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第4話 年下の男の子(4)*
「おかえり。こっちおいでよ。髪乾かしてあげる」
光輝が浴室から上がるとカナタはドライヤーを持って待ち構えていた。眼鏡は外したままだった。カナタのやや垂れた目元はずっと笑ったままだ。
光輝が言われるがままに椅子に座ると丁寧に髪を乾かしてくれた。梳くようにを行き来するカナタの長い指が気持ちがいい。恋人同士で風呂上りに髪を乾かし合うことに憧れていた光輝は、嬉しさでドライヤーの熱以上に心が火照る。
自分もカナタの髪を乾かしてみたかったが、カナタのふわふわでくるくるの髪は既に乾いていた。
光輝は自分はもう明日にでも死ぬんじゃないかと思い始めた。だが、こんなにいい思いをして幸せなまま死ねるならそれはそれでラッキーかもしれないとも思った。
カナタと光輝はベッドに並んで腰をかけた。カナタは光輝の顔に手を添えて腰を抱きながら、ゆっくりと時間をかけてキスをしてくれた。
先ほどとは違って今度は舌を入れられたり吸われたりする。口から溶かされそうな感覚を味わい、キスってこんなに気持ち良いのか、と光輝自身も溶かされてしまいそうだった。
「ところで男としたことはある?」
光輝のバスローブの隙間からするっと手を差し込みながらカナタは尋ねる。
「一回だけ……」
ギクっとして光輝は身を固くした。光輝としてはあまり触れられたくない過去になる。かつて同級生とほとんど成り行きで最後までしてしまった事があるが、光輝にとっては苦い思い出になっている。
「どっちしたの?」
「その時はいれられる方……」
「どうだった?気持ち良かった?」
「……痛かった」
光輝が顔を歪ませながら答えると、カナタはその時の光輝を慰めるかのように臀部を優しくさすった。ぴくんと光輝の下半身が反応する。
「そっか。じゃあ優しくしてあげる」
カナタは光輝の会陰をなぞるように指を動かし、睾丸と陰茎にツンと触れた。
「あっ」
ビクッと腰を動かして光輝は顔を赤くして反応した。
「待って、あんまり触らないで、俺、本当に我慢できないです」
光輝は興奮しすぎて既に性器からじわじわと透明な液体を垂らしていた。
「うーん、じゃあすぐにいれる準備する?」
カナタは慣れた様子でローションやら避妊具やらを取り出した。
「うん……」
「ナカで感じたことある?」
カナタは窄まりに指を添えてマッサージするように触れた。そんなところを他人に触れられたことがない光輝はやや腰が引けてしまった。
「ないです」
「初めての時ちゃんとほぐした?」
だが、カナタは逃げる光輝の腰を柔らかい力で抑えつけて、なおも触れてくる。
「っ……あんまり…相手ノンケだったしそういう知識なくて」
「ノンケ落としたの!?すごくない?」
「落としたっていうか成り行きで」
「あーいるよねたまーに。男好きじゃないのに男とヤッてみたいとか言うやつ」
「あ、いや、違うんです。俺が好きになって俺から誘ったんです……」
光輝の瞼が寂しげに伏せられた。
「ふーん……」
カナタはかばうような物言いをする光輝にほんの少しだけ、気づかれない程度に呆れたような相槌を打った。
「じゃあ、まずは指一本だけ入れてみるね」
カナタは仰向けになっている光輝の膝を立たせてゆっくりと指を差し込む。ローションで濡らしたそこから、くちゅくちゅといやらしい水音がして、光輝は恥ずかしくなった。
「…っ」
「上手上手。痛い?」
カナタの中指は意外にもあっさりと飲み込まれていった。光輝もそこまで違和感を感じなかった。
「ううん」
「じゃあコウくんのイイところ探そうね」
「!!」
何かをぐっと押された感覚があったかと思うと、腰のあたりからゾクゾクする感覚が這い上がる。
「ここかな?」
