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第57話 重なる熱

 薄らと開けた目。  その潤んだ視線の先には、ユリウスの碧い瞳がある。  触れるだけのキスは物足りない。  如実に語る目は、ライリーと同じ思いを写していた。  ライリーはユリウスの唇を啄んだ。  慈悲を乞うように。  あるいは、本能を揺り動かし、誘うように。     それは、ライリーの思惑通りユリウスの理性を壊してしまったようだ。  緩んでいた唇の隙間に舌が捩じ込まれ、ざらついた舌と舌が擦れ合った。  初めての感覚に、全身が燃えるように熱くなっていく。 「ふ……んぁ……」 「ん……」  ライリーとユリウスから、鼻にかかった吐息が漏れる。  反響する息遣いは二人の官能を高めていく。 (気持ち良い)  甘いだけではないキスは、ライリーの理性を溶かす。  多幸感に包まれながら体は熱を帯びていく。  腰に広がるのは、情欲の炎。  焚き付けられた火は勢いを増すばかりだ。  口蓋を撫でられ、体を震わせる。  ぞわりと広がった熱を、ユリウスは見逃さなかった。  執拗にそこを舌先で愛撫されると、背筋に心地良い痺れが走る。  開きっぱなしの口からは、混じり合った唾液が銀の糸を垂らしていく。 (息、が……)    呼吸は問題なくできている。  その証拠に、ライリーは激しく胸を上下させていた。  しかし、熱に浮かさせた体では酸素が足りない。  無意識に逃げを打つが、後頭部に回されたユリウスの手に、逃がさないとばかりにぐっと力が入った。  風が、止んだ。  濡れた体と服は、いつの間にか乾いていた。  ライリーとユリウスの周りを囲んでいた光の粒は、ユリウスの指先の動きだけでひとつの水球となり、棚の上に佇んでいた花瓶を満たす。  不意に、体が雲になったようにふわりと浮いた。  口付けを交わしながら膝を掬われ、ユリウスに横抱きにされたのだ。  ユリウスは大股で部屋の奥へと進む。  ライリーは、大の男が二人寝ても余裕のある大きさのベッドに横たえられた。  熱を孕んだ碧い瞳がライリーを見下ろしている。  上からのし掛かるユリウスに、余裕があるようには見えない。  噛み付くようなキスは激しさを増す。  ライリーはユリウスにしがみつき、吐息の交わりに酔いしれた。  ライリーの息が上がりきり、ユリウスの顔が離れる。  ユリウスの頬は、ついさっきまで凍えていたとは思えないくらい血色が良い。  それはきっと、顔が熱いと感じているライリーも同じだ。  急速に温められた体は激しい温度の差についていけず、指先にじんじんと痺れるような感覚を走らせる。  キスの余韻に浸り、ユリウスを見つめていると、ユリウスがシーツに散らばったライリーの榛色の髪をそっとすくい、まるで懇願するようにキスをした。    王都でプラチナブロンドに染めた髪は、ハルデランに戻ってから本来の色彩である榛色に染め直している。  薬液の配合や髪への塗布は、ライリーだけでは難しい。  すべての事情を把握しているジャクソンには、染髪作業を手伝ってもらっていた。  そして、髪が伸びればその都度切っている。  しかし、以前のように、短髪にするほど切りたくない。  それは、ユリウスから贈られた赤いアバロンシェルの髪飾りを使いたかったからで、そのため、髪は肩口でまで伸ばしていた。  染めて切ってを繰り返し、ライリーの髪は今、毛先以外はライリー本来の髪色だ。   「髪も肌も、手入れしなきゃな」  さらりとユリウスの指の隙間から落ちた髪には枝毛があり、毛先が乾燥している。  肌も、お世辞にもなめらかとは言えない。    ユリウスのことを考えないようにと、あえて多忙な生活を送っていた。  身の回りのことは二の次で、髪や肌は王都に行く前と同じ状態に戻っている。  ジャクソンに小言を投げかけられるのも仕方ない。  髪を眺めるユリウスの眉間に皺が寄っている。  一年近くもライリーの髪と肌を手入れしていたのだ。  この悲惨な有り様は見ていられないのかもしれない。  そう思うと、ライリーの胸に罪悪感が広がっていく。   「せっかく綺麗に手入れしてくれていたのにごめん」 「気にするな。