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第1話

 随分と気持ちのいい夢だと思った。  栗田我聞(くりた がもん)は酔った勢いで普段あまり使いもしないタクシーに乗り込み、部下である足立勘一(あだち かんいち)を送り届けようとしていた。 「我聞さんの家って俺と同じほうなんですか?」 「いや、君の家をそもそも知らないから何とも言えないんだが」  ちょっと大きめの声を上げながらそんなことを言ってみる。 「そうですよね……。我門さんは俺の家なんか知らないか…………。でも面接の時、履歴書に書いてあるはずなんですが…………」 「ああ、見たけど覚えてないな。来られないほど遠くじゃなかったってことくらいしか覚えてない」 「そうですか……」 「うん。そう」 「…………」  少し黙るともう揺れに任せて眠りが襲ってくる。これではいけないと我門は無理して言葉を続けた。 「君の家は何? メゾネットタイプとか?」 「いえ。普通のコーポですよ? しかも築二十年くらいの」 「じゃあトイレと風呂は別々なんじゃない?」 「はい。やっぱ一緒ってのはどうも落ち着かなくて」 「それは僕も一緒かな」 「あ、気が合いますね」 「うーん、まぁ」  この意見はだいたいの人が同じ答えだろうと思ったが言うのはやめておいた。彼の家はそんなに遠くなかった。タクシー1メーターとはいかなくても我門の家よりはよっぽど近い。 「ああ、ここなんですよ俺の家。今日はもう遅いから泊まって行ってくださいよ」 「ぇ、でも私にも家はあるからね……」 「でも帰っても誰もいない家でしょ?」 「ぇ……まぁ、そうなんだけど………君だってひとりじゃないか……?」 「ええ。ひとりぼっちだから泊まって行ったら? なーんて聞いてるんですけどね」 「ああ、そっか…………」 「そうですっ」 *  今にして思えば、言わなくていいことを口にしたと思う。 どちらも独身なのだ。でも若い独身と中年の独身はだいたい意味が違うと思う。背負っているものが違うと言うか……そう言えば体裁はいいが、ただの年寄りでもあるのだ。ちょっとだけ人生経験しちゃってるぞ、みたいな感じでとぼけてみるが、ここは彼の家なので色々と仕切ってくる。 「風呂、今入れてるんで先に入ってください」 「……」 「ちゃんと返事をしましょう」 「…………はい……」 「良いお返事ですよ、我聞さん」 「それはどうもありがとう」  足立の家は彼の言う通りそれなりに歴史を感じる2階建てのコーポだった。その一階の一番奥が彼の部屋だった玄関を入ると六畳ほどの板張りのキッチン。廊下は無くてすぐ左に水回り、キッチンの奥に六畳の和室と洋室が縦にふたち並んでいるような典型的な昔の間取りだった。  今我門はキッチンから続く和室のほうに通されている。ここがリビングとして使っている部屋なのだろう。独身男の割には、急に来た割には綺麗に片付けられていた。 「テレビ付けてください。何か呑みますか?」 「ぇ、ああ……」 「水・お茶・コーヒー・炭酸。どれもコンビニのですけど」 「じゃあ水をもらおうかな」 「分かりました」  風呂の湯を入れたついでにキッチンから声をかけられる。言われた通りテーブルにあったリモコンを使ってテレビを付けるとスポーツニュースがやっていた。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」 「いえ」 『ぁ、すみませんね』とでも言うように彼は我門の隣に陣取ってきた。それにちょっとばかりの違和感を覚えたのだが、同時に『ああ、ここが彼の指定席なんだな』と察してちょっとだけズレる。縦長の六畳の背中側には壁。テレビのある向かい側も壁で右手にはベランダに続く吐き出しの窓、左側には出入口の引き戸があったので、当然ここが彼の指定席かなと納得した。それに座布団もクッションもここに集中しているからだ。彼は壁に背をつけながら缶ビールのプルトップを開けた。 「あれっ」 「なんです?」 「ビールがあるなんて聞いてないけど」 「我門さん今から風呂だからいいでしょ」 「あるんなら欲しいな」 「弱いんですよね?」 「うん」 「だったらもうやめておいたほうがいいですよ。目が据わってますから」 「そう?」 「はい。もうお湯も半分くらい入ってると思いますから、さっさと入ってきちゃってください」 「うん、でも……」 「いいからいいから」  渋っていると手を取られて風呂場まで連れて行かれる。 「はい。じゃあさっさとどうぞ。入ってる間に着替え出しときますからね」 「ぅ、うん…………」  パシッと言われてピシャッとドアを閉められる。