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甘々リバップルの日常 どうぞ、めしあがれ | たぴ岡の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
甘々リバップルの日常
どうぞ、めしあがれ
作者:
たぴ岡
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どうぞ、めしあがれ
刻
(
とき
)
の部屋にエアコンはない。窓を全開にしたのにこもったままの熱気が、ふたりを襲う。回したところで分厚い空気が移動するだけの効果しか得られない扇風機の風に、されるがままあおられている。
唯人
(
ゆいと
)
はコンビニで買ってきたソフトクリームを、ぺろぺろとなめながら、ベッドの上に腰掛ける刻のことを見上げた。恋人の部屋で、恋人を眺めながら、夏に涼しいソフトクリームをほおばる。夢にまで見たような場面に行き着いたというのに、この蒸し暑さがすべてをぼやけさせる。心なしか、意識すらぼんやりとしている気がする。 「あぢぃ」つぶやきながらワッフルコーンをかじる刻。唯人はじっとりとした視線で彼を見つめる。彼の首筋に流れる汗をじいっと見つめては、ソフトクリームをぺろりと舌でなでている。 「ねえ、どうしておれを家に呼んでくれたの?」 唯人はたまらず声を出した。どうして恋人の部屋にふたりきりだというのに――もっと言えば、この家には今家族のひとりもいないらしい。つまりはなにをしていたって、誰にばれることもないということだ――ふたりして黙ってソフトクリームを食べてなくてはいけないのか。唯人は不思議でならなかった。けれど、どうしても言葉が出てこないのもまた、事実であった。 「え、どうしてって……」バリっと音を立ててワッフルコーンを割る刻。破片がシーツに落ちた。「好きな人と一緒にいたいからなんだけど、それだけじゃだめってこと?」 そんなことを言う刻にときめいて、唯人は面食らう。一瞬うろたえ、なにを言うべきか、どう反応を返すべきかわからなくなる。自分のことを「好きな人」なんてストレートな言葉で示してくれるなんて、と嬉しさに酔いしれる。いつだって彼はストレートな言葉で愛を示してくれるのに、唯人はそれに慣れることができない。 「えへへ、だめじゃないかも」思わずもれた笑みは刻に毒だったのだろう、目を見開いたのち唯人からさっと顔を逸らした。 そんな刻のことがいとおしい。いつもは男前な刻も、唯人の前では――恋人の前では、いつもの自分でいられなくなっているのが、唯人にとってたまらなくいとおしかった。 唯人は大きく口を開け、最後のひとくちをほおばる。それから、また刻に目をやる。汗に湿った短い髪、けだるげな表情に揺れる舌、濡れた首筋、張り付くシャツ、そしてふたりきりというこの状況――。甘いソフトの名残を飲み下し、唇をなめる。これは絶品を前にした美食家の瞳。 刻がワッフルコーンを口に放る。それから、ごくん、と喉が嚥下の動きを見せる。それすら誘われているように感じさせる。すっとベッドの上に身体をうつし、唯人は刻の肩に手を乗せる。「えっ?」刻の戸惑う声が聞こえた。そんなことは気にしない。唯人は、刻をベッドに縫い付ける。 「なぁに、さかってんだよ」 「刻くんこそ、なに誘ってんのさ」 誘ってなんかないだろ――。刻の言葉を遮るように、唇を奪う。つい先ほどまで口に残っていた甘いバニラを感じる。それをずっと味わっていたい。唯人はむさぼるように、刻の唇を、舌を、口内を味わう。甘い。甘くて甘くて、とろけてしまう。 「ちょっと待てよ、ゆっち」そうは言うが、抗う様子はほとんどない。「なんでそんなかわいいの、お前」 それでも余裕そうな刻に腹が立つ。こんなにもあおっているのに。