7 / 9

第7話「避暑」

夏。 今日は護衛騎士のダンテと幼馴染のエリオット、執事のリカルドと避暑も兼ねて領内の湖畔にピクニックに来ている。 ダンテはテーブルやパラソル等のセッティング、リカルドは昼食の準備をしている。 リカルドはうちで生活するようになってもうすぐ1年になるが、既に給仕や屋敷の管理といった執事の仕事だけでなくメイドの仕事もこなせるようになっていた。 本来であれば今日もメイドがついて来るはずだったが、1人で十分だからと本人が言うので任せることにしたのだ。 「さっすが侯爵家だな!本当に手際がいい。」 2人を眺めながらエリオットが言った。 「家は関係ない、2人が凄いんだよ。特にリカルドなんて俺らと同い年とは思えないよ。」 「それはそうだけどさ、没落したらルシオのとこで俺も雇ってくれよ。」 「次期領主が何言ってるんだよ、そうならないように頑張れ。むしろいずれ家を出ないといけない俺の方が雇われたいくらいだよ。」 「ははは、それじゃ嫁に来ればいい。それなら俺も頑張るよ。」 作業中の2人の手が一瞬止まった。 「俺は男だ、意味がわからん。嫁はちゃんと探せ。」 エリオットは昔からことあるごとに嫁に嫁にと言ってくる。 最初は返答に困って口にハンカチ詰めたり拳で黙らせたりしたこともあったが、今は慣れて返せるようになってきた。 貴族は建前ばかりの社交トークばかりなので軽口を言い合える相手は貴重だ。 「ルシオ様、エリオット様、お待たせいたしました。昼食の準備が整いました。」 本当は4人一緒に食べたいところだが、2人とも絶対に席は一緒にしない。 そもそも今まで2人が寝たり食べたりしている姿を見たことがない。 年齢も離れている2人は話しているところも見たことがないのだが、意外と息が合っているようで寡黙同士仲も良さそうに見える。 「ありがとう、ダンテ、リカルド。それじゃエリオット、頂こう。」 スモークハムとチーズとトマトのサンドイッチ。具を挟むだけのように見えるが、俺の好みに合わせて材料を少し薄めに切ったりマスタードを多めに塗っていて本当に美味しい。 リカルドと初めて会った時に渡したのもこのサンドイッチだった。 他の具材も準備できるが俺はこの組み合わせが1番好きなので出かける時はいつもこれだ。 ふとリカルドと目があったのでゆっくり頷いておいた。 美味しかったことが伝わったようで少し表情が緩んでいた。 木陰に移動し食後のティータイムでまったりしていると、気づいたら横にいたエリオットがうつらうつらと船を漕ぎはじめ、そのまま俺の肩を枕にして眠ってしまった。 「…」 「…」 「…」 小声で話す声が聞こえてハッと目が覚めた。 「あらー起きちゃったか。」 肩を貸していたはずが、なぜかエリオットの膝を枕にして眠ってしまっていたのだ。 丁寧にブランケットまでかけたのはリカルド達だろう。 みんなの前で無防備に寝顔を晒したことや、エリオットの膝で寝てしまったことなど色々な恥ずかしさからブランケットで頭ごと覆った。 このままさらに赤面までさらに見られたら1ヶ月は面会謝絶だ。 「…俺はどのくらい寝てたんだ。」 「2時間くらいかな。」 「エリオットはいつ起きた。」 「2時間くらい前かな。」 ……死にたい。

ともだちにシェアしよう!