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どこで感じているの?

 俺はその日、初めて男のひととセックスをした。どうしてそんなことになったのか、そんなことをしようと思ったのかは、俺にだって分からない。分からないけれど、その日初めて誘われ一緒に食事をした大人の男のひとと、ラブホテルに行って、彼に抱かれた。  初めてお尻を使ったセックスをした俺に、その人は優しかった。ゆっくりと丁寧に愛撫され、何度もおちんちんでイカされた後に、敏感になった身体を更に開いていくようアナルへのマッサージを受けて、お尻の穴とおちんちんを一緒にされてイッた時はものすごく興奮した。それから更にアナルをほじくられて、とうとうお尻の中だけの気持ちよさでイカされて、おかしくなっちゃいそうなくらい気持ちイイのに何度も何度もイッてから、彼のおちんちんを入れられた時は気持ちよすぎて女の子みたいな声を上げていた。お尻の穴におちんちんが入ってるの信じられないって気持ちと、おちんちんの先っぽに気持ちいいところを何度も何度も擦られるのが良すぎて怖くて。だけど逃げることなんて出来なくて、おちんちんでもイッた。イッてもやめてくれないおちんちんに、俺は腰を抜かしたまま何度もイカされて。朝まで何度も何度もセックスした。ぼおっとなった頭が何度も真っ白になって、もう射精してないのにイッてて。その快感はおちんちんでイク時とは全然違う、頭がおかしくなりそうなくらいの快感。頭の中も、身体も溶けちゃうくらい気持ちいいってことしかなくて。彼に言われるままどんなことだってした。彼のおちんちんにイクまで突いてもらえるなら、なんだって。彼のおちんちんをフェラチオだってしたし、口の中に出されたものも飲み込んだ。最初は嫌だって気持ちもあったはずなのに、精液を飲んだらますます興奮して俺はおかしくなった。おかしくなった俺は彼のおちんちんが生で欲しくなって、自分からお願いしてコンドームを外してもらった。生のおちんちんにゴツゴツと突き上げられるたび、俺のお腹の中は切なくて切なくて、大きく開脚した足を押さえ込まれるよう折り重なってきた腰に、更に奥までおちんちんが届くのに、俺は獣のような声を漏らした。足の先がビクビクと震えて、息が出来なくなるほどの快感に身体中がシビれて、俺のおちんちんの先が壊れた蛇口みたいに透明の液をこぼし始めた。本当なら羞恥しなければならないだろう状況なのに、俺はそれにすら興奮した。おちんちんの先からジョボジョボと溢れさせながら、快感に悲鳴を上げてイキ続けた。彼のおちんちんが俺のお尻の中をジュボッジュボッと深く突きながらストロークして、俺は声を上げ続けながら何度も何度も痙攣してた。その頃になってもキスすることには抵抗があったのに、イキながらキスして欲しいって思ってた。腰の横でシーツを掴む俺の手は強張り震え、自分の足が揺れるのも見えてた。男は楽しげに目を細め、舌舐めずりした。俺は気持ち良くてたまらなかった。今まで生きてきて、こんなにイイ思いをしたことはないってくらいその快楽に溺れた。それはまごうことなくメスの快楽だと思った。俺はよく知らない男の身体によってメスにされ、それからの俺はオナホみたいにただ使われた。までずっと。 「もう無理です……」  って言うのに、俺のお尻が彼のおちんちんを欲しがってヒクつくの自分でも分かった。何度も笑われて、欲しがるように言われ、欲しがる言葉を口にした。  自分から、 「犯してください」  とか、 「中に出してください」  って言って、本当にそうされた。  拘束された訳でもなく、アルコールや薬物を盛られた訳でもなく、俺は自分の意思で男に抱かれた。いや、抱かれるだけではなく、堕として欲しい、壊して欲しいと懇願した。  その人は、俺のバイト先へ週に二度は訪れる大人の男のひと。俺のバイト先はシネコンだから、カフェなんかと違って週に二回も顔を見れば常連さんと言えた。