これからはライリーに合う香りの香油を使おう。もう決めてある」 「え、決めてあるって?」  ユリウスから飛び出した決定事項に、ライリーは瞬きを繰り返す。   「ああ……その、自分のを選ぶ時、無意識に探していたんだ。悪いか」  眉間の皺はそのまま、ユリウスはふいっと顔を逸らした。  唇はきゅっと引き結ばれ、視線はあちらこちらに泳いでいる。  拗ねているように見えるが、耳が赤いことから照れていることが丸わかりだ。  先程まではライリーを翻弄していた美しい獣が動揺している様子は、とても可愛く見える。 「まさか。嬉しい」  ユリウスが無意識でそこまでしてたなんて、思ってもみなかった。  ライリーもユリウスを深く想っていたが、必死に考えたのは結果的に渡せなかった花束くらいだ。  無意識に姿を探すことはあっても、贈り物までは選ぶことはなかった。  目の前で恥ずかしそうに赤面しているユリウスが愛しくて堪らない。 (ああ、もう……大好きだ)  ライリーはユリウスの顔をそっと両手で挟み込んで自分の方へ向けると、その唇を啄んだ。  突然のキスにユリウスは目を見開き、一瞬たじろぐ。  しかし、瞬きをした後には同じようにキスを返してくれた。   「ちなみに、どんな匂いのものを?」 「アンバーだ。それに木の香りを混ぜたもの」 「そっか。楽しみだよ」 「気に入ってもらえると嬉しい」 「ユリウスが選んだものならなんでも嬉しいよ」 「ライリー。ユーリと」 「ユーリ……」  ユリウスを呼ぶ声は自分でも驚くほど甘く、それに惹かれるようにどちらからともなく唇を重ねる。  戯れのように始まったキスは段々と深くなっていく。  優しい風に吹かれながらキスされた時に暴かれた、ライリーが感じる動き。  舌と舌を擦り合わせ、ぞわりと走った快感から逃れようとすると奥まで熱い舌が追いかけてくる。  逃げ場を失った舌を絡め取り、口内を掻き回されれば腰が重くなった。    粘膜を触れ合わせているというのに、肌が触れているのはほんの僅か。  素肌を隠す服がとても邪魔に思えた。  ライリーはユリウスの頬から手を離し、黒いシャツの裾を掴んだ。  そのまま脱ごうとして、しかし、手を止めた。  キスの合間に頭を通して脱ごうと考えていたが、そんな暇も余裕もない。  口付けに合わせて上下する腹が、意味もなく晒されている。 「俺が脱がせる」 「え……?」  不敵に笑ったユリウスの手が、ライリーの腹に触れた。  熱を持った指先の感覚に、背中が痺れる。  嫌な予感がしたが、もう遅い。  ユリウスは中途半端に捲れたシャツの裾を掴み、戸惑うライリーの頭と腕からそれを引き抜いた。  服を脱ごうとしたのは間違いない。  しかし、脱がせてほしいという意味で、中途半端な状態で固まっていたわけではないのだ。  ライリーは腰に手を伸ばしつつあるユリウスの手を掴み、意地の悪い笑みを浮かべる彼を睨んだ。 「待って、自分で脱ぐ」 「嫌。俺が全部したい」 「へ……」  ライリーの意見はすぐさま却下された。  まさか拒否されるとは思わず呆然としてしまい、その隙に有無を言わさずスラックスを脱がされてしまった。  残るは心許ない下着のみ。    きっちり騎士服を着込んだユリウスと、ほぼ全裸のライリー。  恥ずかしい思いをするのが自分だけなのはおかしい。  反骨精神が首をもたげ、ライリーはユリウスと同じように片頬笑んだ。   「俺も脱がせる」 「ああ、よろしく」  ライリーの宣言に、ユリウスは頬を緩めて応えた。  余裕綽々のユリウスの表情を崩したい。  ライリーはユリウスの胸元に手を伸ばし、騎士服の釦を外し始めた。    ところが、ユリウスが着ている騎士服は複雑で、釦や内側のホックを外す順番が決まっているようだ。  絡まった糸のように、どこをどう扱えばいいのかわからない。    唸っているライリーの手に、ユリウスのそれが重なる。  いつの間にか脱がされた下着は、シャツやスラックスとともにベッドの隅に追いやられていた。 「今日は自分で脱ぐ。また今度な」  額を弾くように口付けが落とされる。  体を起こしたユリウスは、迷いない手付きで釦を外して服を脱いでいく。  目の前に晒された裸体は、王都にいた時は毎日見ていたものだ。  