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第1話

 人が住まう地上より遙か上、人の理を超えた天の街には天使と悪魔が住んでいる。  上級天使ヴェルエルは、生まれ持つ邸宅の庭でハーブティーを啜る。よく人間界に降りる同僚から譲り受けたものだが、香りがよく舌触りも良い。人間が生命維持のために行う食事という行為は、ヴェルエルもお気に入りの真似事だ。  さて今日はなにに興じようか。  上級天使の使命は人間の魂をやすらかな場所へ誘うことだが、上級天使たちの中でも特に格が高いヴェルエルが誘うのは限りなく高潔な魂だけである。たとえば、生まれて一度も悪態すら吐いたことが無いだとか、多くの他者を救い続けただとか。  もう何十年も、ヴェルエルは魂を誘っていない。  暇である。別に、ヴェルエルがどの魂を誘ったって良いではないか。そう考えたこともあるが、しかし、それでは高潔な魂の褒美になり得ない。上級天使ヴェルエルの格を安易に下げるべきでは無いと、天に住まう誰かから教わった。昔の話だ。  つまるところ、ヴェルエルは時間を持て余していた。日がな散歩に励んだ頃もあったが、天の街はせいぜい人が住まう球体の半分ほどの土地である。どんな場所もとっくに見飽きてしまっていた。  だからこそ、ここ数ヶ月、ヴェルエルの邸宅にざわめきをもたらす存在が新鮮なのだ。  庭と繋がる広間から、邸宅に仕える下級天使の一人が飛び込んでくる。 「ヴェルエル様! 悪魔ジアがまたヴェルエル様を出せと……!」 「またか」  ヴェルエルはハーブティーを飲み干してテーブルに置いた。漏れ出る溜め息は、呆れからだけでは無いのだが、それは下級天使たちに悟られぬように喉の奥に隠した。  玄関に近づくほど、喧噪も大きくなっていく。  言い合っている風でもなく、わーきゃーと下級天使たちが騒いで飛びかかっては、鈍い色をした触手に撥ねのけられる。身体が宙に浮いた下級天使は、自身の羽を使ってまた突撃していく。見慣れてしまった光景だ。  天使と悪魔は敵対しているわけではない。  ただ、なんとなく、ひたすらに、折り合いがつかないのだ。生まれたときから使命を持ちそれを矜持として生きる天使と、生まれたときから自由を持ちそうあることを矜持として悪魔では、なにか、決定的に、分かり合えないのである。 「ジア、おいたがすぎる」  ヴェルエルの声が響く。喧噪は一瞬で止んだ。下級天使たちはジアに向かうのを止め、地に膝をつき頭を垂れる。 「申し訳ありません、ヴェルエル様のお手を煩わせることになり──」 「いい、いい。気にすんな。……ジア、触手からうちの子たちを下ろせ」  柔らかそうな薄茶の髪がふわりと揺れる。ジアは「はぁい」とお利口さんの返事をして、下級天使たちを床に下ろした。方方に伸びていた触手たちが、シュルリと素早くジアの背中に消えていく。  悪魔ジアの背丈は、天使たちの中でも体躯の良いとされるヴェルエルの首元ほどだ。大きく丸い瞳をぱちくりとはためかせ、それからニンマリ下瞼を持ち上げる。悪魔たちがよく好む、漆黒色で質素な意匠の衣服を纏い、ただ佇んでいるだけであるというのに、周りの下級天使たちの顔色が悪くなっていく。 「今日もお会いできて光栄です、ヴェルエル様」  長い両手の指を口の近くでゆるく絡ませ、唇を舐める真っ赤な舌を隠す。幸せに満ち満ちた心地であることを曝け出すように、ジアはうっとり微笑んだ。 「魔力を抑えてくれ。うちの子たちには分が悪い」 「ヴェルエル様、今日は俺とお話してくれる?」 「いつもしてンだろうが……」 「そうだったかも」  ヴェルエルがジアに一歩近づく。すぐさま背後から、下級天使が飛んでくるのが分かった。 「ヴェルエル様! 毎日毎日こんな悪魔に付き合う必要ないですよ!」 「わ! 『こんな悪魔』だって。悪魔差別? 傷ついちゃう」 「悪魔差別じゃねえよ、この子たちは俺を護るのが使命なんだ。何度も言ったろ」 「護るって、そんな。俺はヴェルエル様に危害を加えたことなんてありませんけどね」  眉が大げさに上がって下がって。大きな桃色の瞳を縁どる睫毛のラインは、器用にジアの言葉に沿って形を変えた。  ここ数ヶ月、なにを想ってか、ほとんど毎日ヴェルエル邸を訪れるジアだが、することと云えば、屋敷を騒がせ、数分だけヴェルエルと会話するくらいである。今日の天気や人間界の動向や、悪魔のトピックス、天使と悪魔のちょっとした揉め事など。いわゆる世間話というやつを、玄関先で嬉々と語っては満足げに帰っていく。  なにが目的か読めないのが、下級天使たちは気にくわないらしかった。 「それで、今日はなんの話だ」 「ヴェルエル様はお優しいなぁ。こんな悪魔の話に耳を傾けてくれるんだ」  両手の指を胸元で組み、くねくねと腰を揺らす。追いかけて尻尾も揺れた。こんな悪魔、などと云っているが、ジアも上級悪魔である。悪魔たちの中ではヴェルエルとそう変わらない立場であるはずだ。 「今日は俺とデートしてください♡」 「でーと」 「「デートォ!?」」  ヴェルエルより大袈裟な反応を示したのは当然下級天使たちだ。ジアの魔力に当てられて顔色を悪くしながら、ヴェルエルとジアを囲い込む。 「ヴェルエル様! デートなんて穢らわしいものですよ!」 「人間と人間が互いの欲望を剥き出しぶつかり合うための序章とも云える行為です!」 「ヴェルエル様にはふさわしくない!」 「こうして堕落した天使を幾度も見ました! ヴェルエル様が堕落するとは思いませんが、その行為の一片にでも触れさせるわけにはいきません!」 「へえ、デートってそんなもんなのか」 「「そうです!!」」  