性急に求めてくるでも、反転して押し倒してくるでもなく、笑っている。 ――ずるい。おれはこんなに刻くんのことが大好きなのに。むすっと頬を膨らませて刻を睨む。それから刻の首筋に浮いた汗に舌を這わせる。 「んはっ、くすぐったいって」 必死になって欲情を求めているのに、それでもまだ刻は唯人を子ども扱いする。「好きな人」と呼んだのに、それでもなお、ペットのようにわしゃわしゃと頭をなでる。 「もうっ! おれはワンちゃんじゃないの!」 唯人は刻からシャツを取り上げ、ゆるゆるとした怒りのままにそれで両腕を縛った。本気で抵抗しようと思えば、外れる程度の縛り方。しかし結び目がほぐれることはない。唯人にされるがままの刻は、抵抗する気など毛頭ない。それくらい唯人にもわかっていた。 唯人は刻の頬に手を添え、唇を落とす。額に、頬に、鼻に、唇に――。 溺れてしまいたい。一緒に沈んで、心中したい。 唯人は、刻の舌を吸い上げる。口内になにか宝でもあるかのように、舌でまさぐる。それでも、自分の両手をひまになどさせない。左手は刻の頭に回し、なで続けている。右手はといえば、あらわになった刻の腹に、その突起に、さわさわと触れている。時折聞こえる刻の声は、甘やかな快楽を帯びている。 「ゆっち」うるんだ瞳で、唯人のことを見つめている。「好き、好きだよ」 拘束されたままの腕を唯人の頭に回し、求めるように引き寄せる。止まない口づけ、互いに熱くなっていく。 こんなふうに乱れる刻のことを、どうしても独り占めしてやりたい。新たに流れはじめた、先ほどとは違う味の汗をすすり、それから首筋に吸い付く。「いっ……!」刻が上げた声は快感となって、唯人の背筋をすうっと通る。 「これ以上あおらないでよ、刻くん」 「あおってないだろ、全然」 最後にひとつキスをして、唯人は刻の脚の間に正座する。急かす心を落ち着けるように、浅く呼吸を繰り返しながら、刻のベルトに手をかける。この奥に、あるのだ。今、どうしても欲しいものが。 スラックスをさっとおろすと、唯人はすぐさま顔を近づける。はやる気持ちに息を止め、目をつむりながら、舌で布越しに触れる。ぴくりと震えるのがいとおしい。ぞわぞわと首の裏に快感が走る。 「ねえ刻くん、いい?」焦らしたくて聞いてしまう。なにも言わずにはじめてしまったって、刻が許してくれることは知っているのに。 「あーもうっ! ゆっち、いいよおいで」 ゴーサインを出された唯人は、頬ずりをしてから、下着をむく。はあはあと荒い息、従順な瞳。まるで犬のようであることくらい、少しは自覚している。 長い髪を耳にかけ、手を添え、舌を這わせる。汗の塩っぽさが舌にざらつく。甘かった口内に、塩味が広がる。ソフトクリームと同じようにぺろぺろなめて味わったり、大きく開いた口でくわえ込んで吸い付いたり、やわく甘噛みしたり。震えるような刻の動きに合わせて、唯人はほほえむ。 ――ゆっち、ゆっちおいで。 求められるような声が唯人を引き寄せる。顔を上げて、刻の手に導かれるようにキスをした。舌と舌で握手を交わしながら、互いの唾液を交換しながら、唯人は、たまらないとばかりに服を脱ぎ捨てる。 膝をついて尻を持ち上げた状態になって、唯人は後ろに指をいれる。腰を反らせて、刻との深いキスを続けながら、これからの行為のためにほぐし続ける。刻はひとつ甘く口づけたのち、拘束されたままの手で棚を探る。ひとつと一本を、唯人の目の前に出す。 「ゆっちずるい、俺の場所なんだし俺にやらせてよ」 唯人の背中がぼよん、とベッドにはねる。いつの間にか視界には刻の部屋の天井があって、刻の燃える瞳に見下ろされていた。どうやら唯人は押し倒されたらしい。 ひた、と生ぬるい液体が腹にたらされる。この夏の暑さにやられたのか、いつもよりさらさらしている気がする。もしかすると、ふたりの汗がまじって緩くなっているのかもしれない。