていた。
しかし、本当にそうなのか。
無理して動いているのではないか。
そんな心配が渦巻いていたライリーは、ユリウスの体に深刻な怪我がないことを確認し、胸を撫で下ろした。
ユリウスは床が水浸しになるのも構わず、魔術で水を出して手を清める。
そして、汚れが落ちた右の掌を上に向けると、そこに林檎大の水球を生み出した。
「ゆっくりでいい。少しずつ飲め」
口元に寄せられた水球。
ライリーが小さく頷き口を開けると、水が一筋の糸のように落ちてきた。
氷のように冷たい水が、喉の渇きを自覚させる。
ライリーは味わう余裕もなく水を嚥下していったが、体内に取り込まれた水は、喉元を過ぎると同時に熱を帯び、体温と同化する。
すべて飲み干しても、冷水は火照った体を冷やしてはくれなかった。
火照った唇の隙間から溢れるのは、炎のように燃え盛る欲を孕んだ吐息だ。
刺激を求める体は、ライリーの心を置き去りにしたまま昂っていく。
(こんなの、嫌だ)
腰が疼く。
熱い、苦しい……どうか助けてほしい。
「嫌かもしれないが楽になるためだ。触るぞ」
「ッん……」
嫌じゃない。
しかし、そんなことを伝えて何になる。
ユリウスを困らせるだけだ。
吐息だけで返事したライリーは目を伏せた。
潤んだ視界の隅に映り込むユリウスは、ぎゅっと眉を寄せて唇を噛み締めている。
僅か一年にも満たない間の、契約で縛られた関係で、なおかつ同性。
いくら仲の良い間柄でも、そんな相手の性処理など、誰が好んでやるものか。
ユリウスにとって、今の状況はこの上なく苦痛だろう。
当然の現実を突きつけられ、ライリーの心は幾筋も赤い雫を垂らしている。
喉が締め付けられたように、息が苦しい。
ライリーの体を隠していた毛布がユリウスの手で取り払われる。
そして、ライリーを美しく着飾っていた夜会用の服が緩められていき、媚薬に冒された肢体が露わになった。
王城からユリウスの部屋に到着するまでの間、ユリウスの腕の中で昂り続けた体は、素直に反応を示していた。
はだけた服の隙間から覗く肌は、ほんのりと赤く染まっており、汗でしっとりと湿っている。
外気に触れた体は、急激な温度差にぶるりと震えた。
もどかしい刺激しか与えられず、腹につくほど反り返った屹立からは先走りが溢れており、鼓動に合わせて震え、早く触ってほしいと訴えている。
淫らな体をユリウスに見られたライリーは羞恥に耐えきれず、唇を噛み締め、顔を両腕で覆った。
はしたなく昂った体を見られている上に、これ以上、欲情した顔を晒したくない。
理性が弾け飛びそうな今、ユリウスを恋い慕っている表情を取り繕うこともできそうにないのだ。
胸の奥深くに仕舞い込んだ、ユリウスへの慕情。
それを知られてしまえば、徹底的に嫌われ拒絶されてしまう。
それは耐え難い苦痛で、最も恐れていることだった。
視界が真っ暗になり、ユリウスが動く気配を感じ取る。
衣擦れの音が聞こえた時には、熱く昂ったそこにユリウスの手が触れていた。
「んぁッ……!」
それだけで腰から脳天まで快感が突き抜け、白濁が散る。
呆気なく果てたライリーは、絶頂と驚愕の渦に飲み込まれた。
まさか、触れられただけで達するなんて。
『娼婦』とはそれほど恐ろしいものなのか。
毒よりもタチの悪いものを盛られてしまったのは間違いない。
ライリーは息を荒げながらその事実に怯え、体を震わせた。
ライリーの粗相を目の当たりにし、ユリウスは息を呑んだ。
しかし、動きを止めることはない。
白濁を香油代わりにすると、未だ熱く硬度を保ったままの屹立を扱き始めた。
「んぅっ……くっ、ふぅ……んんっ……」
強弱をつけて巧みに扱かれ、腰に痺れが広がる。
快感を追いかけ、さらなる刺激を求める本能。
ライリーは手のひらに爪を立てることで、必死に理性の糸を手繰り寄せた。
気を張っていなければ大声で喘いでしまいそうだ。
ユリウスにとって、ライリーの欲情した声は耳障りに違いない。
ライリーはきつく唇を噛み締めた。
これで、ユリウスの苦痛を減らせる。
そう思ったというのに。
「ライリー、傷がつく」
ユリウスはライリーの顔を覆っていた腕を解き、白いシーツの海に浮かべた。
そして、固く結ばれたライリーの唇に親指を捩じ込み、歯の上に指を沿わせた。
(なッ、え……?)
