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42.契約の後も?

 食事をしながら、瑛士さんがふとオレの首元を見つめる。 「何ですか?」 「凛太はチョーカーはつけたこと、無い?」 「事故防止のなら無いです。オレ、ほんとにΩってバレたこと無い――あ、竜以外ですけど、バレたこと無いので、チョーカーつけたら、逆にバレちゃうので」 「……竜くんね。何で――」  言いかけて、瑛士さんは、ふ、と言葉を止める。 「……分かんないのか」 「――あ、竜にバレた理由ですか?」 「ん」 「んー……分かんないですね」  そっか、と頷いて、瑛士さんはオレを見つめる。 「――Ωってこと、周りに知らせることになってごめんね。戸籍より、そっちのほうがデメリットだった気も」 「いえ。全然」 「――ほんとに、全然?」  心配そうにする瑛士さんに、うんうん、大きく頷いて見せる。 「ちゃんと周りに言うって決めたのオレですし。言う時はちょっと勇気要りましたけど――これで人生最大の嘘が無くなったので、すっきりしました。いい機会だったと思います。どうせフェロモンとか出ないから、別に誰にも迷惑かけないし。それに、瑛士さんと結婚ってことになるから、Ωが居ると困る、とか警戒されることもないですし」 「――ふふ」  瑛士さんが楽しそうに柔らかく笑うので、ふとまっすぐ見上げると、ついつい見惚れてしまう。  ほんとに、綺麗な人だなあと、思う。 「ごめんね、オレとの三年間は、チョーカーを付けてもらうことになるけど……」 「そうですよね。噛んでないって、バレたら困りますもんね。噛まれた後を可愛く飾るって意味のチョーカーですよね」 「話が早くて、助かる。絶対解除不可能なチョーカー、プレゼントするから。むしろ、凛太を守る意味でも、つけてた方がいいし。何かの拍子にフェロモン出ちゃったら危ないし」 「でもオレ、今まで全然……」 「分かんないでしょ。急に変化が起こったら危ないから」 「――瑛士さん、心配性ですね」  クスクス笑ってるオレに、「心配するでしょ。Ωなんだし」と瑛士さん。 「……あれ? それって、どうやって、解除するんですか? 絶対解除不可能って」 「オレの指紋でしか、開かないように特注する。あとはパスワードを別管理。京也さんとか拓真とかに預けとく」 「なるほど。……ってそんな機能、あるんですか?」 「うん。あるよ」 「高いですか?」 「んーまあ。高いかな」 「……そういうのが、もっと、安い価格で広まればいいのにって思いますね……」  そうだね、とオレを見て、考え深げに瞳を揺らす、瑛士さんは――なんだかまた、とっても綺麗だ。 「瑛士さんて――すっごく、綺麗ですよね」 「――そう? 綺麗?」 「はい。人の作りとして、最高級って感じ。筋肉もですし。神様の贈り物って感じがします。お願いなので、最大限に絶対、大事にしてくださいね?」 「筋肉……どんなお願い……」  ククっと笑って、瑛士さんは、後頭部を掻いた。 「そんなこと言うなら。凛太も、神様の贈り物って感じだよ」 「え」  一瞬驚いたけど。優しいからそう言ってくれてるんだろうなと、即、理解。 「オレ、見た目も普通だし、ヒートも超不定期だし、色んな意味で微妙なΩですし。神様は、贈り物を忘れて、オレをここに送り出しちゃったのかも?」  ひどいですよねぇ、と膨らみながら言うと、なんだかにこにこと、優しく見守るような顔でオレを見ていた瑛士さんは、ふは、と笑った。 「じゃあ、君には、オレが贈り物をあげるよ」 「――何を、ですか??」 「とりあえずこの三年間。好きなように勉強して、好きなものを買って、好きなものを食べて――君の好きなように過ごしていいよ」 「んー……あんまり物欲ないので……今言った中だと、惹かれるのは、圧倒的に、勉強ですね。ありがとうございます」 「……んん」  苦笑いを浮かべながらも、瑛士さんはにっこり笑って続けた。 「三年後、オレのやってることが軌道に乗って、そろそろ結婚とか考えてもいいかなってなったら、君との契約は解除、だけど――」 「はい」 「契約の間も、その後も、君が困ったら、オレが助けられることなら、絶対助ける」 「その後も、ですか?」 「うん。その後も」  キラキラの紫の瞳を、優しく細めて微笑む。 「ていうか、凛太、神様のプレゼント、とか。贈り物、とか。ほんと可愛いね」  なんかクスクス笑う瑛士さん。  契約が終わったら。  会わなくなる人、だと思っていたのだけれど。  ――そんな風に言ってくれるのは、なんだか、ちょっと嬉しいなと。  なんか、ほくほくする気分。

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