唯人はそんなことを考えながら、刻の首に腕を回した。早く欲しくてたまらなかったから。 キスをねだりながら、自分でも腹のローションをのばす。刻は後ろに指をうずめているからと、唯人は突起に手を伸ばす。まるで恋人の目の前で自慰をしているかのような感覚に陥り、興奮が加速する。あぁ、おれってなんでこんなにヘンタイになっちゃったんだろう。でもきっと、刻くんのせいだもんね。責任とってもらわなきゃ。 腰をゆらゆら揺らしながら、突起を弾きながら、舌を絡ませる。唯人は、自分がでろでろに溶けているような気がしていた。 「ね、ごめんゆっち、もうがまんできない」 眉間にしわの寄った恋人も、かっこいいな。唯人は漏れ出す声も気にせず言う。 「んぁっ、す、好き、っい、いいよっ来て刻くん……!」 この時間がもどかしい。刻は優等生だ、唯人はいつもそう思う。あんなにチャラそうなふりをして、多くの友だちにちゃらんぽらんな姿を見せておいて、本当は真面目なのだ。職員室前に張り出されるテストの順位表を見ても、ゴムを装着している今の様子を見ても、唯人はそんなことを思う。 あぁ、同じ学年だったらなぁ。優等生な刻くんも、飄々とした刻くんも、恋人とふたりきりの刻くんも、全部味わえたのに。 装着が完了してもまだ不安なのか、刻はそこにローションをたらす。そんな気遣いにいつも心を打たれるが、代わりに、この上なく焦らされる。もう欲しくて欲しくて限界だというのに、その優しさが胸に染み入る。どうしても唯人を壊したくないという気持ちが、可視化されたようでうれしい。 ほぐれきって物欲しそうにひくつく場所に、刻のそれがあてがわれる。ぐ、と圧力がかかって、後ろに重さがのしかかる。身体が開かれていく、拡げられていく感覚。中に、刻が入ってくる。優しい刻は、ゆっくり入ってきて、しばらくすると動きを止めた。唯人の中に、刻のカタチを覚えこませようとするように。 動いてもいないのに、声が漏れる。どうしても腰が求めて動いてしまう。欲しくてたまらなくて、止まれない。 「っとに、なんでゆっちってそんなかわいいわけ?」身体を密着させ、刻は口づけをくれる。「ね、動いていい?」 「おねがいっ、刻くん……はやく、ちょうだい……っ!」 浅く呼吸を繰り返しながら、体内をうがつのを感じている。優しくも激しい抽挿が、快楽を呼び寄せ、背筋を駆け巡る。 「あぁぁ、す、っすき! ときくっ、すき、っ!」 「ゆっち俺も、俺も好き。ゆっちの全部ちょうだい、俺に、全部」 刻の首に回した腕をぐいと引っ張り、深いキスをねだる。性急な口づけが、唯人の腰に響く。時折触れられる腹も、頬も、胸も敏感で、身体のすべてが性感帯になってしまったようだった。 刻が、唯人の髪をすくように頭をなでる。いつもとは違う余裕のなさそうな表情に、唯人は、それだけで興奮を得る。おれだけが見られる、刻くんの意外な一面。おれだけが知ってる、恋人にしか見せない顔。それだけで後ろをせまくする。 「んぅっ……あ、あぁ……」 高まっていく。立ち上がっている唯人のものから、ゆるゆると液体が漏れ出している。それに気づいたのか刻は、唯人の腰を掴んでいた右手を、そちらへ持っていった。 「まっ、待って刻くん……そんなの、すぐいっちゃう、すきだからやだぁ……」 ぺろ、と出てきた刻の舌を、唇で
食
(
は
)