なるほど、おもしろそうである。悪魔とは自由を愛し自由に愛された生物だ。使命を全うしたいと強く願い、望み、そうできないことを恐れる天使たちと異なり、その生で様々な娯楽快楽を見つけ、生み出す。  ヴェルエルをジアに着いて行かせまいと必死な下級天使たちの向こうで、ジアは大きな瞳をさらに大きく広げていた。 「デ、デート、知らないの? ヴェルエル様」 「知らん」 「逢瀬とか、言わない?」 「……、聞いたこと、あるような、無ぇような?」 「すごいな上級天使って」 「長く生きていると、自分に関係ねぇことはどうしたって忘れちまう。きっとどこかで聞いたことはあるンだろうが、俺には要らなかったんだろうな。デートってやつを、持ちかけてくるやつがいなかったから」  自分から探しに行くことに少し疲れただけで、おもしろそうなことは好きな性分である。ヴェルエルが一歩踏み出しジアに近づくと、下級天使たちからは露骨に落胆する声が上がった。 「デートのお誘い、受けてくれるんだ?」 「庭でハーブティーばかりは少し飽きちまった。使命の刻が訪れたらすぐに戻る。お前たちも、ジアも、それで良いな」  一番長く邸宅に務める下級天使たちの長が、苦々しく眉を中心に寄せながら頷いた。  続いてジアも「ヴェルエル様の使命は邪魔しないよ」とほがらかに答える。  さて久しぶりの外出である。  邸宅を出ると、白々と眩しく広がる天界の空がヴェルエルを出迎えた。  天界全土を天から見下ろせば天使と悪魔の居住区は混在していると云えるのだろうが、降り立てばどちらが居住区としているエリアであるのかは一目瞭然だ。  木々花々が美しく咲き並び、白を基調とした住処が一定間隔で整然と連なる。白い装束を纏った天使たちが通行人の多くを占め、視線を落としても塵一つ落とされてはいない。  一方で、ジアに連れられて立ち入った悪魔の居住区では、まず酸味のある言葉にしがたい鼻の奥が詰まるような臭いが漂ってきた。高く高く天まで伸びる建物、その隣には朽ちた平屋があり、中からは宴の声が聞こえてくる。それぞれの所有者が、それぞれの求める形の住処をそこに置いているのだろう。視線を下ろせばぐちゃりと潰れた、食事であったはずのなにか。ヴェルエルはそれを避けるのも面倒で、少しだけ身体を浮かせた。  悪魔の居住区で天使が飛び回れば、おもしろい射的の標的にされかねない。羽を締まったまま飛べる力があってよかった。ヴェルエルの巨大な羽もまた、格好の的となっただろう。それでジアとのデートとやらが邪魔されるのは、少しもったいない気がしたのだ。 「ヴェルエル様に仕える天使さんたち、みんな拗ねてるだろうなぁ」 「どうして?」 「護衛など要らん、って突っぱねてたから」 「事実だからしょうがねぇ」  要らないものは要らないのだ。彼らの仕事はヴェルエルの衣食住を安定させることであり、ヴェルエル自身を護り抜くことではない。 「どこに行くんだ、お前の家か?」 「そんなに手が早いと思われてるんだ?」 「お前の触手裁きは見事だな」  ジアが足を止める。  ヴェルエルをゆっくりと見上げると、大きな瞳をまた細めてうっとり笑った。 「ヴェルエル様ったら本当可愛いんだから。大好き」 「大好き、か」 「うん、とっても」 「どこが?」  またジアは足を進め始める。ご機嫌に尻尾を揺らしながら、ひとつ、と人差し指を立てた。 「気高く品のある立ち居振る舞いをしているのに、喋ると意外に口汚いところ」 「口汚いか? 言われたことねぇな」 「天使たちは言わないよ、上級天使ヴェルエルはあるがままで正解なんだから」 「そんなもんか」  ふたつ、と今度は中指も立った。 「見目が良い。天使のわりに全然華奢じゃないし、白い空に、腰まで届く長い黒髪が靡いているのを見ると、……胸がぞくぞくする。高いところで一つに束ねているのも良い。釣った目尻と、黒々とした鋭い瞳も好きだ。まっすぐこちらを刺すように見ているかと思ったら、慈愛を隠してもいないことに気づかされて、むず痒い心地にさせられる」 「見目が随分お気に召してんだな?」 「力を解放するとき、漆黒が金色に変わる瞬間も好きだよ」 「へえ」  みっつ。薬指も立った。  そこでジアは、突然足を止めたかと思うと進行方向を変える。建物と建物の隙間にある、人気の無い、道とも云えない道に入った。ヴェルエルもその後ろを追いかける。行き止まりで足を止めたジアが、ゆっくり振り返る。 「三つ、悪魔にも優しいところ。覚えてるかな。八十年前の大災害で、幾つもの悪魔の命にも手を差し伸べてくださったこと」 「手が届いたから手を伸ばしただけだ」 「ああ、惚れ惚れしちゃう答えだ」 「悪い気はしねぇな」 「そうでしょう」  ジアは再び行き止まりの方を見た。ジアが手をかざすと、行き止まりを作っていた石の塀に扉のような紋様が浮かび上がる。人間の住まう地上と天界を繋ぐゲートだ。定められた場所で、日ごと定められた数しか使用できないはずだが、さすが自由を愛する悪魔である。 「許可されてねぇゲートだ。戻ったら塞ぐぞ」 「悪魔の居住区にはいっぱいにあるから、ここ塞がれても平気」 「悪魔の考えることはわかんねえなぁ」 「俺だって天使の考えることはわかんないよ。というか、無許可のゲートなのに通ってくれるんだ」 「俺は許可される側ではなくする側だからな」 「じゃあこのゲートも許可してよ」 「考えておく」  ゆっくりとゲートが開く。用も無いのに地上へ降りるのは初めてではないか。片足を踏み入れ、地面が無いことを確認する。そのまま宙を蹴って、次の瞬間には地上に限りなく近い場所を飛んでいた。羽があったほうが楽なので、締まっていた羽を生やしバランスを取る。  