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山本さんのお兄さん
同じクラスの女子の自宅に招かれたのは、それが初めてだった。半ば引き込まれるように文化祭実行委員になった至 は男女数名で連れ立ち買い出しに出かけ、隣のクラスの山本さんに誘われるまま彼女の家に上がった。
他にも同行者が居たし、彼女が至にとって特別な人物という訳でもなく。そして持ち込んだペットボトルのジュース用にと、グラス運びを手伝うため付いて行ったキッチンで彼女の兄に出会った。
「ア? 誰?」
一瞥するなり尋ねられた声は彼女に向けられたもので、
「隣のクラスの至くん、文化祭実行委員の買い出し班の子たちが来てるから。あ、グラス出してよアニキ」
山本さんがアニキと呼んだ彼に言う彼女に、
「お、おおおおおじゃましてます!」
どもりながら挨拶をする至に頷いた男は、黙って戸棚を開けた。
「いくつ?」
「じ……じゅうさんです!!」
「ハァ?」
尋ねられるまま答えた至に、眉を顰めた兄、そして妹は噴き出すように笑い出す。妹の部屋の広さは、とてもじゃないが十三人も人を呼べるような部屋ではないのだから。
「違うよ! 至くん! 君の歳じゃなくて、部屋に来てるみんなの人数!」
ケタケタと笑いながら言う山本さんに、ハッと気づいた至は真っ赤になり、
「な、ななつです!!」
慌てて言い直したが、兄も兄で肩を震わせるよう笑い出した。
「テメー、天然だな?」
最初に至を一瞥した時に見た視線はとても鋭く見えたのに、笑うと細い目が一層細くなり弧を描く。
「す……すみません……」
至は真っ赤になったまま頭を掻くと、盆の上に乗せられたグラスを受け取ってペコリと軽くお辞儀した。
「落とすなよ」
言いながら手を離す彼に、至は慎重に頷く。
それからチラリとだけ彼を見返すと、真っ直ぐに瞳の中を覗き込まれたような気がして、そおっと逃げるよう後ろに下がった。
「いじめないでよ?」
別の戸棚からスナック菓子の袋を二つほど掴みだしながら言う妹が、
「気をつけてよ? うちのアニキ元ヤンだから~」
余計なひと言を付け加えると、
「うるセ!!」
兄は唸るように言うから、至は短い悲鳴を上げながら危うく盆をひっくり返すところだった。
至にとって、山本という人物は後に特別な存在となる。しかしそれは妹ではなく、兄の方であった。
至の隣のクラスの「山本さん」の兄は、市内の箱根学園高校に通う高校1年生なので、至の二つ上になる。
至は初めて彼と出会ったその3日後にも山本家を訪れ、不在の妹の代わりに対応した兄に誘われるまま今度も山本家へと上がり込んだ。
リビングは散らかっているし、妹の部屋に勝手に入れてやる訳にもいかないから、
「俺の部屋で待てば?」
と言われ、そのまま彼の一人部屋に促された。
そしてその次にそのドアが開く時には、その男に何もかも奪われた後だった。
つまり至はその日、山本兄にレイプされ、ファーストキスどころかセックスも――処女さえも奪われた。
もちろん至 は男で、彼は女子との行為を行ったことも無かったし、男子を性的対象に捉えたこともなかった。ノンケの中でも特に性に未発達な、精通してはいるものの、中学2年にもなって自慰行為ですら経験の少ない、まだ子どものような至。
彼は行為は拒絶したのだが、男子中学生の性感と好奇心は性的刺激の前には余りにも脆かった。
「ヤダ、ヤダ」
と必死で逃げようとした腕は彼の制服のネクタイに括り上げられ、ベッドフレームに繋がれて、口の中にはハンドタオルを押し込められ、下半身を剥かれ、足を広げさせられた。
恐怖に暴れようとする至に理不尽にも一度キレかけた山本は、タオルで至の視界を塞ぎ――次にその視界を解放する時には、至が快感の余韻に痙攣を起こしながら、グズグズに腰を砕かせるまま再び足を広げさせ、ガチガチに勃起した雄をアナルへと挿入した。
悲鳴と喘ぎは猿ぐつわされたハンドタオルの中に吸い込まれるが、喉を鳴らす声は漏れ聞こえていた。山本の指と舌を使い、唾液とローションにグズグズにされ一度は達したアナルは、初めての経験とは思われないほどの快感を至と山本に与えた。
至は快楽を与えられながら彼にもまた快楽を与え、抱え上げられた腰を更に反らしながら、呆気なく射精してイッた。
