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第19話②
クレイドはリオンの身体の上に膝立ちになると、隊服の上衣とシャツを振り捨てるようにして脱ぐ。
鍛え上げられた見事な上半身が露わになり、リオンはごくりと生唾を飲み込んだ。
太くたくましい首に発達した筋肉の付いた胸、引き締まった腰――。隣室から漏れてくるランプの灯りで浮き上がったクレイドの姿は、とてつもなく魅力的だった。
(ああ、なんて綺麗なんだろう……)
リオンは寝台に横たわったまま、手を伸ばしてクレイドの肌に触れた。固く張り詰めた筋肉とそれを覆う滑らかな肌の感触に、ぞくりと官能が引き出される。
「リオン様――」
クレイドがリオンの指を握った。そしてそこへ口づけてくる。そして今度は身体を倒し、そっと唇にキスを落とした。
軽やかなキスは段々重く押し付けるようなものになり、やがて舌先で唇と歯列を割って熱い舌が潜り込んでくる。
「……ぁ……」
クレイドの温かい舌を自分の内側に感じて、リオンはぞくぞくと身体を震わせた。口の中を舐められるという初めての感触に、どうしたらいいのかわからなかった。身体が慄いて、でもすぐにその感触に夢中になった。
ぬるぬると舌同士が触れると、身体の芯が蕩けそうになるくらいに気持ちが良い。
「……ぅ……ん……」
だけど深いキスは初めてで息継ぎがうまく出来ない。しまいには息が苦しくなってきてしまって、リオンはクレイドの胸を叩いた。
「く……るし……っ」
途端にはっと我に返ったクレイドが唇を離す。
「リオン様、大丈夫ですか?」
「ん……、ごめ、苦しく、て」
リオンははあはあと息を整えてから、クレイドを見上げた。
クレイドの薄い唇が濡れて艶やかに光っていた。その唇がいままで自分に触れていたのかと思うと堪らない気持ちになり、リオンはクレイドの首に手を回して引き寄せた。
「……でも……すごく気持ち良かったから……もっとして?」
「リオン様……」
クレイドが眉をひそめ、困ったような怒ったような顔つきになった。それでも優しくキスを再開してくれる。
今度は唇を大きく開いてクレイドの舌を受け入れた。クレイドの舌は分厚くて大きく、深く差し入れられるとリオンの小さな口はいっぱいになってしまう。でもそれが堪らなく心を満たす。
「……ん、んっ……ふ……ん……]
リオンは甘く鼻を鳴らしながら、薄く小さな舌で必死にクレイドの舌を追いかけた。クレイドの舌は滑らかなビロードのようで、すり合わせて絡めると頭がぼうっと霞んでくるほどに心地よい。
その拙い動きがクレイドを刺激したのかもしれない。途端に口づけが激しく情熱的になった。
口の中を余すことなく舐められ、舌先を甘噛みされ、呼吸まで吸い取るような勢いで舌を強く吸われると背中から頭まで痺れるくらい快楽が湧き上がってくる。
「可愛い……口の中にしまえなくなったんですか?」
気が付くとクレイドの唇は離れていて、至近距離からじっと見つめられていた。リオンはとろんと目を瞬く。
「……?」
くすくすと笑いながら、クレイドの指がリオンの舌先を摘まむ。そうされて初めて、自分が舌をだらんとはみ出させてしまっていたことに気が付いた。あまりに吸われすぎて、舌の感覚がおかしくなってしまっていたようだ。
「ごめ……きもち……よくて……」
じんじんと痺れる舌でたどたどしく言うと、クレイドが堪らないとばかりに熱い息をはき、頬や鼻に何度もキスを落としてくる。
「ああ、これほどリオン様が魅力的だとは……獣化してしまいそうだ」
確かにクレイドの灰色の目は、ほんの少し金色みを帯びていた。大丈夫なのかな……とリオンが眉を下げて心配していると、クレイドがリオンの頭を撫で、優しい声で言った。