みたい。「さっきから何回もイッてるくせに」いじわるを言う刻に、心臓がどきっと音を鳴らす。腰に電流が走る。 刻の顔が離れたかと思えば、生暖かくやわい感触が胸に降ってくる。時折ゆるく噛んだり、じゅっと吸ったり。刻によって開発されたそこは、余すことなく快感を伝える。 徐々に抽挿の速度が増していく。刻も限界が近いのだ。何度もしているうちに、刻のそういうクセを、唯人は覚えていた。おれの乳首が好きなことも、イきそうになったら舌がだらしなくなるのも、おれしか知らないこと。そう思うとたまらなくて、また達してしまう。 早まる鼓動と、肌を打つ音が重なる。どくん、とひとつ大きく脈を打つ。同時、刻が低く呻いた。目を閉じ、先ほどよりもゆっくりと腰をゆらめかせている。 すべて出し終わったのか、くたん、と唯人の上にのしかかる刻。その衝撃すら快楽に変換される身体は、それでいて不便ではない。恋人のすべてを感じていられるから。 渋かった表情がふわりと和らぐ。ほほえんで、触れるような軽いキスをする。それから刻はいつも、すぐに太ったゴムを手早く処理する。その瞬間が、なんとも虚しくて、どうしても悲しくて、唯人は好きではなかった。 「ね、いつも言ってるでしょ、まだつながってたかったのにって」 「んー。でも俺はね、もうこんなことでゆっちの体調崩させたくないかな。ゆっちのことを大切にしたい俺のこともさ、ちょっとだけ尊重してくれたらうれしいな?」 まだなにも知らなかった一年前、ゴムもなにもせずに行為に及んだ翌日、唯人は酷く体調を崩した。身体が弱いわけではないが強くもない唯人が熱を出すのも不思議はないが、それが数日も長引いたのは刻の記憶に刻み込まれてしまったらしい。そんなの、どうでもいいのに。思っても言わない。刻がどんな反応をするか、唯人もわからないわけではない。 隣に転がった刻の方へ向き、その精悍な顔立ちを見つめる。どう考えても好みだった。この男にさっきまで抱かれていたのだ、嬉しくないわけがない。だが、唯人にはまだ足りない。 「なぁに企んでんの」 「……あれ、バレちゃった?」 「ゆっちってわかりやすい」額に浮かんだ汗を拭いながら、刻は目を細める。「もっかいしたいんでしょ、知ってる」 刻の手が、唯人の手を探り当てる。指と指が絡んで、じんわりとにじむ汗を共有する。 「俺も、したい」 がばっと起き上がった刻につられて、唯人も、そろそろと身体を起こす。行為の後だというのに、テーブルの上にあるスナックを頬張っている刻に、なんとなく唯人の胸はときめく。 飲みかけだった汗っかきなサイダーは、ぬるく、炭酸も薄くなっていた。唯人の手がチョコクッキーにのびる。が、刻の手がそれを止めた。 「なんで?」 「次はさ、どっちがどっちか、じゃんけんで決める?」 唯人と刻の間では、どちらがタチでどちらがネコか、決まりきっていない。というよりも、ふたりともどちらも好きなのだ。唯人は刻のものが入っているのがたまらなく好きだが、刻を蹂躙している瞬間は独り占めしているのが実感できてそれもまた好きだった。だからこうして、たまにじゃんけんやらゲームやらでどちらがどちらかを決めることがある。 だが唯人は知っている。こういうとき、刻は素直になれないだけだということを。 チョコクッキーをくわえ、刻に差し出す。当然のように向こう端をくわえた刻と、数えるほど近くに顔がある。ばきっと割って自分の分を口に放り込む。もっと細いものでやらなきゃ、キスなんてできないな。唯人は咀嚼しながらそんなことを思う。 「なに今の?」 「いいよ、じゃんけんしてあげる。勝ったらどっち?」 「勝ったら……、どうしよ。勝ったら上」 「わかった」 じゃんけん、ぽん。 「うっ」刻が呻く。少しだけ遅く出したグーは、唯人のチョキに勝っている。「ごめん、ふつうに遅だししちゃった」 「刻くんは仕方ないなぁ、そんなにおれに入れたいんだ?」 唯人はわかっていてからかってみる。自分がいやらしい笑みを浮かべていることくらい、想像しなくてもわかる。 「いいよ、おいで?」 刻の手を引っ張って、先ほどと同じ体勢になるように転がる。顔のそばに刻の両手がつかれる。目の前にある表情は、悔しそうにも、嬉しそうにも見える。 わかってるくせに。そう聞こえた気がした。けれど、降ってきたキスに意識は奪われる。