愛しい人の指を噛んで傷付けるなんてできない。
ライリーは口を開けるしかなかった。
「う……あ、でも、声……」
「そんなことしてたら痛いし苦しいだろ。ここには俺しかいない」
「や、無理……」
ユリウスが言わんとしていることは理解できる。
しかし、無理なものは無理だ。
ライリーはユリウスの手を掴んで引き剥がそうとしたが、びくともしない。
これ以上醜態を晒さないようにしているのに、どうして邪魔をするのか。
ユリウスの碧い瞳を見つめても、その真意を読み取ることはできない。
「ライリーに盛られたのは『娼婦』と呼ばれる媚薬で、どんなに不感でも一晩中気持ち良くなる代物だ」
「それ、は……でも……」
「だから、全部媚薬のせいにしていい。我慢するな。声も、感じていることも」
ライリーが返事をするよりも前に、ユリウスは再び屹立を扱き始めた。
それは先程よりも遠慮がないもので、聞くに堪えない水音がライリーの耳まで犯した。
「ああッ……ふ、うう……」
込み上げる喘ぎを我慢したいのに、ユリウスの指が邪魔で止めることができない。
開いた口の端から唾液が垂れていく。
上擦った声は快感に染まっていて、ユリウスの甘言に理性は焼き切れていく。
もう、いいんじゃないか。
媚薬のせいにすれば、きっと痴態を晒しても仕方ないで済まされる。
こんな異常な状況で、ユリウスに想いを寄せていることなど気付かれない。
今が最初で最後のチャンスだ。
長い任務のご褒美と思えばいい。
ぶつりと切れた理性の糸。
一度箍が外れると、我慢することなどできなかった。
「ほら、大丈夫だから」
「あ、ぅあ……あああっ」
「痛くない?」
「……ない、痛くない……んんッ、あ、あ……!」
本能だけになったライリーは、甘く啼き声を上げる。
ライリーが情欲に身を堕としたと理解したのだろう。
ユリウスはライリーの口内から指を引き抜くと、より激しく手を動かしていく。
ユリウスの手が上下するたび、その手から充血した昂りが顔を出す光景は卑猥の一言に尽きた。
自由になったユリウスの指が、水を得た魚のように滑らかな肌の上を泳ぐ。
襲いくる快楽の波に縮こまる首筋を、唾液で濡れた指で撫でられる。
まるで舌で舐められているような感覚は腰にまで響く。
鎖骨まで下りた手は、ふと思い出したように上昇し、耳輪をなぞり、耳の穴を擽った。
「ひッ……んぁ……!」
あるいは鎖骨から胸の中心を通り脇腹を撫で、きゅっと吊り上がった双珠を手のひらで転がした。
自慰する時でさえ、そこを触ったことはない。
触ろうとも思わなかった。
初めての刺激にライリーは堪らず喘いだ。
気持ちいい、気持ちいい……!