「ごめんなさい、怖がらせてしまいましたね。大丈夫ですよ、あなたが嫌がることは絶対にしませんので」
「怖くないよ。クレイドにされて嫌なことなんてないもの」
安心させたくてそう言ったが、クレイドはなぜかぎゅっと眉を寄せている。
「リオン様……そういうことは言わないでください」
「どうして……?」
「俺が我慢できなくなってしまうんですよ」
「え」
リオンはクレイドの顔をまじまじと見た。
灰色の瞳に金色の粉を振りかけたような不思議な色合いの瞳が、ぎらぎらと強い光を放っている。奥歯を噛み締めてこちらを睨みつけるような眼差しで見つめるクレイドの顔には、はっきりとした発情の色が見えるようだった。
好きな男が自分で興奮してくれているということが、目が眩むほどに嬉しい。リオンは片手を持ち上げ、そっとクレイドの頬に触れてみた。
温かい肌がしっとりと手のひらに張り付くようだ。首の方に手を滑らせると、小麦色の皮膚の下で、どくどくと早いリズムで血潮が流れているのがはっきり分かった。今クレイドが生きているという尊い証。
「我慢なんて……しなくていいよ……」
誰よりも愛しい相手が生きていてくれて、そして自分も生きていて、同じ想いで向き合っているということは間違いなく奇跡なのだ。
今という一瞬の命の実感を、触れあうことができるという幸福を、余すことなく二人で感じ合いたい。
「愛してるから……大丈夫……さっきクレイドは言ってくれたでしょ? どんな僕でも受け止めるって。僕もそうだよ。どんなあなたでもいいよ。あなたでさえあればそれでいいよ……」
だから心を解き放って欲しい。本当の顔を見せて欲しい。自分の本当の心をみせることを、怖がらないで欲しい。
気持ちを込めて微笑むと、クレイドは目を大きく見開いた。ぐっと奥歯を噛み締める。
「リオン様……っ」
クレイドは獰猛な唸り声をあげてリオンの唇に噛みついてきた。リオンの頭を両腕で抱え込むようにして、激しく口づけてくる。
「ん……ぁ……クレイド……」
クレイドはリオンの唇と口の中を荒く乱しながら、リオンの腰元の紐を解いた。着物の合わせ目を強引に割り、むき出しにした肩や胸を大きな熱い手のひらで忙しなく撫で擦ってくる。
獰猛な唇も手のひらも、熱い肌も絡みつくような視線も、すべて自分という存在を求めるがゆえだと思うと堪らなく嬉しい。
リオンも湧き上がる衝動のままにクレイドの肌に手のひらを這わせた。背骨のくぼみを辿り、引き締まった腰のラインを撫でる。
リオンの首筋を吸いあげ鎖骨を舐めていたクレイドが、気持ちよさそうに目を細めるのが見えた。
(気持ち、いい――)
肌と肌の触れ合いで生まれるのは快感だけじゃない。
情熱と愛をお互いの身体に注ぎ、注がれて、心までいっぱいに満たされる。心も体も際限なくどこまでも高まっていく。
「あっ……」
唇で胸の先を捉えられ、鋭い快感が走った。
ねっとりと舌先で舐められ、つんと粒が立ったところを熱心に舐めしゃぶられると、じくじくした重い快感が下半身に溜まっていく。
ふいに足を開かされた。クレイドの手が容赦なく残っていた下衣を剥ぎ取り、足の中心に触れる。
「ぁ……ん……」
リオンのその場所はすでに立ち上がり濡れそぼっていた。
直接与えられる刺激は強烈だった。くちゅくちゅとクレイドのおおきな手が茎を包んで上下する。蜜を溢れさせる先端を手のひらで包まれ揉まれるとすぐに射精感が高まってくる。
それなのにクレイドは左手を伸ばしつんと立ち上がった胸の先をいじり始めた。
「あっ、だめ、クレイド、一緒は――」
性器を擦られ、胸をいじられて、リオンは両方に与えられる刺激に首を打ち振って悶えた。
指でこりこりと乳首を摘ままれ、胸全体を掴むようにして揉まれる。右手では先端からにじみ出る先走りを茎の方まで伸ばすようにして刺激されると、過ぎた快感に身体が細かく震え始める。