隣のジアも大きな黒羽をはためかせた。 「こっち」  地上には夜が訪れていた。  はて、こんなにも星々の感覚は近くに見えたものだろうか。百何十年前の記憶をたぐり寄せようとしていたら、ジアがクスリと笑った。ジアの人差し指が上を指すから視線を上げれば、記憶にもある小さな煌めきたちが、濃紺に点在しているのが見える。 「星は上。下は人間たちが作った、電気」 「でんき」 「ヴェルエル様、滅多に地上に降りないから知らないでしょう。人間の世界に今や夜は無い」  ジアの高度が下がっていく。身体の軌道に迷いはない。  そのまま降り立ったのは、高い山の上だった。木々が生い茂り、死にかけた木の椅子がひとつ。風が吹けば、葉が擦れ合う音が静かな山頂に響いた。  木の椅子の前には柵がある。羽を持たない人間が墜ちてしまわないための工夫なのだろう。  しかし、羽を持つはずのジアも、羽を閉じ柵に手を突き、足の裏を地面に置いていた。ヴェルエルもそれに倣ってみる。ずっとヴェルエルだけを追っていた視線が、一瞬、柵の向こう側に揺れた。  見上げれば一面の濃紺。きら星が点々とその濃紺を飾り、満点の月が堂々と佇む。  見ろせば一面の光。目をくらませるほどの光が、チカチカと何万カ所でその存在感を示している。  二つの空を見ているようだった。 「俺ね、この景色が好き」  「良いな。気持ち良い」 「気に入ってくれたならよかった。天使は美しいものが好きだから、これは美しいから、きっと気に入ると思って」 「ジアは美しい物が好きじゃねえの?」 「俺はね、この景色、美味しい魂がたくさん生まれてるんだと思って、ぞくぞくする」  上級悪魔は魂を食らう。罪を犯したほど、人を犯したほど、人を殺したほど、その魂は美味だと云う。死期くらい清廉でいさせてやればいいのに、とヴェルエルは思うが、定められた魂しか誘えないヴェルエルに口を挟めるものでもなかった。  とはいえ、ジアの言うとおりヴェルエルは美しいものが好きだ。そしてこの景色は美しい。今すぐにでも羽を広げて飛び回りたくなる心地を久しぶりに覚えた。  ジアは気分がいいときにどうするのだろうか。  ふと隣の悪魔を振り返る。大きな黒翼が広がって、空や木々からヴェルエルを覆い隠してしまった。 「──ジア?」 「ダメだよ、悪魔にのこのこ着いてきちゃ」  ぐちゃりと音を立て、粘着性のある触手たちがジアの後ろから顔を出す。  甘ったるい香りが鼻を掠めたが最後、ヴェルエルは意識を手放した。  ゆっくりと意識が浮上していく。薄暗い鉄筋コンクリート天井には、当然先ほどまで見ていたはずの上下に広がる星々は居ない。  くちゅ、くちゃ、と粘着質な音にハッとして自身の身体を見れば、四肢に触手が巻き付いていた。腕と脚の付け根からしっかり押さえ込まれ、手足をバタつかせれば、指先まであっという間に捕らえられる。手足を覆っていた布は溶けてなくなっていた。  触手が伸びる元を辿れば、ジアが木の椅子の上で優雅に脚を組んでいる。 「ヴェルエル様、油断しすぎ」  口端を持ち上げながら、ふふ、とか弱く漏らす。 「なんのつもりだ」 「こっちの台詞だよ。悪魔なんかにのこのこ着いてきてさ」  また一本、伸びてきた触手に顎を撫でられ、強制的に顔をあげられる。猫をかわいがるようにくすぐられたかと思うと、触手はそのまま身体に降りていった。途端、触手が膨らみ、ヴェルエルを覆ってしまいそうなほど平たく広がる。 「っ!?」 「あはっ、びっくりしてる。かわいいね」  平たい触手が身体に張り付いて、しばらくすれば衣服が溶けてざらりとした感触が胸や腹を覆った。 「悪魔は自由が大好き。欲しいものが手に入らない、そんな不自由は大嫌い」 「なんで服を溶かした?」 「睨まないでヴェルエル様。ようこそ俺の家へ。一番気持ちいい接待を俺にさせてね」  ジアの意図が読めなかった。家に来て欲しいならそう言えばいいのに。わざわざ眠らせて、服まで溶かして。思惑を知りたいが、にんまり細まる瞳はヴェルエルになにも教えてくれない。 「落ち着いてるね、ヴェルエル様」 「騒いだところでお前のことが分かるわけじゃねえ」 「俺のことを理解しようとしてくれてるんだ! 嬉しいなぁ、優しいなぁ」 「それに、抜けだそうと思えばいつでも抜け出せる」  上級天使ヴェルエルである。好んで力を使おうとは思わないが、ジアとヴェルエルが戦えば、ジアもただじゃ済まないのは分かっているはずだ。分からない悪魔だが、馬鹿ではない。 「もしかして」  ぱちりと、ジアの長い睫毛がはためいた。 「ナニされるのか、本当に分かってない?」  小首を傾げて問われる。 「皆目見当もつかん」  裸にして拘束したところで何かあるのだろうか。悪魔の中には人の持ち物を欲しがる者もいると言うが、あいにくヴェルエルは、外出時も装束以外の物を持ち歩かない。服を溶かした液体は、おそらくジアの体液でもあるのだろう。大事なものだろうに、無駄になっているのではないか、とすら思っている。  一方でジアは、ヴェルエルの言葉を聞くなり「へえ」と声を弾ませた。それから何度も、「へえ」「そうか」「そうなんだ」「ふふ」「すごいなぁ」と譫言のように呟く。心なしか、機嫌が良いようだった。 「なにがすげえんだ?」 「ヴェルエル様が、すごいなって」  微笑んだジアの後ろから、また一本触手が伸びてくる。両脚に巻き付いていた触手に、ゆっくりと両脚を開かされた。人間の女性器を象る場所が顕わになった。 「わ、こんなにカッコいいのに女の子の形してる……」  恍惚の溜め息をつくジアは、組んだ膝に肘をついて、手のひらで頬を支えている。  