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第24話

「エルヴィン、アイルを庇うのかっ? まさか俺の知らぬところでアイルと通じていたのか?」  それに反対してきたのはルークだ。ルークはエルヴィンの手を掴み、自分のもとへと引き寄せた。 「殿下っ、違いますって!」 「何が? アイルとふたりきりになることは許さない。まさかエルヴィンは俺よりもアイルを選ぶというのかっ?」  ルークは変な勘違いをしているようだ。エルヴィンはどちらかを選ぶような立場でもない。 「殿下、エルヴィンさまは私に用事があるようですよ? エルヴィンさま、お望みどおり私と一緒に……」  アイルがエルヴィンに伸ばしてきた手を、ルークが容赦なく振り払った。 「調子に乗るな、アイル。エルヴィンは他の誰にも渡さない」 「何をおっしゃいますか。権力で無理矢理従わせるのはいかがなものかと思いますよ?」 「そんなことはしていない。エルヴィンは自分の意思で俺のそばにいるんだよなっ?」 「自覚がないようですが、そうやって答えを強要してるんです。エルヴィンさまは私に用事があるとおっしゃったじゃないですか、それもふたりきりで」  ルークとアイル、ふたりの美形に迫られてエルヴィンは目をぱちくりさせた。 (え、これどういう状況……?)  なんだかルークはエルヴィンの左隣からぐいぐい身体を寄せてくるし、アイルはエルヴィンの右隣から迫ってくる。  ルークの浮気現場という修羅場になり、「殿下を奪わないで!」とアイルに怒られると思っていたのになんか、思っていた展開と違う……。 「エルヴィン、行くな」  ルークが不安げな顔をしてエルヴィンの左腕を掴む。 「エルヴィンさま、無理することはありませんよ」  アイルはエルヴィンの右腕を掴む。  なんだかわからないうちに、エルヴィンは引っ張りだこになっている。  ルークはエルヴィンがアイルに何を話すのかと怯えているのではないか。アイルとふたりきり、というところがルークには聞かせられない話、という意味になり不安に思っているようだ。別に告げ口するわけではないが、目の前で自分だけはじかれるようなことをされたらたしかに嫌かもしれない。 「すみません、アイルさま、さっきの話はまた別の機会に。殿下を蔑ろにするわけにはいきません。殿下は僕にとって大切な御方なのです」  アイルにそう告げると、アイルは「……わかりました」とエルヴィンから手を離した。 「今日のところは引きますが、あなたの話ならばいつでも聞きますよ」  アイルはエルヴィンににこやかに笑いかけてきた。 「殿下、今日のことはエルヴィンさまに免じてこれ以上問わないことといたします」  エルヴィンにはなにがなんだかわからないが、とりあえずアイルはルークのことを咎めないことにしたらしい。  アイルは心が広いのかもしれない。きっとルークを独り占めしようとしない、理解ある婚約者なのだろう。   「ああ。俺もわかっている。事が片づくまではと思っている」  ふたりはお互い視線で理解し合っているようだが、エルヴィンには事の真相がさっぱりわからない。でも聞ける雰囲気でもなくて黙っているしかない。 「殿下。私の忠告をお忘れなく。それまでは私がエルヴィンさまのそばにおりますから」  アイルがさらりと言うと、ルークはすぐにアイルに吠えた。威嚇するように吠えていたから、きっとアイルの言動が気に入らなかったのだろう。 「エルヴィン。ここを出よう」 「えっ」  ルークはアイルに「またな」と言い、店主に挨拶をして、エルヴィンの手を引っ張った。 「うわぁっ……! 殿下っ!」  ルークに連れ去られる感覚だった。店を出て、馬車も御者もそのまま、ルークは馬車とは反対方向の店の裏手へとエルヴィンを連れ込んだ。  レンガ造りの壁と木々の木陰に挟まれた、誰の目も届かないような場所だった。 「エルヴィン……」  ルークは突然抱きしめてきた。エルヴィンは驚いたが、ルークの身体は小刻みに震えていて、それがどこか怯えている子どものように感じて突き放すことなどできなかった。  声をかけることもできなかった。わからないけれど、ルークが不安に思うのなら安心させてあげたいと、畏れ多くもエルヴィンはルークの腰に腕を回してその大きな身体を抱きしめる。  ルークはとても優秀だし、正義感と思いやりに(あふ)れ、王である兄のメイナードよりも民に慕われている。王弟でも兄にまったく引けを取らない。その存在感は圧倒的だ。  でもその姿は、体面を保つためのルークの仮の姿なのではと思えてきた。  本当のルークは笑ったり、人をからかってみたり、不安を吐露したり、嫉妬で怒ったり、とても普通だ。そのような姿を表にはあまり見せないだけ。本当は重圧や不安で押し潰されそうになっているのかもしれない。  エルヴィンは何も言わずにルークの背を何度も撫でた。きっと王弟ルークには下っ端貴族にはわからない不安や悩みがあるのだろう。それを、誰かに受け止めてもらいたいとひとり苦しんでいたように思う。  しばらく抱き合っていると、ルークの様子が落ち着いてきた。 「あと少し、このままでいたい」  ルークはエルヴィンを抱きしめながらエルヴィンの頬に鼻を寄せる。キスされる寸前みたいな近さでスンスンされるから、エルヴィンもドキドキしてたまらない。 「殿下、どうされたんですか? なにか、あったのですか……?」   ずっと気になっていた。アイルとの会話のときから違和感を覚えたが、ルークは何を抱えているのだろう。 
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コメント
4件のコメント ▼

アイル様から、エルヴィンくんを必死に奪い返そうとされる殿下🤭 可愛い〜のですが… 本当のルーク殿下のお姿を、知ってくださっているエルヴィンくん… 殿下もエルヴィンくんの前でだけは、本当のご自分を出せるのですね💧 でも、エルヴィンくんにもお話できない事がおありになるのですね😢 (知ってても…?知っているからこそ、なお切ないです😣)

引っ張りだこになってるのは、殿下ではなくなぜかエルヴィンで😂 殿下油断したらアイルに取られる可能性ありますものね!?頑張っております。

アイル様とルーク様は何やらありそうです🤫 とりあえず甘い雰囲気は二人からはないですね✨ でも、エルヴィンからすると、状況が全く分からないですよね💦 ルーク様は何だか不安そうですし、これからの展開が楽しみです💕

何やらふたりの間にはエルヴィンのわからない何かがあるようです。

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