いつも通りではない、優しくない口づけ。舌が暴れ回る。じゅ、じゅる、といやらしい水音が立つ。 あれ、刻くん、本当に上でもっかいする気なのかな。ふとそんなことを思った瞬間、刻の手が唯人のそれに触れた。ゆるゆると立ち上がっていたそれは、簡単に硬度を増していく。 糸を引きながら離れていく顔が、あやしく笑っていた気がした。刻の頭はすぐに見えなくなったから、定かではない。と、熱く柔らかな快感が下腹に満ちる。理解が追いつかない。視線を落とせば、刻が下腹に顔をうずめている。 「えっ、まってまって……っ!」 唯人の好きな先の方を、刻は執拗にせめたてる。ちろちろと舌が行き来しては、吸いつかれる。それだけではない。根元をぎゅうっと左手に締め上げられ、さらに右手ではそれを
扱
(
しご
)
かれている。すぐにでも出してしまいそうだった。 「とき、っくん……イッちゃう……! イかせて!」 慌てて刻を止めようと手を伸ばしても、届かせることができないどころか、快楽のせいで身体を起こすことすらできない。 右手の動きが止まったかと思えば、すべてが口の中に包まれる。熱い口内、うねる舌。もうがまんできない。キツく握っていた左手から、解放される。 「んん、いいっ……でる、でちゃうぅ……っ!」 唯人は口内で果てた。あまり経験のないことだ。口でするのは唯人が好きなことであって、刻がするのは稀だったから。恍惚としていると、ふと現実に戻される。嚥下の音が聞こえたからだ。 「ま、待って刻くん……、もしかして飲んじゃった?」 「もちろん」ぺろ、と舌が唇をなめる。その一瞬一瞬が美しく、誘うようで、あおられているようで。「ごちそうさまでした」 「ねぇ〜! ほんっとに! これ以上あおって、どうするつもり!?」 刻の腰を両手でつかみ、自身をあてがう。果てたすぐあとだというのに勃っているのが、自分でも信じられなかった。もう、今すぐ刻くんをつらぬきたい。はやくおれので感じさせたい。逃げようとする刻を、しっかりそこに落としていく。 「ゆ、ゆっちまって、まだ……」その先に続く言葉は知らない。ゴムしてない、準備できてない、覚悟が。どうだっていい。唯人は自身の欲が刻の中に入っていくのを、感じていた。「あっ、ん、んん」 仰向けの唯人の上に、刻がぺたんと座っているかっこうになる。普段かっこいいはずの刻が、弱々しく、かわいらしく自分の上で感じているのが、たまらない。すべて食べてしまいたくなる。 「や、やだやだ……、んぅ、そんなにうごかないで」 「動く? なんのことかな」白々しく言いながら、唯人は刻の胸に触れている。「あぁ、それ。刻くんが自分でやってるんだよ?」 その通り。唯人が動かしているのはその両手だけで、腰を揺らしたり、突き上げたり、そんなことはしていない。ただただ、刻が欲しいように腰をくねらせているだけなのだ。それを自覚していないことがなによりいとおしくて、嬉しくて、唯人はいじわるをする。とんとん、と軽くノックをした。 「んっ、ぁあっ」 刻の指に自分の指を絡めながら、上体を起こす。ちゅ、と音を立てて触れるだけのキスをすれば、乱れたまま小さくほほえむ刻が見えた。 快楽に潰されている刻の顔を、恋人を独り占めしている現実を、じっくりとかみしめる。ぎゅうっと力いっぱい抱きしめる。首筋に唇を這わせ、時折、じゅ、と吸い付く。痛いはずのそれすら快感に変換する刻は、そのたび小さくあえいだ。舌の腹で胸の中心をざらざらとなめると、耐えきれないとばかりに熱い吐息がうなじにかかる。 その間ずっと刻の腰は、自覚しているのか無自覚なのか、色気を帯びた動きを止めない。自分の好きな場所にでも当てているのだろう、うつむきがちに目を閉じ、開いた口からは唾液が下を覗いている。それすらもったいなくて、唯人は刻の唇をなめる。ついでと言わんばかりに上唇をなめ、それから舌を絡ませ、深いキスに溺れていく。 