都会のシネコンならどうか分からないけれど、平日のシアターは客席もまばらで、いつもカウンターでチケットを購入する彼の名前は知っていた。柾邑(まさむら)さん。会員証にも書いてある。結局こうなるまで、一度もその名前を呼んだことはなかったし、俺のバイト制服の胸に付いている名札にあるKoosakaの名前を呼ばれることも無かったのだけれど。  朝になって、彼は車で俺を家まで送ってくれた。始発は出ていたけれど、足も腰もガクガクでとても1人で帰れる状態に見えなかったからかも知れない。柾邑さんは別れ際にお金をくれた。俺が欲しいって言った訳では無かったけれど、口止め料みたいなものだったのかも知れない。部屋に帰ってから確認したら、1万円札が7枚もあって驚いた。部屋に帰ってからも、俺のお腹の奥には彼のおちんちんの余韻が残ってた。ビクビクと震えるみたいにして快感の余韻を拾う身体が切なくなって、俺はオナニーをして自分を慰めたけど、精液はもうほんの少し溢れ出ることしか出来なくなるまで絞り尽くされていた。  俺は柾邑さんの連絡先を知らなかったし、彼も俺の連絡先を聞かなかった。俺には付き合って1年になる恋人がいる。もちろん相手は女の子。彼女は合コンで知り合った同い年の子。同じ大学で、学部は違うけれど週に3日は一緒に過ごしていた。俺の初体験の相手で、女性は彼女しか知らない。彼女はどうなのか? なんて聞いたことも無いけれど。彼女は俺の部屋によく泊まっていったけれど、俺らのセックスの頻度はそう多い方では無いと思う。元々からそうだった。それでもする時は興奮していたし、セックスすれば気持ち良かった。そう思っていたのに、柾邑さんとのセックスは彼女とするセックスとの比ではなかったのだ。興奮も、快感も、全く別次元のもののようだった。男女間の役割的にも彼女とのセックスは俺が能動的に動き、彼女を気持ちよくさせてあげることの方に気持ちがあったし、俺が彼女を攻める立場だった。それに対して、柾邑さんとのセックスでは俺が彼に攻められて――なんてものじゃないくらい、身も世もなく攻め尽くされて、何も考えられなくなるくらい溺れて欲しがって、おちんちんに犯してもらえるならどうなったっていいってバカになるほど狂うもの。  比べられるようなものじゃなかった。彼女とのセックスは一晩に一度が限界。というか、そんなものが普通だと思ってた。だけど柾邑さんとのセックスは一晩で数え切れないほど、体力が続く限り何度も何度もハメられて、生のおちんちんに何度も中出しされて。はあっ……思い出すだけで、お腹の底が熱くなって、たまらない気持ちになる。彼にはそれが種付けだと言われた。途中からはもう徹底的に種付けをされた。俺は種付けされ幸せだった。何度も求めた。あんな快感があるって、俺は知らなかった。彼とまたセックスできるのなら、何だって言いなりになれるって思考は、自ら奴隷に志願するような気持ち。  またあの夜みたいに、 「おちんちんが欲しいです」  って言いたくて、バイト先で彼の姿を探したけれど、アレからは一度も彼を見ていない。  もう来てくれないつもりなんだろうか?  彼女とのセックスもしないわけにはいかないから、なんて気持ちでしていたけれど、その快感は物足りないものだった。時にはおちんちんが勃たなくて、こっそりお尻の穴に指を入れて前立腺を擦って無理矢理勃たせたりもした。  そうして独りの夜には当然のようにアナニーを始めてしまい、ますます柾邑さんのおちんちんが欲しくてたまらなくなった。ネットで購入したディルドは、柾邑さんと比べると太さも長さも足り無かったみたいで失敗だった。だけど指だけでは我慢できなくなって来ていたから、ディルドを騎乗位みたいな動きで出し入れして快楽を貪った。ディルドでのアナニーでも、彼女とのセックスよりはずっとずっと気持ち良かった。夢中になり過ぎて、とうとうディルドでもメスイキ出来るようになってしまって、その多幸感に酔いしれながら眠るのが大好きだった。  それでも彼女との関係を取り戻したくて、一度彼女に、 「生でしてみたい」  って言ってみた。  