1 / 1

クチナシひらく

 ●〖診断メーカー〗お題:シチュは【季節:夏】【天候:晴れ】【時間:夕】【状態:触れる】です。アクセントには【梔子(くちなし)】と【精霊】をどうぞ  夏の夕暮れは晴れていて、半分閉じたカーテンの向こうはまだ明るかった。  蝉も鳴いている。  俺と朔也(さくや)はベッドにいた。  もちろん無理強いなんてしていない。  俺たちは甘いキスをして、それから俺は時間をかけて朔也の心と体の準備を整えた。  朔也は初めてだから、今日のことが嫌な記憶にならないように。幸せな記憶として残るように。  やがて朔也の息遣いが変わり、焦れたしぐさで俺にキスをせがんだ。  それを合図に、俺は朔也の脚を広げた。  一瞬朔也が身構えたので、「やっぱりやめとく?」とたずねた。  その問いに朔也は小さく笑い、「いいから」と答えた。  そうは言われても、朔也のことを思えば慎重になった。  できるだけ怖がらせないように――俺ははやる気持ちを抑えた。  朔也のそこに俺をあてがうと、朔也はじっとして待った。  注意深く体重を乗せると、朔也の中に入っていく感触とともに、朔也が全身を強張らせた。  「大丈夫?」  たずねると、朔也は黙ったまま頷いた。  無理して頷く朔也がいとおしく、このことを、絶対にいい思い出にしてやらなければと改めて思った。  朔也の緊張が、そこからじかに俺に伝わって、その締めつけさえ大切だった。  「朔也、力抜ける?」  朔也を宥めながら、奥へ進んだ。  朔也はたまらず片手で口を押えた。  唇でせき止められた朔也の声が、手の中でかすかに聞こえた。  「朔也」  俺がそう呼びかけても、朔也は答えない。  手を口に当てたまま、俺の下で、ただじっと時が過ぎてくれるのを待つように。  初めて体験する強烈な異物感――自分の意志とは関係なく、中に入ってくるもの。  その感覚をどうやり過ごせばいいのか、わからないのだろう。  朔也は顔を半ば横に向け、耐えようとしていた。  「朔也、こっち見て」  うっすら汗の滲んだ朔也の額に触れて、髪を撫でる。  朔也はわずかに首を横に動かし、俺に拒否の意を伝えた。  この前――  朔也と二人で近くのコンビニまで歩いたとき、途中にクチナシの花を咲かせた家があった。  そのときまで、そこにクチナシがあったなんて知らなかった。  花が咲き、あの強く甘い香りがして、初めてその存在に気がついた。  クチナシの実は、熟しても割れない、口をひらかないことから『口無し』だという説がある。  ねえ、朔也。  おまえはクチナシの精霊?  だって、ほら、もうこんなに熟れてるのにけっして口をひらこうとしない。  「朔也」  朔也の口をふさぐ朔也自身の手を、そっとどかせようとした。  抵抗を感じたので、少し力を込めると、朔也の手は案外素直に脇へどいた。  行き場をなくした朔也の手は、俺の左腕をつかんだ。  手がどかされたあとも、朔也の唇は閉じられたままだった。  「朔也」  朔也の頬に手を添えて、こちらを向かせた。  苦しそうな呼吸をしながら、朔也はようやく俺と目を合わせた。  俺は、その頑なに閉ざされた唇に指で触れて、優しく、けれど強引にひらかせた。  俺の指を、朔也の歯がそっと咥え込んだ。  腰を二、三度ゆっくり動かすと、朔也は息と一緒にわずかに声を発した。  続けて動かすと、か細い声が断続的に漏れるようになった。  俺は指を離して、徐々に動きを強めていく。  朔也は、その刺激がもたらす感覚に戸惑っているようだった。  けれどしばらくすると戸惑いは消え、朔也は俺の腕の中で、感じるままを声にし始めた。  晴れた夏の夕暮れは、半分閉じたカーテンの向こうで、いつしか夜へと変わっていた。  蝉ももう鳴いていない。  一層強く突き上げると、悲しそうな、けれど本当はうれしそうな声が、ひらいた精霊の口からほとばしった。  

ともだちにシェアしよう!