新しく伸びてきた触手は、やはり粘着性の液を纏っていた。手の指ほどの太さで、悪戯にヴェルエルの鼻を突いたあと身体の中心を辿りながら下半身に向かっていく。そして、女性器の割れ目の間に、ちょん、と居座る蕾を撫でた。 「ッ!」  びり、と熱く痺れる未知の感覚に、身体が固まった。触手はなおも、すりすりと蕾を優しく撫でつける。ぞわりと背中をなにかが走って、無意識のうちに腰が逃げた。しかし四肢に絡まる触手たちが、逃げることを許してくれない。 「っぁ、なに、んだ、これっ……!」 「ヴェルエル様は自慰もしたことないの?」 「じ、い? しら、ね……ッ、ん、ぁッ、あッ!」 「あはっ、上級天使ってどこまで綺麗なままなんだろう……」  大きな目を細めて、また触手を伸ばしてくる。二本の触手が、蕾を覆うやわらかい肉をかき分けた。初めて見る自分のソコは、少しグロテスクなひだがついていて、桃色に染まりながら、てらりと液を垂れ流している。 「ひっ」 「まんこ汁ぐちょぐちょだね、気持ちよかった?」 「ま、ん? なに、わ、はいってる、ジア、ジアこれ、一回待て……!」  触手の一本が胎内に入り込んでくる。痛さはないが違和感を覚えずにはいられない。無遠慮に腹のナカに押し入ってくる。しかしそれよりも怖いのは、外側で蕾を撫でつけられていることだった。 「はっ、ァ゛ッ、んッ、あっ、や、ッん、ふぅ、んっ」  ナカの触手は奥まで入りきるとその場にジッととどまった。しかし蕾を撫でていた触手は動きが徐々に激しくなっていく。根元から先端を何度も撫で上げられて、その度にぞくりと背筋を伸ばされた。優しく触れられているだけなのに、足の裏から全身が火照り初めている。拘束されながらも、どうにか動ける範囲で身を捩ってみたが、触手は簡単に追いかけてきた。 「こら、逃げないの」 「ぁッ、あ゛、ッん゛! だって、ジアっ、俺、……へん、ッ……! ぁ゛、ぅッ、ふ、ぅう゛ッ、ん、ぁ、あ、あ゛ッ!」  くちっ、くちゅっ、と、粘液をかき混ぜてくる。その度に、触手に侵された場所から液がこぷこぷあふれ出しては、シーツにシミを作った。今までそこにあることを意識すらしなかった蕾は、いつの間にか内側から膨れて存在感を示し始めている。 「ヴェルエル様のクリトリス、えっちだね」 「ぁ゛っ、……くりとりす、……」 「もっと欲しいってどんどん大きくなってる。まんこ汁もびしょびしょ。洪水みたいで、恥ずかしいね」  恥ずかしい。ジアの言葉が甘く耳をくすぐってくる。そうか、これは恥ずかしいことなのか。ジアは、ヴェルエルの姿を恥ずかしいと思っているのか。そう言われると途端に隠れたくなった。膝を閉じたいのに、触手が許してくれない。 「はずかしいの、やだ、……っふ、ぁ゛、あぅ、くり、とりす、もういい゛っ、……ん゛ッ! あ゛っ!」 「どうして? 気持ちいいでしょう?」 「わ、わかんねえ゛……っ、へん、っだ、……は、ッァ゛ん! あ゛、あ゛、ん、ふぅッ、ぅ゛あ、あ゛っ!」 「気持ちいいの、知らないんだ」  ようやく椅子から立ち上がったジアは、ゆっくりこちらに近づいてきた。ヴェルエルのいる寝台に膝を乗せて体を寄せる。両手が頬を撫でてきた。そのまま顎の下をくすぐられて、顔を持ち上げられる。いつもの飄々爛漫としたジアの瞳と同じ物だとは思えない、ねっとりと絡みつくような視線が注がれていた。 「覚えて、これが気持ちいいの」  クリトリスの上側の皮膚をきゅっと持ち上げられる。すう、と敏感な場所が空気に晒された感覚があった。上側を持ち上げた触手がクリトリスを覆い、形に沿って変形していく。ふと腰を揺らすと、クリトリスを細かい繊維の束が撫で上げた。 「……ぉ゛う゛ッ!?」  突然の強い刺激に、背中が反るほど強烈な衝撃を味わわされる。ジアの両手はぐっとヴェルエルの頬を捕らえて離す気も無いらしい。繊維の束にじょりじょりとクリトリスを刺激され、視界がちかちか点滅し始める。 「ぉ゛っお゛っ! ほっ……! ぉおッ! へん゛っ! へんになるッ! じあッ、ぉ゛、……ッ! ぁ゛、あ゛、あッ、ああ゛ッ、あ゛あ゛っ!」  勢いよく身体に快楽が溜められていく。あっという間に溢れて弾けた。ぱん、と衝撃が全身を襲って、しかし絶え間ない未知の責め苦が止まってくれない。 「変じゃないよ。気持ちいい、だよ。ほらヴェルエル様、気持ちいいって言って」 「ぁ、あ゛っ、ぎもちい゛ッ! くりとりしゅッ、きもちくてッ! へ、へんっになる! あ゛っあ゛っあ゛ッ、ぉ゛、ぉお゛ッ! お゛ッ! じょりじょりしちゃ……ッあ゛、あ゛ったしゅけ、ッくりとりす、こわ゛れ゛、……ッ! お゛ッ! ぉ゛、おッ! ほッ! ぉ゛お゛ん゛ッ!」 「壊れない壊れない。いっぱい気持ちよくて嬉しいね」 「ぅうう゛う゛ッ! ……ッは、んぐぅ゛ッ、ぅ、ぅッ、ア゛ッ、ぉッおッおッお゛ッ! ……ッ! じあ゛っ、じあ゛、くり、へんっ、だっ、……ずっとっ! ッふ、ぅ゛う゛う゛ッ!」 「もしかしてずっとイッてる?」  触手から絶えず溢れ出す粘液を、クリトリスごとかき回されている。ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が、ヴェルエルを耳からもおかしくさせていた。クリトリスが熱い。どばどばとナカから蜜が溢れていくのが気持ちいい。滲んだ涙はすぐにジアの指に拭われた。 「あついっ、あ゛っあ゛っあ゛っ、ぅッ、ぅ゛う゛ッ! ん゛ッ、きもちいっ、くり、きもちい゛の゛、おわん゛な゛ッ、ぅ゛、あ、あっぉ、お゛ッ! お゛ッ……!!」 「やっぱりずっとイッてるんだ。ヴェルエル様のおまんこ、俺の触手をきゅうきゅう締め付けてくる……♡」  突然、ナカに埋め込まれたままだった触手がずるりと引き抜かれた。 