4 / 15

第4話

 あれから九年が経ち。  俺とルドヴィックはともに十九歳になり、ついにシナリオ開始の時期となった。  シナリオ通りなら屋敷に引きこもっている俺だが、現状――かなりアグレッシブに動き回っている。 「ルドヴィック!」  カンブリーヴ伯爵家の庭園。ベンチに横になったルドヴィックが、俺の声に反応するように上半身を起こす。  対する俺は仁王立ちだ。 「ノアム?」 「なんで来るとき連絡入れてくれないんだよ」 「七割は入れてるだろ」  ルドヴィックの隣に腰を下ろした俺に対し、ルドヴィックが言い返してくる。  な、七割じゃなくて十割にしてくれ! 「残りの三割も追加で」 「それは無理だ。突然ノアムに会いたくなるときもあるんだよ」  俺の肩に頭を預け、上目遣いで俺を見るルドヴィック。  ……俺はこの顔に弱い。とても弱い。ゆえになにも反論できず、黙ることになる。 「っていうか、お前が突然来るのって俺が来客対応してるときがほとんどだよな」 「偶然じゃない? 来客予定なんて俺が知る由もないし」 「そうなんだけどさぁ……」  世話役のメイドに来訪を知らされるたびに、めちゃくちゃビビるんだよなぁ。 「ノアムは俺を優先してたらいいんだよ」 「……そういうのダメだろ」  ゲームでは人とつかず離れずの距離を保つはずのルドヴィック・トゥラチエ。しかし、この世界では全然違う。  交流は最低限で、ずっと俺の後ろを引っ付いている。そして、俺と俺の家族以外にはとても愛想が悪い。 「ルドヴィックも……ほら。交流をしなくちゃ。思わぬところに運命の出逢いがあるかもじゃんか」  たとえば、リュリュとか、リュリュとか、リュリュとか――。 「必要ない。人との交流なんて面倒なだけだ」 「そういわずにさぁ」  ルドヴィックがさりげなく俺の手を取る。流れるように指を絡めて、ぎゅっと握る。  幼いころからの些細なふれあい。最近では増えているような気もするが。 「それに、運命の出逢いはもう済ませてる」 「――え?」  けど、いきなりの爆弾発言に俺は目を見開いた。  もうすでにリュリュと出逢ってるのか!? (確かに出逢っててもおかしくはないけど、この時期でそこまで親しくなるか? 今だとよくて知り合いでは?)  ルドヴィックは攻略難易度がとても高く、そう簡単には攻略できない。  知り合いから友人、友人から恋人――という段階をステップアップするためには、選択肢のすべてに正解せねばならない。そして、フラグを一つたりとも取り忘れてはならない。 (いやいや、俺というイレギュラーな存在もいるわけだし。ルドヴィックの性格もシナリオとはかなり違う。多少攻略方法が変わっていてもおかしくはない――はず)  うん、そうだ。ゲーム通りに進んでいるはず! 「だから、俺にはこれ以上運命なんていらない」 「そ、っか」  親友としては、運命に出逢ったことをすぐに報告してほしかったが――仕方がない。  俺も経験してるからわかるけど、今の時期はとても面倒だ。羞恥心が邪魔をしたのだと思うと、許せる。 「でも、今後は俺にも教えてよ。俺はルドヴィックの運命を応援するから」  顔をぐっと近づけると、ルドヴィックが不満そうに眉をひそめる。え、そんなに俺に教えるのが嫌? (それとも嫉妬ですか? リュリュに俺が近づくのが嫌ですか?)  だったらまぁ――ありかも。  俺の目標は当て馬ではなく、友人代表スピーチをすることだ。邪魔はしません。 「もちろん、ルドヴィックが嫌ならいいんだよ。俺、お前の心をかき乱したいわけじゃないしさ」  遠回しの『当て馬にはなりません』発言である。 「俺たち『親友』だし」  笑いかけると、ルドヴィックがムスッとする。  ……俺が親友なのが嫌なのだろうか。 (考えてみたら、そりゃそうだよ。十歳のころに親友だって言い合っただけで、ルドヴィックは流されただけかもだし)  もちろん、そうだったとしたら――悲しい。でも、仕方ないことだ。我慢我慢。 「――ノアムはさ」  ルドヴィックが声を上げた。驚いてルドヴィックを見つめると、青の双眸が俺を見つめている。  吊り上がった目は、俺を責めるような色を宿していた。 「俺のこと本当に『親友』って思ってるの?」

ともだちにシェアしよう!