それでもまだ信じられないというように逃げを打つ腰に、まだ勃起したままの山本のペニスを叩きつけられてエビ反りにイキかけ、息をつくようピストンを止めた山本に噴き出した精液にまみれたペニスを扱かれて、
「おぅ……おぅ……」
と籠った声を漏らしながら、またビュルビュルと射精した。
「チンポ気持ちイイ?」
尋ねられ頷いた至の瞳には、もはや理性の光は残っていない。
山本のペニスに依ってアナルで達したという事実に打ちのめされると同時に、新しく教えられた快楽に身体は素直に順応していく。
口を塞がれているが故に、言葉には出来ないまま、
「もっと、もっと欲しい」
と胸に込み上げる欲望へ素直に従うよう足を開き、至の足を抱え上げ折り重なるようにしてピストンし始めた山本を受け入れながら、興奮と愉悦と歓喜の涙を零す。
「スゲー、まんこ……キツ……きもちぃー」
山本はからかうような言葉を優し気に落とすと、更に激しく腰を前後しペニスの先で至の前立腺を押し上げるようにして小刻みに出し入れし始め、性感にまともに当てられ責められた至が痙攣しながらイキ続ける締め付けに目を細めると、腸壁の襞をゆうっくりと抉じ開けるよう腰を押し付けた。
ガクッ、ガクッ……と震えながらも、満足に悲鳴を上げることさえ出来ずにまたアクメに達し、至 は足の先まで強張らせながら潮を吹いた。
「すげェ……中坊のクセに潮吹きまですンの? お前」
山本は面白いオモチャを見つけでもしたような楽し気な目をして言うと、彼の足を掴んでいた手を離し、口の中に押し込まれていたハンドタオルを引っ張り出し、
「あ~~ッ~~~~ッッああ~~♡♡♡」
押し出されるよう上がる感じ入ったその声は、山本だけではなく至本人でさえも初めて聞くものだった。
「いもーと帰って来るかも知れねーからァ、声抑えとけよ? テメーも同級生の女子にこんなメス声聞かれたくねーだろ? 俺も、もイクから、あとちょっと……な?」
手首のネクタイも外してやり優し気に言うのに、ネクタイの絡んだまま鬱血の跡を残す至の両手が声を抑えるよう自分の口を塞ぎ、ボロボロと涙を零す目が虚ろに瞬きまた涙を零す。
パチュンパチュンと水音と共に腰が尻を打つ音をさせながら、欲望のまま腰を振り抜く動きに、至は何度も何度も震え息を飲み、堪え切れぬ声を上げた。
直腸壁の襞の奥まで振り抜かれ、ジュポジュポと亀頭の先が下品なキスをするその奥で吸い付く動きと絡みつく蠕動。
それを楽しむよう舌なめずりした山本に煽られ、彼の腰にしがみつくようにして必死で足を絡める。
両手で必死に口を塞ぐ腕ごと抱きしられた至は射精もなくイキ続けると、
「アアァ~~ッ♡ ああああ♡ ああああああぁぁ……♡ ~~っう、ぅう、うぉ……ンッう!」
獣のような声を漏らしつつ、とうとう陥落した思考を空白に落とし、ビクンビクンと大きく震えるよう痙攣すると、イキながら失神するよう弛緩した。
「……ッうあ、ぅあ……ヤベ……すげ、……ッッツ~~!」
追うように山本もゴムの中へと大量に射精したが、絶頂の中で更に快感に震え、惜しむように三度四度とピストンしつつ、彼もまた痙攣するようヒクヒクと震えると、ボタボタと大粒の涎を意識のない至の頬へと降らせた。
次に至 が山本の顔を見たのは、これもまた止まない快楽の中だった。
どのくらい意識が途絶えていたのか? 彼にも分からないまま身じろぐと、
「あ、目ェ開けた」
汗ばんだ山本は裸の肌を至の背中にぴったりと合わせていた。
いつの間にか至も制服を脱がされて、彼のペニスが挿入されたままだと分かる。
うつ伏せ寝で足を伸ばした寝バックの体位のまま、スライドするように腰を揺らし押し付けてくる動きに、
「っンンー~~ッッ!! ン~~ぅ~~♡」
また呆気なく射精させられる。
必死で声を堪えた至のアナルだけでなく、亀頭の先を押し込まれたままの腹の奥まで快感にヒクつくのが自分でも分かった。
「ハァッ、ハァッ」
背後から届く獣のような息遣いが飲むように途絶えたかと思ったら、至の薄い体を抱きしめた腕にチカラが籠り密着したままの山本の腹が震え、繋がったペニスがビクビクッッと震え欲望を吐き出したのが分かる。
「ア――……クソ気持ちィィ」
