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──コトン。 「ココア?ありがとう」 俺は、雨の中待っていてくれたレイチェルを家に招き、温かいココアを二人分用意した。 部屋の中に甘い香りが漂う。 ソファに座るレイチェルは、両手でカップを持ちフーフーと冷ましながら、ココアに恐る恐る口をつけている。 俺は濡れた頭をタオルで拭きながら、その様子を眺めていた。 朝も思ったけど、普通の女の子にしか見えないな。 「優成なんだけど、今夜は来れないんだ」 俺の言葉に一瞬だけ視線を向けて、レイチェルはまたココアを飲み始めた。 「うん、そうなるとは思ってた」 レイチェルの返事に、何か得体の知れない怖さを感じ、ゾクッと背中を震わせた。 「……と、ところで君は何歳なの? こんな夜に独身男性の部屋に入っても大丈夫なの?」 俺は最低限のマナーを確認した。 「大丈夫、もう20歳だから」 そう言ってレイチェルは白い歯を見せて余裕の笑みを浮かべる。 それとは対照的に、俺は7つも年下の女の子を部屋に上げてしまい、体の動きがカチコチになってしまった。 20歳か……ハタチ……。 なんか、ギリギリアウトな気もする……。 俺がチラチラとレイチェルを盗み見ながらベッドに腰を下ろすと、レイチェルはカップを置き、こちらを真っ直ぐに見た。 「今朝は突然来ちゃってごめんなさい。 でも、トモロウから世利さんの話を聞いて、あなたには、あたしの口から直接言わなきゃと思って来たの」 トモロウから……? あの人に俺の体のことは、何も話していないはずなのに……。 俺たちのこと、どれくらい分かってるんだろう。 「あたしがここに来たのは、世利さんの体に起こってる現象について話すためだよ」 「つまり……この性転換は、君が原因なの?」 俺は、ついに確信に触れようとしていた。 レイチェルは小さく頷いた。 「うん、あたしだよ。それと、優成……あの男もね」 ──あの男 俺はレイチェルのその言葉遣いに、僅かな違和感を覚えた。 レイチェルは悪びれる様子もなく話を続ける。 「あたしね…………見習い魔法使いなの」 突然、摩訶不思議な方向へ話が曲がった。 「え?……あ、占い師のときの名前でしょ?」 「そう、あの肩書は本当なの」 「…………」 レイチェルのあまりに真剣そうな表情に、俺は何も言えなくなっていた。 ──魔法使い?何言ってんの?……若さか? 正直、この子の話に価値があるのかわからなくなってきた。 俺は落ち着きを取り戻すために、一口ココアを飲んだ。 「信じてくれない?」 「…………まぁね。 まぁ……でも実際に俺の体は変なことになってるんだよね」 俺は、説明できない現象を思い出して、静かにため息をついた。 「……信じるよ、とりあえずは」 俺の言葉に、レイチェルは安堵したような顔を見せた。 「世利さんの体の変化は、あたしの未熟な呪いのせいなの」 ──呪い また新しいワードが出てきたな……。 俺は一瞬白目を剥いて現実逃避した。 「呪いの内容は…………。 契約上、あの男の相談内容を話すわけにはいかないから、詳しくは言えないんだけど……」 それには心当たりがあった。 「もしかして、その内容って『優成が俺に長年片思いしてた』って話じゃない?」 「……そう、そうだよ。 もしかしてあの男、あなたに告白でもしたの?」 「うん……されたよ」 俺は年甲斐もなく動揺して頬を少し赤らめてしまった。 レイチェルは俺の表情を見て、一瞬何かを躊躇ったような顔をした。 「世利さんは、まだ返事をしていないんだね」 「…………どうして、わかったの」 「それはね……」 レイチェルの言葉の続きに緊張して、俺は喉を大きく鳴らした。 「世利さんが答えを出せば呪いが解けるからだよ」 その言葉と同時に、部屋の空気がピタリと止まり、俺は呼吸すらできなかった。

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