当然のように拒否されて、それは確かに妊娠の危険性とか考えたら当たり前だったのだろうけれど、俺は落胆した。生でしたら、彼女とのセックスだってもっと気持ちいいって思えるんじゃないか? って希望があったから。そして彼女とのセックスはますます虚しくなった。  憤りを覚えた俺は八つ当たりみたいにしてコンドームの箱を捨てたけれど、それはもしかしたら彼への劣等感のようなものだったのかも知れない。俺は彼女とのセックスに物足りなさを覚えるようになっていたけれど、彼女だって同じ気持ちだったかも知れない。だって彼女は女性なのに、なのにあの快感を知らないんだ。メスになった俺が味わった快感を、そして堕ちた快楽を、俺は彼女に味わわせてあげられていないだろう。あの時の俺みたいに、あんな風に息も絶え絶えに喘ぐ彼女なんて見たことない。悲鳴じみた嬌声を出させたこともなければ、理性が壊れる恐怖に必死で逃げを打つ声を上げさせたことも、痙攣イキしながらおちんちんのことしか考えられなくなってる彼女なんて見たことない。俺だって彼女を満足させてあげられてない、自分が感じたメスの喜びを彼女は知らないって思ったら、今更ながらに彼女以外の人とセックスをしてしまった、しかも相手は男の人だったってことに罪悪感を抱いた。  そして、彼女に今まで以上に優しくしてあげなくちゃ――って思ったころ、俺は彼と再会をすることになったのだ。 ■  彼の姿を見つけた時、俺の身体に電流のようなものが走ったような気がした。ドキドキして、足が震えて、息が苦しくなって、目が潤んできた。そして、今まで感じたことも無いほどの欲求がムラムラと湧き上がったのだ。その日も平日で、その日は特にお客さんの入りが少なかった。  彼がシアターに入り30分ほどした頃に休憩に入った俺は、こっそりと彼に近づき空いている隣の隣の席に座った。シアター全体を見ても彼の他に5人ほどしか居なかったし、彼の席は最後列の端の席だった。どころか周りには誰も居ない。すぐに俺に気付いた柾邑さんにチラッと見られたかと思ったら、彼はひとつ席をずらすように隣に移動してきた。さらに心拍を上げた俺の胸など知る由もないのだろう、彼の手がまだゆるく勃っている程度だった俺の股間をまさぐると、躊躇う素振りもなくパンツの中まで手を差し込んできた。俺はゾクゾクと震え、膝を開いた足を突っ張った。声が出そうになるのを両手で抑えて、ギュと目を閉じて。そして彼の手が俺のおちんちんをめちゃくちゃに擦って、俺は必死に声を堪えながらずりずりと崩れ落ちるよう椅子に浅く腰掛けながら、何度も何度も身体を強張らせイクのを堪えた。でもダメだった。  ――イクイクイクイクイクッッ! って胸の中で叫んで、とうとう彼の手に身を任せ、パンツの中で射精してしまった。射精中ビクッビクッて大きく震えて、とうとう最後まで声を出さずにはいられたけれど鼻息はフーフーと強く弾んでいた。俺は快感の余韻に震える手で、ズボンのポケットに入れていたメモを彼に渡した。それから席を立ちシアターを出ると、トイレへと駆け込み、更にオナニーした。  汚れたパンツはゴミ箱に捨てて、後からバイトの自分が回収した。替えのパンツなんて持ち歩いていないから、ノーパンのままそこから更にバイト時間は2時間あって。バイト上がりにスマホを見たら、柾邑さんからのメッセージが届いていたのに声を上げそうになった。それからは、目の前に餌をぶら下げられた犬のようなものだった。興奮しながらもこっそりと着替え、従業員出口を出るまでは駆け出さないようにおさえるの、必死だった。外に出たら、柾邑さんがタバコを吸いながら俺のことを待っていて、俺はその姿を見つけただけで腰が砕けそうだった。  どちらから誘うとかそういう言葉もなかった。ただ待ち合わせるよう落ち合った俺は、「行くぞ」とでも言うように背を向けた彼について行き、夕飯をご馳走になった。それから彼の車に乗って、ラブホで抱かれた。