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「僕の勉強部屋より、断然広い……」  倫が与えられた部屋は、充分なスペースを持つ間取りだった。  8畳以上ある洋間が、二つ。  誰かと同棲できるほど、広さに余裕がある。  クローゼット付き、バスと洗面台は別など、設備も整っている。  すでにソファやテーブル、ベッドにデスクなどの家具も入れてある。  ただ、キッチンだけは無い。  ここは、ハーブガーデンで働く者たちのために造られた、寮なのだ。  多くの人間が住むため、個々の部屋で火を使うと火災発生のリスクが高まる。  そのため、食事は共同食堂で摂ることになっていた。 「今日一日は、ここでゆっくりしてていい、って和生さんは言ってくれたけど」  食事の時間まで、まだ余裕がある。  何をしようか、と倫が考え始めた時に、リュックの中から発信音が聞こえてきた。  慌ててスマホを手にしたが、発信はそこからではない。 「おかしいな?」  リュックの中身を床に全部出してみると、見慣れない小さな端末がある。  発信音は、そこからだ。  操作はスマホと同じようなので、倫は恐る恐る応じてみた。 「……はい」 「どうだ、倫。怜士の屋敷へ、うまく潜り込めたか?」  神経質そうな、少し高い男の声が不穏な言葉を運んできた。  返答に困っていると、男は喉で笑った後、言った。 「お前が怜士に取り入って、奴を失脚させることに成功すれば。その時は、相葉家の再興を約束しよう」 「あ、あなたは一体……?」 「雇い主の名を、忘れたか? 北白川 丈士(たけし)。怜士の弟だ」  そしてお前は、私の手先。  スパイなのだ。 「夜、寝る前に一日の報告をしろ。それに、何か変わったことがあれば、すぐに連絡を」  一方的に話した後、丈士は通話を切ってしまった。 「僕が、悪役の放ったスパイ……。そんなの、ないよ……」  この世界での己の立ち位置に、倫は呆然としていた。

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