耳元で低く落とされた大人の男のような声にビクッと震えた至は、やっと離れて行った彼の肌に自分も汗ばんでいることに気づいた。
ズルリと抜かれたペニスに、開いたままヒクつくアナルを見られているようで落ち着かなかったが、身動きも出来なかった。
至もまたハァハァと荒い息を継いで、無意識のうちに半ば顔を埋めていた枕に噛みつく。
パチンと弾けるような音にゆるりと思考を動かしかけて――、
「よっつめェ~」
笑うような声と共に枕元に置かれたソレを、至は初めて認識する。
それはヌメヌメとまだ濡れたままのコンドームだった。たったいま山本が吐精した白濁を閉じ込めた、彼の欲望と快楽の証。
それがもう4つも至の枕元へと並べられていた。意識を無くしていた間も、山本は至を蹂躙し続けていた証拠だった。
それだけではない。至のアナルも、本来の自分を見失うようにして、性器に作り替えられたようにペニスを受け入れ感じ続けたし、腹の奥まで押し込まれ女性の膣のようにイキ続けた。
「もう1回イイ?」
今さら尋ねるように聞かれ、至は枕に顔を埋めたまま首を横に振る。
そうしている間もアナルは欲しがるようにヒクヒクとしたが、もう限界だと足腰を起こす気力さえない。
――おうち、かえれない……。
子どものようにグズグスと泣き出す至に、
「分かったから、もうしねーよ」
山本は至の上で腰を起こすと、彼をひっくり返すよう仰向けに促して、
「また今度な」
彼を絶望させるに充分な言葉を落としたかと思ったら、唇を押し付けるようなキスをした。
嫌がり顔を背けようとする至の両腕を掴んで、更に唇を押しつけ、舌を押し込む。
キスに関して至は最後まで抵抗していたが、それでも一度も止められずに注がれた唾液すら嚥下させられむせ込み笑われた。
そして再び足を開かされ、
「もう……イヤッッ!! やだぁ!!」
泣き声で消え入りそうな叫びを漏らすと、
「もぉヤんねーから」
言いながらもペニスの先を挿入され、ガクガクと震える。
そして一瞬遅れで気づいたのは、そのペニスがゴム無しで押し込まれたという現実だった。
「うぁ、生ヤベぇ……ハァ」
興奮を滲ませ言う山本の声に、
「嘘つき! 嘘つき!」
叫びながら腕を振り上げたが、すぐに止められ、腹の上に冷たい何かを当てられ――ピタリと動きを止めた至 に、
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……
追うよう浴びせられたのは、スマホのカメラから聞こえた連写音だった。
「撮影用だから、すぐ抜くから」
彼は言うが、至のアナルを穿つペニスの先はまた少し深度を増す。
そして腹の上に乗せられたビニール製の「何か」には、見覚えがあった。正確には、そのビニールのカバーを付けられた小さな手帳に。
1年生は濃緑、3年生は紺、そして至たち2年生は臙脂色の生徒手帳カバーだ。
臙脂色のカバーのビニールが、汗ばみ精液に汚れた薄い腹の上に乗せられて、男にペニスの先を挿入されたまま蕩けた身体と表情を記録に残されている。
「やめ……」
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……
更に音は響き、
「やだ……やだ……」
至の拒絶など届くこともなく、縁を縛られた4つの使用済みコンドームが生徒手帳の隣に放り投げられる。
生徒手帳は開かれ、至の写真の貼られたページを晒している。
そして掲げられるスマホの位置は変わり、恐らく絶望する至の顔すら写し出しているだろう。
「ひどい……」
両手で顔を覆い泣き出す至に、
「誰にも見せねーから、泣くなよ」
山本は言うとスマホを放り出し、至の泣き顔を見るために彼の両掌をその顔から引き剥がした。
■
次に山本と至 が顔を合わせたのは、更にその4日後だった。
それは日曜の夕方で、至はたまたま近所のコンビニで1人買い物をしていて、ドリンクコーナーのガラス扉の前で隣に立った男の距離が近く感じたのにそっと窺うよう振り向くなり顔を強張らせた。
「何飲むの? 至くん」
自分は最初からこの男の連れだったのだろうか? と至自身錯覚してしまうほど自然に、山本は尋ねると、
「えっ……えと、あの……」
「ジュースくらいオゴってやるから、ちょっと付き合えよ」
戸惑い言葉すら出てこないでいる至の飲み物はペットボトルのリンゴジュースと勝手に決め、レジへと向かった。
