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OPEN_SLATE Countdown Leader

 ――その瞬間から、彼は僕のヒーローになった。  絵の具をぶちまけたような真っ青な空。じりじりと照りつける太陽の陽射し。  それと反比例するような、灰色に薄汚れた大学生活。  ただ、本当に運が悪かった。 「逃げてんじゃねぇよ〝ヒメ〟」  また今日も、助けを期待できない講義棟の陰。彼に目をつけられたのが運の尽きだった。  経済学部の御嵩綜真さん。大学内でも有名な、関わってはいけないアウトロー集団のひとり、というかその筆頭といえる存在。  入学当時からまことしやかに囁かれていた。  ――彼らは暇つぶしで人を賭けの対象にする、と。  人生を壊された人の数は少なくない。  賭けの手法も相手により様々。パシリに使われるくらいならまだマシな部類だ。  中でも一番最悪と言われているのは――。 「オイ、無視してんじゃねぇよ」  顎にかけられる手。向けられる視線。  顔だけは上品に整っていて、きっと良いところのお坊ちゃんなのだろう。  それに反して、傷んだ金髪とバーベルピアスが太陽光を眩しく反射している。 「かわいー顔してんじゃん。付き合おうぜ?」  一番最悪な賭けは「落とせるか」という醜悪なもの。これが一番タチが悪い。  落とせるまでは付きまとうし、賭けが成立したら見向きもされない。  ただ彼らの遊び心を満たすだけの道具。一度目をつけられたら身も心もボロボロになるのは分かっていた。 「いやあのっ御嵩さん……僕、男ですからっ……」 「そんなん知ってて言ってんだよ。俺じゃ嫌か?」  この賭けのなにが嫌かというと、男女問わないところだ。  噂によると御嵩さんはバイらしくて、「落とせるか」の対象は男であっても構わない。だから男だからといってこの賭けから逃れられはしない。  つまり一度目をつけられてしまえば、受け入れるまでは付きまとわれることは確実。  その間周囲からは「賭けの対象にされた」と憐れみの目を向けられる。  下手を打てば男とセックスをしたとゲイ認定までされる。まだ女の子ともシたことないのに。 「入学してきた時から、ずっと付き合いたいと思ってたんだぜ?」  それも全てこの名前のせい。  姫原草次郎。小学校のときからあだ名は〝ヒメ〟。  姫とか女の子みたいな要素は一切ないのに、名字にその一文字が入っているだけでそう呼ばれて悪目立ちし続けてきた。  大学ではそれらすべてをリセットして、彼女も作って平穏な日常生活を送りたかったのに。  拒否をしても意味はない。  彼らにとって僕らは暇つぶしの道具で、道具は逆らったりはしないから。  もし道具が逆らったりしたら、逆らわないようにするだけなのだと。  御嵩さんに目をつけられて、身も心もボロボロにされた人の話を思い出すと、恐怖で身体が動かなくなる。 「――邪魔なんだけど」  危機一髪の窮地。  そこに現れたのは、僕でも知っているほど大学内では有名な人だった。 「あ……」  女性と見間違えるほどきれいな顔。  民俗学部の綾瀬千影さん。  確か一年間留学か休学をしていたらしいけれど、大学内で彼の名前を知らない人間なんていなかった。  首席入学をした、大学はじまって以来の秀才。確か実家もお金持ちだとかなんとか。  それなのに、偉ぶった態度なんて全然なくて。僕みたいな弱者にも手を差し伸べてくれる。  その日以来、僕は千影さんに惹かれるようになった。  目の前で千影さんを見たのがはじめてで、だから気づかなかったんだ。  千影さんに向けられる御嵩さんの視線が、殺気の色に満ちていたことに。

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