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第1話
「先輩、“僕のために啼いてくれる”って、言ってくれたじゃないですかぁ〜!!」
今……俺の上に馬乗りになって、泣きわめいているのは――小寺祐希。
会社では、少し小柄でかわいい顔のため、男女問わず人気者だ。
仕事を手伝ってもらった礼に、“何でもしてやる”って俺が言った……あれが間違いだった。
まさか、こんなことになるなんて。
「おまっ……“何でも”ってそういう意味じゃねえだろ、何やってんだよ!」
どかそうとしても、どかせられない。
こいつ……こんなに力が強いなんて……。
怖い……マジで。
――身体に力が入らない……どうなってんだ。
「先輩、大丈夫ですよ。三時間もすれば……ちゃんと、体に力が戻りますから。
杏仁豆腐のお酒……効きすぎちゃいました?
あれ、甘くておいしいんですけど、ちょっと足に来ちゃうんですよね。
やっぱり僕、力はありますけど……先輩のほうが大きいじゃないですか?
抵抗されたら、逃げられちゃうでしょう?」
「だ・か・ら……ちょ〜っとだけ、強めのリキュールを混ぜちゃいました。
――先輩、甘いの、お好きでしょう?」
“だ・か・ら……”と言いながら、小寺祐希は俺の耳元に唇を寄せて、
囁くようにそう言った。
そしてクスリと笑う。
ゾクリと、背中に冷たいものが走った。
ヤバい、こいつ……こんなにやばいやつだったのか。
気づけば、次々と服が剥がされていく。
抵抗できない自分が、もどかしい。
お互いが一糸まとわぬ姿になるまで、時間はかからなかった。
ワイシャツの下に隠されていたのは、可愛らしい顔に似合わない、引き締まった体だった。
(こいつ……ダメだ、考えるな。)
いつの間にか、小寺祐希はボトルを手にしていた。
そしてこちらを見て「ふふっ」と小さく微笑むと、ボトルから透明なジェルを指にすくった。
少しカールしたその柔らかな髪を頬に貼りつけ、
均整の取れた腹筋をそらし、
指に透明な液体を絡めていく小寺祐希の姿が、
なんとも艶めかしく、美しいとさえ思ってしまった……。
そして、そんな自分に思わずかぶりを振った。
小寺祐希は片手で俺の左足をそっと持ち上げた。
そうして、普段誰にも見せたことのない"そこ"が、あらわになった。
「ふふ、かわいい---」
小寺祐希はそういうと、ジェルで濡れた指をそっと、俺の“そこ”へ押し当てた。
普段出すことでしか開かれない窪みに、外から圧力がかけられる。
少しずつ、しかし確実に、俺の“そこ”は押し広げられていく。
「おい!お前!そこは入れるとこじゃない!出すところだ!!やめろ……っ、いてっ……!」
「痛かったですか……ごめんなさい。」
不安そうに俺を覗き込んでくる。
「俺のこと心配するんだったらこんなことやめろよ……なぁ、もうやめてくれよ。
お前も男にこんなこと、気持ち悪いだろ?」
“気持ち悪い”という言葉を使った瞬間、小寺祐希の顔が一瞬真顔になった。
怒らせたか?と思ったのも束の間、すぐに元の柔らかい笑顔に戻った。
(よかった……。)
小寺祐希に笑顔が戻ったことで、安堵している自分がいて、
こんなことをされているのに本当におめでたいやつだと自分でも呆れる。
けれど、さっきまで丁寧に触れていた指が、いきなり――奥まで突き進んできた。
ついさっきまでの優しさと気遣いを帯びていた指先の温かさがなくなった。
……こいつやっぱり怒ってるんじゃないか!と思い直したと同時に、
鋭い衝撃が走った。
じわじわと内側に押し広げられるような鈍痛の奥には、
くすぐったくむず痒い感覚が走っていた。
小寺祐希の長い指先が、中を探る蟲のようにうねって動く。
そしてその指先が動くたびに若干の痛みと違和感が走る。
指先はまるで生きているようにどんどん奥へ分け入り
……とんっ……と何かを押した。
「……ふぁ?」
思わず、間の抜けたような声が漏れた。
小寺祐希が嬉しそうにこちらを見る。
「ちゃんと感じ取ってくださってるんですね。僕、嬉しいです。先輩」
「感じ取るってなんだよ……それ……」
俺が反抗するのも束の間、小寺祐希はもう一度、俺の中の何かを“とんっ”と刺激した。
「ここですよ。ここ。先輩が、僕を感じてくださる大切なところ……。」
そういって、何度も刺激してくる。
そうして繰り返される刺激は、まるで蟲毒のように、俺の感覚を鈍らせていく。
それまでに感じていた、痛みや違和感は、本当は心地よさなんだと、
脳内に刻み付けられているような感覚に陥らせる。
その蟲毒が俺の何かを刺激する度に意識が遠のき、今まで出したことのない声が出そうになる。
「先輩、我慢したら辛いだけだから、…ちゃんと、啼いてください。」
小寺祐希がゆっくりと、子どもに言い聞かせるみたいに、耳元でささやいた。
その言葉ひとつひとつが、俺の鼓膜を刺激し、脳まで侵食する。
呼吸が浅くなり、瞼が震えた。そしてふっと体中の筋肉が緩み、
俺はそのままベッドに沈み込んだ。
――顔が火照って、頭がふわふわする。
そして、かすれた声でつぶやいた。
「小寺ぁ〜、なんか俺変なんだよ……さっきの酒に変なもん混ざってたんじゃないか?