しかし、こんなにも魅力的だっただろうか。  逞しい筋肉を見れば羨ましいと思うだけだったというのに、今は全く別のことを考えている。 (この腕に、体に、抱かれるんだ)  心臓がこれまでにないくらい駆け回っている。  触りたい、確かめたい。  その熱を、想いを。  衝動のままに伸ばした手でユリウスの背を撫でる。  なめらかな肌は少し汗ばんでいて、ライリーの手に吸い付いてくるようだ。  ふと目線を上げた先には、艶かしい吐息を溢すユリウスの悩ましげな顔がある。  こんな顔をさせているのは、ライリー自身だと思うと、それだけで心が満たされる。  ユリウスの碧い瞳に、情欲の炎が揺らめき、ライリーを鋭く貫く視線は、抜け駆けされたと拗ねているようにも見えた。  その証拠に、ユリウスの手はライリーの髪を撫で、耳の縁をくすぐり、首筋を滑っていく。  肩のあたりが疼くが、まだ耐えられる。  ライリーの反応を求めて南下した手は、胸で停滞した。  羽で撫でるような軽さでゆっくりと円を描くように触られると落ち着かなくなる。 「ん、そこ……」 「ここが、どうした?」    問いかけられている間にも、じわりじわりと円が小さくなっていく。  かつて、ライリーの体を磨き上げた指先が、胸の尖りにそっと触れた。 「んッ……!」  制御できない疼きに体が跳ねる。  気持ちいいわけではない。  しかし、痺れるような、奇妙な感覚がする。 「別に、気持ちよくないし……そこは、その、は……恥ずかしい」 「へぇ……。でも、やってみないとわからないよな?」  にんまりと口角を上げたユリウスは、慎ましく佇む突起を嬉々として弄り始めた。  片方は指の腹で押し潰され、かと思えば爪で優しく引っかかれ、その反対側は舌で舐られ、見せつけるように口内に含まれて吸われる。    恥ずかしくて仕方がない。  だというのに、そこは次第にじんわりと熱を持ち、ぷっくりと膨らみ、もっとしてほしいと主張している。 「う、あ……ッぁあ!」  膨らんだ胸の尖りに軽く歯が立てられ、背中に雷が走った。  否定したくても、これは快感だと体が叫んでいる。 「ほら、気持ちいいだろ」 「う、そ……」  まさか胸で感じる日が来るなんて。  首を横に振って現実逃避するが、ユリウスはそれを許さなかった。    桃色の輪をじわりと摘まれ、乳首を水音が聞こえるほど吸わる。  追い立てられたライリーは、腰に広がる疼きを我慢できなくなった。    触れられてもいないのに熱を持った屹立をユリウスの割れた腹に擦り付ける。  だが、ベッドが柔らかすぎて腰が沈み、少しの刺激しか得られない。  もどかしくなり、ユリウスの背をなぞっていた手に力を入れた瞬間、その手はユリウスによって捕えられてしまった。  指と指を絡め、いわゆる恋人繋ぎをされた手は、顔の横で白い海に沈められ、浮き上がってこれない。  屹立を擦り付けていたユリウスの腹は、当然とばかりに離れてしまった。 「ライリー。何しようとしてた?」 「いや……それ、は……」 「それは?」  嗜虐の色が滲む視線に耐えられない。  顔を逸らして口籠るライリーに、ユリウスは容赦がなかった。  ユリウスの面前に晒された首に浮いた筋。  それを鎖骨から辿るように音を立てて啄まれ、耳に辿り着くと、擽るように息を吹きかけられた。  ライリーの欲が煽られ、激しく燃え盛る。    問いに答えなければ、この先には行かせない。  そう宣言しているようなユリウスの態度に、ライリーは息を詰めた。   「胸が気持ち良くて……それで、我慢できなくて、触りたくなって……」  今にも消え入りそうな声で答えるのが精一杯だ。  こんな恥ずかしいことを言わされるなんて聞いていない。  叫び出したくなる衝動を抑えるが、口の端からはくぅ……と犬の鳴くような声が漏れた。 「そうか。でも、我慢な」 「なんで……!」  くつりと笑ったユリウスはライリーの抗議をするりと躱し、胸の尖りを再び口に含んだ。  ライリーの左手を解放した手は、屹立をすり抜け、双丘の輪郭をなぞる。  多忙な生活で少し痩せたライリーだが、そこは無駄な肉が落ちて必要な筋肉だけが残っている。  弾力を確かめるように触れるユリウスは、その少し硬めの尻が気に入ったようだ。  じれったい動きに我慢ならない。  