「んお゛ぉ゛お゛ッ!?」  膣壁を擦り上げ、摩擦で胎内まで熱くなる。クリトリスは気持ちいいまま、膣を抽挿する触手の動きがどんどん早くなっていく。 「ヴェルエル様の処女まんこも、いーっぱい気持ちよくしてあげるからね」 「はあっ、はア゛ッ、あ゛ッ! あ! お゛ッほっ……! ……ッ! いっしょ、だめっ、おッ、ぉ゛お゛ッ!? お゛っぎくッ、あッあ゛っ! なに゛っ、なに、なかッ、ごりゅごりゅしてッ、ほッ……、ぉお゛ッ! おオ゛ン゛ッ!」  ナカの触手の形が変わった。なだらかだった表面に、おそらく突起が現れている。快楽に合わせてキツく締まっている膣壁を、突起が押し返しながらごりゅごりゅと擦ってくるのだ。膣で触手を扱かされている感覚がより鮮明になっていく。 「ぉ゛っお゛っ、ふっ、ぅ゛う゛う゛ッ! ぅン゛ッ! は、……ッ、ぁ、あ゛ッ、あっあっ、へんっ! へんなのっ、おわんねえ゛、ッ……! ジア゛ぁっ……!」 「変じゃなくて、イく、ね。ヴェルエル様? 次、変になったらイくって教えて?」 「ぃう゛ッ、ぅうう゛う゛っ! イ゛ってるッ、イぐっ、イ゛ぐっ、イ゛ぐうぅう゛ッ!」  身を捩っても逃げられない。自然と脚がバタついた。かろうじて動いていた膝から下が跳ねて、ジアに当たってしまう。ジアはにこりと微笑んで「こら」と脚の爪先にまで触手を絡ませてきた。  脚を大きく広げられ、がっちりと掴まれている。動かそうと試みてもピクリともしなかった。脚に合わせて上半身の拘束も強くなっていく。クリトリスや膣内を掻き回す触手は止まらない。それなのに、快楽をどこにも逃がせなくなってしまった。 「ほっ、ぉ゛ッ、お゛ッ、おっ、イ゛ぐっ! イ゛ぐ! じあ、イ゛ッでうッ、ぅ゛っ! ぉ゛ッ、ほッ……ぅ、ぅあ゛ッ! イぐっイぐイぐイ゛ぐイ゛ぐッ! らめ、くり、だめっ、お゛まんここわれ゛う゛ッ! ふっ、ぅ゛、ん゛おッ、お゛ッ、おお゛ッ!」  一際強く身体が跳ねそうになった。しかし実際は痙攣も許されないほど全身を硬く拘束されている。拘束の弱い腰だけがみっともなく揺れていた。 「おっお゛ッ、ほっ、お゛ッ……!」 「んふふ、ヴェルエル様、そんなに腰へこへこさせてみっともない……♡ 俺に媚びてるみたい。もっとおまんこ虐めて欲しい?」  ようやく触手の動きが止まる。解放されたクリトリスは、これまで見たことがないほどぱんぱんに膨れ上がり、その存在を主張していた。 「ぉ゛ッ……、ちが……っ、媚びて、ね゛……ッ、え゛ッ……」  ナカに埋まったままの触手がまた形を変える。 「は、なに……つぎ……、も、おわり゛……っ」 「終わんないよ。今度はヴェルエル様のおまんこの形ぴったりにしてあげる」  一番深いところまで、膣内ぜんぶを押し返すように触手が張り付いてくる。少しだけ膨らんではいるが、もともとそこに居たものみたいに違和感がないのが、かえって恐ろしかった。 「子宮もちゃんとあるんだね。……ここもいっぱい気持ちよくしてあげる。あは、どうなっちゃうのか分からなくて、怖い?」  情けない顔をしないで、と顔を撫で繰り回される。汗で額に張り付いていた前髪を避けられ、そのままキスされた。唇が触れた場所がじんわりと熱い。 「ぁ……、ジア、今日、は……、もう……っ」 「だぁめ♡」  触手が小刻みに震え始めた。 「ひあッ、ぁ、ぁあ゛あ゛っ!?」  腹の奥からまたどんどん熱くなっていく。クリトリスを虐められていたときとは違う、もっと深い快感がヴェルエルを襲っていた。 「はっ、あっあ゛っ、あ゛! これ゛、だめっ、イ゛ぐっ! イぐっだめっ、でてっ、やだ、でてけっ! あ゛、あ、ぁあッ! じあっ、ぶるぶる、するなっ! あ゛っあ゛っあ゛っ! ぁあ゛っ!」  触れられていないはずのクリトリスがじくじくと疼きだす。抽挿されているわけでもない、ただ、小刻みにナカを揺さぶられているだけなのに、絶頂はもう目の前に来ていた。 「イ゛くっ、イ゛ぐイ゛ぐ、イ゛ぐっ、イ゛ぐぅ゛……ッ!」  腰が跳ねて、媚びるように振ってしまう。  深い絶頂が、じわじわとヴェルエルの思考を蕩かそうとしていた。触手は絶頂に飲み込まれたヴェルエルが落ち着くのを待っているらしい。いつの間にか震えが止まっている。先ほどまでの容赦ない動きとは反対の、ヴェルエルを気遣うような素振りに身体が戸惑う。 「おまんこのナカに、クリトリスの根元が繋がってるの。神経が集まって敏感だから、揺さぶられると外からくちゅくちゅされるより気持ちよかったでしょう?」  今度は止めないからね、とまたナカの触手が小刻みに震え始めた。クリトリスの根元のほうが、揺さぶられている。ちかっちかっと点滅する視界の先で、膨れた自分のクリトリスを見た。かわいそうなくらい腫れ上がって、ぴるぴると震えている様は、またジアに虐められているのを待っているようでもあった。 「……ぁ゛、あっ、ちがう゛っ、あ゛っ、おッ……! おまんこイ゛くっ! イ゛くッ! ふうう゛ぅ゛う゛ッ! うっ、う゛っぉ゛、ッほォ゛……!」 「イくの上手になってきたね。まんこ汁どばどば♡ ヴェルエル様がいっぱい気持ちよくなった印だよ」 「ア゛ッアッ、ちがうっ、イ゛ぐっ! だめっ、ジアっ、おまんこっいじめ、んな゛、ァ゛っ……! ふ、ぅう゛ッう゛ぅ゛ん゛ッ、お゛、ほ、おっおっおッぉ゛お゛ッお゛っ! イぐッイぐぅう゛ッ!!」  ぷしゅ、と透明な液が下腹部から吹き出した。 「お゛ッ………………!!」 「あっは♡ 潮噴いちゃったんだ! おもらしだよ、ヴェルエル様。恥ずかしいねえ♡」  すかさず伸びてきた触手がぱくりとクリトリスを食べてしまう。