仕方がないので風呂に入ると、いつの間にか着替えが用意されていた。下着とパジャマ代わりのスェット。 「ちょっとおっきぃな……」  思いはしたが寝るだけだから支障はないだろうと自分の服を抱えてリビングに帰る。 「悪かったね、先にお風呂いただいちゃって」 「いえ。少しは酔いが冷めました?」 「うんまぁ」 「じゃ、これはいらないかな」  テーブルにある缶ビールを指さされ「いただくよ」と笑顔を作った。一度酔ってしまえば追い酒なんて何てことないのだ。ただし翌日がどうなるのかは心配でもあったが。  体調も悪くないし、明日は大事な用事もないし、いいんじゃないかな……。  調子に乗って出されたビールに手をつける。 「じゃ、俺も風呂に入ってきます。スーツ、そこのハンガーにどうぞ」 「すまないね」 「いいえ」  軽い足取りで彼が浴室に入っていく。少し酔いの覚めた我門はスーツが皺にならないように用意されているハンガーにかけると出されていたビールをいただいた。いつもは350ミリ缶なのだが、ここではそれよりも大きい500ミリを飲むのが普通らしい。全部飲めるかどうかは分からなかったが、『途中まで飲んで彼に譲ってしまうと言う手もあるしな』とズルい考えも視野にビールを飲みだす。案の定いつものサイズ以上の量はちょっとキツイな……と思っていると足立が風呂から出てきた。ニコニコしながら隣に座るとかくしていたビールのプルトップを開けてグビッと一口飲み「くううッ!」とウマそうな声をあげたのだった。 「あーーー」 「なんです?」 「ビール開けちゃったんだ……」 「なんで?」 「ちょっと多いなって思ってたところだから、飲んでもらおうかと思ってたんだけど……」 「どの位です?」  持っていたビールを取られて重さを確認される。 「あーー。まあ後半分もないみたいですから、無理して飲まなくてもいいですよ」 「うん…………」  言われはしたが、『まあ後半分もないくらいなら飲んでしまおうか』とビールを傾ける。 「無理しないで」 「うん。まあ、大丈夫だよ」  テレビではスポーツニュースも終わって深夜のバラエティが始まろうとしていた。それを見て笑う足立の顔を横目で見ながらビールを傾ける。 「何か食べます?」 「いや、いらない」 「もう寝ます?」 「ビール飲んでから」 「残していいですよ?」 「もうちょっとだから。それよりさ、足立君はここに来る前何やってたんだっけ?」 「忘れちゃったんですか?」 「聞いてないような気がして……」 「いや、履歴書に書いたですけど」 「ごめん。忘れた。うーん、どこかの工場で期間工……だったっけ?」 「何だ分かってるじゃないですか」 「その前は? 何か面白い仕事とかやったことないの?」 「面白い仕事ですか……?」 「ああ」 「あーーー。バイトで黒服やったことあります」 「黒服?」 「はい」 「ごめん。そもそも僕はその黒服ってのが何をしている人なのかよく分からないんだけど……」 「そうですね……。俺なんかはバイトだからそんなに大した仕事はなくて……。まぁ、夜の店の小間使いですよ。ご用聞きって言いましょうかね。女の子のパシリが一番多かったですけど……」 「モテただろ?」 「あ、ああいう商売はお手つき禁止なんで。俺たちは下僕でしかないです」 「そうなの?」 「はい。それに俺、女の子よりもどっちかって言うと、もっと戸惑ってくれたりするほうが好みなんですよね」 「それはどういう…………?」 「どうせ俺なんて、みたいなちょっと諦めちゃってる人好きなんです。たとえば我聞さんみたいな」 「…………えっ……っと…………。僕は別に諦めちゃってなんてないし…………」 「でももう結婚とか考えてないでしょ?」 「いっ……今はね」 「我門さんだって男だ。されれば感じますよね?」 「相手によるだろうっ!」 「そうですか?」  股間に手を伸ばされたので逃げなければと缶ビールを置いて立ち上がる。そして足早に玄関を目指そうとしたけれど、酔っているせいで思った通りには体は動いてくれなくて、立ち上がっただけでクラクラしてしまいまた座り込むはめになっていた。そこに覆いかぶさられて逃げられなくなって下から彼を見ることになってしまった。  これは形勢が悪いっ……! すごく悪いんだが、動くに動けないっ。どうしよう…………。 「足立君、君も相当酔ってるんだよね? 僕は君の役には立たないと思うよ?」 「そんなことないですよ。十分に役に立ちます。何せその困った顔とか俺好みですし」 「でも、ほら。僕には女の子にあるものは何もないしっ……」 「ですね」 「ね? だったら」 「何、大した差はありませんよ。