虚しい独りよがりの行為なのに快感が止まらない。
もっと触れられたい。
どろりとした昏く重い欲が溢れ出てくる。
「ふっ、あ……し、て……」
「ん、何?」
「き、気持ち、いいから……。だから、もっと、して……!」
理性はとうに消え失せ、残ったのは貪欲に快感を求める獣のような本性だけ。
ライリーは恥も外聞もなくユリウスにねだった。
「ああ、気持ちよくするよ。だから、怖かったこと全部、忘れろ」
ユリウスは苛立ったように命じると、躊躇いなくライリーの屹立を口内に迎え入れた。
ユリウスに口淫されている。
それは視界の暴力だった。
快感と背徳感が混じり合い、熱く滑る粘膜が纏わりつく気持ちよさに頭が真っ白になる。
「え……? うぁっ……あぁ、んんん……!」
ユリウスは唇で愛撫し、肉厚な舌で裏筋を舐め上げ、くびれを食んだ。
先端を撫でるように舐めたかと思えば、舌先で鈴口を抉る。
ライリーは堪らず、股の間にあるユリウスの燃えるような赤い髪をぐしゃりと掴んだ。
突き抜ける快感は刺激が強すぎる。
引き剥がしたくて、しかしさらなる愉悦を求めて腰をユリウスに押し付けた。
それに応えたユリウスは、熱い昂りを口内の奥まで受け入れ、吸いながら唇で扱く。
そんなことをされたら、性経験のないライリーはひとたまりもなかった。
「や、あ……ッ出る、出るから、ユリウス、ぅ……離、して!」
射精感が高まり、腰が小刻みに痙攣を始める。
しかし、ユリウスはライリーの叫びを聞いても口を離してくれない。
それどころか、さらに奥へと昂りを受け入れた。
ユリウスの口内に白濁を吐き出すなんて嫌だ。
清廉な近衛騎士たるユリウスを汚してしまう。
なんとか回避しようと赤い髪を引っ張り、シーツを蹴って必死に踠くが、ユリウスから太ももを掴まれた。
その上、咎めるような視線で見上げてくる。
(う、そ……むり、だめ……!)
逃げ場を失ったライリーは、快感を散らすように頭を振った。
これで少しは楽になる。
そんな思考が見透かされたのか。
ライリーの昂りはユリウスの喉奥へと迎えられる。
一際強く吸われると、ライリーの体は制御不能に陥った。
「あっあっ……まっだめっ……イくッイくッ、ぅ……あああッ……!」
白濁が鈴口から吹き上がり、ユリウスの喉を犯した。
腰がガクガクと痙攣して止まらない。
視界がチカチカと点滅し、頭が真っ白になる。
自慰ですら感じたことのない激しい快感が全身を支配した。
ユリウスは跳ねるライリーの下半身を押さえつけ、尿道に残った白濁まで吸い上げる。
顔を上げたユリウスは、ライリーの顔に張り付いた髪をそっと掻き上げ、快感の波に襲われたライリーに見せつけるようにごくりと音を立ててライリーの欲の証を嚥下した。
その光景に、ライリーに巡る血が沸騰する。
(どうして……?)
気持ちいいと、もっととねだったのはライリーだ。
しかし、口淫されてからは駄目だと言ったはず。
何故、ここまでするのか。
ライリーにはユリウスの行動が理解できなかった。
荒い息を繰り返すライリーの記憶は、その辺りから途切れ途切れだ。
ユリウスの手と口で何度も何度も絶頂に導かれたというのに、屹立は萎えることを忘れたように延々と熱く昂る。
時折、ユリウスは甲斐甲斐しく水を与え、息を整えさせてくれたが、ライリーの体力が戻ったと判断すれば容赦なく責め立ててくる。
途中、精液ではない透明な何かを漏らして号泣し、ユリウスにやめてくれと懇願した。
それでも、ユリウスは手は止まらない。
ライリーの欲の泉が枯れるまで、快楽の渦に叩き落とされた。
行き過ぎた快楽は意識を朦朧とさせる。
どうしてこうなってしまったのか、わからない。
ライリーは歪んだユリウスの顔を見つめ、そして意識を飛ばした。
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