柔く芯がある無数の繊維が剥き出しの敏感な蕾を扱き始めた。 「ひぎゅうぅう゛う゛う゛う゛ッ!?」  外と内から弱い場所を同時に責め立てられる。  悲鳴をあげて潮を噴くヴェルエルを、ジアがジッと見下ろす。大きな瞳には自分の痴態がしかと映っていた。 「ぁ゛、あ、あッ! こわ、れう゛ッ! くり、たすけてっ、じあっじあ゛っ! ふっぅううう゛ん゛ッ! ん゛っ、ほ……ッ、お゛ッ、おッ! い゛ぐッ! でるッ! でる゛ッ! でる゛ぅ゛ッ!」 「ねえ、俺のベッド、ヴェルエル様のえっち汁でぐちょぐちょだよ、どうしてくれんの?」 「ふっ、ぅう゛……ッ! ごめ、なさっ、ふう゛う゛ッ! うぅ゛! むり゛っ、とまんない゛っ、やだ、でるっごめんなさい゛っでるでるでる、だめっやだぁ゛ッ!! ……ッ、……ッ!! ぉ゛ッ、お゛ッ、どま、んな゛い゛ッ、ひッ、お゛、ぉ゛ッ、でるっ、でるぅ゛う゛~……ッ!」  潮が噴き出るたびに、ジアが「でちゃった」「ほら」「また」「だめまんこ」とカラカラ笑う。もうとっくに馬鹿になったはずの頭に羞恥が植え付けられていく。  恥ずかしい。隠したい。それなのにこの身体はどうにも動かない。 「泣かないで、ヴェルエル様」  なだらかな眉尻をもっと下げて、ジアが悲しそうに呟いた。ヴェルエルの頬を撫でる。それから「あ」と口を開けて、ガタついた歯を見せつけられた。そのままぱくりと唇を食べられる。 「ん゛っ、ぶッ……!?」  長い舌が伸びてくる。口内がびりびりと痺れた。全身に甘い電流が迸る。 「ンッ、ふッ、……んん゛ッ、ん゛ッ!?」  ちろちろと歯を撫でられる。  いつの間にか、下腹部を責める触手は動きを止めていた。それどころか、四肢を拘束する触手もいつの間にかいなくなっている。それなのに、繋がった唇と唇から身体が溶けていく。力が入らなくて、あっけなく押し倒された。胸の奥から穏やかな熱さが広がっていく。 「きもちいね、ヴェルエル様」  うっとりと呟いて、今度は唇同士を押し付け合わされる。頬を紅潮させ、熱い吐息を零していた。 「ヴェルエル様の舌、ちょうだい?」  ジアが僅かに唇を開く。無意識のうちに、そろそろと舌が伸びていた。ぢゅる、と水音を立てジアに食べられる。吸い上げられた途端、視界が真っ白になった。 「~~~~~~~~ッ!!♡♡」  跳ねた身体を押さえつけられる。ジアの唇で舌を愛でられた。腰が重くなって、全身が快楽にわなないている。  唇でストロークされるだけで全身が快楽に震えた。流れ込んできた涎が、悪いクスリのようにヴェルエルの口腔を蝕んでいた。 「ぉ゛ッ、ぅ゛ッ、ふ、ぅう、ぅ゛、ォ゛ッ♡」 「んふ、すっごい……、キスだけでイきそ……♡」 「ぅ、ぐぅッ、ぅ、ぉ゛、ほぉ゛ッ、ぉ゛っ、ぉ゛っ♡」 「ヴェルエル様って唾まで甘いんだ♡ おいし……、もっと飲ませて……♡」  ぢゅるるッと汚い音を立てながら、舌を思い切り吸い上げられた。 「んぅううう゛う゛ッ!?♡」  それだけで、頭のナカでなにかがぱんと弾ける。解放された舌を口にしまうのが怖い。しかしだらしなく垂らしたままにしていたらジアに捕まってしまう。  おかしくなった舌を彷徨わせていたら、案の定またジアに食べられた。今度は数回優しく吸われるだけで解放される。だけどそれが腰をいやに疼かせた。もどかしくて、舌を出しっぱなしにして、また食べて欲しくて、気づけば敏感な場所を差し出させられていた。 「キス大好きになっちゃったんだ? かぁわいい」  ジアの手が舌を掴んで引っ張る。だらりと涎が垂れ落ちた。 「天使と悪魔ってセックスの相性がいいんだよ、知ってた? お互いの体液が媚薬みたいに作用するの」  親指に舌を撫でられる。ぞくりと背中をなにかが蠢いた。 「ぉ゛、んッ、ぉ゛、ぇ゛ッ♡」 「見て、俺のちんぽ」  腹の上にぼたりと熱量が落とされる。ジアの下腹部にそびえ立つ雄がズリと腹を撫でた。触手から溢れた粘液と、ジアの先端からこぼれる白濁がかき混ざる。やけに淫靡な光景に、いまからお前の腹の中もこうなるのだと分からされる。 「ヴェルエル様」  ねっとりと、吐息の含んだ声でジアが囁く。身体の奥をくすぐられるような音。全身が期待して、震えていた。凶悪な肉棒に視線が釘付けになって、ヴェルエルの雌孔がじくじく疼く。 「セックスしよ?」  ジアの手で両脚を持ち上げられた。どきどきする。はっ、と獣のような浅い息が零れて、気づいたジアが嗤った。  白濁を纏った先端がヴェルエルの恥肉に押し当てられる。ぷちゅりと水音を立てながら、熱が、ジア自身が、腹に入ってきた。 「ッあ゛、……ヴェルエル様の、ナカっ、きもち、いいっ♡」  ジアの吐息の感覚すら、肌は敏感に感じ取った。  触手よりも太く重たい肉棒が腹の中に満ちていく。膣壁がその形を知りたいみたいに勝手に締め付けた。 「ふっ♡ ふっ♡ ぅ、ぅ゛う゛ッ♡」  そんなに締め付けてしまったらジアが痛がってしまうかもしれない。だけど疼くのを止められない。足がかくかく痙攣して、ずりゅッとナカを擦る感触に背中が沿った。 「はっ、あ゛っ♡ くっ、ぅうン゛ッ、ぉ゛、ぅ゛ッ、ぅう゛♡」  ぷちゅり、と亀頭が子宮口にキスする。先走りが塗りつけられた。瞬間、全身に熱が広がった。腹から快感がじんわりと全身を蝕んで、穏やかなのに、止められない。気づけば足先までピンと伸びていた。 「~~ッぉ、ほォ゛っ!!♡」 「もうイッちゃった?」  ただ挿入されただけだ。泣きドコロを執拗に責め立てられたわけでも激しく揺さぶられたわけでもない。それなのに、ジアの熱に胎内が喜んで仕方がないのだ。 「ね、すごいよ、ナカ……ッ♡ ずっときゅんきゅんして、そんなに俺のっ、ちんぽ、すき……っ、なの?