ノーパンのままバイトや外食をしていた俺は、彼から変態だと揶揄られ、それにもゾクゾクと興奮した。それからやっぱり頭おかしくなるほど何度もイカされまくって、自分からもおねだりするほど気持ち良くてたまらなくて。続けて3回はセックスした。俺のお尻の穴はまんこって女性器の名前で呼ばれ、自らそう呼ぶことを強要された。  手慣れたように潮吹きもさせられたし、 「潮吹きまんこにしてもらえて嬉しいです」  って言わされたし、俺は本当に嬉しいと思ってた。 「セックスありがとうございます」  って言わされたのも本気だったし、 「中にください!」  っていっぱい叫んだ。  でも言うまでもなく最初から全部ナマで、全部種付け。意識が飛ぶほど気持ち良くて、彼になら何でもされたい。俺はもう完全に彼のメス扱いだった。  それから彼がペットボトルの水をとりにいくため一度ベッドを離れたのに、ほったらかしだったスマホを確認した俺は、ちょうどのタイミングで届いた彼女からのメッセに震えた。 『今どこ?』  もうずっと前にバイトが終わっていることは知っているのだろう彼女に問われたけれど、 『男のひととラブホに居る』  なんてなんて返信できないし、だからといって電話も出来ない。  どうしよう……って震えていた俺の後ろから、 「お前、女いンの?」  届いたのは、柾邑さんの声。  彼は俺の肩越しに覗き込んでいたスマホを取り上げると、咥えタバコのまま断りもなく彼女とのトークを遡り、笑うような息で鼻から煙を吐いて、 「ハメ撮りくらいねーの? 健全な大学生だろーが?」  言いながら、俺のスマホで裸のままの俺の写真を撮った。  シャッター音に慌てた俺がスマホを取り戻そうとするのをあっさりと避けた彼は、 「送っちゃった♡」  ニヤリと笑い言った。  俺はきっと絶望するみたいな顔をしたのだろう。 「悪ィ、ウソだよ」  彼はタバコ持った手で、俺の頭を軽く小突くみたいに押し離し笑う。 「ひどい」  涙が出て来るのが、自分でも分かった。 「テメーの女放ったらかしにしてチンポ咥え込んでる奴がナニ言ってンだよ、バァカ」  しかしまた笑われ、 「ケツ出せ」  命令するよう押し倒されたと思ったら、俺を制圧するよう後頭部から押さえ込まれ、後背位から再びハメられ、咥えタバコの彼に前立腺の上をグリグリと擦り上げられた。 「あっ! あっ! あああぁぁ!!」  裸の腰の上にまだ少し熱い灰を落とされ、ビクンと震えた俺の腰も押さえぬまま、太くて硬いおちんちんを更に奥までブチ込まれた。既に出されていた精子がジュポジュポと水音を立てて、絡み吸いつこうとする俺の腸内を潤滑する。  それは女性器のようでいて、だけど、 「クセになるのはコッチ」  だと、その男を悦ばせた。  俺は結局彼女に何も返信出来ないまま、 「彼女いるのにこンなことしてイイのかよ?」  尋ねられイヤイヤと首を振る。  俺はゲイではないのに、なかったはずなのに、お尻の穴におちんちんを入れられてる。 「ナイショにしてンの?」  優しげに尋ねられ、何度もうなずく。男のひととエッチしてるのも、気持ち良くなっちゃうのも、彼女には秘密。 「彼女にバレたらどーする?」  更に責めるよう尋ねられ、そんな想像が過ぎったのにゾクゾクッと震えた。俺がメスになって柾邑さんのおちんぽ欲しがってること、彼女に知られたら死んじゃう。だけどこんなに気持ちイイおちんぽを、やめることなんてできないよ。 「彼女に突っ込むチンコより、男に突っ込まれてるケツのが気持ちイです、って言ってみな?」  そして服従しろと言うように煽られながらピストンを止められて、尻たぶを手のひらで打たれた。熱い痛みが走って、なのに俺は興奮でヒィヒィと鳴いた。熱が広がって、腫れるよう火照る。  しかしじんわりと散っていく熱さに、俺はまた刺激が欲しいと彼のおちんちんをキュンと締め付け、 「か、彼女に突っ込むおちんちんより……柾邑さんのおちんぽを突っ込まれてる、お、お尻の方が……いっぱい……いっぱい気持ちイイ、です」  もうピストンが欲しくてたまらなくて、早く欲しくて我慢できなかった。