それなら、こちらから仕掛けてしまえばいい。  ライリーは自由になった手を伸ばし、ユリウスの昂りに触れた。  ぴくりと跳ねたそれは火傷してしまうのではないかと思うほど熱く、脈打っている。  つるりとした先端を撫で、滲んだぬめりを指に纏わせながらなぞっていく。    胸元に顔を埋めていたユリウスから息を殺すような気配がした。  仕返しは成功したようだ。  勝利にライリーが頬を緩めると、ユリウスが顔を上げた。    ライリーを焦らしていた手は、その頭上にあるベッドサイドへと伸びる。  視線を動かすと、ユリウスが小さなガラスの小瓶と透明な玉を手に取るのが見えた。 「それは?」 「性交用の香油と浄化玉だ。ご丁寧に用意されていたぞ」 「うッ……嘘だろ!」 「本当だ」  高まっていた衝動が一気に霧散し、消えかけていた理性が戻ってきた。  ベッドサイドをよく見ると、そこには白い陶器の中に浄化玉が二つ転がっている。  ユリウスが既に持っているものと合わせると三つ。  残りは予備ということなのだろう。  周到に用意された、性交に必要不可欠な道具。  すべてを見通していると言わんばかりのミカエラからの配慮に、ライリーの羞恥は軽々と限界を越え、両手で顔を覆った。   「どんな顔をして会えばいいんだ……」 「堂々としていればいい。恥ずかしがっていたら余計いじられるぞ」 「想像できるのが嫌すぎる」 「俺がいる」  ユリウスがライリーの顔を隠している手をほどき、引き結ばれた唇を舐め、宥めるように口付けを落とす。   「盾にしてやる」 「任せろ」  大胆不敵な笑みを浮かべるユリウスは頼もしい。  約束の証として、ライリーは首を伸ばしてキスを返した。  それを受け取ったユリウスは体を起こし、小瓶から香油を垂らして指に纏わせる。  それは、ライリーの後孔にひたりと当てられた。    頭ではわかっているのだ。  そこで繋がることも、ユリウスが乱暴なことをするはずがないということも。  だが、未知の感覚に緊張し、体が強張る。 「俺を見ろ」  ユリウスがライリーの手を掴んで自身の胸に導き、耳元で甘く囁く。  手に伝わる鼓動は規則正しく、だが、とても速い。 「今、ライリーに触っているのは?」 「ユリウス」 「優しくする。怖かったらすぐに言ってくれ。絶対に止まるから」 「うん」  たったそれだけの言葉が、固くなったライリーの体を溶かしていく。  優しく触れる指先が、見つめる碧の瞳が、ライリーが愛しいと叫んでいる。 (俺も、ユリウスが愛しい)  ユリウスに後孔を触れられても、もう恐れはなかった。  指の腹が放射状に広がる皺を宥めるように撫でていく。  熱を持ち始めたそこに指先が潜り込む。  僅かな違和感があるが不快ではない。  それどころか、明確な疼きを感じる。  ユリウスの指が離れると、香油を纏った浄化玉が押し当てられた。  それは少し冷たく、双丘に力が入る。 「入れるぞ」  浄化玉が胎内に押し込まれる違和感。  すべてが収まると、それは弾けて中を洗浄していく。 「ひ、ぅ……!」    慣れない感覚に、情けない声が出る。   「大丈夫か」 「変な感じだけど、平気」 「なら、指入れるぞ」  ライリーが頷くと、ぬめりを帯びた指がゆっくりとライリーの中に沈んでいく。  異物感と圧迫感もたらし、逆流する指を拒むように、双丘に力が入る。  ユリウスの背に回していた手に、じわりと汗が滲む。    「は……ぅ……」 「痛いか」 「痛くないけど、苦しい」 「わかった」  ライリーの中に根本まで入ったユリウスの指は、躾けられた犬のようにぴくりとも動かなくなった。  ユリウスの優しさを感じ、胸が締め付けられる。    その優しさに報いたい。  ライリーは深呼吸を繰り返し、ユリウスの指を体に慣らしていく。  息を吸うと中が締まり、溜まった息を吐き出すと中が緩む。  次第に異物感はなくなり、中に収まる指に疼きを感じ始めた。  この先に進むには、ライリーの合図が必要だ。  言葉にするのはまだ恥ずかしさが勝る。  ライリーはユリウスの頬に手を添えて引き寄せ、その耳元で懇願した。 「ユーリ。動かして」 「大丈夫か?」 「うん」  指がゆっくりと動き始めた。  