レジ周りは少し混み合っていたので、ひとつしかない出入り口の傍で彼を待っていた至に、山本はリンゴジュースのペットボトルを押し付け店を出て行く。
押し付けられるまま受け取ってしまったペットボトルを抱えて彼を追った至は、
「あ、あの……お金……」
慌てて財布を出そうとして、
「オゴりっつッたろ、金出してンじゃねーよ」
呆れたような口調で責めるように言われ、
「あっ、ありがとう……ございます」
お礼を言うしかなくてうつむいた。
コンビニからほど近い公園の花壇のブロックに腰を下ろし、手にしていた缶のコーラの蓋を音を立て開封した山本を、至は途方に暮れたような目で見下ろす。
「座れば?」
山本は言うが、腰掛けるというよりはほんの少しだけ地面より尻の位置が高くなる程度のブロックの上、山本が長い足を緩いあぐらのよう持て余している横へ、至は膝を抱えるようにして小さくなり座り込んだ。
「ケツ平気?」
そして突然掛けられた言葉に、いま口に含んだばかりのリンゴジュースを噴き出すように蒸せ込んだ。
「えっ……えと、あの……だ、だいじょ……ぶ、です」
ポケットからハンカチを引っ張り出して口を拭い、やっとのことで答えた至に、山本は、
「ふぅん」
と笑う。
それはいまブロックの上に食い込むよう座り込んだ薄い尻肉のことではなく、あの日散々彼を受け入れ性器にされた尻穴のことを言っているのだと分かるからだ。
「見かけによらずタフだよねェ、至くん」
そしてさも当たり前のように「至くん」と呼ばれるが、彼から何某かのよう呼ばれること自体が初めてだと気づき、今さらながらに戸惑い何も答えることができないまま俯くと、足元の土の上は今自分が吹き出したリンゴジュースで濡れていた。
「俺、男とヤんの初めてだったけど、意外と……」
「ヘッ!?」
そして山本の言葉に、至 は初めて自分から彼を見上げて真っ直ぐにその目を見た。
「ン? なに?」
促されるよう言葉を止めて待つ山本に、
「は、初めて……だったんですか?」
ならば何故? と至の目は物語っていたが、
「ケツは女とヤッたことあったけど、男は至くんが初めて」
彼は「何故か」は言わないままそう答えると、ニンマリと笑って見せる。
「またシよ?」
そして缶を持っていない方の手で至の頭をグシャリと掴むように撫で、恐慌したまま固まっている至がなにも答えない内に立ち上がった。
「至くん家もこの辺?」
尋ねられ、至は答えてもいいものかと躊躇ったが、中学の学区などたかが知れている。
誤魔化したところですぐにバレるだろうと頷くと、
「今度遊びに行くな」
大きく見下ろす角度の山本に言われ、日の落ちかけた視界は影に包まれた。
彼のスマホの中には、至が誰にも見られたくない写真が入っている。
それは今もそのポケットにあるのに、至は、「消してください!」と言えないままぎこちなく頷いた。
「心配すンなって、俺ら相性良かったろ?」
山本は言い、今度も頷くまで視線を離さなかった。
「可愛ィね」
そして女の子を褒めるように目を細めると、手にしていた空き缶を放り投げた。
危なげない軌道を描いたコーラの缶が、5メートルほど離れた場所にある公園のゴミ箱へガシャンと音を立て吸い込まれる。
驚くような目でそれを見送った至に、
「じゃーね、至くん」
山本は手を上げ言い、背を向けかけて、
「お、お兄さん!!」
至の声に、
「エッ?」
と声を上げ向き直った。
「何て?」
尋ねる声から笑いが途切れ、
「えっ?」
今度は至が戸惑うのに、
「何て呼んだ?」
更に尋ねられ、
「山本さんの……お兄さん……なので」
何がいけなかったのだろう? と戸惑う至が消え入りそうな声で答えると、
「いいじゃん、ソレ」
オオカミのような鋭い光を帯びていた山本の目がキツネのような弧を描き、伸ばした手で至を引き寄せその額にキスした。
すぐに解放された至がその場にヘナヘナと座り込むのに、
「またネ」
と笑う声。
そして、呼び止められた用件は何だったのだろう? という疑問は、そのまま忘れたようだ。
顔を上げた至の目には、既にシルエットとなった彼の後ろ姿しか見えなかった。
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