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相談 その2
「笑わないでよ。こっちは真剣なんだから」
今、ヴェルトとダーティは机を挟んで椅子に腰掛けている。
衣服を身に付けたディックは彼らから少し離れた所で、平静を装いながらも必死に自身の性欲と戦っていた。
「なるほど初夜の失敗。よく聞く話だが、原因はヴェルトのナニなのか」
「半分に切れとまで言われたよ」
ダーティは再び大笑いする。
「カイラ少年もなかなかエゲツない事を言うな。あぁ、この前ほとんど話せなかったのが残念で仕方ない」
一息吐いてからダーティは続ける。
「……で? 相談しに来たからには見せてくれるんだろうな?」
ヴェルトは「ハッ!」と嘲笑し、やれやれと両手を軽く挙げる。
「見せる訳無いだろ」
ダーティはディックにアイコンタクトを送る。
ディックは「ん」と小さく唸った後、「『バインド』」と唱えてヴェルトの体を魔法のツルで捕らえた。
「いっ! ちょっと痛いんだけど!? 討伐するよ!?」
「構わねえが一気に殺すな。じわじわと追い詰めて……トドメはダーティに刺して欲しい」
ディックは冗談ではなく本気で言っているようだ。
「……はぁ?」
「ラブは私ですら手を焼くほどの被虐性愛者なんだ」
「SMってやつかい?」
「ラブの被虐性をそんな安っぽい言葉で片付けるな」
ダーティはヴェルトのベルトに手をかける。
「ちょっと……やめてくれる?」
ヴェルトは何とか魔の手から逃れようとするが、悲しいかな。抵抗虚しくダーティに下着を下ろされてしまう。
ヴェルトの下半身を前にしたダーティは「ふむ」と唸り顎に手を当てた。
「カイラ少年の言う通りだ。お前、半分に切れ」
「ごめんだね」
「王都に良い医者がいる」
「やだね。何が悲しくてちょん切る為に王都まで行かなくちゃならないのさ」
どれ。とダーティはヴェルトの萎えている陰茎に触れる。
「ちょっと、何してるの」
「何って……勃たせようかと」
「男に扱かれても勃たないよ」
「それはどうかな? ……実はなヴェルト。私が演奏家として食っていけるようになるまで、私は別の仕事もしていたんだよ」
「……はぁ。まさか男娼でもやってたのかい?」
「そのまさかだよ。男専門の男娼をしてた」
ヴェルトの冷ややかな視線をひらりと躱し、「あの日々が懐かしい」とダーティは呟いた。
「毎日別の男に抱かれたよ。比喩じゃない、本当に毎日だ。……楽しかったなぁ、様々な性癖の男がいてね____」
「ダーティ」
ディックが恐ろしい声色でダーティの話を遮った。
「悪かった。お前はこの話が嫌いなんだったな? ……でまぁ、私は勃たせるのが得意だ」
と言い、ダーティはなんとヴェルトの陰茎を咥えたのだ。
「ちょっと……本当にやめてくれる?」
ヴェルトの声に怒気が篭り始める。
「ほんふぉうひふぉいうぉおうおうお」
「咥えながら喋らないでくれる? 何言ってるのか分かんないよ!」
ダーティが「はぁっ」と熱い息を吐きながら口を離すと、まるで唾液が亀頭と口を結ぶ架け橋かのように糸を引いた。
「本当にカイラ少年が不憫でならない。初めてなんだろう? 初めてがこんな凶器とは」
上目遣いでそう話してから、ダーティは再びヴェルトの陰茎を咥えた。
「う……っ!」
執拗に舌を絡ませられる。男娼をやっていたというのは嘘ではないらしい。
カイラ以外の男にしゃぶられ、しかもそれに体が反応してしまう己を心の中で卑下しながら、ヴェルトは自身の肉棒を滾らせた。
「ほらな? ……本当にカイラ少年が可哀想だ。こんなモノを突っ込まれたら地獄の苦しみか悦びを感じるしかないだろう」
「お前もそう思うだろ、ラブ?」とダーティに呼びかけられたディックは、ヴェルトの前に回って屹立を見下ろす。
「ヴェルト……お前も色々大変だな」
これまでの性生活を察し、ディックは哀れみの籠った目でヴェルトの顔を見る。
それが妙に癪に障ったヴェルトは、
「ご主人様にセックスと射精と勃起取り上げられた三流以下インキュバスが生意気言うなよ。サイズは大きいみたいだけどカイラ君のお粗末ちんちんよりお粗末だよ」
と早口で捲し立てた。
「てっ、テメエ……!」
ディックは顔を真っ赤にして更に凄みのある声を出す。……だが、怒ってはいないようだ。
「ヴェルト……王都に良いSMの店があるんだが、そこで帝王にならないか?」
ヴェルトに素質を見出したらしいダーティ。
「……ならないよ。いい加減離して」
「仕方ない。ラブ、離してやれ」
ゆっくりと魔法が解けてゆき、ヴェルトは自由の身となった。
「せっかく勃ったんだ。射精させてやろうか」
下ろされた下着やズボンを履きながらヴェルトは「結構だ」と答えた。
「なんだつまらない。……そうだ、失敗した後、ヴェルトはどうしたんだ? カイラ少年に抜いてもらったのか?」
カイラに抜いてもらったのではなく、カイラに覆い被さった状態で自分を慰め、欲望の塊をカイラの腹へぶっかけたのだが……
「君に教える必要ないだろ」
とヴェルトは冷たくあしらった。
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