「なんかジンジンする…」
今まで感じたことのない感覚に困惑する。もっと触って欲しいようなもう触って欲しくないような。
「そう?痛くなったら教えて」
「あっ」
指の腹で押されるたびにじわじわと快感が生まれていくような変な感覚がする。指をいれられる際に萎えてしまった光輝の性器が再び硬さを増していく。
「よかった、ナカ感じられそうだね」
と言いながらカナタは指を動かしたまま、光輝の鎖骨や胸に唇を落としてきた。
「ふ、あっ」
光輝は思わずカナタのくるくるふわふわした頭を掴む。カナタは嫌がらずに掴ませてくれた。光輝は手をスライドさせてカナタの首筋や肩や腕にも触れた。人の肌は気持ちが良かった。
その間もカナタは光輝の乳首を下で舐ったり、吸ったりを繰り返していた。別に性的な気持ち良さはあまりなかったが、気持ち良いことをされているという感覚が光輝の気持ちを昂らせていた。
(やばい…優しくされると全然違う…痛くない。この人上手い…声出ちゃう)
光輝は声を上げそうになるのをなんとか耐えて、自分の腕を噛んだ。
「どうして声、我慢するの」
カナタは一旦手を止めると、そっと光輝の腕を外した。
「だって、キモくないですか」
「全然?可愛いよ。もっと声出しなよ。俺も嬉しいよ」
光輝は泣きそうになった。こんなに男の人に優しくされるのは初めてだった。
(俺、遊ばれてるのかな。カナタさん、真面目そうだけど、上手いし裏ではヤリまくりとか?もうどうでもいいや。気持ちいい。気持ち良すぎる。優しくされるとこんな気持ち良いんだ。幸せ、幸せだ)
「うっ、……」
感極まってしまい、光輝はつい嗚咽とともにポロっと涙をこぼしてしまった。
「!?痛かった?」
カナタは慌てて指を引っこ抜く。
「違う。幸せで……すみません」
こんなこと言ったら引かれるかな?と思ったが、なんとなくカナタだったら受け止めてくれるような気がした。
「……」
カナタは光輝のことを迷子でも見つめるように見つめた。指先で涙をすくってやる。
「コウ君は優しくされたことがあんまりないんだね」
「へ……」
「今日は甘やかしてあげる」
囁くよう声音で甘い言葉を放つカナタが、光輝にはなんだか神様とか天使に見えた。
「少し深く挿れるよ。痛かったら言って」
カナタは光輝の片足を自分の肩に乗せるように持ち上げた。カナタは光輝を充分にほぐしてくれたし、その後も本当に時間をかけて中に挿入してくれた。
「うっ、あっ」
今はさらに奥までずぶりと侵入してくる。気持ちの良いところを当てるように動かされ光輝はただただ声を上げる。光輝はとっくに全てをカナタに預けてしまっていた。
光輝が快感を感じるのは性感帯を刺激されているからだけではなかった。カナタに優しく甘くエスコートされ、体も心も委ねているその事実が光輝を気持ちよくしていた。
光輝の体は酒でも注がれたように酩酊していた。どこを触れられても気持ちがいいし、多幸感で満たされていた。
「あぁッ、あ、ン、んんーっっ」
カナタが腰を打ちつけてくるたびに、身を捩っても、もがいても押し寄せてくる快感に頭がクラクラする。蓄積されていく快楽が頂点に達する頃、カナタは少しだけ力を強めて光輝の陰茎を扱いた。
「はぁっ、あっ、イッ」
びくんと電流を流されたように光輝の体が跳ねると、白濁した液体が光輝の腹とカナタの手を汚していた。
「ちゃんとイケたね」
にこにこ言われて光輝は恥ずかしくなる。自分がイクところを他人に見られたのも初めてだった。
「すみません…」
消え入りそうな声で謝るとカナタは再び脚を掴んできた。
「ふふ、俺もイカせてね」
「あっ!」
再び突かれて光輝はもう何も考えられなくなっていた。
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