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第40話
新しい出会いと繋がり。
雑談をして、笑い合って、触れ合う機会も何回かあったけど、最後まで力は働かなかった。
────誰も傷つけなかった。
文樹さん達と別れ、家に帰ってからも、それはそれは落ち着かなかった。
宗一さんが帰ってきてからは、矢継ぎ早に今日のことを話した。初めて同年代の方と連絡先を交換したと話すと、彼は自分のことのように喜んでくれた。
「さすが! 力を制御できたこともすごいのに、友達までできたんだね」
「あ、ありがとうございます」
友達……。
まだそこまでは言えないかもしれない。初対面だし、遊んだわけでもないから。
でも、そうなれたら良いな。嬉しそうな宗一さんを見て、より一層想いが強くなる。
「あ……! それともうひとつ。文樹さんから、結婚してるのか訊かれまして。宗一さんが仰っていた通り、指輪って目立つんですね」
隣りに寄り添う彼の左手に視線を移す。
とても小さなものだけど、強い力を秘めてるんだ。
「そうだね。気になる人がいたら、まず指輪をしてるか見るから。……それはさておき、白希は何て答えたの?」
「えぇ。その……婚約者がいます、と。性別までは答えられなかったんですが」
みるみる声が小さくなる。自信なく答えてしまったけど、膝の上で拳を握り締める。
「ずっとずっと好きだった人……ということは、言ってしまいました」
文樹さんがぐいぐい訊いてくるものだから、途中からはただの惚気けになってしまったけど。
「……自分のことは誇れなくても、俺にとっては宗一さんが誇りだから。ここは躊躇いなく答えられました」
手は膝に乗せたまま、顔だけ彼の方へ向けた。
誰かに言ったら呆れられてしまうけど、これまでは外出も一人でできなかった。けど今日無事に行ってこられたのは、宗一さんが背中を押してくれたおかげだ。
「白希は本当、無自覚で褒め尽くすんだからな。反則だよ」
「わっ」
頬を指で押され、思わずよろける。
「私は自分が誇れるような人間とは思わない。むしろその逆……でも君にそこまで言われたら、本気で自惚れてしまいそうだよ」
「自惚れなんかじゃないです。宗一さんは俺の理想で、世界そのものですよ」
目を逸らさずに答えると、彼は露骨に頬を赤らめた。
「最近、可愛い台詞に磨きがかかってるっていうか……とにかく今すぐ抱き締めたい感じなんだけど、いいかな?」
「何ですか、ソレ」
可笑しくって吹き出した。多分、宗一さんの方がずっとピュアだと思う。いつも超然としてるイメージだったけど、案外よく照れるし、表情も感情も豊かだ。
やっと“素”の彼を見せてくれてる気がして、正直すごく嬉しい。
もっと色んな宗一さんが見たい。
腰を少し浮かして、彼の柔らかい髪をそっと撫でる。
「白希は自分を過小評価してしまいがちだけど。君は自分が思ってるよりずっと大人だ」
彼の髪から手を離すと、今度は彼に抱き寄せられた。
「私は君に救われた。君の想いが込められた手紙がなかったら、本当に退屈な毎日を送ってたよ」
「……もしかして、私の手紙をまだ持ってるんですか?」
「もちろん。全部大事に保管してる」
宗一さんは立ち上がり、どこかへ行こうとしたけど、途中で引き返した。
「見せようと思ったけど……やっぱりやめよう。白希はすぐ恥ずかしがるから、捨ててほしいと言ってきそうだ」
「う……!」
図星だ。十年前に書いた手紙なんて、絶対正視に耐えない。目の前にあったら彼が止めてもビリビリに破こうとするだろう。
当時は宗一さんに飽きられないよう必死だったし、とにかく重い好意を書きなぐってた気がする。全然思い出せないけど、子どもの頃の病んだ自分を思うと目眩がしそう。
「そ、宗一さん? せめて、俺が求婚してきた、っていう手紙を見せてもらえませんか?」
「うーん。あれが一番宝物だからなぁ……可哀想だけど、朗読で我慢してくれ」
「朗読はしなくていいです!」
「遠慮しないで。何度も読み返したから、一字一句違えずに言えるよ」
「駄目駄目! その記憶は削除してください……!」
近くへ寄ってお願いするけど、彼はどうしよっかなーと言ってコーヒーを入れ始めた。絶対俺をからかって楽しんでる。変なところで意地悪なんだから……。
愛の手紙は爆弾と同じだ。あれのおかげで宗一さんと繋がれたけど、内容は本当に痛い。気分的には吐血できそうだ。
それに、冷静でいられない理由はもうひとつある。
「俺も宗一さんの手紙は大事に仕舞っていたのに……あの火事で全てなくなってしまいました。本当に申し訳ないです」
彼との手紙が一番の宝物だった。初めこそ母に言われて送ったものだったけど、彼の返事が唯一の楽しみになって、生きる意味に繋がったんだ。
左手を押さえながら零すと、目の前にホットミルクが入ったコップを差し出された。
「今はこうして、毎日顔を見ながら話せる。今の君に手紙は必要ないよ」
彼は悪戯っぽくはにかむ。
「内容は忘れても、その時抱いた感情は覚えてることが多い。君が私をすんなり受け入れてくれたのも、私との文通が楽しかったからじゃないか……って勝手に解釈してたんだけど、合ってるかな?」
眩し過ぎる笑顔に見惚れながら、慎重にコップを受け取った。
「ご想像通りです」
笑って返すと、彼も嬉しそうに微笑んだ。
彼とは文通友達。それだけの関係なんだけど、いつしか俺の方が耐えられなくなったんだ。
この狭い箱から飛び出して、外の世界を教えてくれた宗一さんに会いたい。その一心で手紙を書いていた。時が経ち、便箋が増えるほど、その想いは強くなった。
「実は……初めは母に言われて書いたんです。あの頃はまだ宗一さんは村にいたから、繋がりを得ようとしたんでしょうね」
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