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第35話 好きにしちゃうよ
片足の脛と腿をぴったりとつけられ、ぎゅうぎゅうと帯で固定されても、士匄 は抵抗しなかった。ただ、その帯はわたしのものだが、とだけは思った。片方だけ、受け入れるときの開いた足となり、片方はだらりと伸ばしている。腕は頭の上で床に縫い止められているわけだから、へんてこな姿勢であった。少なくとも、士匄はそう思った。
趙武 が、士匄へと本格的に乗り上げ被さり、その男ぶりある顔をついばむように口づけしていく。額や眉、瞼、頬やこめかみ、鼻先や唇、全てを確かめるようであった。肌をぴったりと合わせ、趙武の熱と空気の薄寒さが同時に伝わり、士匄は妙な不安を覚えた。体全身で人の肌を感じるなど、想像もしたことが無い。
趙武の片手が色の乗った仕草で士匄の胸をなぞり、乳頭を触る。
「ん」
思わず声が出て軽くのけぞると、あらわになった首筋を舐められ軽く噛まれた。淡い疼きが体を走り、士匄は、また、ん、と鼻にかかった声をあげる。同じ箇所をじゅうっと吸い、舐め、かぷりと噛む趙武は味見でもしているようであった。
指が。
指が、士匄の乳頭をつつき、撫で、こよりでも作るようにこする。触られている箇所がゆるゆると熱く痺れるようであった。このむず痒いような、脳が痺れるような、腰の奥が疼くような、じくじくした快感が苦しく、士匄は腕で払いのけようとした。むろん、拘束されているため、無駄であり、愚かでもある。
「嫌だ、趙孟 、嫌だ」
士匄は思わず懇願した。そして、
「やるなら、早くしろ。好きに犯していいから」
と、余計なことまで言った。好きにつっこんで良い、などと言うが、されたいのは己である。しかも、快楽を求めてというより、趙武をさっさと満足させて終わらせたい、という浅はかさも含まれている。趙武はもちろん嗅ぎ取り、ぴょこんと立っている乳頭を思いきりねじり引っ張った。
「いっ」
鋭い痛みで身をよじる士匄の鎖骨に軽く口づけした後、趙武が微笑む。
「この痛いのはしつけですよ。范叔 にはお仕置き、私は八つ当たりでしょう? 犯していいから、だなんてぇ、どうして范叔がお許しになるのです? 范叔はお父上にそうやって楯突いていたのですか? それは大夫として、恥ずかしい。やっぱり、しつけです。メッですよ、メッ」
柔らかく涼やかな口調で諭し、趙武は胸にこてりと頭を預けた。まるで、幼児が体に添わして首をかしげているような風情であった。そのまま気持ちよさそうに士匄の鼓動を聞きながら、しつこく乳頭を弄りまわした。先っぽを爪で何度も弾き、乳輪を指の腹でなぞり、乳頭そのものを性器に見立てるようにこすり、押しつぶし、時には思いきり引っ張る。そのたびに士匄の口から小さく声が漏れ、首を何度も振り、腕が身じろぐ。以前、士匄を探るように触った時とは全く違う、ただ性感を引き出すためだけの愛撫であった。
何度目であろうか。ぎゅ、とつねり引っ張られ、士匄は、あ、と痛みではない声をあげた。趙武が士匄の胸に頭を預けたまま、底光りするような暗い目で乳頭をじっと見ながら、ねちねちと念入りにいじくっている。うっすら赤く熟れてきたそこへ、爪をぎゅうっと傷でも付けるように押しつけられる。
「い、あ、ぁ……っ」
士匄は歯を食いしばろうとして失敗した。枯れた悲鳴のような声が漏れ出ていく。少しずつ脳髄に酒を注がれているような痺れと、真綿で首を絞められるような疼きが這い寄ってきて、思わず目をつむった。斬るなら思いきり斬られたい。首を刎ねるなら一息に。ちまちまと短剣でつつかれるような刺激は、自我が少しずつ削り取られているようで、苦しい。元々、焦らされるのが苦手な士匄である。決定的でないくせに鋭い快感を与えられるのは餓えと渇きを与えられるに等しい。
「ちょ、趙孟ぅ、それ、やだ、いやだ、入れて」
とうとう士匄は、哀願した。無意識であろう、媚びた顔をして、胸元の趙武を必死に見下ろし、体をさりげなくねらして、矜持も意地も何もかも捨てて哀願した。士匄を形作る全てがそこには無く、ただ燻った劣情を解放してほしいだけの浅ましい体があった。趙武が優しく乳頭を撫でた後、顔をあげ苦笑する。その笑みは、少し優しさがあった。
「あなたは本当に、我慢がお嫌ですね。もう少し……いえ、私の申し上げることじゃあないですね。でも、いいんですか? 私、入れちゃいますよ。好きにしちゃいますよ?」
趙武が身を乗り出して、首をかしげるように言った。士匄は必死に頷いた。もし、しつけやお仕置きがこのような、足先から少しずつ切り刻むような拷問ばかりなら、耐えられそうになかった。趙武が、名残惜しそうに胸を一撫でしたあと、士匄の股の間に分け入った。縛られ足を立てている脛を撫でながら、自由な足をぐ、と押す。士匄は自然にそちらも足を曲げて、性器も肛門もさらした。
そこからの趙武は、妙なことをせず、丁寧に士匄の肛門に潤滑剤を塗り、時には会陰も押しながら、穴をほぐしていく。ようやく指が入れられた時、士匄は待ち望みすぎて、
「あ、あー、」
と派手に身もだえしたし、前立腺を少しつつかれただけで、すすり泣きながら精を放った。
「……本当に、お待たせしていたんですね。私はそう、あなたが言うように鈍い人間で、察せず……申し訳ございません。もう、大丈夫ですよ、きちんといたしますから」
趙武が優しく微笑みながら、垂れ流した士匄の精液を手で搾り取るように取り、己が放った精液と混ぜるように体を撫でた。士匄の腰や腹にねちょねちょと粘液がすりつけられ、汚した。士匄は挿入の期待と粘液の気持ち悪さに、体を震わせる。息が浅く熱く、荒い。せかすように腰がゆれる。とにかく、大きな快感で楽になりたかった。
ずう、と趙武が圧力を以て入ってくる。ずりずりとゆっくり進んでくるそれに、士匄は驚喜の声を上げる。あー、あー、あ。その質量を待っていた、とばかりに体全体が悦んだ。
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