「あ、や、もう、い……、――っ」
太ももがびくびくっと痙攣し、リオンは為すすべもなく白濁を吐き出した。
今まで感じたことのない圧倒的な快感だった。頭が真っ白で、太ももも下腹も何度も痙攣するように震える。
ひとの手で与えられる快感がこれほどすごいなんて……。
ただ目を閉じて必死に荒い息を繰り返していると、足を左右に大きく割り開かれた。リオンははっと目を見開く。
「え……な、に……?」
信じられなかった。クレイドがリオンの足の間に頭を伏せ、達したばかりで白濁に塗れたものに舌先を伸ばしていたのだ。
「ああ……あなたのここはこんなにも甘いのですか……」
うっとりと呟くと、クレイドはまた性器に舌を這わせ、滴る白濁を舐めとる。途端に萎えていたものがびくん、と震えた。
「ああ、やだっ……クレイド……!」
止める間もなく、クレイドが大きく口を開き、立ち上がりかけた性器を口腔に迎え入れる。
「あ、っ……はっ……クレイド……あぁ……っ」
愛しい人の口でそんなことをさせるなんて駄目だ……。
理性ではそう思うのに、びくつく腰を抱え込まれて深く咥えられると、自然と腰が押し出すように揺れてしまう。
ただリオンは甘く切ない声で喘ぎながら、暴力的ともいえるすさまじい快感に酔いしれた。
あからさまな音を立ててしゃぶられ、尖らせた舌先で先端の小さな穴を抉られ、大きな手で付け根の二つの袋を丹念に揉みこまれると、発情して白く靄掛かった頭ではもう何も考えることが出来ない。
「――あ、あ、きもち、いい……」
腰が何度も浮き、また下腹に熱が集まってゆく。クレイドの口内は熱くぬかるみ、リオンを確実に追い立てていく。
今度の波は信じられないほどに高かった。何度も打ち寄せては引き返していく。その度に高く、大きく、途方もなく大きくなっていく快感の波に、リオンは抗いようもなくのみ込まれていく。
「あ、もう、いく――。…………っ」
あと一歩というとき、急にクレイドの口が離れた。突然宙に投げ出されたような不安定さに目を瞬く。
「クレ……イド……?」
クレイドはリオンの身体をうつ伏せにして上半身だけをシーツ添わせると、小さな尻を高く持ち上げた。尻たぶを割り開き、後孔へと手を伸ばす。くちゅ、と小さな水音がきこえた。
「……あっ」
リオンはぶるりと身体を震わせた。
発情したリオンのそこは、すでにたっぷりと蜜をこぼしているようだ。
「よく濡れている……」
クレイドがうっとりと呟き、武骨な太い指をゆっくりと差し入れてゆく。
ひくひくと震える入り口は初めての侵入者に慄いたが、やがて内壁をうねらせて従順に甘え絡みつくのが自分でもわかった。
「ん――……」
勝手に背筋が反って、クレイドの指をしゃぶるように締め付けてしまう。
「痛くは……ないですよね。ふふ、気持ちよさそうだ……」
たっぷり濡れそぼったそこを指が弄るたびに高い水音が響く。
さきほど射精が許されなかったリオンの性器からは、先走りとも精液ともつかない透明な液体が糸を撚るようにして垂れていた。じわりじわりと敷布に染み込んでいくそれをはしたないと思う理性はもうどこにも残っていなかった。
クレイドが手のひらを返し、じくりじくりと腹側の内壁を探る。ふいに身体に稲妻のような鋭い快感が走った。身体がびくんと震え、かかとが寝台の敷布を蹴飛ばす。
クレイドの指が、身体の中にある快感の源の膨らみに触れたのだ。
「あ……っ、あ、クレイド……! そこ……っ」
「ここが……いいんですね?」
クレイドは熱い息を吐きながら身体を倒しうなじを舐めた。同時に情け容赦なくその膨らみを指で揉みこまれ、リオンは尻を高く上げた格好のまま、シーツに額を押し付けながら喘いだ。
「……あっ……だめ……だめ……っ」
リオンの声に煽られたように、クレイドの指の動きは激しくなっていく。