♡」  ずりゅッと熱量が引きずり出される。 「ぉ゛ッ♡ ~~ひゅッ♡ ぎゅ、ぅ゛う゛、ッ、ぅう゛♡」 「っァは、これっ、そんなにいいんだ……ッ♡」  ジアの指がへその周りをくるりと撫でた。たったそれだけの刺激ですら、腹はぴくぴく跳ねて喜んでいる。  ちゅぽっちゅぽっと亀頭が何度も蜜壷を往復した。形に合わせて広げられるのが気持ちよくて、みっともなく腰が揺れる。 「だらしない顔……♡ わんこみたい♡ 知ってる? 発情期の動物って、こんな風にみっともなく腰を振り合うの……♡」  腹側をぐうっと持ち上げられる。 「ッぃぐ、ぅう゛う゛ッ♡ ッ、ほ、ぉ゛ッ♡ ォ゛ッ♡」 「ぁあ゛……ッ♡ はっ、すごい……、さっきまで自慰もしたことなかったくせに……っ」 「ぉ゛ッ♡ ぐッ、ぅうん゛ッ♡ それっ、や゛、っ、おなかっ、ぐりぐり、だめ……っ♡」 「うそだよ、だめだよ、そんなとろとろの目で嘘吐いちゃ……♡」  今度は勢いよく引き抜かれて、子宮口に雄肉棒をたたき込まれた。 「ん゛ぉ゛お゛ッ!?♡♡」  背中が仰け反った瞬間を見計らったみたいに、脇の下を通って身体を抱き込まれた。火照った身体同士がぴったりくっついて、ジアが少し身じろぐだけで、ナカがぐりゅぐりゅと刺激される。 「ここにっ、いっぱいっ、注いであげるからねっ♡」 「むり゛ッ♡ だめ、ぁ゛ッ♡ ア゛ッ♡ だめっ♡ だめ゛ッ♡」 「ふふっ、すごいっ、ヴェルエル様の子宮、おねだりじょうず……っ、ァ゛、ッ、いっぱいキスしてくる……っ♡」  快楽の波に追い詰められていく。涙でぼやけた視界の中で、もうジアしかいなかった。  ヴェルエルの腕がジアの背中に回る。両脚がジアの腰をぎゅうと締め付ければ、一層強くナカに熱が押し込まれて、ジアの柔らかい髪が首筋に埋まる。甘える幼子のような仕草とは反対に、凶暴な肉棒がずりゅりと引きずり出され、そして勢いよく疼く最奥を穿った。 「ぉ゛ッほッォ゛、お゛ッぉおおぉ゛お゛お゛お゛ッ!?♡」  ばちゅんッばちゅんッと激しい音を立てながら肌がわななくほど打ち付けられる。その振動すら気持ちよくて、白んでいく視界の中必死にジアに縋り付いた。 「ぉお゛ッ♡ お゛っ♡ う゛ッ♡ ぅうう゛ッ、ふっ♡ ~~ッぁ、ア゛ッああ゛ッ、ぉ゛ッ♡ イぐっイ゛ぐっ、イ゛ッで、ぅッ♡ らめッ、ぉお゛、お゛ッぉん゛ッ♡」 「ずっと痙攣してるっ♡ きゅうきゅうしてっ、えっちだね……ッ♡ ふ、ッん、ぁっ♡ ほらっ、子宮いっぱいトントンしてあげるっ♡」 「ぅうう゛う゛ッ♡ ほっ♡ お゛ッ♡ ぁ゛、ッ♡ アッ♡ しきゅっ、だめっ、とんとんだめっ♡ ぁア゛ッ♡ あ゛♡  やだっ♡ やだっ♡ おまんこっ、ごわれ゛う゛ッ♡ うっ、ぅ゛う゛ッ♡」 「ヴェルエルさま、ちゅーしよ、ほら、舌出してっ」 「や、ッん゛、……っは、ぅ゛ッぁ、ア゛ッ……♡」  べ、とジアが伸ばした舌から唾液が垂れ落ちる。唇に落ちたそれがやけに甘く感じて、気づけばみっともなく口を開け、舌を伸ばしていた。 「へっ♡ へっ♡ ん゛、お゛っ♡」 「上手♡」  伸ばした舌をぢゅるりと吸い上げられる。腰のあたりでぞくぞくなにかが迸った。またナカを締め付けて、とっくに馬鹿になってしまった頭で、ジアから与えられる快楽だけを拾う。 「んッ、ぶっ、ぅ゛っ、ぉ゛ッ♡」 「舌吸われンの好き? おまんこも嬉しそう♡」 「ぉ゛ッ、ん゛っ、すきっ、きす、……ッぉ゛、ん゛っ♡」 「好きだって、勘違いしちゃうじゃん……」  伸ばした舌を唇で扱かれる。今度はジアの舌が口内に伸びてきて、上顎を舌先でくすぐってきた。 「ん゛ぉッ、ぅ゛ッ……、ふっ、ぉ゛ッ、お゛ッ♡」  薄目を開ける。大きな瞳をうっとり細めながら、ヴェルエルの呆けた顔を見下ろすジアがいた。快楽に翻弄されているなんて情けなくだらしない。そんな姿は見られたくないはずなのに、煌めく双眸に捉えられていると思うとやけに興奮した。 「ぁはっ、ん゛、きもちいっ、ヴェルエルさまっ、にんげんてさ、っこれで、子をなすんだってっ♡」 「はっ、ぁ゛ッあ゛、あっ、ぅ゛う゛ッ♡ ほッ、ぉ゛ッ♡ ぉ゛~ッお゛ッ♡ んっ、ぐぅうッ、ぅ、ぐっ、ふ、ぅ゛う゛ッ♡」  頭の中がふわふわする。絶頂から降りることを許してもらえない。愛液をかき混ぜながら激しく抽挿を繰り返す肉棒に絡みつくのをやめられない。大股を開かされた両脚は力を入れることもままならないままガクガク痙攣したままだった。 「ここにさ、っぁ゛、直接そそいだらっ、できないかな、赤ちゃん……っ♡」  子宮をぐうっと押し込まれる。先走りがじんわりと滲んで、腹の奥の熱さがまた強まった。 「ッぁ゛、ぉ゛ッ……ッ♡ ん、ッ、ぐう゛っ……!!♡」 「きっつい、って……っ♡ っ、ぁ゛、あれ」  不思議そうに、ジアの身体がすこし離れる。結合部に視線を落として数秒。またヴェルエルの表情に視線を戻すと、悪戯っぽくくすくす嗤った。 「潮吹きしてる……♡ いっぱい気持ちよくなってくれて嬉しいよヴェルエル様ぁ……♡」  身体を起こしたジアに腰を強く掴まれる。ごちゅごちゅと激しくジア自身を扱かされて、まるでヴェルエルの身体が物であるようだった。 「っぉ、お゛っ、お゛ッ、ォ゛ッ♡ ふーッ♡ ふーッ♡ も゛、だめっちんぽ抜けってっ……♡ お゛ねが、っぅ、ちんぽやだっ♡ や゛、ぁ゛ッ、ぉッ♡ お♡ うぅ゛う゛ッ♡」 「うそつき♡ ん゛っ、はっぁ゛っ、あ゛ーっ、くそっ、ほんと、きもちいっ……♡ ふッ、ぅッは、はっ♡ ァ゛ッ♡」 「しおどまんない゛ぃ゛ッ♡ ぉ゛♡ お゛♡ ~~ッ♡ ほッ、ぉオ゛♡ むり゛っ♡ ちんぽっぬけっ、イッでう゛っ、ぅ゛ッ♡ ふ、んぅ゛う゛う゛ッ♡ ……ッほ♡ お゛ッ♡ おねがいっおねがいしますっジア゛っ、あっぁ゛っ、まんこイ゛ぐっまんこイ゛ぐぅうう゛う゛ッ!!