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盗人にも三分の理 本文 | つづるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
盗人にも三分の理
本文
作者:
つづる
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本文
成彦
(
なるひこ
)
は席を立った。昼休みのにぎやかな教室をぬって、派手なグループに近づいていく。薄化粧をした女子ふたりと、机のうえに座る男子の視線が、こちらを向く。成彦はうつむくと、もうひとりの男子の裾を引っ張った。上履きが動いた。振り返った彼に、言った。 「――あとで」 手をはなすと、「おう」と返事があった。笑っていると、見なくてもわかる。教室を出て、成彦もおなじように笑った。 赤い夕日がさしていた。 成彦の家は土手沿いにあって、二階の自室からは河川が見渡せる。 机に置いたリュックから財布を出した。 「どんだけ俺とセックスしてえんだよ」 翔馬が言った。はきだし窓から身をのりだした彼が、夕日の半分をさえぎっている。五月の風が吹く。成彦がベッドに腰かけると、その風は断ち切られた。夕日もかげった。窓とカーテンを閉めた翔馬が見おろしていた。熱に浮かされたような目で、彼が言った。 「勃ってんだろ」 成彦はうなずいて、万札を差しだした。それを翔馬はかぞえず、ブレザーのポケットに押しこんだ。 「脱げよ」 翔馬の声はいつもよりも低かった。緊張しているのだと、成彦は気づいた。ブレザーを脱ぎ、ネクタイも取った。たどたどしく見えるよう、ゆっくりとボタンをはずしていく。 夕日がさした。しゃがんだ翔馬の顔がめのまえにあった。大きな手に腕を掴まれ、唇を押しつけられていた。あまい香りのなかに、あのころとおなじ彼の家のにおいがした。胸が苦しくなる。さまよう彼の舌を、さぐりあてた。翔馬のキスは下手だった。あれ以来、していないのかもしれない。 卒業式の日だった。引っ越しで、翔馬はべつの中学に行くことになっていた。 式のあと、いつもの公園で会う約束をし、夕方、約束どおり落ち合った。そして今日みたいに、ブランコのチェーンをにぎる成彦の手を握り、翔馬がキスをしてきたのだ。ぼう然とする成彦を置いて、彼は走り去っていった。 成彦は高校で再開したとき、言った。 ――続きをしてほしい。 気持ち悪く思われてもよかった。ただ、たしかめたかったのだ。彼は答えた。 ――三万。 肩に、体重がかかっていく。歯が当たった。笑いそうになって、成彦は薄目になる。目を閉じた翔馬は不機嫌そうだった。でも、知っている。不機嫌ではなく、真剣なのだ。彫刻刀を使うとき、モーターカーを組み立てるとき、彼はおなじ顔をしていた。 成彦は目を閉じながら、仰向けになる。くすぐったくて、腹に力が入った。肌着にすべりこんで、臍にふれた翔馬の手が、脇へとのぼっていった。手汗のしめりが残る。その手は脇のしたでとまると、ひとおもいに這い上がった。尖りに引っかかった。成彦がうめくと、ひきむすばれた翔馬の唇が、花のようにひらいた。親指と人さし指で、彼は乳首を摘まんだ。しぼった喉で、成彦はあえいだ。 崩れるように、翔馬の頭が落ちた。髪のおくの汗のにおいが舞う。唇で潰された乳首に、吐息があたたかい。尖りを、舌ではじかれた。全身が水面のように震え、ペニスがパンツのなかで向きを変えた。鼻を押しあてながら、翔馬は、ミルクを飲む子猫のように舌を動かしている。成彦はその頭を抱きしめた。天井には、カーテンのレース模様が、檻のように映っている。 「金、どうしたんだ」 まじめな顔をしていた。〝オカマ野郎〟〝気持ちわりい〟いつかの声が耳の奥でうずく。翔馬はそいつらを返り討ちにしてくれた。そのときもこの顔をしていた。怒っているのだ。怒っているくせに、彼には〝三万〟という言い訳が必要だったのだ。 「お年玉の貯金」 不機嫌な顔に戻った翔馬と、深くキスをする。 このまま関係がはじまるのだろうか。それともまた、言い訳が必要なのだろうか。――でも。 違和感の残る尻がひくつく。 若いだけで、たのしく稼げるのだ。 「――上書きして」 なにも知らない彼の耳に、つぶやいた。 完
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