……その、感じやすくなる……なにか……。」
「さすが先輩だ。よくわかりましたね
――実は……さっきのジェル、感度が良くなる成分が入っていたんですよ。
だから今、先輩が感じているのはジェルのせいなんです。
ごめんなさい、僕、先輩に気持よくなって欲しかったから。」
と、悪びれもなく言ってきた。
だがその言葉に、少し救われた俺がいた。
そうかジェルのせいなのか。小寺祐希の指で感じたくすぐったい心地よさも、全身が熱くなるような……あの感覚も、すべてジェルのせいだ。
しかし、なぜこんなことを……。
小寺祐希は会社でも人気のある社員だ。仕事にも一生懸命だし、後輩としても信頼している。
小寺祐希も、俺を兄みたいに慕ってくれていたはずなのに……。
けれど、そのかわいい弟分がこんなにも頼んでいることなんだから、今日だけ…今日だけは受け入れてやろう。
……まぁ、“泣く”っていうのが何なのかは、未だによくわからないが……。
とりあえずは小寺祐希の言う通り、少しだけ自分の感覚に身をゆだねてみることにした。
「……今日だけだからな。」
小さい声でつぶやいた瞬間、俺に触れる小寺祐希の指に力が入った。
「……う……んんっ」
思わず、声が漏れそうになる。
俺の反応に気づいているのか、いないのか――。
小寺祐希は満面の笑みをこちらに向けた。
「先輩、大好き♥ ありがとうございます!」
俺の一言に、うれしさが溢れたように小寺祐希の声が弾んだ。
職場で、先輩、先輩と後をついて回るあの子犬のような笑顔だ。
そんな笑顔を見たら……こちらも、つい頬が緩んでしまう。
こんな体制で微笑み合うなんて、ありえないのだが。
1つ、2つ、3つと足されていった指の数に、だんだん俺自身が慣れてきた頃、
「もうそろそろですかね…」
と、俺を見下ろしながら小寺祐希は、自分のものに避妊具をつけた。
その様子がいかにも男っぽく、まるで自分が女になったかのような気分になって恥ずかしかった。
それにしても、“感じやすくなるジェル”とは恐ろしいものだ。
小寺祐希の指先がするっと離れた時、一瞬寂しいような切ないような気分にさせられたからだ。
しかしそんな余韻に浸る間もなく、小寺祐希自身が、俺の中へと押し入ってきた。
そして、俺に覆いかぶさりながら、唇を耳元にそっと寄せる。
吐息混じりの声が、俺の頭の中に響いた。
「先輩、本当に、痛かったり、嫌だったりしたら言ってくださいね。
すぐにやめますから。
でもジェルの効果があるから、先輩きっと気持ちいいと思います。
気持ちいい時は……ちゃんと、気持ちいいって言ってくださいね。
ジェルのせいなので。
僕だけじゃなくて先輩にも楽しんで欲しいんですよ。」
無邪気に笑う小寺祐希の笑顔と、彼の言葉に救われた。
まぁ、今夜のことは人生経験の1つとしよう。
「わかったよ。わかったから、手加減しろよなぁ〜」
そう言うと小寺祐希はふふっと笑った後、ぐっと、力を込めて俺に押し入ってきた。
指とは全く違う、圧迫感、熱量、そして、小寺祐希のすがりつくような笑顔。
あいつの顔を見てはいけない――何か、壊れそうになる。
苦しい腹部を我慢しつつ、手で目を覆うと、小寺祐希が俺の手に指を絡めてベッドに押さえつける。
両手とも押さえつけられた俺は、目を隠すことすらできない。
ぐっと目を閉じると、
「先輩、目を閉じられると、先輩が痛いのか気持ちいいのかわからないから…」
「…いや…勘弁してくれよ。この状況が恥ずかしくて、お前の顔が見れないんだよ。…なんか…お前の顔見てると…ちょっと…」
言葉にすると余計に恥ずかしい。
でも自分が今どんな顔しているのか見ることすらできない。
そんな俺を観察していた小寺祐希がクスリと笑い、
「わかりました。じゃあ俺が、気持ちいいですか、痛いですか?どうですか?
