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大切な彼女 1

 はぁ、と軽くため息をついて、裕司は頭を軽く掻く。彼はパソコンに映し出された自身の質問と様々な人が答えてくれた回答を眺めていた。先程の質問は彼、相良裕司(さがらゆうじ)が書いたものである。    彼は今から4年前、彼女となる安倍宮子と出会う。 その当時宮子には彼氏がおらず、質問の内容の通り彼女は非常に完璧であるのに、なぜこんな素敵な人に彼氏がいないのだろうと裕司は思っていた。 その時のことを振り返ると、自分は本当に恵まれていたのだと思える。  宮子とは取引先の会社で出会った。 新しい事業のために会社に赴いた際、最初に対応してくれたのが彼女だった。 肩に掛かるくらいの髪を耳にかけ、手元にある資料を伺う彼女。女性にしては少しだけ低い声。動けばふわりといい匂いがする。 名札には「総務 安倍(あべ)」の文字。  一瞬にして心を奪われてしまった。その後の商談で若干上の空なのを見抜かれ、言い訳をすればにやりと笑われてしまう。  曰く、初めてこの会社に来た人はみな一様に彼女に惚れるとのこと。なぜだか含み笑いをする社長に、とりあえずすみませんと謝る。結局商談は上手く行ったものの、帰社した後も彼女のことが忘れられずぼーっとしてしまい上司に軽く注意される始末。  それほど彼女は美しい人だった。    彼女のことを忘れかけていた頃、また件の取引先に行く機会があり赴くと、同じように宮子が対応をしてくれた。  彼女も裕司のことを覚えてくれていたようで、「相良さんですね」と笑顔で迎え入れてくれる。  裕司は嬉しくなり、「お久しぶりです。覚えていただいていたようで嬉しいです」など余計なことを話してしまった。  そんな祐司の反応にも宮子は特に気にした風もなく、普通に接してくれていた。その後も度々取引先に行く機会があり、気づけば二人は他愛のない世間話をする仲になっていた。  ある日、会社で顧客名簿の確認を行っていた時だった。裕司の携帯に知らない電話番号から電話がかかってくる。出てみると、宮子の声がした。  『相良さんの携帯でお間違いないでしょうかっ』  『はい、相良ですけど…安倍さんですか?』  『そうです!お仕事中にすみません。実はこちらの会社でトラブルが発生しまして…社長が緊急を要するからと直接電話をかけるようにと言われまして、電話をかけさせていただきました』  宮子には最初に電話番号つきの名刺を渡していたため知っていたのだろう。  しかし何事かと思っていると、宮子は会社のサーバーがダウンしてしまい他方に影響がでているのだと簡単に状況を説明してくれた。その中には裕司の使っている会社のサーバーもあり、復旧できないかということで連絡が来たようだった。  『わかりました。何人か連れてすぐに行きます』  SEを何人か引き連れて取引先の会社に行ってみれば、場は混乱を極めていた。  社員は電話対応に追われていたり、書類をあちらこちらから探し受け渡ししていたり、パソコンになにかを打ち込み続けていたりしている。ありとあらゆる所から大声が聞こえてもくる。  どうすればいいのかと呆然としていると宮子が現れこちらですとすぐさま通してくれた。今日の宮子はかなり疲れた表情をしており、普段から笑顔をこころがけているであろう彼女とは全く違っていた。それだけ緊急を要するということだ。  復旧と対応が終わったのはその日の22時だった。今日中に終るのかという不安をみんな持っていたのであろう、パソコンが正常に動いた瞬間悲鳴のような歓声が上がった。  裕司も床に座り込み一気に息を吐きだした。その隣に宮子が膝をつきお疲れ様です、ほんとうにご迷惑をおかけしました声をかけてくる。  『安倍さんもお疲れさまでした。今日中に復旧できてよかったですね…』  『ほんとそうですね…今日は帰れないかと思いました』  『僕もです』  あははと笑い合うと、携帯がブーと音を立てた。見てみると裕司の会社からで、心配する上司からのメールだった。  慌ただしすぎて気づかなかったが、それより以前にもたびたび連絡が来ていたようだった。ちょうどいま全部終わりましたと連絡する。ついでに電話もしておこうと連絡帳を開いたところ、宮子の電話番号が載っていた。  その時裕司は非常に疲れていて、さらにすべてが終わった高揚感からハイになっていた。    そのせいで、『電話番号、連絡先に入れておいて大丈夫ですか』などと言ってしまったのである。宮子のきょとんとした顔で我に返り、今後何か連絡があるかもしれないので!とさらに余計なことを言ってしまう。連絡があるなら社長から直接電話が来るだろうし、わざわざ個人間で連絡先を交換し合う必要はない。  やばい、まずい。せっかく最近世間話ができる仲になったのに、と裕司が後悔していると、宮子はそうですねと言って携帯を取り出した。  『電話番号はもう知っているので、トークアプリで話しませんか?』  裕司はこれほど幸運なことはない、と勢いよく頷いた。  

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