8 / 9
08毒薬
「侍女を一人、故郷に帰したそうだな」
「ああ、婚約者に会いたいと泣いておりましたので、可哀そうに思い帰しました」
「そうか、ノエル。いつ俺を愛してくれる?」
「敬愛しております」
「ノエルが俺を愛してくれるまで離宮から出さない」
「そうおっしゃられましても、感情の制御はできません」
朝になって離宮にやってきたカーレント陛下が言ったことがこれだった、感情の制御などできなかった。僕はまだリュゼが好きだった、故郷に帰って婚約者と幸せになるといいと思っていた。リュゼが知らない男に抱かれるのを想像すると胸が痛んだが、それでリュゼが幸せならいいと思っていた。僕にだけ使える信用できる侍女にリュゼのその後を調べてくれと頼んだ、離宮には信用できる侍女が何人かいた。
「王妃様に申し上げます、リュゼは婚約者に金をとりあげられて捨てられました。身も売られて今は娼館におります。私が娼館の主に金を払い、客をとらせないようにしました」
「なんということだ、もういい。僕が向かう」
「王妃様は離宮からの外出は禁止されております」
「そんなことは知ったことか、街に向かうから馬を用意してくれ。誰か僕の代わりの者を置いておくといい」
僕は街へと向かった、娼館をいくつか訪ねてリュゼを見つけた。彼女は婚約者の裏切りと娼館に売られたことで泣いていた。僕にリュゼは縋りついてきた。
「リュゼ、僕はね。君が好きだったんだよ。好きだったから幸せになって欲しかった」
「王妃様のお名前はなんですか?」
「ノエル、僕はノエルと言うんだ」
「それではノエル様、どうか私を抱いてください。私を好きだと言う貴方に抱かれてみたい」
娼館で僕はリュゼを抱いた、本当に好きな人との交わりはこんなに心地よいのかと思った。僕は罰せられると分かっていたが、今だけは本当に好きな人を抱けて幸せだった。僕はリュゼに苦しまずに死ねる毒薬を渡しておいた、以前に僕が自分用に用意していた物の一部だった。いざとなったら使いなさいと言っておいた、カーレント陛下がこのことを知ったらもっと惨い死に方をリュゼにさせるからだ。
「リュゼ、王宮へ帰ろう。僕たちは裁きを受けなければならない」
「ノエル様、貴方との交わりは私の心を癒してくれました。ありがとうございます」
そうしてリュゼと共に王宮へ帰ったら、カーレント陛下が激怒して僕たちを待っていた。僕とリュゼは引き離されて、僕は離宮に戻された。リュゼも牢屋に放り込まれたようだった、僕はカーレント陛下から怒鳴りつけられた。
「侍女と浮気するとは何事だ!! お前は俺のものだ!!」
「お言葉ですが、カーレント陛下も他の女性や侍女をお抱きになります。何故僕が侍女を抱いてはいけないのですか?」
「妻というものは夫だけに抱かれていればいい!! 侍女などに触れてはいかん!!」
「それでは不公平です、夫の貴方が他の女性を抱くならば、妻の僕も他の女性に手をだしていいはずです」
「ノエル、俺はお前を愛しているんだ。愛している、本当に愛しているんだよ」
「……………………」
そう言ってカーレント陛下は僕を抱きしめて震えていた、でも僕はカーレント陛下を愛していなかった、僕が愛していたのはリュゼだった。僕はどうしようもなくて僕を抱きしめているカーレント陛下を抱きしめ返した。
「あの侍女は拷問させる」
「そうですか」
「俺はお前を抱く、必ず俺を愛させてみせる」
「はっ、僕の愛する者を拷問する方を愛せるわけがない」
「煩い、絶対に俺はお前に愛されてみせる」
「それでは僕は交わるための準備をいたします」
そう言って僕はカーレント陛下を追い出した、そしてまた信用できる侍女にリュゼに苦しまず死ぬように伝えてくれと頼んだ。その結果、リュゼは拷問を受ける前に僕が渡した毒を飲んで死んだ。僕も死んでしまいたい気分だったから、同じ毒薬を飲んだ。毒を飲んで眠るように死んでいくのが分かった。
「『|解毒《アンティドーテ》』」
また僕は生き残ってしまった、神官が解毒の魔法を使ったのだ。カーレント陛下は僕を抱いて泣いていた、そうしてカーレント陛下は人払いをさせた。
「ノエル、俺はお前を絶対に死なせない。どろどろに甘やかして、俺を愛させる」
「それは無理なことかと思います」
「煩い、ノエル愛しているんだ、お前だけを愛しているんだ。だからお前も俺を愛してくれ」
「僕には無理です、どうか他の方を愛してください」
それから僕はまた離宮で暮らすことになった、毒薬をとりあげられてしまった。王妃の仕事も国王の俺がするから必要ないと言われた、僕はリュゼが亡くなったことが悲しくて泣いた。泣いて泣き疲れて眠りに落ちた。カーレント陛下は僕をどろどろに甘やかすつもりらしかった。でも僕はもう本にも、好きな果物にも、何にも関心を持てなかった。ただ一つ子どもたちが来た時は元気が出た、僕は涙を隠して子どもたちの相手をした。
「ノエル、淑女教育を頑張っているわ。でもまだまだ淑女にはなれないみたい」
「ティアラ様。そう簡単になれるものではありませんよ、でも貴女はいつか立派な淑女になります」
「ノエル、ここが分からないんだ教えて。全くもう王様なんてなりたくないよ」
「ああ、カルム様。ここはこういう意味です、王になりたくなければライ様に期待しましょう」
「ノエル、痛い、痛いした?」
「ライ様、いいえ何も痛いことはありませんよ。また御本を読みましょうか」
ライ様は鋭かった、僕が痛くて苦しくて悲しんでいることを感じ取っていた。僕は無理に笑顔を作ってライ様を安心させるようにした。でも最後までライ様は痛い、痛いしてると言っていた。子どもたちが帰って僕はどっと疲れが出た、でもどうせカーレント陛下が僕を抱きに来ると思った、だから腸内洗浄をすませておいた。そうして夜にやはりカーレント陛下は僕を抱きに来た。
「ノエル、愛している。優しくするからな、本当に愛している」
「どうぞ、お好きになさってください」
「ノエル、何故勃起しない。どうしてそんな空虚な目をしている」
「もう愛する人はいませんから」
「俺がお前を愛している、だから抱く。以前のように感じろ」
「僕は何も感じません、カーレント陛下どうか他の方を愛してあげてください」
僕は何をされても感じることができなかった、カーレント陛下のものを入れられても少し苦しいなと思っただけだった。カーレント陛下は泣いていた、泣きながら僕を抱いたが、僕は何も感じなかった。翌日になって僕は医者に診せられた、医者は一時的に感情が麻痺しているようですと答えた。
ともだちにシェアしよう!

