15 / 139

11.信じてるのかも

 二人を観察してみたついでに。ふと、瑛士さんを見つめてみる。  茶髪だけど、明るすぎない色。何色って言うんだろう。綺麗な茶色。手入れをちゃんとしてそうな、なめらかな感じの、まっすぐなサラサラの髪。前髪は少し長めだけど、綺麗な瞳は隠れてなくて、なんか、やっぱり、オレがこの世で見た中で、一番カッコいい人な気がする。  肌も綺麗だし。彫が深くて、瞳には吸い込まれそうだし。微笑む唇は綺麗で、優しいのが分かるような。  さっき並んで歩いてて、背高いし、ウエストの位置、絶対おかしかった。股下どんだけあるんだろう?って思ったし。存在感、すごいし。  ――ってオレ今、綺麗って何回言ったかな。ちょっとおかしくなってしまう。  こんな造形で、こんな雰囲気の人が、この世には居るんだなあ……。  神様って、ちょっと不公平だよな。ちょっとじゃないか、大分かな。  天は二物を与えないとか、誰が言ったんだ。  なんか、すっごーい欠点でも無いと、なんかバランス悪そうだな?  多分この二人も、結構上位のαなんだと思うけど――瑛士さんは、なんか別格な、気がしてしまう。でも別に偉そうなわけでもなくて……なんだろ。  威圧的で、オレが絶対従うもんかって思う、父みたいなタイプとは違ってて――。  んー。……なんか逆に、頼りたいとか思ってしまうような。近くにいると、ほっとする。  ――ってオレ、バカみたいだな。  さっき会ったばかりの人、なんでこんなに信じてるんだろ。  これで三人がかりで騙されてて、どっか売り飛ばされたらとか、目も当てられないほどのバカだけど――。でも。それは無い気がする。やっぱりオレ――なぜだか、すごく信じてるのかも。  オレ、結構、疑心暗鬼な奴だし。弱い立場の人を助けたいとは思ってるけど、世の人をそこまで信じてはいない。αのことも数人のぞいて、ほぼ好きじゃない、と思っているのに。なのに。変なの。  そう思いながら口に入れた食べ物。  ――あ、これも、すごくおいしい。  ふ、と口元が綻んだ時。 「それで、いろいろ話して――オレからお願いして、了解をもらったところなんだけど」  ね、と、瑛士さんがオレを見つめて、微笑む。小さく頷くと。 「契約結婚を、してもらうことにしたから。期間は三年間。オレのプロジェクトが、軌道に乗るまで」  秘書の楠さんは、オレと瑛士さんを見比べてから、口元に手を当てて、固まって。  弁護士の有村さんは、眉を顰めて、瑛士さんを睨んだ。ような気がする。  ――まあ。  ……そりゃそう、だよね。  瑛士さん、何も言わずに、ただこの二人を呼び出したっぽかったし。  そりゃそうなるに決まってる。  その反応、すごく分かってしまう。  でも、なんか。真ん中で、この緊張感にそぐわない顔をして、楽しそうにしてる瑛士さんが面白くて、笑ってしまいそうになって、顔を引き締めた。

ともだちにシェアしよう!