42 / 107
第42話
「それよりも、せっかくヒバリ殿が滞在してくれるのだ。早急にあの件に取り掛かってくれ。事が事なだけに、長引かせるのは危険だ」
贋金は国の根幹を揺るがす。ディーディアの王子として、この件が解決しない限り安寧は訪れないだろう。サーミフの胸の内を察して、凪は嫌だ嫌だと駄々をこね続ける自らを押し殺し頭を下げた。その時、小さなノック音が響き、皆の視線が扉に向かう。サーミフが入室の許可を出せば、使用人の一人が頭を垂れながら入ってきた。
「申し上げます。第三夫人のツバキ様が殿下にお目通りを願っておられます」
ピクリと凪の眉が小さく震える。
第三夫人・ツバキ。彼女はサーミフではなく現国王陛下の妻の一人で、ナイーマ王女の生母。つまりは、凪の母親その人であった。
「……お通ししろ」
何かを少し考えた様子のサーミフは、しかしツバキの入室を許可した。もたれかかっていたクッションから身体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。凪は退室したかったが、視線で止められたために部屋の隅へと移動した。
シュルリと衣擦れの音が小さく響く。チラと視線を向ければ、美しい衣を纏った母がそこにはいた。
凪と同じ黒の豊かな髪を緩く編み、ダイヤモンドがついた髪留めから垂れる薄いベールが髪はもちろん、背中までも隠している。淡く化粧の施された顔は既に成人した子供がいるなど想像もできないほどに美しかった。
ともだちにシェアしよう!

