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第1話
梅雨時期の湿度を飛ばすような晴天に瞳を細めながら、適度な急ぎ足で会社に向かう。
視線を空から目の前に移すと、数メートル先に男子高校生のふたりが、なにか熱心に話し合って、楽しげに笑う姿があった。
どこにでもある、ありふれた風景を眺めつつ、本日やらなければならない業務を脳裏で思い描いていると、片方の男子高校生がもうひとりの彼の手を握りしめ、引っ張るように進む。手を引かれた彼は歩くのをやめ、自身を引っ張る男子高校生の動きを強引に止めた。
背後から俺が徐々に近づいているのに、足を止めた彼は恋人つなぎにわざわざ繋ぎ直し、率先して歩き出す。男子高校生は隣にいる彼に満面の笑みを見せてから、先ほどよりも寄り添うようにくっついて足を進めた。
(――後ろに俺がいることに、彼らは気づいていないんだろうな)
ふたりきりの世界を満喫しているであろう、彼らの邪魔しないようにすべく、脇道に逸れかけると、なんの前触れもなしにふたりは手を放して、最初の距離を作った。
「ああ、そうか」
すぐ傍の信号を左折したら、彼らの通う高校があることに気づき、脇道に逸れかけた足をもとに戻して、いつもの道を歩くことにした。信号が赤で立ち止まる俺の視界から、男子高校生たちの姿が遠ざかっていくのを、なんとはなしに眺める。
俺が同性相手に、親友を超えた気持ちを抱いたことに気づいたのは、彼らと同じ高校生のときだった。
容姿がクォーターだった俺は中学の頃からモテたし、それは高校生になっても変わらず、女子から告白されることもしばしばあり、付き合うことだってした。
傍から見たら、有意義な学生生活を送っているように見えただろうが、残念なことに遊ぶことに夢中になっていたせいで、成績がイマイチだった。
成績をあげることに苦心しているのを知ったクラスメイトが、バスケ部で世話になってる、三年生の先輩を紹介してくれた。
なんでもテスト期間中になると、その先輩が勉強を教えてくれるおかげで赤点を取らずに済むとのことで、バスケ部員にまじって、ちゃっかり勉強を教えてもらえることになった。
とても人あたりのいい先輩で、一年の教室に入って来ても、先輩というオーラがまったくないため、ほかのクラスメイトに紛れてふざけていてもまったく違和感がなく、こんな先輩になれたらいいなと憧れを抱いたが、それ以上の感情をもつことはなかった。
あっという間に一年が経ち、卒業式の日に先輩が体育館裏に俺を呼び出した。
『白鷺くん、君のことが好きだったよ。今までありがとう』
そう告白された瞬間、胸が痛いくらいに軋んだ。告白されたのははじめてじゃないのに、このときはなぜか衝撃を受けてしまった。
先輩が涙目で手渡してくれた第二ボタンは、実際とても軽いものなのに、寂しそうに遠ざかっていく背中を見ているだけで、重たいものに変化した。
異性よりも同性からの告白に反応したことをきっかけに、自身のセクシャリティに悩んでいるタイミングで事件が起きた。
パートに出ていた母親が、妻子ある男性と浮気した。それに気づいた父親が離婚届を突きつけて、家を出て行ってしまった。
身勝手な行為をした母親に巻き込まれた形で、俺も一緒に父親に見捨てられた形になる。母親同様に外人の血を引く俺の顔を、見たくなかったのかもしれない。
それまでの裕福な生活ががらりと変わり、バイトを何件もこなしながら、高校に通う忙しい日々を送るうちに、どんどん成績が落ちていき、失意のどん底に陥った。
(――どうしたら楽に、お金を稼ぐことが可能だろうか)
考え込んだそのとき、通学に使ってる満員電車で、何回か痴漢に遭ったことを思い出した。当時ヤケになっていたのもあり、自分の躰を売ることについて、罪悪感はまったくなかった。
大学に入ってからも、細々と援交を続けた。資金は当面大丈夫な額を持っていたが、快楽を得るためだけに、惜しげもなく躰を許してしまった。
しかしそんなことばかりしてお金を稼いでいることや、ゲイだとバレたら身も蓋もなくなることに危惧した俺は、友人のツテで高校生の家庭教師のバイトをはじめることにした。ノウハウは太客の社長さんに通わせてもらった、塾の指導を元に高校生に勉強を教えた。
そんなやり方で家庭教師を続けて、教え子たちの成績を伸ばしていたところに、高校受験を控えた息子を持つ父親に声をかけられた。
『中学三年の息子なんだが、塾に通わせてもさっぱり成績があがらなくて困っているんだ。優秀な君を、家庭教師として雇いたい』
ちょうど一件、勉強をそっちのけで性的に迫りまくるという、問題ありまくりの高校生との関係を解消すべく、家庭教師を辞めるところだったので、実にいいタイミングでスカウトされたと、このときは思った。
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