♡」 「ひとりできもちよくなんなってッ ……♡ はっ、だす、だすぞっ、ぁ、受け止めてねっ♡ ほらっよわよわまんこでっおれの……ッぁ、イ゛く、イく、ぅ゛……ッ♡」 「ン゛ぉ゛お゛ッ…………‼♡♡」  ジア自身が一瞬膨らんで、脈打ちながら勢いよく吐き出された精液が腹のナカに吐き出されていく。最奥に叩きつけながらとぷとぷと満ちて、子宮をいやらしく刺激した。触れあうだけでじくじくと熱く疼かされる白濁に子宮口が浸される。  じょぼじょぼと潮が溢れて止まらない。その感覚すら快感でしかなくて、無意識のうちにジアの手を掴んでいた。 「や゛っ……っ♡ これ、っ、ほんと、あ゛……ッ♡ ぉ゛……ッ♡」 「……はは、やばい、ね♡ 俺も、ちんぽとけそ……っ♡ は、ぁ゛……っ♡」  蕩けた熱い視線に灼かれる。優しく頬を撫でられるのに心地よさを感じてしまった。頬を包んでくれる手のひらに頬を擦りつけ、もう終わってくれと願いを込めて媚びる。  ジアは「かわいい」と呟いて、ジッとヴェルエルの様子を見ながら、その背後を蠢かせた。 「……ヴェルエルさま……♡」  譫言みたいに。甘ったるいミルクみたいに。  ジアの背後から無数の触手が顔を覗かせる。蠢きながら、ゆったりとヴェルエルに伸びてきて、その一つがくい、と顎を浮かせた。 「ヴェルエル様のきもちいとこ、ぜんぶ一緒に触っても良いよね……♡」  うっとりと囁くから、喉がひゅうと締まった。  これ以上は許してやれない。  ようやく鈍っていた警鐘が脳に鳴り響く。  細い触手が下腹部に伸びてきて体に触れられそうになった瞬間、咄嗟に強くジアを押しのけた。 「だっ、だめだ……っ!」  どん、と音がして、ジアが触手ごと離れて、尻餅をつく。  初めて誰かを拒絶した。ばくばくと心臓が五月蠅い。  呆然としているジアがその気に戻る前に、締まっていた羽を解放させて自分自身を包み隠す。平和な天界では滅多に使わない、ヴェルエルが生まれ持つ上級天使としての力を初めて無意識のうちに解放していた。顔にかかった前髪が、黒から金に変わっていくのが見える。絶頂を繰り返したことによる疲労感はとうに追いやった。  羽をはためかせて、ジアから距離を取る。溶けた衣裳を生成して、部屋の出口を探した。大窓がある。  ジアは大きな瞳をより大きくさせたまま、ヴェルエルを見上げていた。ふよふよ揺れる触手だが、ヴェルエルを追ってくる気配は無い。 「……綺麗」 「帰るからな、ジア」 「ま、まって!」  伸びてきた手から、さらに距離を取る。ヴェルエルを急かすように大窓が開いて、びゅうと風が部屋を通った。籠もった熱気が冷めていく。 「今日は終わりだ」  丸い瞳が煌めいていて、幼い子どものように見えた。そんな子を置き去りにしてしまうのか、と一瞬よぎる。いや、違う。目の前の男は上級悪魔だ。別に置き去りにしたとて、どうというわけでも無いはずだ。  迷うヴェルエルを動かしたのは、疼いた腹だった。まだジアの感覚が残っている。じくじくと疼いて、股ぐらからとろりと愛液が零れていくのを感じた。さんざん弄り回されたクリトリスは膨れたまま、次の刺激を待っている。  ここにいたら、もう出られなくなってしまう。 「じゃあ、また」  窓を通って、とにかく急いで邸宅まで飛んだ。風が身体を包むのに熱さは一向にひいていかない。  庭に設けたティータイム用のチェアに腰掛けて、ハーブティーが注がれたカップを取る。その縁に唇を添えたところで、目の前にそいつは現れた。 「ご機嫌麗しゅう、ヴェルエル様」  うっとりと目を細めて、ジアは両肘をテーブルにつき、柔らかそうな頬を手のひらで押し上げた。ご機嫌に揺れる尻尾がヴェルエルの頬を撫でる。  昨日の今日だ。まだあの快楽を鮮明に思い出せてしまって、ついジアから視線を逸らした。 「昨日はどうだった? 気もちよかった?」  ジアの一言に、こちらの様子を窺っていた天使たちが騒がしくなる。  昨日、邸宅に戻ったヴェルエルが、天使たちには何も告げないまま部屋に籠もったから心配してくれていたのだろう。ジアに突っかかって行こうとするから、天使たちに視線を投げ、首を横に振る。 「あんまり大勢の前で聞くことでもねぇだろ」 「あら、そういう情緒はあるんだ?」  天使たちがよく噂する、平和ボケというものをしていたのだと思う。ヴェルエルが力で誰かに屈するなどあり得ないに等しいことだ。どうとでもなるから、させたいことはさせてあげてもいいと思ってしまった。それが昨日の体たらくである。快楽に溺れて、抵抗することすら忘れてしまっていた。生まれて初めて、不覚、という言葉の意味を実感させられている。  返事をしないヴェルエルに痺れを切らしたのか、ジアは立ち上がりヴェルエルの隣に立った。腰を曲げて耳元で「またシようね♡」とねっとり囁く。  ヴェルエルは持っていたカップをソーサーに戻す。  やり返したい、とはこういう気分を言うらしい。  ジアの襟首を掴む。 「えぁ」  不抜けた声を零すジアの顔をぐっと寄せて、開いた口にキスしてやった。そういえば、キスはジアも気持ちよさそうにしていたから、きっと好きなのだろう。  ヴェルエルから触れてくると思っていなかったのか、ジアの頬がおもしろいくらいに赤くなっていく。 「じゃあ、またシたいと俺に思わせてみせろ」  そう笑えば、か細く「う、うん」なんて愛らしい返事をくれるから、おかしかった。

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