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死刑執行人ハルキオン

 ハルキオン編には鬱的な表現が含まれます。ご注意ください    ***  カイラとヴェルトが初めて体を重ねてから数日が経った。  あれからヴェルトが何度かカイラの手伝いをしている以外、特に何も進展は無い。  ミキ捜索に関しても。  カイラとヴェルトの関係に関しても。 (……僕とヴェルトさんは、どんな関係なんだろう)  ヴェルトと共に大通りを歩きながら、カイラは思い悩む。 (仕事仲間? 友達? 先輩? ……まさか、恋人?)  老人が多い村の出身である為、これまで性行為はおろか恋愛経験すら無かったカイラ。  ヴェルトの呪いを解く為必要だったとはいえ、あの行為に意味を見出そうとしてしまう。 「カイラ君? どうしたの?」  様子がおかしい事に気付いたヴェルトは、カイラの瞳を覗き込む。 「あぁいえ、何でも」  とカイラは愛想笑いを浮かべた。  「そう」とヴェルトは返したものの、カイラの様子がどうも気にかかる。 (きっと理由はベッドでの事だろうな)  ヴェルトはカイラと|逸《はぐ》れないよう気を付け、人の間を縫うように歩きながら少々後悔する。 (いくら僕がギリギリだったとは言えやり過ぎたなぁ。いくら挿入までしてないと言っても、(うぶ)なカイラ君にあんな事しちゃったからな)  たった一夜。  たった1回。  ヴェルトにとっては数ある内の「たった1回」。  純粋で人生経験もそれほど無いであろうカイラの事だ。  たった一夜も彼にとってはとても大切な物だろう。  ヴェルトにとっては数ある内の「たった1回」……そのはずなのに。  その1回が、尊く感じられる。  それは相手が(うぶ)だったからか?  それは男性同士という、自分にとっても初めての経験だったからか?  ……今はとても整理ができないので、ヴェルトはこの問題を後回しにする事にした。  『そうやって問題を後回しにするのがお前の悪い所だ』とガゼリオという友人から注意された事を思い出す。 (まぁ、兜合わせだの挿入だの知ってるのはガゼリオ(あいつ)が原因なんだけど)  大広間の前を通りかかった時、悲鳴とも歓声とも取れる声が上がった。  大広場を支配するのは、戦慄と怖い物見たさの野次馬共の群れ。  その中央に木で出来たステージのような物が建てられており、人々はそれに注目しているようだ。 「あの……ヴェルトさん、あれは?」 「あぁ、公開処刑ってやつだね。何か悪い事したんだろうねぇ」 「え……?」  ヴェルトが何でも無い事のように話すので、カイラは怖気に全身を襲われ顔を青くした。    ステージ上にいるのは1人の男。  黒い上着、白いシャツを身に纏い、白いシルクの手袋を両手に嵌めている。肌の露出を徹底的に嫌っているのだろう。  癖のあるグレイの髪に、血を思わせる光の無い瞳。顔は病的なほど白く、右頬に大きな切り傷の痕が残っている。  死刑執行人兼拷問官ハルキオン・ブラッドムーン。  彼は代々レザーの死刑と拷問を司ってきた貴族ブラッドムーン家の血を継ぐ唯一の人間だ。  斧をひと振り。  これだけで人は簡単に死ぬ。  血塗れの斧を手にした死神ハルキオンが、たった今裁いた人間の生首を血の瞳で見下ろしていた。 「え……っ? 今、人が……!?」 「死んだね。処刑を見るのは初めてかい? もうちょっと近くで見てみようか」  とステージに向かおうとするヴェルトの手を、カイラは力強く握る。 「待ってください……! 嫌です……見たくありません」  それは、手に跡が残るのではないかと思うほどの力だった。 「分かったよ。……君は本当に優しい子だ」  怯えるカイラを落ち着かせるように頭を撫でたヴェルトは、彼を連れてその場を後にした。

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