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◆第26話

 また今日も皇城に赴き、殿下に連れ込まれた。来い、という手紙が一通送られてきたからだ。  また押し倒されるのでは、と思っていたらそうではなかった。現状報告、と言ったものか。まぁ、半分ルアニスト侯爵達への愚痴も入っているがな。 「俺の領地にある鉱山の話は何度か出されたが、答えずそのままになっている」 「さらっと流してください。殿下なら可能でしょ?」 「当たり前だ。アイツに手渡してやるほどの馬鹿ではないしな」  まぁ、そうだろうな。ルアニスト侯爵家の現状をよく知っている殿下なら当然か。だが、俺の腰と太ももの内側を撫でるその手を何とかしてほしいんだが。  言わずもがな、また押し倒されるのである。  今日はこの後帰ってから来客の対応をしなければならないのだから、早く帰らないといけない。流石にやりすぎるのは勘弁してほしい。このむっつりスケベめ。  その後、殿下と別れ、腰を労わりつつも皇城を後にした。早く戻らないと、屋敷で待っているカーチェスに何か言われるからな。  はぁ、もう少し加減をしてくれないと俺の体力がもたないな。身体を見るかぎり、殿下はだいぶ鍛えているようだから俺より体力がある。俺も体力をつけないとな。  ……殿下の為に体力をつける、という理由でいいのか、それ。  屋敷はいつも通り、使用人達が活気よく働いている。俺が戻ると二列に並び挨拶を。カーチェスからは、留守中に何もなかったと報告を受けた。部屋に戻り外出用の紳士服から普段着に着替えを終えたあたりで、使用人から報告を受けた。 「ダンテ様、お客様がご到着いたしました」 「分かった、すぐ行く」  今日の客人は俺が呼んだわけではない。相手から手紙が送られてきたのだ。手紙の内容には、話がしたいとの(むね)(つづ)られていた。仕方ないな、と返事をして今日迎え入れた。  さて、こんな不能男と噂された俺に一体どんな話をしてくれるのかな。 「遅くなってしまい申し訳ありません」 「あ、いえ、こちらこそ、私の為にお時間を頂きありがとうございます」  彼女は、とある子爵家の一人娘だ。そんなご令嬢が俺にどんなご用だろうか。カーチェスによれば、付き人は連れてこなかったらしい。成人したての未婚の女性が一人でこんなところにだなんて、一体どういうつもりなのか。  座っていたソファーから立ち上がり挨拶をしたご令嬢を、早々に座らせ紅茶もメイドに淹れさせた。  それで、ご用件は? と聞いてみたが……もじもじしているんだが。顔を火照らせて。一体何を言う気だろうか。 「……あのっ! 私、公爵様にご提案があってまいりました!」  あぁ、送ってきた手紙にはそう書いてあったな。俺にとっても悪くない話だ、とも。だが、どこをどう取って悪くない話だと判断したのやら。 「その、公爵様とルアニスト嬢が婚約破棄をされたパーティーは私も参加していたので何が起こったのかはよく知っています」  婚約破棄をされたパーティー。ダンテの記憶ではあるが、俺はよく覚えている。不能男という噂の原因となったパーティーだ。黒歴史と言ってもいいくらいの出来事だな。 「最後にルアニスト嬢が言った言葉も覚えています。でも私、そうは思っていません。きっと、それはルアニスト嬢に原因があったのではないでしょうか」  ……ん?  ちょっと待て。 「あんな事を公衆の面前で言われてしまい、これからお相手を見つけるのは難しいと思います。でも、公爵家は由緒ある歴史の深いお家ですから、後継者は一番重要となってきますよね」  ……んんんん??? 「私なら、公爵様のお役に立てると思います!!」  ……なるほど、そういう事か。何とんでもない事言っちゃってるんだこのお嬢さんは。自分が今何を言ったか分かっているのか。成人したてのご令嬢がこんなとんでもない事を言っていいのか。おかしいにも程があるだろ。  容姿が整っている事は得ではあるが、時には面倒事が生じる。まさにこういう事だろう。 「契約結婚をしたいと、そういう事ですか?」 「は、はいっ!」 「……」  さて、困ったことになったな。これをどう処理したらいいのだろうか。今は、結婚などを考える気はない。もしするとしても、そんなに急いでせずとも支障はないからゆっくり考えるはずだった。  そもそも、そんな事をしている時間などない。ルアニスト侯爵家を潰す計画と、あと殿下へ時間を割いているのだからないに等しい。だが、こんな事になるなら早めに手を打つべきだったな。まぁ今更遅いが。  不能男と貴族達の目の前で言われてしまったのだからと甘く見ていた俺の失態だな。まさかこうなるとは。 「……ご令嬢もご存じの通り、私の元婚約者は先代の決めた方でした。そのまま、政略結婚という形になるはずでしたが、今は破棄されたのでなくなったわけですが。それを体験して、思った事があります。人生において、結婚は最も重要な事なのだとね」 「え……?」 「貴族間での結婚が政略結婚となるのは普通の事です。ですが、それは気の合わない相手と一生を添い遂げる事になる可能性もあるという事です。もし離婚したとしても、女性の場合はあまり社交界ではいい目で見られません。ですから、結婚はもっと慎重に考えたほうがいいと思いますよ」 「……」 「私の事を考えて名乗り出てくれるくらい、とてもお優しい心の持ち主であるご令嬢でしたら、もっと素敵な、心の通える相手が見つかる事でしょう」  と、言ってみたものの、ご令嬢は納得していない様子だ。俺は間違った事は言っていないはずだが。まだご理解いただけていないのか。困ったな。 「あの……私、公爵様に……一目惚れしちゃったんです」  ……次はこう来たか。中々引きさがらないな。 「一目惚れは、一時の感情である可能性もあります。ですから、勢い任せにせずよく考えて相手を選びましょうね」  カーチェス、と彼を呼び彼女を帰らせた。ふぅ、これでミッションクリアか。  まさか、この不能男にこんな提案を出してくるご令嬢がいたとは。驚きを通り越して呆れてものも言えない。しかも一目惚れときた。イケメンは得だと思っていたが、使いようによっては危険だ。殿下はお気に召してくださったようだが、使いどころを考えないといけないな。この後は鏡とにらめっこでもしようか。  ……いや、その前に少しソファーで横になろう。もう腰が限界だ。  だがしかし、俺は知らなかった。  ダンテの整いすぎた容姿は、思った以上に恐ろしいものだったのだという事を。  いや、恐ろしいのはこの異世界の女性達もだったという事も。

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