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第27話 こわしてほしい

 風が吹き、乱れた髪がそよぐ。ゆったりとした腰の動きも相まって、趙武(ちょうぶ)の髪はふわふわと揺れた。静かに優しく士匄(しかい)の内を怒張が進み、引く。ぞくぞくとした悦が奥に蓄積し、士匄は身を縮こませて、ひ、ひ、と呻いた。  こうしないと士匄の中は頑なだと趙武が言う。士匄自身は充分感じ入り、そうは思わない。小さな火が少しずつ煽られ炎となっていくような、じわじわとした熱は一種の地獄のようであった。 「う、あ、趙孟(ちょうもう)っ」  士匄は叫び、趙武の手を勢いよく取った。趙武が少しびくりとしたあと、首をかしげる。 「何か」 「思いきりが、いい。これ、もう無理だ」  息を吐いて士匄は訴えた。腰をゆらし、早くとせかす。さっさと淫楽の中に放り込まれたいという欲はもちろん強い。が、それ以上に趙武の好きにされたい、というのもあった。常に士匄に合わせて営むこの青年の、最初からの本気が知りたい。 「お前の、好きに。お前がやりたいことを知りたい。わたしが、どうでは、なく」  士匄の言葉を趙武は正確に汲み取ったらしい。頷いて、前のめりに体を倒すと、手を伸ばして士匄の頬を指でなぞった。愛しげに何度もなぞり、唇に指を沿わせる。ついっと口を割って入ってきたため、士匄は反射のように舐めた。趙武の指が舌をなぞり、こする。そのまま口内に入って口蓋を押し撫でた。その間、下腹部は動かず、熱さそのままに奥に当てられている。 「お」  最奥への微かな快感と、口内への愛撫に士匄はのけぞって喘いだ。 「范叔(はんしゅく)の中、熱くて柔らかくてふわふわ包んできて気持ちいいです。ふふ、好きにしてって言いますけど。私ねえ、これの楽しさを范叔で知ってしまったんです。とっくに好きにしてます」  こうやって、と、ゆるく腰を引いて、のんびりと入れ込む。徹底的な場所を避けてこするとまた下がる。士匄は指で舌を嬲られ、口の中をなで回され押され涎を垂らしながら、お、お、と呻き続けた。マグマが溜まっていくような熱さと疼きが腹の中で渦巻いている。それだけでも頭がおかしくなりそうな心地であったが、口蓋を強く押されれば、脳髄に直接痺れが響き、焼き切れそうであった。 「えぉ……っ」  趙武の指が士匄の舌を挟んでスリスリとこすった。体が思わず小さく跳ねる。舌体を何度もなぞられると、その悦が腹の奥に溜まる疼きへと繋がり、せつなさで嗚咽のような声が喉奥から漏れる。お、え、お、と言葉にならぬ音で必死に媚び訴えた。もう無理、はやくいきたい。焦らすな、きもちいい。そういったことを叫びたいが、口を良いように弄ばれ、出るのは呻き声ばかりである。 「すっごい、ぴくぴくして、もう少しで熟れます。ね、これ気持ちいいの知ってますものね。お口もそう。よく回る舌も、口の中もとてもいやらしい」  趙武がずうっと徐々に腰を進めながら、口蓋をずりずりとこすった。士匄は身もだえし、お、お、と声を上げながら舌を踊らせて腰をくねらした。草の音がガサガサと激しく鳴った。  とん、と軽く趙武の亀頭が奥に当たり、渦巻いていたマグマが本流となってあふれ出す。 「あー、あーっ」  激しく首を振り、士匄は待ち望んだ絶頂に叫んだ。趙武の指が弾かれたように口から離れる。それに構う余裕もなく、士匄は体をよじった。 「あ、い、いく、いっく、あ、きもち、いいっ、あー、いったぁ」  焼けるようなオーガズムに士匄は草を掴み、耐えようとした。なんのために耐えようとしているか、などわからぬ。趙武が見計らったように強く激しく性器を往き来させ奥にぶつける。常ならもう少し様子を見る男である。彼も恋情を交わした勢いの、屋外のセックスにかなり興奮しているらしい。達したところを思いきり擦られ突かれ、士匄はまた淫欲の頂点へ放り投げられる。腹の内が次々に爆発しているようにも思えた。 「いった、いったから、あー、またいく、ひ、きもちいい、きもちい、い、むり、あ、趙孟っ、いくっ、あっ、また」  内股を引きつらせ、首を大きくのけぞらせて士匄は頭を地にこすりつけ泣きわめく。趙武の熱い肉が、内壁を蹂躙し、削り溶かしていくような気持ちよさが襲い続けている。 「じゃあ、やめましょうか」  趙武がからかいを隠さず、笑い、止めた。絶頂のさなかに止められ、士匄は慌てて首を振った。涙を流し嗚咽をもらしながら、目元を赤くして趙武を見上げる。 「やだ、は、早く」  愛欲を宿した目を向け、士匄は匂い立つような媚態さえ見せて、縋りつく。 「早く、こわして」  発せられた口の奥で舌がいやらしく踊った。身をよじり、早く、とため息をついて己の指を舐め、手の甲を噛む。己で腰を動かし、勝手に中を当てて、あ、と軽く喘ぐ。我慢できないと草を掴んでブツリとちぎり、また掴んで身をよがらせる。  男を挑発するに充分である。趙武は、好色、と小さく呟いて士匄の腰を押さえつけた。  どちゅん、と中へ男根が叩きつけられ、腹の中から脳天に甘い淫楽が響く。士匄は、あー、と叫んで再び達した。否、ずっと達している。その鍛えられた足を趙武の細い腰に絡ませ、もっと、と体中でせがんだ。ず、ず、と熱い陰茎が蹂躙し、士匄の肉壺は震え、ぐずぐずに溶けるような悦楽に酔う。あ、あ、と空に嬌声がこだました。 「趙孟、好き、あ、きもちいい、いいっ、あっ、好き」  掠れた声で士匄は訴え、悶え、喘ぐ。趙武が息を飲んだあと、 「私も、好き、好きです、っ」  と呻きながら士匄の中に精を放った。飛沫が広がっていく感覚に、士匄はため息をつく。多幸感がとんでもなかった。気持ちよさと、恋情で頭が茹だっていた。  趙武が身を離し、士匄を抱きしめてくる。雄の臭いが士匄の鼻にかすめた。いつのまにか、厭わしさを感じなくなった臭いだった。士匄も抱きしめ返し、その頬にほおずりする。 「范叔、好き。とても好き。すごく好き」  愛玩ではない、真摯な恋情と炎熱といってよい愛欲が混ざった声であった。士匄は頷き、目をつむった。衣はドロドロであり、この愚かな睦みごとを見たものもいるかもしれず、獣じみた状況であったが、それがどうした、と思った。  粘性の重い恋情がとても心地よいと、士匄は趙武に陶酔した。

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