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――写真……?
気づかず踏んでしまうと、折れ目がついてしまいそうだ。そうなったらそうなったで結月の自業自得ではあるけれど、晃大はそこまで冷たい人間じゃない。
「よっ、と……」
立ち上がり、腰を曲げて写真を拾い上げた。
特に意識したわけでもなく、その被写体へと目を向ける。そして思わず、「え?」という声が漏れた。
数秒、釘付けとなってその写真を眺めたあと、晃大はそっと手を下ろす。静かに結月のデスクに歩み寄り、絶対に踏まないであろうその位置に写真を移動させた。
いつもと違う、慌ただしい目覚め。嵐が去ったあとのような静けさと混沌が同居する室内。
手放してしばらく経ってからも、晃大はデスクに置いた一枚の写真から目を逸らすことができなかった。
その夜、バイトを終えて部屋に戻ると、玄関に散乱していた靴がすっきりと収納されていた。おやと思い踏み入れた室内も、いつになく整理整頓されている。
これはこれは……と晃大は視線を結月のベッドへと向けた。
片方の手では股間を、大きく開いた口ではイビキをかきながら、相変わらずの寝相で結月は眠っている。その寝顔をじっと眺めること数秒、ふっと苦笑が溢れた。
流石の結月も、今回の一件で少しは反省したらしい。帰ってからきちんと部屋を片付けたようだ。それでもまだいくらかごちゃついてはいるけれど、これまでのことを思えば大した成長である。
ほどもなく、晃大は視線を自らのベッドへと移した。すると何やら、枕元に見慣れない物を発見する。
くいと首を傾げて、晃大はそれを手に取った。ブラウンのリボンが結ばれた、透明のラッピング袋。正面に、薄いブルーの付箋が貼られてある。
『usdのお礼』
利き手と逆の手で書いたのかというような、汚い字。何だか陰毛みたいなフォントだなと思い、ふっと肩が揺れた。
くるりと袋を裏返すと、中にいくつかの個包装された洋菓子が見えた。マドレーヌにワッフルにサブレ。どれも洒落たデザインで、わざわざ専門店で購入したらしいことがわかる。
まるで、バレンタインにこっそりと鞄や机の中にチョコレートを仕込む女の子のようだ。もっとも、女の子ならもう少し綺麗な手書きのメモを添えるだろうけれど。
かれこれ一週間ほど前に見たときは、枕元のちょうど同じ位置に、一本の縮れ毛が置いてあった。それが今はお礼のメッセージ付きのお菓子になっているのだから、人生、わからないものである。
「……つか、us『b』な」
再度付箋の文字を見直して、晃大は小さくツッコんだ。
バイトで疲れて帰ってきたはずが、不思議と心が軽くなっていた。
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