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第二章 恋の誤爆と効かないフェロモン5

***  フェロモンの誤爆を連続でやらかしてしまった次の日、部活の後片付けの疲れや連日の寝不足、作戦がうまくいかなかった暗いメンタルを引きずったまま、教室に顔を出した。  仲のいいクラスメイトと挨拶をかわしながら、自分の席に到着。俺よりも先に来て、本を読みふける悠真に挨拶しようと手を伸ばしたら、横から誰かに手首を掴まれた。 「……あ、佐伯(さえき)?」 「おはよう西野。話がある」  佐伯涼(さえきりょう)は俺と同じアルファで、副委員長をするくらいに有能なヤツだった。佐伯(さえき)のクールな瞳が俺をガン見してきて、疲れきった俺の心がさらに重くなる。 「話ってなんだよ?」  不穏な空気を感じたら、やんわりと掴まれた手首が解放された。 「月岡に近づくなっていう話さ。昨日何度もやらかしてるだろ」 「そうだけど……」  第三者からフェロモンの誤爆を指摘されるだけで、テンションが一気にだだ下がりした。 「昨日の昼休み、校庭でサッカーしてたんだ。おまえのフェロモンのせいで、ムダにたぎっちまって、パスをミスったんだぞ」 (あ、そうか。コイツはアルファだから、ほかのヤツとは違った反応をするんだな) 「悪かった。だけど悠真に近づくなっていうのは、極端な話じゃないのか?」 「朝から担任に呼ばれた。西野になにがあったんだって聞かれたんだぞ」 「迷惑かけたな、それは」  問題児の俺じゃなく、副委員長の佐伯に担任からアクセスがあったってことは、あとから俺にも話を聞く流れになるだろう。 「おまえのやらかしは、部活のストレスってことにしてやった。だけど、本当の理由はわかってる」  佐伯は至極真面目な顔で両手にハートマークを作り、顎で斜め前を指し示した。 「西野は月岡にこれ、なんだろう?」 「ぶっ!」  言葉にしない代わりに、真面目な顔をキープしたままハートマークを作る|佐伯《さえき》がおもしろすぎて、思わず吹いてしまった。 (――ハートマークって、 俺の恋が佐伯にバレてるのかよ⁉) 「ちなみに、クラスメイト全員が周知しているからな」 「なんでっ?」 「なんでって昨日の朝のやり取りを見たら、誰だってわかる。お互い弁当持参してるのに、わざわざ購買のパン食べようって誘うとか、個人的に仲良くしたいって、みんなにバラしてるようなものだろ」  佐伯は肩を竦めながら、やれやれといった様相で大きなため息をついた。 「朝の教室だけじゃなく昼休みの校庭、そして放課後の体育館。おまえのフェロモンは学校を巻き込んで混乱させた。西野が月岡に近づかなければ、俺もパスミスせずに済むしな」 「悪かったよ! でも悠真に近づくの禁止はやりすぎだろ!」  机を叩きながら反論したら、佐伯が俺の手を掴み、無理やり動きを止めた。 「やりすぎじゃない。むしろ頭を冷やせ」  なぁんて冷たく一蹴する。 「とにかく今日の昼休み、詳しい話し合いをするから時間をとってくれ。それまで月岡には近づくなよ。わかったな?」  ビシッと俺の顔に指を差して命令し、格好よく去って行った佐伯。かくて俺から悠真に朝の挨拶することもできず、悶々と時間を過ごすしかなかった。

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