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第4章 第2話(3)
「しかし大盛況やなあ。立ち見まで出るなんて、ほんとすごい」
たいしたもんだとしみじみと言われて、どう反応すればいいのかわからず、莉音は一瞬言葉に詰まった。実際、自分でも、こうなるとは予想もしていなかったのだ。
料理教室初日、莉音の予想よりちょっと多いぐらいだと優子に言われて指導に当たったのは、二十人ちょっとだった。それでも莉音の感覚からすれば、充分すぎるほどの人数である。だが翌日以降、参加者の数は一気に跳ね上がり、関係者一同、多いにあわてふためくこととなった。
「あの、僕の力じゃなくて、職員の皆さんが尽力してくださったおかげだと思います」
莉音の言葉に、スタジオの片付けと掃除をしていた職員たちがいっせいに、「いやいや、こりゃあ間違いなく佐倉さんの力やわ」と応じた。
「こんイベント、過去になんべんもやっちょりますけど今回んごつ定員に達して、さらにはまだ空きがないかって何件も問い合わせがくるんなはじめてやけんな。あきらかに佐倉さん目当てん反響やわあ」
すごい人気やけんなぁと言われて莉音は恐縮した。
「いえ、そんな。広報の方が上手に宣伝してくださったおかげです」
莉音の言葉に、皆、謙虚やなぁと笑った。だが実際、そのとおりなのだと思う。
料理教室が開かれているあいだ、イベントを主催する地域振興課の職員のほかに広報課の職員も同席していて、参加者たちの料理風景を撮影している。その模様をSNSの公式アカウントで発信しているのだが、今回、そのアップした写真がたまたまいつもより多くの人たちの目に留まったらしい。それによって関心を持つ人が増え、参加申し込みや問い合わせが集中した、ということで間違いないだろう。
莉音はそう解釈しているのだが、
「たしかに、いつも以上にインプレッションやコメントが多いかったんな間違いねえんだけどね、でもそれだけじゃねえんやわあ」
写真を担当する広報課の大貫 という職員の発言に、他の職員も同意した。
「さっきん子たちも言いよったけんど、佐倉くん、話し口調も物腰もやわらかできれいやけん、すごく 印象がいいんちゃ。指導んしかたも丁寧でわかりやしいし。そこにアイドル顔負けん容姿がついちくるけん、田舎ん人間はみんな、生ん芸能人に会ゆる感覚じ飛びついちしまうわけよ」
「ありがとうございます。まだこれからいろいろ勉強しないといけない未熟者ですけど、皆さんにわかりやすくて楽しいって思ってもらえるならすごく嬉しいです」
残り三日、頑張りますと頭を下げた莉音に、皆、笑顔でよろしくと返してくれた。
最初は二十人でも多いと思っていたのに、翌日以降はずっと、スタジオがいっぱいになる倍以上の人が参加してくれている。今日に至っては、定員オーバーで参加できなかった十人ほどが、スタジオの隅で見学を希望するという盛況ぶりだった。
食材の手配も含めて対応に追われただろう担当者たちが、快く自分をバックアップしてくれる姿を見て、あらためて最後までやり抜こうと気持ちを強くした。
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