疼く中を押し広げながら撫でられると、じわりと熱が広がっていく。  粘着質な水音がライリーの羞恥を煽る。  ユリウスにしがみついていると、不意に、雷に打たれたような衝撃に襲われた。   「ひッ……あ、ぅ……そ、そこ……!」  腹側の浅いところを撫でられただけで体が跳ねる。  感じたことのない痺れは思考を焼き払い、視界を真っ白にしてしまう。    もし、これ以上の刺激が与えられたら……?  未知の感覚に膨らむ不安と期待。 「気持ちいい?」  指の動きを止め、顔を覗き込んでくるユリウスの熱い視線に、ライリーは素直に頷いた。  ユリウスが与えてくれるものなら、どんなものだって怖くはない。  涙の滲んだライリーの目尻にキスが落とされる。  頬を緩めたユリウスは、ライリーの中に埋めた指を再び動かし始めた。  奥まで突き入れて優しく掻き回し、手前まで指を引き、どうしようもなく感じる場所を押し潰す。  緩急をつけた動きにライリーは翻弄され、与えられる快感を享受した。  本当なら、ライリーだってユリウスを愛撫して彼を愛したい。  だが、経験したことのない快感にそんな余裕はどこにもなかった。  ライリーの中で動く指が一本から二本、二本から三本に増え、バラバラに動かされると、どうしようもなく感じるところに絶えず指が触れ、痛いほどに屹立が反り返る。  脈打っているそれは、解放の時を震えながら待っていた。  だが、何もかもが初めてのライリーは、後孔の刺激だけで達することができない。  弾ける寸前の熱が体中を駆け巡った。    これ以上熱を持て余すことはできない。  ライリーは恥も外聞もなく、息も絶え絶えに懇願する。 「ユーリ……もう、来て……」 「ライリー、まだちゃんと解せていない」  ユリウスは悶えるライリーの顔にキスの雨を降らせ、宥めてきた。  しかし、それはライリーにとって焦らされたも同然で、ある意味拷問のようにも感じる。  ユリウスの剛直に手を伸ばす。  触れたそれは火傷してしまいそうなほど熱い。  先端から溢れた先走りが、血管が浮き出て固くなった剛直を濡らしている。  こんなになるまで待ってくれていることが嬉しい。  だからこそ、もう我慢してほしくない。   「それでもいい。だから早く、ひとつになりたい」 「ッ……ゆっくりするから、痛かったらすぐに言えよ」 「うん」  叫ぶように催促したライリーを、ユリウスは獣のような瞳で見下ろしてきた。  激情が渦巻く視線をぶつけながら、それでも優しい言葉が降ってくる。  今日、何度目になるのかもわからないくらい、ライリーの心臓が飛び跳ねた。  質量のあるユリウスの剛直が香油を纏い、ライリーの後孔に触れる。  ユリウスの手で解されたそこは、求めていた熱を歓迎するようにひくついた。  ライリーは、ゆっくりと沈み込む剛直を必死に飲み込んでいく。   「あ……んっ……はっ、あ……入って!」 「おい、煽るな。優しくできないだろ」 「いいから……ねえ、ユーリ……焦らさないで……」  小刻みに揺さぶられながら剛直が中に入っていくのがもどかしく、ライリーは持ちうる言葉でユリウスを煽った。  ライリーだけでなく、ユリウスもきっと、限界なのだろうから。   「この、馬鹿!」 「あああッ!」  瞬間、剛直が奥に打ち付けられ、ライリーの視界に星が飛んだ。  低く呻いたユリウスがライリーに倒れ込み、隙間がないほど抱き合う。  やっとユリウスとひとつになれた。  多幸感で胸がいっぱいになり、涙の粒が溢れてくる。  ユリウスはライリーの頬を伝う幸福の証を舐めとった。   「ライリーが煽るせいで余裕がなくなった。嫌だって言っても止められないからな」 「構わない。ユリウスが気持ちいいなら俺も気持ちいい」 「あぁ、もうっ……!」  ユリウスの理性が焼き切れた。  碧い目がライリーを貫き、シーツを手繰り寄せていた足がユリウスの肩に担がれる。  先程までがぬるま湯に浸かっていたと思うような、激しい律動。  長い抽送はライリーの腸壁をくまなく擦り上げ、散々弄られた前立腺を押し潰しながら奥の壁を突いた。 「あっ……っはぁ、ユーリ、ユーリッ……んあ、あ……好き、好きだ!」 「ライリー……ふ……俺も、好きだ……くぅ……!」    