気持ちいい。全身で気持ちを伝えようと腰を動かし、舌を絡めとり、刻の全身を撫でまわした。いとおしい。大好き。愛してる。 「やっ、やだぁ……じ、らさないで……」 「やじゃないでしょ、好きなんでしょ? ほら言ってごらん、刻くん?」 「やだやだ、やめないで、っ……もっと、もっとおく来て!」 もうすぐ果ててしまいそうなのか、刻は性急に口づけを求める。学校でのクールなイメージからかけ離れた色気に、唯人はくらっとした。こんな刻くんを知っているのは、おれだけなんだ。おれだけが、刻くんのえっちな姿を知ってる。恋人っぽい。これって恋人っぽいよ、刻くん! どろどろに溶けてしまいそうに、深くキスをする。ふたりは、互いを食らいあうようにつながっている。ぎしぎし呻る皿の上に乗った、ふたりの食材。 「すき。ときくん、だいすきだよ」 「んんぅっ、お、おれっ、おれもっ、すき、ゆっち、ゆっちぃ……ぃあっ」 刻が達し、きゅうきゅうと後ろを狭くする。その収縮で、唯人も追いかけるように果てた。どくどく脈を打つそれがなにもかぶっていないことを今さら思い出し、慌てて抜こうとしたが、刻がそれを止める。 「やだ、でてかないで」うるんだ瞳で懇願されては、従うほかない。「まだ、ゆっち感じてたいから」 仕方ないから、ぐ、と引き寄せ、さらに深く奥に入れる。 「んぁあっ」 「体調崩したら、おれが看病しに来てあげるからね」 「俺はだいじょうぶ」へなへなと笑う恋人がいとおしい。「ゆっちと違って強いから」 べたべたで真っ白な素肌をさらしながら弱々しく言うのが、なんとも滑稽な気がした。このシーンで言うセリフではない。でもおれと違って強いっての、本当なんだよなぁ。看病するチャンスはまだ唯人には届かなさそうだ。 ぴんぽーん。 階下からインターフォンの音が響く。 「えっ、やば」 「帰ってきた……?」 ふたり目を合わせて、すぐさま服を着始める。誰が来たかも、二階に来るかもわからないのに、慌てて「いつも通り」であろうとする。立ち上がった刻のふとももを、白濁の液が垂れているのが見える。あぁ、なめとってしまいたい。それから舌を後ろにうずめて――。 「刻、ただいま」若い女性の声。聞きなれた、刻の母親の声だ。「あらっ、唯人くん来てるの。よかったぁ、アイス多めに買ってきておいて」 パチンと両手で頬を叩いて、自分を現実に引き戻す。白濁に気づいた刻はティッシュペーパーをむしり取って、さっさと拭いている。乱れてはいるが、今、部屋に来ようとしている可能性のある母親を止められるのは、唯人しかいない。 踊り場まで出ていき、階下に向かって声を出す。「お邪魔してます! 刻くんが、おやつは後で取りに行くからって」 「あらあら、唯人くんありがとうね。じゃあお勉強がんばって」 開けた首元を引き寄せながら、ほっと息をつく。部屋に戻ってもまだなにやら格闘を続けている刻のことを見ては、押し倒してやりたい気持ちに襲われる。母親が階下にいることを知っていても、恋人は独り占めしたくなるものである。 「ときくん……」上目遣いで見つめる。刻は、特別かわいこぶっている自分に弱い。それを唯人は知っている。「すきだよ?」 ボクサーを履いたままのかっこうで、刻は頭を抱えた。「ねえ、キスしていい」 訊いてきたというのに、答えを待つことなく唇が触れる。柔らかく、触れるだけのキス。 「……もっかい?」 「刻くんがいやなら、いいよ」 「いやなわけないだろ。好きだよ、ゆっちとのセックス」 「っ……! え、えっちなこと言わないで」 「は? え、ゆっち食べてい?」 だめ。言おうとしてやめる。刻くんの好きなおれはこっちだ。 「どうぞ、めしあがれ?」 刻に力づくで押し倒された――。
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