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◆第37話*
殿下に封筒を渡してから、殿下と顔を合わせる事は全くなかった。俺も、忙しい日々を送り殿下の成人の儀を目前に控えていた。
ストーカー女が静かになったため少しは安心しているが、気は抜けない。
「あ、あの、ダンテ様……」
「ん?」
お茶をどうぞ、とメイド達が俺の前にティーセットを並べる。香りと色で分かった、これは紅茶じゃないな。
「ハーブティー、です。リラックス効果があるそうで、僭越ながらご用意させていただきました」
最近はいろいろとお忙しいそうなので、と用意してくれたらしい。侯爵家に訴えに行った帰りには周りが委縮するほどのストレスが溜まっているのだと顔に出ているようだったし、今もだいぶ忙しくしている。それでこのハーブティーを用意してくれたのか。
「ありがとう。君達も悪いな、迷惑をかけてしまって」
「そっそんな事ございませんっ!!」
「ダンテ様の為でしたらいくらでもっ!!」
そんなメイド達の勢いに、つい頬が緩み笑ってしまった。
もちろん、被害者となってしまったのはその二人のメイド達である。……すまん。
回収されていくメイド達に、謝っておいた。
俺がこの異世界に来てだいぶ経った。今では仕事も振る舞いも慣れたものだ。これからも、このブルフォード公爵家の当主として責務を全うすることになるが、これなら何とかなるだろう。カーチェスが元気でいてくれるなら、というところもあるが。
憑依して最初に思ったのは、|鬱《うつ》になったダンテの味方になりたかった。本人が手放したわけだが、今まで好き勝手に利用され『不能男』という噂を押し付けられたことへの怒り。
ふざけるなと仕返しを実行したが、今では屋敷内も活気付き、もうそろそろで計画も終わりを迎えつつある。
なら、終わってからはやる事やって楽しいセカンドライフを楽しもう。そのためには、まずは殿下の事を何とかしないといけないがな。
第二皇子とあって、国を交えた結婚となるから多少骨は折れるが……何とかなるだろう。
そう、何とか、なる。
「はぁ……」
前世では、俺には彼氏が一人いた。だが、別れた夜に自宅でカップラーメンにお湯を入れて、その三分の間に異世界憑依を起こしてしまった。
未だにカップラーメンがどうなったのか気になるが……別に彼氏に未練があるわけではない。こちらに来て、ずっと気になっていたというわけでもない。今ふと思い出したというだけだ。
そう、殿下ばかりで前世の彼氏の事は忘れていたのだ。自分に呆れてしまうな。俺はそれだけ……
「……すまん、少し休む」
「かしこまりました」
書類で顔を覆いつつ、机の向かいに立つカーチェスに退出するよう指示をした。ドアが閉まる音を確認し、書類を戻すが……今の顔は、赤くなっている事だろうな。これはどうやって戻せばいいんだ。
成人の儀は明日。明日になれば、殿下は未成年から成人になる。だが、どう事が転がるかは明日になって見なければ分からない。さて、どうなるだろうか。
その後、昼寝と称してそれから何時間か椅子の上で眠ってしまった。仕事は次に回せばいいものばかりだから困りはしないが……悔しく思うのは何故だろうか。昼寝なんて、こちらに来てから一度もしていない。だが、せっかくするのであれば執務室ではなく外で昼寝をしたい気もする。
「……で、何故殿下がこんなところにいらっしゃるんですか」
「驚いたか」
「えぇ、だいぶ」
湯浴み後、明日の為にも寝ようとベッドに入ると、上からのしかかるかのようにして覆いかぶさる人物がいた。シリル殿下だ。
自分の誕生日と成人の儀を明日に控えているというのに、こんなところにいていいのか。
で、俺の寝室にいるという事は、カーチェスの仕業だろうな。明日の朝問い詰めるとしよう。
「殿下、明日は大切な成人の儀です。早く戻らなくては明日大変ですよ」
「明日の早朝に戻ればいいだろう」
