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幸せの約束③
雪弥は夜中に悪夢で飛び起きた。
体育館でαの集団に襲撃されて逃げ惑っている夢だ。Ω狩りは、後になってもたびたび雪弥を苦しめた。
気付いてしまったことがあった。
(項を噛まれてしまえば、αに戻れなくなるかもしれない。いや、きっとそうだ。番になるということはそういうことだ)
欲しいものが目の前にあるのに手を伸ばせない。雪弥は顔を覆った。
(αに戻れるかどうかなんてわからないのに。それでも俺はαに戻りたい。Ωでいるのは嫌だ。もっと正々堂々と、これまでのように誰にも気がねなく怯えることもなく、生きていきたいんだ)
身も心もΩになり果てたと思っていた雪弥は、しかし、αの自分を諦めきれないでいた。
「雪弥……?」
目を覚ました天陽が、ベッドに起き上がり項垂れている雪弥に心配げに声をかける。
「俺……、俺……。やっぱり番にならない。なれない。一生、Ωのままでいるのなんか嫌だ」
天陽に全てを晒しだしている雪弥は、もうどんな姿をさらすことにも抵抗が失せている。天陽の前で哀れに泣きじゃくる。
「この先ずっと、Ωのままだなんて嫌だ」
「そっか」
天陽が、雪弥の頭を撫でてきた。
「俺、お前と一緒にいたい、いたいのに。でも駄目なんだ、Ωのままじゃ嫌なんだ」
(好きだ、天陽、でもΩのままじゃいやなんだ)
雪弥は子どものように泣きじゃくった。
(ここで、天陽ともお別れだ)
「てんよう、ごめん、てんよう、ありがとう」
「うん、そっか」
泣きじゃくる雪弥の背中を天陽は黙って撫でていた。
自由登校に入る前日、天陽に吉報が届いた。第一志望の大学の合格の報せだ。
「うおおおお!」
天陽はそう叫ぶなり床に両ひざをついた。祈るように組んだ両腕を頭に押し付けた。
「これで俺は親の呪縛から逃れられる!」
それを聞いて雪弥は、意外な天陽の内心を垣間見た気がした。
(系列大学に進まなかったのは、親のレールが嫌だったのか?)
そんなことは微塵も感じさせたことがなかった。中学のときに天陽の自宅に遊びに行ったとき、天陽の両親は、立派な人にしか見えなかった。
翌日、それぞれの実家に帰省することになった。
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