64 / 111
第64話 領地再建
7ー4 ジポネス
「これ!どうしたんですか?」
俺は、杯を手にライゾさんに訊ねた。
よくある話だが、俺だって一応、自分が転生してきたことに気づいてからは、日本のものがないか気にしてきた。
しかし、周囲には、まったく米も味噌もなかったし、ましてや日本酒など聞いたことすらなかった。
ライゾさんとオリベ君、マリさんが顔を見合わせている。
しばらくしてライゾさんが口を開いた。
「実は、我々の先祖は、この国の民ではないのでございます」
ライゾさんは、俺にこの地に伝わる伝説を話してくれた。
それによると、このグレイスフィールド伯爵領の辺りには、かつて『ジポネス』という小国があったのだという。
『ジポネス』?
それは、前にも聞いたことがあったような。
俺は、ぽん、と手を打った。
そうだ!
イキナムチが話してた!
「その国のことは名前だけは、イキナムチ様からお聞きしました」
俺が言うとライゾさんがうんうん、と頷く。
「そうでございましたか。イキナムチ様が。かつては、イキナムチ様は、『ジポネス』の神であられましたからな」
そうなの?
俺は、ライゾさんの話しに耳を傾けた。
なんでも、『ジポネス』は、300年前にこの国によって併合され歴史から消えたのらしい。
「『ジポネス』では、マナと呼ばれる穀物を育てそれを主食にしていたそうで。今でもこの領地では、わずかですがマナを育てております。それは、イキナムチ様に捧げるこの酒を作るためでして」
ライゾさんの話しによるとこの酒は、本来、イキナムチに捧げる御神酒だったのだが、少しだけこの祝いの席のために分けてもらってきたのだという。
「そうなんだ」
俺は、こくっと杯の酒を口に含む。
この世界の酒だって美味しくないわけじゃないけど、やはりこの酒は、俺にとっては特別だ。
「心遣い、感謝します、みなさん」
俺は、住民のみなさんに頭を下げた。
ライゾさんは、慌てて両手を振った。
「と、とんでもござません、アンリ様。お礼を言わなくてはならないのは、わたしらの方でございます。グレイスフィールド伯爵が亡くなったばかりで心痛、いかばかりかと思われますのに、わざわざ我々を救いに来て下さったのです。みなを代表してお礼を述べさせてくださいませ」
ライゾさんが頭を下げる。
「アンリ様、それにお供の方々、本当にありがとうございます!」
ええっと……
俺は、かなり気まずくて、ちらっとリュートの方をうかがったが、リュートは、なんとも思っていないようだった。
てか、俺、最低?
旦那様が亡くなったばかりなのに、こんな風に別の男に抱かれてるなんて、さぞかし呆れられてることだろう。
ともだちにシェアしよう!