濡れた音と、ライリーの喘ぎと、ユリウスの激しい息遣いが部屋に反響する。  背中がしなり、乱れたシーツに頭を擦り付けて強すぎる快感を散らしていく。  激しい動きに振り落とされないようにユリウスの背中に縋り、ぎゅっとしがみついた。    揺れる視界に映るユリウスは欲に濡れた顔をしている。  しかし、嵐のような欲の解放とは裏腹に、その碧い瞳はひたすらに愛を囁いていた。    ライリーの胸の奥からぶわりと何かが膨れ上がり、止まっていた涙がまた溢れ出す。  流れる感情すら食い尽くすように、ユリウスが目尻にキスをする。  耳元で聞こえる興奮した吐息に、ライリーは今にも絶頂しそうだった。  「ライリー。きっと知らなかったんだろうがな。新年にガラスの物を贈るのは、プロポーズの意味があるんだ」 「んあッ、え……は、あ……?」  涙の粒を舐め取りながら、ユリウスはライリーの耳元で驚愕の事実を暴露してきた。    ガラスの物。  そう言われて思い出すのは、王都の街で買い、その後すぐにユリウスへ贈ったコバルトグリーンのラペルピンだ。   (俺、ユリウスにプロポーズしたことになっているのか!)  その事実に体が一気に熱くなり、湯気が出てしまいそうだ。   「王都に古くからある風習だ。あと、もうひとつ。自分の髪や瞳の色の物を贈ることは、命を預けるという意味もある」 「しっ知らない……そんな風習!」  ハルデランから出たことがなかったライリーに王都の古い風習を知る術はない。  王都にいた時も、誰からも教えてもらっていないのだから知らなくて当然だ。  命を預ける意味も込めてプロポーズしたくせに、媚薬を体から抜いてもらった直後、挨拶もせずユリウスから逃げてしまった。  失礼なことをしてしまった後悔と、知らず知らずのうちにプロポーズをしていた恥ずかしさ。  まさか自分がとんでもないことをしただなんて!    いや、よく思い出してみろ。  初めて王都に出掛けた時、ユリウスに貰った髪飾りの色は、ユリウスの髪色を彷彿とさせる燃えるような赤。  その意味が示すのは……。   「そうだろうさ。でもな、他の奴らがいる前であんなことされて、意味を知らずにやっているとわかっても、どれだけ俺が嬉しかったと思う?」  あの瞬間を思い出したように笑うユリウスは、喜びに弾けていた。  喜びを分かち合うように、もっと深く繋がるために。  ユリウスの腰骨が双丘に打ち付けられ、奥を穿たれる度に愉悦がライリーを襲う。  腰が痙攣し、脚が震えて止まらない。   「や、まって、とまって!」 「俺がどれだけ、あの時ライリーを路地裏に引き摺り込んでこうしたかったと思う?」 「ああッ、ユーリぃ……!」  ユリウスの宣言通り、ライリーが止まれと言ってもユリウスは止まらない。  それどころか、ユリウスはライリーの屹立に手を伸ばし、大きな手で包み込む。  そして、腰の動きに合わせて扱き始めた。  外も中も、愛しいユリウスに触れられて平気なわけがない。  ライリーの体は、はるか高みへと駆け上っていく。    「花祭りの時も、農場で働いていたくせに、赤いアネモネを渡した意味も未だに気付かないし」 「な、なに……? まって、なんのはなし?」 「いいか、ライリー。赤いアネモネの花言葉は――」  ユリウスがライリーの耳元で囁く。  それは、自身の嬌声が響く中、やけにはっきりと聞こえ、花言葉が全身を駆け巡り、ライリーの胸の奥深くで煌めいた。   「ああ、や、まっ、イクッ……ユーリ!」 「俺も、ライリー……ッく、ぅ……!」  白く明滅する快感が多幸感をもたらす。  制御不能になった体は痙攣し、ユリウスの手の中に白濁を吐き出した。  後孔に沈み込んだユリウスをきつく締めつけると、じわりと温もりが広がる。  ユリウスも同時に果てたことがわかり、言葉にできない感情が湧き上がった。    恍惚としたユリウスの顔。  蕩けた碧の瞳。 「愛している」 「俺も、愛している」    自然と引き寄せられる、ライリーとユリウスの唇。  混じり合う吐息がひとつに溶け合う。  二人は何度も何度も唇を重ね、どこまでも広がる幸せの余韻に身を委ねた。

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