もう何本の指を身体の中に含まされているかわからなかった。クレイドの指が出し入れされるたびに粘着質でいやらしい水音が聞こえる。頭がおかしくなってしまいそうだ。
「もういいっ、クレイド、もういいから……早く……っ」
このままだとまた一人で達してしまう。
リオンが悲鳴のような声をあげると、クレイドは指を抜いた。
クレイドの大きな手がリオンの尻たぶを掴む。そして熱く濡れた昂りが、さんざんいじられて濡れてひくつく場所に押し当てられる。
「――リオン様」
息を吐きだすように名前を呼んだ次の瞬間、クレイドは身体を倒し、一気にリオンの中に乗り込んできた。
「ん――……あっ……うあ」
小さな穴をこじ開けるようにして、大きな先端が入ってくる。リオンはその衝撃にシーツを握りしめながら耐えた。
クレイドの性器は太く長く、充血した粘膜を十分に擦りながら狭い隘路を押し開いていく。下腹にみっちりと彼の性器を含まされていく。粘膜が驚き、さざめき、それでも震えながら懸命に彼の熱い情熱を受け止めているのが自分でもわかった。
「だい、じょうぶ……ですか?」
荒い息を吐くクレイドに聞かれ、リオンは喘ぎながら舌足らずに答えた。
「ん――……すご……おっきい……」
「――っ、また、そんなことを……!」
クレイドが怒ったように叫んだかと思うと、リオンの腰を強くつかんだ。同時にクレイドのものが暴れるような動きでさらに深くまで侵入してくる。
「――……っ、――っ!」
ずんっと胎の行き止まりを強く突かれて、リオンは声にならない叫びをあげた。
それでも熟しきった内側は、重たく実った性器を待ちわびたように受け入れる。粘膜が収縮し、奥へ奥へと吸い込むような動きを繰り返す。
「――く……、リオン、さま……!」
クレイドが唸り声を上げて、身体を大きく震わせた。リオンの身体を羽交い絞めにするように強く抱きしめて、クレイドが腰を揺すり始める。
「あっ、……うっ、ん、んぅっ」
小刻みだった律動はすぐに嵐のような激しさになる。
情け容赦なく体を揺さぶられ、リオンは悲鳴に似た甘い喘ぎを漏らした。
激しく突かれるたびに下腹で重い快感が弾ける。それは胎のなかで暴れ狂い、解放を求めて一点に集まっていく。
「あ、あ、あ――っ、……――っ」
叫びと共にリオンの性器から白濁が噴き出した。粘膜がクレイドの杭をぎりぎりと絞り上げる。
「……ああ、リオン様――」
クレイドの腕が腹に回り、リオンの身体を強く引き寄せた。そのまま激しく揺さぶられる。
「あっ、あっ、ひ、やぁっ……」
リオンは身体を捩らせ、臨界点を超えて与えられる快感に首を振った。膨らんだクレイドの杭身に体の奥の奥を抉られ、揺らされ跳ねまわるリオンの性器からはとめどなく精液が飛ぶ。
「リオン様、リオン様……」
クレイドがひと際強く突いた。背中にのしかかる大きな身体がぶるっと震え、同時に彼の熱い精が身体の奥に叩きつけられる。粘膜を塗らされる感覚を感じながら、リオンは叫んだ。
「クレイドっ、クレ、イド……っ、噛んでっ、噛んで、うなじ――」
すぐに首筋に熱い息が掛かる。滑らかな舌が項を舐め、固い歯の感触が薄い皮膚に触れる。
ぶつり、と皮膚を突き破られる感触。
その次の瞬間、身体に信じられないほどの衝撃と快楽が走った。
視界が白く灼け、身体が輪郭を失ったかのようにおぼろげになっていく。
ふうっと意識が遠のくのを感じながら、リオンは不思議な感覚を実感した。
自分という存在がものすごい勢いで分解され、そしてもう一つの存在と交じり合い、再構築されていく……。
(クレイドと……番に……なれたんだ……)
唯一の番と魂が溶け合う、そんな感覚を感じながら、リオンの意識は白い輝きの中へと落ちていった。
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