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第81話
「へ?」
ぼくが目を瞬かせる間もなく、レフさんがイルファ先輩を剥ぎ取りぼくに抱擁する。たしかにイルファ先輩よりソフトだ。腰に手を回されてなんか距離が近すぎる気がするけど、気のせいだよね。
「あれ? もう行くの?」
レフさんの言葉にハイリが襟を正して立つ。
「ああ。服が血で汚れている。すぐに清めなければ」
ぼくはハイリに流し目で一瞥された。その瞳は「決して俺の弟であることを口外するな」と牽制の意味が込められているように見えた。ぼくは静かに頷いてその背中を見送る。ハイリが立ち去った後でレフさんがぼくのベッドに腰掛けてきた。
「辛かろうね。しばらくオズは医務室で入院することになるよ。救護班の1人に聞いたけど、幸い剣の穂先は心臓から外れているらしい。今、特殊な薬草を用いて仙薬が作られているからそれを飲めば痛みは軽くなるだろう。それと、オズの今日の行動はあの場にいた皆から賞賛されているよ。きっともう全寮生に名前と顔が知れ渡っている。変な輩もわくだろうから、困ったときはぼくに話してね」
レフさんに褒め言葉と注意事項を教えられぼくはこくんと小さく頷く。シャルメーニュの中でも目立って成績が良いわけではないぼくも、今回の1件で注目を集めてしまうらしい。なるべくなら目立たずひっそりと寮生活を過ごしたいので、ぼくはこれからも目立った行動はしないようにと自分に言い聞かせる。もし、ぼくがスウェロニア家の使用人でハイリと血の繋がらない弟だと周りに知られてしまったらまたハイリに迷惑をかけてしまう。それだけはどうしても嫌だった。ぼくはハイリの邪魔にならないように騎士として早く1人前になれるようにならなければ。今日みたいな輩がまたハイリを襲うことも考えられる。その時は今日みたいにハイリを護るのがぼくの務め。そして、今回みたいに瀕死の状態にならないように心と身体を鍛えなければ。今回の1件でぼくは自分の目指すべき騎士の道が見えた気がした。隙のない完全無欠の従者となりハイリに仕える。そのためだけに剣を振るおう。
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