代わりになるものはあるんだから」 「でも僕は全然その気じゃないしっ」 「あ、その気にさせたらいいんですね?」 「えっ?」 「今言いましたよね。その気じゃないって」 「いっ。。言ったよ?!」 「だったら今からその気にさせますんで」 「いや、それはいいよ」 「いいんですよね?」 「じゃなくてっ!」 「いいからいいから。ずっと独り身なんでしょ? 俺だったら金も取りませんし、いいなりになります。ご奉仕は任せてください」 「ちょっ……ぁ、駄目だっ…………駄目だったら…………!」  服の上からモノをしごかれて首筋に顔を埋められる。舌で敏感な耳や首を攻められて、身を丸めて抵抗する。だけど彼の言うようにそんなこと他人にされるのは久しぶりで感じるどころではなかった。  酔っているせいだと言い訳してみても流される。グイグイしごかれて見る見る堅くなって後ろも探り当てられるように弄られると敏感に反応してしまう。 「ぁ……んんっ…………ん……」  身を震わせたのがまるでOKしたような感じになって、あっと言う間に下半身を脱がされて上も乳首がバッチリ見えるところまで上げられる。下半身を大きな手が這い回りながら唇は乳首を攻めてきた。大きく股を開かれてそこに陣取られると、もうどうしようもなくなってしまい我聞は快楽におぼれた。 「は……ぁ……あ…………んっ…………」 「いいですね、こういうの」 「ふ……ぅぅ……んっ…………ん…………」  どうせお互い酔ってるんだから。そんなつもりで気持ち良さに流されてしまった。  我門は早々に射精してしまい、惰性でしごかれながら後ろへの刺激もされていた。出した知るを使って後ろの穴を解される。グチュグチュといやらしい音がして出し入れされながらモノを口に含まれて転がされた。 「あっ……も……もう駄目だったら……ぁんっ……ん…………!」 「まだですよ、我門さん。まだ俺が満足してないじゃないですか」 「ぅ……うん。だけど…………」 「大丈夫。今痛くならないように解してるんだから」 「ぁ……」  あーやっぱりそういうことか……と一気に萎えてしまいそうになった。だけど心は萎えても体は萎えるなんてことはなくて、どんどんグチュグチュと言う音が大きくなっていくようにさえ思えた。体勢を変えながら徐々に彼が起き上がる。そして我門は両脚を抱えられて狙いを定めるみたいに秘所の回りをグリグリ捏ねくられてからニコッとされたのだった。  ほ……ほんとに…………?  ちょっと情けないが、まさにそんなことが聞きたかった。だけどそれは声になることはなく彼が行動するほうが早かった。 「あああっ……」 「チカラを抜いて。自分のモノしごいてください」 「ぅ……ぅんっ…………!」  否応なく体の中に彼が入ってくる。我門は信じられないような気持ちで言われるままに自分のモノを必死になってしごいた。それと同じタイミングで出し入れされて、それが繰り返されると徐々に体が慣れていくのを感じた。生身の彼のモノがしつこいくらい出入りする。こんな感覚は初めてで、でもそんなに嫌でもなくて、むしろちょっといいかもとか思ってしまうところが愚かだと思えた。  何やってんだ僕は……。何されて喜んでんだよ……。  でも気持ちいい。体が彼の動きに翻弄される。  自分とは違うモノが中にいる感じって……こんなんなんだ…………。 「ぁ……ぁ……ああっ……んっ…………!」  何度も何度も腰を打ち付けられてどうしようもなくなった時、「もうちょっとなんで」なんて爽やかに言われるとブルブルッと身を震わせるしかなかった。 「出ますっ……! っぅ……」 「ぁぁぁ……」  自分の中でドクドクッと脈打つモノが分かる。そして中にそれが放たれた時、我門自身もまた手の中で射精していた。それから先はあまりよく覚えていない。またされたような気もするし、そのまま抱き合って眠ってしまった気もするし。 ただ言えるのは、抱き上げられてベッドに移動したこと。そして今が翌朝だと言うこと。 「この状況は…………」  なんと言ったらいいんだろう…………。  全裸にキスマーク。そして精液でカピカピした体は目覚めたまま動けなかった。二日酔いと初めての性行為のダブルパンチからだと察しはつく。隣では背を向けて彼がまだ眠っていた。『このまま帰ってしまおうか……』とも思ったが、そうそう思う通りに体は動きそうもない。我門は見慣れぬ天井を眺めながら、『どうしたもんだろう……』とため息をついたのだった。 終わり タイトル「出来れば夢だと思いたい」 20170225

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