動画に撮られていたのも、おちんぽを入れられたままで写真を撮られたのも分かっていたけれど、それでもおちんぽを我慢できなかった。満足したのだろう柾邑さんは、また腰を動かし始める。そして俺はそれからも言葉でいっぱい責められながら、ハメ撮りされた。  ここに居ない彼女に向けて、いっぱい、 「ごめんなさい」  って言わされた。「ごめんなさい」って言うたびに自分で興奮して、気持ちイイの凄くなって。理性も思考も全部、頭の中が溶けちゃうって思った。脳髄は溶けて、心臓がドクドクと強く打つのを感じて。欲望はお腹の底から幾らでも溢れ出た。彼女とのセックスじゃイケないところまでイッてるのに、更に「もっと」って床に吸着させたディルドに杭打ちする時みたいに、逞しいおちんぽから真っ白な種が溢れ出すまで自分から腰を上下させ、のけ反りながら彼と共にイく。快感の余韻が引かないうちに俺はベッドへと沈められ、深いキスをされ唾液を飲まされながら、ビクビクと震えの残る足を開かされ更に挿入され、キスの途中でベロを出したまままたイッた。それから俺はイッてもイッてもメスイキ止まらないのに潮吹きしながら、荒れ狂うみたいに激しくなる彼の腰に奥まで掘られるみたいにファックされ、死にそうなほどイキ狂うのだった。 ■  その日から俺らは、会うたびにセックスをするような関係になった。柾邑さんはその度に、おこづかい……というには大きすぎる金額を俺に渡した。つまり、パパ活みたいなこと。  それでも俺は、彼女とも微妙に距離置いたり置かれたりしながら。ハッキリお別れ出来ないまま、罪悪感を抱えたままずるずると続けていた。  一度、 「柾邑さんはどうして俺を抱こうと思ったんですか?」  って、そういえばナンパみたいなものだったなと思い聞いたことがあった。  すると柾邑さんは、 「ン? なんか可愛いと思って、鳴かせてみたくなった」  そんなことを言って笑い、揶揄うように俺の耳をくすぐった。  それだけの気まぐれで手を出されたのか――って思ったら、自分だけ悶々としてるみたいで釈然としなかったのも本当だけど、そんな俺を見て、 「可愛い」  って言う柾邑さんにソワソワしてしまうのも抑えきれない俺は、彼のような人からすればものすごくチョロい男なのだと思う。 「他の人ともこういうことしてるんですか?」  って訊きたくなるのを我慢しながら、本気で柾邑さんのこと好きになっちゃったんだ俺……って思いはもうずっと前から抱いている確信。そんなことを浮かべながら、くっついていた距離からすり寄ったらまた押し倒されキスされて。正直言うとキスには最後まで抵抗があったはずなのに、もうすっかり好きって思ってるのを思い出す。  そうしてそのまま、また頭のなか真っ白になって何も考えられなくなるまで快楽責めをされて。  俺は無自覚なまま、 「好きっ、好きっ!」  って言っちゃってるんだ。けれど言うたびに、更に激しく責められてることにも気付いていない俺なのだけれど。  俺は彼にバイト先も知られてるし、車で送ってもらった一人暮らしのアパートも知られてるし、大学も知られてる。けれど俺が柾邑さんについて知ってるのは、名前と乗っている車種くらいで。どこに住んでいて、なんの仕事していて、既婚なのか未婚なのか、何歳なのかすら何も知らないまま。 ■  春になって、大学卒業を機に、俺はやっと彼女に「お別れしよう」って言えた。  それから後日、彼女は柾邑さんの車に乗り込む俺をたまたま見かけたようだ。俺のこと交友関係とかなんでも知ってると思っていた彼女だったから、「誰だろう?」って他に居ないタイプの彼に違和感覚えもしただろう。けれどもう別れた相手のことだし、その頃には好きとかもなかったし、新生活も始まってるし、新しく付き合い始めた彼氏もいるからすぐに忘れちゃったんだけれど。

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