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第1話

街の雑踏が眼下に広がるコーヒーショップの2階でボーッと1人アイスコーヒーを飲みながら時間を潰す。 ……いろんな人が居るなぁ…… ……楽しそうだなぁ…… 右に左に忙しなく移動している人たちを眺めていると、無意識に手を繋いで楽しそうなカップルに目が留まる。 ……いいなぁ…… 見下ろしているので表情は見えないのだが、きっと幸せそうな笑顔で楽しい会話をしている事だろう。 ……俺に恋人なんて出来るのかな…… 心の呟きがズンと来る。 恋はしている。恋は……。 でも相手がなぁ……。 姉と一緒に男性アイドルに夢中になった時に気が付いた。 俺って、男性が好きなの? 女性アイドルも可愛くて好きだけど、男性アイドルほど夢中になれない。 テレビ越しでも目が合った時の高揚感。 体のラインとか性的な目で見ていた事に気付く。 俺には小3から仲の良い友達が居る。 そいつが困った事に距離感がバグってる。 男性が好きと気付いてから意識して仕方ない。 今までどうやってこの距離感でやって来れたのか不思議で仕方ない。 良い奴だから意識してるのがバレて仲が壊れるのが怖い。 物思いに耽っていると手元に置いていたスマホが震える。 悩みの種の友人、郁弥(フミヤ)からのメッセージだった。 内容を見てギョッとする。 ーー今コーヒーショップの2階の窓側の席に居る?ーー え、もしかしてこの下の人の中に郁弥が居たりする?! ジッと探してみたけど分からない。 ーー居るよ。けど、見えないでしょ?今どこから?ーー ーー今日、この辺行くって言ってたから、コーヒー好きだし、居るかなってコーヒーショップ覗いてたんだ。今から合流しに行くーー え、こっち来るの?! 合流ってこれから一緒に遊べるって事?! それって……デ、デート?!?! いや、早まるな、俺!違うから!! それにしても、この辺遊びに行くって言ったけど、コーヒーショップに居るのを見当付けて探すだなんて……これって、期待しても良い?!?! 都合の良い解釈をしそうになる自分を宥めながらも、自分には叶わないと思っていた夢を描いてしまう。 いいよね、夢見る位は……。 「よっ!隣良い?」 休日のコーヒーショップは混んでいて、人を見つけるのは大変と思うのに、郁弥は難なく俺を見つけて隣の席を確保する。 「この人混みでよく見つけたなぁ。この下に居たんだよな?俺、ずっと下見てたのに全く気づかなかった」 「センサーが違うんだよ」 「何だよ、それ。俺がどこにいるか反応するのか?」 「そうだよ。(ミナト)専用のセンサーが俺にはあるんだ」 ドキッとする。 冗談だろうに、俺が郁弥の特別みたいな言い方…。 だから、ダメだって!そう言いながらも先ほど描いた夢に2人で幸せそうに笑う姿が追加された。 この夢がどんどん大きくなってキャンパス一杯になったら、抱えきれず告白してしまうかもしれない。 こちらの悩みに気付かない郁弥は手を伸ばし、俺の頭を撫でながら 「寝癖!可愛いなぁ」 と、無邪気に笑った。 俺の夢がキャンパスにいっぱいに描かれるまで、そう時間は掛からないかもしれない……。               ーENDー

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