「……はぁ」
俺が被っている布団をはがした殿下は、そのまま覆いかぶさってきた。今日は早く眠りたいのだが。という意味を込めた視線を向けると、殿下の両手が俺の頬に片方ずつ重ねられた。とても温かい、殿下の大きな手が。
口づけをされるのだろうと予測していたが、一向にしてこない。それどころか……俺の瞳をまっすぐに捉え、微笑んでいる。だが、その中には憂いも混じっているように見える。
「ダンテ。お前は……私のものにはならないのだな」
「ぇ……」
「お前はブルフォード公爵家の当主だ。当然、政略結婚という責務を果たさねばならなくなる。一族の為に、後継者を作らねばならない。それは、俺も分かっている。俺も、第二皇子として自分の責務を果たさねばならない。だが……まだ、このままでいたいと思ってしまうのは、いけない事だろうか」
「……」
「今までは、ダンテは俺が未成年だからと子供扱いをしていると思っていた。子供の俺では、満足させてやれているのかと、不安になる日がいくつもあった。だから、早く成人したいと明日を心待ちにしていた」
子ども扱い、か。確かに殿下は十九歳と未成年だ。六歳も上の俺は大人の意地というものもあったと思う。絶対に主導権は握らせないと常に思っていた。だが、それが殿下を不安にしていたのか。
「だが……成人の儀が来れば、俺達のこの関係も終わってしまうのだろう? なら……そんなものは来なくていいと、思ってしまった……お前を、誰にも取られたくない。俺だけが知っていることを、他人に知られたくない。俺だけが知っておきたい」
渡した封筒の中身を見て、そこまで悟ったのか。さすが、第二皇子だ。だが……
「とんでもなく、どうしようもない奴だろう。お前を見るたびに、お前のことを思うたびに、俺の中にある独占欲が理性を邪魔してくる。きっと、お前が政略結婚をすれば相手を殺してしまうかもしれない。地位や立場をすべて忘れて、理性に負けて、己の欲にまみれる事だろう」
殿下の、俺を見る目が、歪んできている。
「これほどまでに醜い心しか持っていないんだ。だが、それでも俺はお前が欲しい」
「っ……」
「欲しくて、欲しくて、たまらない」
ただの計画のための火遊びのつもりだった。火遊びにとどめ、俺の計画の邪魔をさせず、大人しくさせるための計画だった。そして、あわよくば協力関係を築ければ、と思っていた。
それが、よからぬ方向に向かってしまった。そして、ここまで殿下を歪ませてしまったのか。
だが、歪んだのは殿下だけではない事を、俺はよく知ってる。
「俺も」
「っ……」
俺は、殿下の両頬に手を添えた。驚愕した顔を浮かべてくる。
殿下の肩を掴み、キングサイズの大きなベッドに転がし、仰向けにさせて今度は俺が組み敷いた。
そして、両頬を両手で包む。
「ここまでするつもりじゃなかった……計画を狂わせたのは、シリル、あなただ。だけど、欲しくなった、という事は……俺も欲しくなっても許される」
「……あぁ、ダンテ」
殿下の地位を危うくする張本人であると知ってもなお、そんな事を言ってくる。俺にいてほしいと、懇願してくる。
ただ、計画の為というだけだった。だが、俺も、欲しくなってしまった。自分で計画したくせに何飲まれているんだと|罵《ののし》られても、何も言い返せないが……別にそれでもいいだろうと開き直っている自分がいる。
殿下だけを、シリルだけを求めたい。今だけ、ということにはしたくない。
「馬鹿だなぁ……俺……」
「馬鹿で何が悪いんだ。それを言うなら俺もそうだ。警戒するべき人物を欲しくなってしまった俺は、周りから見たら馬鹿でしかないだろう?」
最初はあれだけ警戒されていたのに、今ではこんなに微笑んだ表情を見せてくるようになった。
……この国で、ここまで微笑ましい、愛しいものを見るような目を見た事のある人物は何人いるのだろう。
「ダンテ」
……はは、これは、俺の負けだな。
今は、自分達にのしかかる責務を忘れ、ただ目の前の愛しい人だけを、視界いっぱいに、頭の中でいっぱいにしたい。