て聞くので、先輩は痛いか気持ちいいかを言ってくださいね。
……声に出さないとわからないから。
……こういうことって、ちゃんと“言葉にして”おかないといけないんですよ。ね?」
なんかそんなものなのかと思い、黙って頷いた。
その頃にはもう、息するのも苦しいくらいだった。
「……じゃ、動きますね。」
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ…」
寄せては引き、寄せては引いてくる小寺祐希の動きと共に、小寺祐希の吐息が漏れる。
下腹部が満たされて苦しいまま、小寺祐希が動くたびに、俺との摩擦が妙な快感を呼び起こす。
こそばゆい、少し物足りないような変な感覚。
痛気持ちいいというのか…
「先輩、今はどうですか?」
「…ん、今か。さっきまでは痛いだけだったんだが、ちょっと、何と言うか、マシになった。」
自分でそう言いながら、口の端が少しだけ緩んでいるのを自覚する。
「マシになりましたか…それは良かった。」
俺の手を掴んでいた一つを外すと、今度はその手を、いつの間にか猛り立っていた俺自身に向けてくる。
「え、こんな、なんで…おまっ、そんなことしなくていいから…あっ…、んん…あっ」
小寺祐希は、リズミカルに腰を動かしながら、熱を帯びた手で俺自身を包み込むように愛撫してくる。
俺がその快感に、体の緊張もこわばりも全て溶かされたその頃に、小寺祐希自身がさらなる熱を持って俺に向かってきた。
震えが腰から脳天へ走る。
「あんっ…ああ はぁ…はぁ…んん~、あんっ」
小寺祐希の動きと共に、突き押される快楽のボタン。
まるでパブロフの犬のように、ボタンが押されるたびに、女みたいな、甘い声が出る。
俺は、女じゃないのに……
でも口から漏れるその声は、もう止まらない。
「あん、あん、あん、んん…」
「先輩……やっぱり想像していた通り、あなたの啼き声は、かわいいや……」
吐息交じりに、呟く小寺祐希の湿度を帯びた甘い声が脳内をくすぐる。
……啼き声って、そういうことか……
何かを悟った時――体に電流が走った。
ヤバい、もう我慢できない!!
と思った瞬間、小寺祐希がパタリと動きを止めた。
「先輩、今はどうですか?…嫌ですか?」
ぐっと固く目を閉じたまま、
「……いい、いいから、気持ちいいから。やめるなよ。このまま来たら……ちゃんとした方が、いいんだろ?」
ここまで来て、先輩風を吹かそうとする自分自身が情けない。
本当はやめて欲しくない。
あと少しで到達するはずだったあの高みにもう一度自分をいざなってほしいと思っている自分に、もう目をそらすことはできなかった。
「はい。素直でよろしい。」
ちょっと低くなった声で、そういった途端、小寺祐希は今までにないくらい激しく、情熱的に、何度も何度も、俺の快楽のボタンを押してきた。
「…あ〜あん、あん、あん、あん、あん!!」
ボタンと同時に、俺自身に触れる小寺祐希の手の動きも早くなる。
「あ!…んん!!」
同時に果てたその瞬間、小寺祐希は自分自身を俺の中に置いたまま、
両手で俺の頬をやさしく包み、そっと唇を重ねてきた。
あんなことをしていたのに、初めての口づけ。
そしてその口づけに、甘さとほんの少しの甘酸っぱさを感じた。
「な、なんだよ。いきなり……」
突然の甘いキスに動揺し思わず口走った。
「フフッ、だって、先輩。甘いのがお好きでしょう?」
どこかで聞いた言葉を思い出そうと、呆けた頭をフル回転させてみる。
「あ、そうだ。今日は初めてですから、今回は1回だけにしておきましょう…ね?」
そう言い残して、小寺祐希はシャワー室へ向かった。
「風呂の準備しておくんで、一緒に入りましょうね、先輩。」
遠ざかっていく背中に、思わず声を投げた。
「おい小寺、お前何言ってんだよ。今回はって、今日が最後だぞ」
不思議そうに振り返った小寺祐希が、にっこり笑って言う。
「なんでそんなこと言うんですか?だって気持ちよかったんでしょ?先輩。あんなに可愛く啼いてくれたじゃないですか。」
「あれはだなぁ、ジェルのせいだよ!お前言っていただろう?」
「あ〜、ジェル。」
そういって、小寺祐希は今日使っていたボトルを投げてよこした。
白く無機質な、医療用品っぽいボトルには……
「……潤滑油ゼリー???……主成分は、グリセリン……。おまえ、これって……ただの。」
「そうです。ただのジェルです。何の特別な成分も入っていません。」
小寺祐希は悪びれなく答えた。
背中がすぅっと寒くなった。やばい、本当にやばい……かもしれない。
「じゃあ、さっきのは何なんだよ。」
自分の体の変化に何か特別な理由が欲しくて、俺は小寺祐希に答えを求めた。
「それは、僕の腕前と、……愛情のなせる業です。」
小寺祐希の柔らかな温かい笑顔に、胸の奥が熱くなり、体がビクリと反応した。
顔が熱くて、もう自分でも真っ赤なのがわかる。
そんな俺をのぞき込み、小寺祐希がたずねて来た。
「……先輩、俺のこと好きになっちゃいました?」
その言葉に答えられないまま、
ああ、俺はもう、完全に堕ちたんだ――そう認めるしかなかった。
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