自分が負けを認めるのは悔しい事ではあるはずだったが、今は何故か気分が良い。
それは、目の前にシリルがいるからだろうか。それとも……重くのしかかっていたものが下りたからだろうか。抑え込んでいたものを、解放したからだろうか。
「シリル」
「ダンテ」
どちらからでもない口づけから始まった。気が付けば、上にいた俺はベッドに転がされ最初のようにシリルに組み敷かれていた。
俺は、両手を伸ばして力強く抱きしめる。そして、耳元で囁いた。
「……早く、挿入 てください……」
「痛いだろ。ちゃんと解してから……」
「お願いです……」
俺はここまで我儘だっただろうか。だが、欲しくて、欲しくて、たまらなかった。
「ダメだ。傷つけたくない。だが、出来るだけ早く挿入 てやる」
「んっ……」
持ってきていたのか小瓶の液体で指を濡らし、早急に蕾に触れた。シリルの、長くて温かい指先が、ナカに優しく入ってくる。
もう片方の手は俺の性器を優しく包み、そして擦り始めた。
深くて、そして甘い口づけが俺を包んむ。最初はあんなにぎこちなく、それをいいことに俺に遊ばれていたはずなのに、口内の弱い部分を覚え、舌を絡めては刺激してくる。
全部、俺が教えた。そう、俺が全部。
そして、その最中で指が抜かれ……凶器が侵入した。
「うっ……ぐっ……」
当然の事ながら、充分に解していない為窮屈だ。シリルも眉間に皺を寄せ耐えているような表情を浮かべている。俺も苦しく感じているが……それが心地よく感じるのは何故だろう。
ようやく奥まで到達すると、俺の性器はぴゅっと白濁を吐き出した。腹の中が、苦しくて、熱い……
そして、温かいシリルの手が俺の頬を撫でた。
「全部挿入 ったぞ。大丈夫か」
「んっ……」
前髪を避け、額に口付けてくる。そして、微笑みかけ、唇に口付けてきた。俺も、答えるように首に腕を回し受け入れる。今、シリルと繋がっている。その事実に、幸福感を覚えた。
「……一つだけで、いい」
「……」
「痕を、つけさせてくれないか」
「……」
今まで、ずっと拒んできた。着替えの時にメイド達に見つけられてしまうから、という理由から。勝手につけられて収拾がつかず骨を折っていた事もある。
けれど、今は……欲しいと思ってしまう。後の事はどうでもいい、何とでもなる。だから、一つだけでいいから、欲しい。その意味を込めて、シリルを見つめ、小さく頷いた。
それを見たシリルは微笑み唇に口づけると、下に降り首元に何度も口づけが落とされる。そして、鎖骨に一つだけ小さな痛みが走った。
いつもなら、怒るところだ。だが……また、こんなに幸福感を覚えるのはどうしてだろうか。
シリルの大きな手に自分の手を取られ、指を絡ませてくる。ごつごつした、温かみのある、俺の好きな手だ。ぎゅっと握ると、握り返してくれる。
動くぞ、と囁かれ、頷くとゆっくりと動き出す。
これまで何度も体を重ねてきたからか、俺の弱い部分を知り尽くしてしまい、その部分を巻き込み奥を突いてくる。
何度も。
「うっ……ぅぐっ、んっ……」
「はぁっ……」
何度も。
肌をぶつける音が寝室に響き渡る。
俺は絶頂を迎え、白濁を勢いよく吐き出し、脳内が真っ白になった。シリルの存在を探すように、握られた手に力を入れた。
「出るっ……」
その声と共に、俺の膣内にシリルのものが吐き出された。俺は射精されるのが弱いらしく同時に達し果てた。
「大丈夫か」
「んっ……」
強引に挿入したからジンジンするが、何となく、もっと欲しいと思うのは何故だろうか。
「……もっと、ください……」
「っ……煽るなっ……!」
この関係は、明日で終わりを告げる。
なら、今はこの幸福感で身体を満たしたい。
それくらい、許されるだろう。
――そして、運命の日が少しずつ近づいてくる。
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